進獣戦記‐ポケットモンスター異聞‐   作:四季永

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目覚める冒険者

「驚いたか?」

 

 来名の反応を煽りたいのか、ゼファスは悪戯気な笑みを浮かべる。

 

「・・ちょっと予想外だった、かも。その外見だと異世界の生き物、って方がそれっぽいし」

 

「宇宙人も異世界人も同じようなモンだけどな。んでオレはこのゲンノスケ達の・・・何つーか、仲間以上の何かって感じか」

 

 言葉を濁らせたが、何かこの関係性に思う所があるのだろうか。とはいえ聞き出したい事は数多にある。

 

「とりあえず、最優先に聞きたい。君は一体何者なんだ?」

 

「そりゃあ今言った通り、こいつらの―――」

 

「この期に及んで隠し事!? 逃げてるんだろ、誰かから! あんな冷たくて物騒な連中、後ろにはもっと暗い何かがあるって事は・・・何となくだけど判る」

 

 

「人様同士で話し合ってもらちが明かねぇな。あのよゼファス、オイラは実は・・・こいつの相棒になろうと考えてる」

 

 沈黙が訪れようとした空気を変えたのはユミルだ。

 

「あーっと・・・適当な事言うなよユミル。この場を収めたいんだろうが冷静になれ。これからオレ達の進む道、ヤワな奴じゃあ生きていけねえ過酷な戦いだ。それでこそ人間の一生を潰しちまうかもしれねえ位の・・・」

 

「オイラが適当な事言う女だと思ったか? むしろライナだからこそ引き込みてえんだ。コイツの目と・・・こいつの心はそれを望んでる」

 

 

「・・・それは、僕じゃなきゃ出来ない事なのか? 僕を必要とする場所なのか?」

 

「ああそうだ、後はお前の意思次第。オイラは見てたぜ、ダチと話をしている時に見せた、イラついたあの顔。あれは見てくれの世ん中に、ウンザリして、牙を立てたい、電撃のような危なっかしい奴の顔! 今からお前はそこを跳び出して、新しい世界に行ける! ・・・選べ! このまま退屈な世界で誰かを羨んで生きるか、本当のテメエって奴を見つける為に戦うか!?」

 

 

 

進獣戦記‐ポケットモンスター異聞‐

第2話

『目覚める冒険者』

 

 

 

「いやー何つーか、このハンバーグも美味いっすね!! 来名ママさん、あんたオレん中で五本の指に入る理想の女性っすよ!!」

 

「あらあらお世辞は良いのよ~。それにしてもあなたの不思議なお友達もそうだけど、ライちゃんにもこんなカッコいいお友達がいたのね♪」

 

 その感覚はお世辞でも無ければ嘘でも無い、むしろ油断すれば涙が出るかもしれない。久々なのだ、温もりに満ちた飯を食うのは。

 

「拙者らの存在をこんな簡単に受け入れるどころか、即興でこの様な糧を創り出すとは・・・出来る奥方でござる」

 

「てかメシがウメーのは分かるけどよ、何だってこんな良いお袋であんなメンドくせー息子なんだ? もう少し正統派に育ってもおかしくは・・」

 

 ゲンノスケによる無言の平手打ちが炸裂する。

 

「って、何しやがる」

 

「言い時という物があるだろう、メギド。食事の席で苦言を飛ばすなど」

 

「大丈夫よゲンちゃん。・・・確かにね、あの子はたまにどうして、って事もするし、言う事もあるわ。でもわたしはお母さんだけど神様じゃ無いしライちゃんも何でも従う人形じゃ無い」

 

「お袋さん・・・」

 

「あの子にはあの子の世界があって、譲れないものが確かにある。だからわたしもあの子のお母さんでいられるの」

 

「びえええッ!! 何つうお袋の鏡ッ!!」

 

「何でそこで泣くんだよ・・・すんませんねママさん、こいつ強気だけど涙腺が脆くて」

 

*

 

「良いのかあライナ。下でワイワイやった方が多分楽しいぜ?」

 

「僕にはそんなの柄じゃない。そもそもそんな資格も無い」

 

「柄とか資格とか、そんなのを自分で決めつけてるからお前は勿体無ぇんだよ」

 

 結局こいつも、僕をそう評価するのか。

 

 何となく立ち上がり、何となく自室の窓を開け、何となく外からの風を感じる。

 

「何となく、さ。昔からこうして、誰にも見られずに夜風に当たるのが好きだった」

 

「渋いねぇ。そういう世界を持ってる男は嫌いじゃないぜ」

 

「窓から見える夜の空は違う世界に見えた。・・・有り触れた何時もの場所だって解ってるのにな」

 

「・・でも違う世界ってのは、見てて憧れるだけ、っていう所じゃねぇ。求めているならそこへ踏み出す事も・・んっ?」

 

 一人と一匹。一匹は、外から流れ込む「何か」を、耳と鼻で感じ、一人はその「何か」の原因を、その目で確かに捉えていた。

 

「進獣か?」

 

「分かんないけど・・・あんな生き物見た事が無い」

 

「それが答えだ、決まりっ!!」

 

 

 

「オーイ腹減ったろー? 降りてきて夕飯・・っていねぇや」

 

*

 

「二階の窓から脱走、にしては慣れた足取りだなぁ。経験者か?」

 

