聖地巡礼inテラ   作:狸帽子の旅人

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年末の準備をしながら定期投稿って凄いなとしみじみと思う今日この頃。

日記モドキです。



2冊目の日記

 

 1024年 4月

 

 こうして落ち着いてペンを握り、日記を書くのも久しぶりな気がする。

 

 この一ヶ月間、忙しくて日記に手がつけられない日々が続いたが順を追って書いていこうと思う。

 

 まず一つ目、アンジェラを転化させました。

 

 …………、吐きそう。

 

 彼女を救うために仕方がなく、見殺しにするよりずっと良かったとは思っている。ただ、悔やんでも悔やみきれない。

 もっと早く助けに行けたらと思ってしまったが最後、終わることのない自己嫌悪が際限なく押し寄せてくる。

 

 

 幸いにも完全な転化には至らなかったようで、彼女は問題なく陽光の下を歩けるし、牙も少しだけ伸びただけ、血も吸う必要もなく、以前と特に変わらない生活を送っている。

 

 良かったと心底思った。人としての記憶が遠いものになっているとはいえ、太陽の下を満足に歩くというかけがえのない行為を奪ったり、吸血という人の尊厳を破壊しかねない行為を強要したくはない。

 

 だが、この転化がこれから彼女にどれだけの影響をもたらすかは分からない。ある日突然、陽光の下を歩けなくなるかもしれないし、吸血衝動に晒されるかもしれない。

 

 なによりも、彼女が転化に感づいた時、もう人としての生活を満足にできないと知った時の激情や絶望を目の当たりにして、ぶつけられたら生きていける自信がない。

 かといって、彼女に半分くらい人を辞めかけていることを伝える勇気もない。

 

 怖い、今の居心地の良い場所と関係が全部無くなると考え、書き起こしていると怖くてたまらない。

 

 

 二つ目、アンジェラから羽角を贈り物として貰った。

 

 ……こちらも、由々しき事態だ。受け取って一月経とうとしているたった今でも、首飾りとして下げていることの実感が持てない。

 

 本当に、本当に失礼だが彼女はコレを贈る意味を理解しているのだろうか。

 

 羽はリーベリの体の一部だ。中には一度抜けたら二度と生えない羽すらもある大事な部位。

 自身の美しさや、らしさを体現し、リーベリの間での恋愛に大きく関わるくらいに重要な場所で、信頼する者以外には絶対に触らせないデリケートゾーン。

 

 そんなリーベリの外見の命そのものである羽を贈るという行為は尋常なものではない。

 

 余程の信頼、それこそブラッドブルードの老いぼれ達が使う友情(激重)の証にすら匹敵するほどの、一生涯の友や生涯の伴侶に渡すくらいには重みのある行為。

 

 嬉しいかと言われれば、滅茶苦茶嬉しい。でも、正直に告白すると苦しい、苦しすぎてゲロ吐きそう。

 

 何もない平時に貰ったら俺は飛び上がるほど喜んで多分泣いてたに違いない。その上、恥ずかしがるくらいにはその意味を噛み締める余裕があったのかもしれない。

 

 だが、前述した通り、俺はアンジェラを救うためとはいえ、転化させてしまった。

 

 彼女の全幅の信頼を裏切ったのだ。

 

「仕事を詰め過ぎるな、忙しいなら私を頼れ。もうただの末娘と見られても困る」

 

 彼女に対して許されないことを……、

 

「その角、触っても良いか? ……ダメ、か?」

 

 二度と顔向けが──ー、

 

「昼ごはんを作ってきたぞ……? 何を驚いている? 良家の娘たるものこの程度は当然手解きを受けている。ん? ああ、お前の料理が赤いのは私の血が入っているからだ。……く、口に合えば良いが」

 

 あ"ぁあぁあぁ!! あ"ぁあぁあぁ──ー!! ふざけやがってあのあほ! バカ野郎! ボケナスがぁ!! 

 

 

 追記

 

 

 昨日は感情が暴発して寝込んだため、続きを書いていく。

 

 三つ目の最後の出来事は、クビになりかけた。

 

 なんでも外野の貴族らが、先月のカジミエーシュ遠征の戦犯探しを始めたらしく、その擦りつけ先に俺が候補に上がったことでクビにされそうになった。

 

 俺のことが目障りになったのか、それともたまたまスケープゴート先に選ばれたのか、それとも自らの保身のために躍起になったのか、あらぬ疑いをかけられた。

 

 その戦犯であるという根拠は「お前ならなんとか出来ただろ」という一点のみ。

 

 無茶振りが過ぎる。今回の遠征の一介の大尉でしかない俺に、なんとかしろと言われてもどうしろと言うのだ。

 

 それになんとか出来たとしても、それが聞き入れられるのかは怪しい所だし、まず最前線にいた連中のほとんどが死んで、立て直しが利かなくなった理由が現場にいた貴族将校の敵前逃亡だ。

 

 そもそもお前らが無事逃げ帰れたのも俺と彼女、部隊の一人一人が命を張ったからだ。どこまで厚かましく、恩知らずな連中なんだ、とその目論見を聞かされた時は呆れてものが言えなかった。

 

 アンジェラの母、アンジェリカ曰く、この目論見は必ず失敗に終わると怖い笑みで断言してくれた。

 

 理由を聞くと、

「あなたは今、他の貴族達から喉から手が出るほど欲しがられているのよ」

 と他の貴族からの俺宛の手紙を目の前で燃やしながら、ざまあと言わんばかりに笑っていた。

 

 つまりは色んな勢力で牽制し合っているから大丈夫らしい。

 

 しかし、万が一にもクビになるようなことがあっては俺は自分を呪うだろう。

 自分の罪科を最後まで向き合って受け入れるのか、耐えきれず逃げるのかすら答えを出せていないのに、こんな中途半端で辞めさせられる可能性が万が一にもあるなんて認められなかった。

 

 だから、あのいけ好かない毒蛇公爵に頭を下げた。

 

 今回の戦犯騒動、そのスケープゴートに俺が選ばれないように手を回して欲しい。

 その要求を通すために、俺はこの公爵への帰属、鞍替えすらも譲歩として提示する気だった。

 

 それくらい、公爵という立場と皇帝やその他重役から一目置かれている彼女を味方に付けることは、貴族の闘争や摩擦に対する決定打になり得た。

 

「クク、ハハハッ! まさか、まさかそのためだけにお前は頭を下げに来たのか? 律儀にもわざわざ出向いて要件はそれなのか?」

 

 これでもかというほど、めちゃくちゃ笑われた。

 

しかし、俺としてはすごく意外だった。

 

 いつも近寄りがたく、どことなく人離れした雰囲気と奸計を常に企てている類を見ない愛国者である彼女が、こんなに無邪気に笑う姿は衝撃的で、今でも鮮明に思い返せるぐらいには新鮮だった。

 

 ひとしきり笑った後、公爵はその要求を聞き入れる代わりに条件を提示してきた。

 それは、「私に頭を下げるほどの理由を包み隠さず告白する」それが条件だった。

 

 俺は馬鹿正直に包み隠さず、自らの罪と動機を告解した。

 

 どうせ隠して嘘をついたところでバレそうだし、こいつのことだから調べ上げられて弱みを握ってきそうだから、自らの弱みを差し出した。

 

 そしたらまた面白おかしく笑われた。こっちは大真面目だというのに。

 

 その後、いつものようにウルサス繁栄討論を行ったのだが、今までにない上機嫌でキレッキレな公爵が繰り出す理論にボロ雑巾にされた。

 

 

 

 

 

 1025年 11月

 

 敵情視察を名目として、カジミエーシュに入国した。

 

 そして当然のようにアンジェラが同行しているが、今回は以前のイェラグへの登山ではなく完全な任務として赴いている。

 

 同僚からはデートですか! と言われたが返事は拳とミスのあった書類の束で返しておいた。

 

 デートなんてとんでもない、アダムとアンジェリカ夫人から謎の圧力がかかった。

 

 アイツら、まさか俺が今回の敵情視察の合間に第一回カジミエーシュメジャー、初代騎士競技の観戦をすることを見抜いて彼女を監視役に!? と思ったのも束の間、彼女も騎士競技とやらに興味があるらしく、飲み物とポップコーンを片手に2人で観戦することになった。

 

 因みにポップコーンが既に存在していることに驚きを隠せなかった。

 最近開発されたのだが、前世で見覚えのあるとうもろこしの亜種を原料にしているため、気候的にウルサスで流行させるのが難しそうなのが残念である。

 

 試合が始まると、騎士同士の正々堂々の決闘が行われた。原作である70年以上未来では、八百長、不正、盤外戦術(脅し)などが横行しすぎていて国の腐り具合が滲んで見えていたのだが、少なくとも今は騎士の栄光が輝いて見えた。

 

 その中でも、太陽の如く光り輝いていた1人の騎士がいた。

 

 騎士の名はキリル・ニアール。

 

 遠い、遠い記憶ながら鮮明に覚えている名を久しぶりに目にして、俺は少し驚いた。しかし、ここは彼女の祖国だ。彼女のご先祖様の顔を見ることくらい別にあり得ない出来事ではない。

 

 だが、そう考えても彼はオペレーターニアール、本名マーガレット・ニアールに結構似ていた。大地を照らす温かくも雄々しい光も、その雰囲気も面影も、確かに見受けらえた。

 

 俺はそんな彼が羨ましかった。こんな人の生き血がないと本領を発揮できないこのアーツではなく、彼のような闇を打ち払えるような力が欲しかった。彼のような人を真っ当に癒す力が欲しかった。

 

 そんな気持ちを吐露したら、アンジェラは笑って血を差し出してきた。

 

 慰められたのだろうか、なんか恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 1026年 5月末

 

 念願のイベリアへの使節団が再び結成された。

 

 9年前の訪問以来、嗜好品や食べ物、その他日用品などの交易自体は行なっていたものの、貪欲な貴族たちはより大きな成果を期待したようだ。

 

 端的に言えば、イベリアの高度な技術力及び技術者を引き抜いてこいとのことだ。

 

 無理だよ。イベリアは今ではヴィクトリアすらも脅かしかねないほどの黄金期を迎えている国だ。そんな国が技術の欠片すらも他所に渡すとは思えない。

 

 だが、俺は国の末路を知ってしまっている。

 

 こんな栄華を極めている国がどう没落するのか、大いなる静謐とは一体何か、いつの時期に起こったのか。

 

 それらは一切分からないが、イベリアの栄華を支えた海洋テクノロジーの技術も国の衰退と共に失われている筈だ。

 

 そもそも技術レベルを失うほどの大いなる静謐とは、一体何だ。曖昧な記憶だが、イベリアの南方がまるまる消え去ったという描写もあったような、なかったような。

 

 とにかく、ウルサスの官僚としてだけでなく一個人としてでも、技術の切れ端でも欠片でもなんでもいいから回収、そし保管を試みたいのが本音であり、個人的な目的だ。

 

 そのためにも、明日のイベリアの有力者たちとの歓談、交渉が上手く運ぶといいのだが。

 

 

 

 

 交渉は案の定上手くいかなかった。

 

 交易や今後の交流に関しては上々と言える成果だったが、技術に関する話になると途端に行き詰まった。つまりはそういうことだ、イベリア側にそんな気は一切無い。

 

 触りだけでもかなり脈無しの反応だったからか、イベリア側を大して不快にさせる前にこの話を切り上げることが出来た。良かった、相手がケルシー先生ぐらいのキレ者じゃなくて。

 

 だが、これで交渉は暗礁に乗り上げてしまった。

 

 そもそもウルサスがイベリアに対して切れるカード自体がそう多くない。一番進んでいる軍事技術はイベリアにとって喉から手が出る訳でも無いし、北境の悪魔の研究成果やそれを軍事転用している技術は国家機密だから口が裂けても言えない。

 

「エーギル人の技術者を拉致しましょうか」

 

 部下の一人が手っ取り早い解決手段を提示して来たが、却下した。そもそもイベリアにいる数えきれないエーギル人の中からどうやって技術者を探す? 探し当てたとしてもイベリアに隠し通せるとは思わないし、隠し通せたとしても、イベリアを敵に回すリスクは取りたく無い。

 

 はあ、外野からのブーイングが凄いだろうな。

 

 

 今日は凄い人物との邂逅を果たした。

 

 ブレオガンというエーギル人で、元エーギルの天才科学アカデミー、つまりはエーギルでも突出した技術者らしく、つい先日にテラの大地を駆けずり回ってイベリアに帰って来たそうだ。

 

 半ば交渉は切り上げ状態であり、諦めて観光を楽しんでいたアンジェラと俺は突然の出会いに驚いた。

 

 最初こそは彼と楽しく歓談していたものの、興味が抑えられなくなり、ついには海の現状について思いきって尋ねてみた。

 彼はそれを何処で? と聞いて来たが、島民と呼ばれるエーギル人に接触したのと、海から逃げるなら海には何かあるのではと予想したからと誤魔化して答えた。

 

 そこからブレオガンは陽気な顔付きから真剣な表情に変わり、話す場所も立ち話が聞かれない聖堂の隅で密談することとなったのだが、その内容は俺でも予想を上回るのもであった。

 

 アンジェラが信じられないように口を押えて目を見開き、俺はこの1026年の時点でここまで事態が悪化していたことに鳥肌がたった。予想していなかったわけではない、彼から話された内容の大体は想像通りだったし、いつか相対する脅威だとも認識していた。

 だが、70年前から、今この瞬間にも徐々に海の脅威がにじり寄ってきていることに驚愕を禁じえなかった。

 

 それから、時間の許す限り、三人で話し込んだがあっという間に時間が過ぎ、その日がお開きとなった。

 

 だが、これは興奮だろうか、恐怖だろうか、今でも微かに震えが止まらない。

 

 

 使節団の最終滞在日。

 

 この日もどうにか時間を作って俺たちはブレオガンの下に出向いたが、そこでひと悶着あった。

 

 ブレオガンにどうやら先客が2人ほどいたようで、その彼らから詰問されたのだ。「汚らわしい魔族が」と言われて追い払われかけた。

 初対面の人物や旅行先では明確に拒絶されるのは珍しくないから俺は大して何とも思わなかった。しかし、エーギルから来たブレオガンはサルカズへの差別意識なんて持ち合わせていなかったのか、追い払おうとする友人たちを説得し、俺を引き留めようとしてくれた。

 

 彼の行動は嬉しい限りだったが、そんな彼の為にも大人しく去ろうとした時に、

 

おい“ウルサススラング(クソバード)”私の()に何を言った

 

 アンジェラが久しぶりにスラングモードになった。

 

 啖呵を切った相手が国教会の地位の高い聖職者だったのにもかかわらず、彼女は淑女らしからぬスラングが口から容赦なく飛び出した。それからもう止まらない止まらない。俺に贈った羽角の首飾りを見せたり、俺の政治手腕がどれだけ卓越しているか、俺がイベリアにもたらした貢献の類を壮年のリーベリやミノスの男に滝のように浴びせまくった。

 

 最終的にはブレオガンと俺以外の面子がドン引きしても続いていたから頭頂部にチョップを打って中断させて、無理やり頭を下げて一緒に謝罪した。

 

「ほら言ったろ? 奇妙な二人組だって」

 

 そんな光景をブレオガンは勝ち誇ったように葉巻を吹かしながら爆笑していた。

 

「海に対抗するのなら、種族のいがみ合いなんて海の怪物にでも食わせておけ。今はどんな立場でも、どんな種族でも構わない。イベリアの未来を守るためにも一人でも多くの同志が必要なんだ、そうだろ? カルメン、アルフォンソ」

 

 副流煙をまき散らしながらがっはっはと笑う彼に、あの二人は完全に刺々しさを抜かれたのか、腰を下ろして溜息を吐いていた。どうやらブレオガンのこういった型破りな陽気さに振り回されているようだ。ご愁傷様である。

 

 

 その後、出国ギリギリまでブレオガンらと議論を重ねた。アンジェリカ夫人や毒蛇公爵に鍛えられたお陰で実りのある議論を展開することができたとは思う。

 

 今、こうして高速戦艦の中で日記を書いているが、また一つ、デカい責務が立ち塞がってしまったと思う。ただでさえ、ウルサスの変革だけでも手一杯だと言うのに、なんで首をがっつり突っ込んでしまったのだろうと自らに失笑してしまいそうだ。俺には立場だけでなく、自らの罪科までも背負っているというのに。

 

 これ以上、背負ってしまったら潰れてしまうだろうか。

 

 いや、こう考えればいいんだ。例え、いつかは潰れてしまってもいい。

 

 俺は、今出来ることで何事にも尽力すればいい。それで多少この世界が少しでもマシになって、あんなバッドエンドが……? しまった、夜も更けた所為か書く内容を度忘れした。

 

 気分的にも疲労的にもキリが良いので、ここで筆をおくことにする。

 

 明日も早い。寝坊でもしたら彼女から何をされるか分からないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 






ソルシア

情緒複雑骨折したけど、なんとか立て直した()。何も知らない。

アンジェラ

全て知った上で色々と弄んでいる。何がとはいわないが、割と重症。



感想やお気に入り、稚拙な物語ながらありがとうございます。

では、また。お休みなさい。


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