「大きな声じゃ言えないけど。でもコンビニとかまでは流石にね」

 

 夜歩き用の靴を履いたのは一ヵ月ぶりか。見上げた夜空は心なしか明るく見え、どういう訳か心が躍る。

 

 

「追われてた?」

 

「確証は持てないけど。まずウサギみたいなのが走ってて、それから・・二匹。一匹は鳥みたいだった。飛んでて」

 

「そっか。で、お前はどっちに肩入れする? 少しは頭を回しとけよ? 逃げてて可哀想だからとか、安い決断はオイラ達の世界では通用しないからな」

 

*

 

「今考えれば俺も小さい手段を取ったモンだ・・・だけど王ってのは逆境が付き物、無事に逃げ切って・・痛っ」

 

 その「男」は、人気の無い廃工場で怪我の痛みに耐えながらも、物音を立てずに瓦礫の影に潜んでいる。

 

「ここまで狙われんのも俺が大物故、ってか。・・にしても夜は寒いぜ。臣下達も合流する気配は無し、単身だったらさあどうするか」

 

 

 今のピンチの打開策を考えているその時、「男」の耳はこの空間に入り込んだ小さな物音を聞いた。

 

「確かにここに逃げ込んだのだな?」

 

 それは紛う事無く人間の声だ。それも二日前「男」も暮らされていた、傲慢で冷血な、どこか考える事を止めた人間の声だ。

 

「ふん、お前らの羽と鼻も働けるのだな。・・・聞こえているんだろう、保護番号♂ニドラン002! 今頭を垂れて戻って来るなら咎めはしないぞ」

 

 最早それは性格故の、反射じみた行動だった。

 

「出てくると思ったぞ、王様気取り。この呼び方をお前は相当嫌っていたからな」

 

「だったら口にするな!! お前みたいな人間に虐げられるなんてもう御免だ、あそこで番号呼びされた奴等はみんなそう思ってる、俺の臣下だって」

 

「もういい、黙らせろ」

 

 人間の男が率いる二匹の進獣が、「男」に襲い掛かる。一匹はジグザグマ、もう一匹は鳥を模した進獣・ポッポだ。

 

「二対一だがどっちも知ってる種族だ、戦える!」

 

 手負いであれど戦うしかない。「男」は小さいが鋭い角を突き出す形で突撃をかける。

 

「正面突破か。たかが一匹のニドラン種でどう抵抗するんだぁ?」

 

 戦いに赴く「男」、その存在は人間では無い。ニドランと呼称される、ウサギによく似た紫毛の進獣だ。

 

「ただ近づくだけなら甘いッ!」

 

 ニドランとジグザグマの、力がモノを言う激突・・・

 

 

 とはならなかった。

 

「特徴ぐらい学習しろ、毒針持ちなの知らなかったか?」

 

 ニドランは体当たりを仕掛けたのでは無く、懐に入り込み、角に含まれた毒針を打ち込んだのだ。毒による不調はすぐに表れた。ジグザグマの動きが鈍り始める。

 

「どうだ! これ以上不利になりたくなかったらさっさと逃・・・何っ!?」

 

 頭上から小さな竜巻めいた風が襲い掛かる。言うまでもない、頭上を飛ぶポッポの、羽を活かした風おこしによるものだ。

 

「ぐあっ・・・!」

 

 追い討ちをかける様に、ジグザグマの体当たりがニドランに直撃する。

 

「無理強いをさせるのか!? 同情するつもりは無いがそいつは」

 

「主従関係だ、下が上に使われるのは当たり前だろぅ? こんな時にまで気高い心構えって奴か、だったら教えてやろう! お前の逃亡経路、それはお前の臣下とやらから聞き出した物だ! かわいそうになぁ、数発蹴りを入れたらすんなりと協力してくれたぞ、はははっ」

 

 視界が朦朧としてきた、寒気もする。そうか、俺は所詮お山の大将だったのか。ここで野垂れ死ぬのも運命って奴か、それはそれで――――

 

 

 

「勝手に悟ってんじゃねぇぞ、オウガ!! 創るんだろうが、王国ってヤツを!!」

 

 

 そいつは別に輝きを放つ身体じゃない。周りの目を引きつける程麗しい訳でも無い。

 

 だが絶望し全てを諦めそうになった彼にとって、

 

 立ちはだかり守ろうとするそいつの背中は、

 

 

「ユミル・・・なのか?」

 

「おうよっ、憶えてたか!?」

 

 信じられない程眩しかった。

 

 

「駆けつけたのはオイラだけじゃないぜ? だろっ、ライナ!」

 

 

「当然だよ! 弱い者いじめに首を突っ込めないんじゃあ、善人どころかまともな人間にもなれやしないじゃないか・・・!!」

 

 一匹と一人が。

 

 俺を守ろうとしている。

 

 傷を負って無様に地を這う俺なんかを守る為に。

 

「行くぜライナっ!!」

 

「うん! ・・って言っても僕に出来る事なんて」

 

「それはもう、オイラ達の心が答えを出してるハズだぜ?」

 

*

 

「肯師主任、日本支部よりEリングの消失を確認」

 

「あの子が誰かを選んだ、という事か・・・転移先を捜索する、行きましょう」

 

 

「フフン、あの跳ね返りのユミルが人間を選んだ、とはね。面白いヒトなんだろうなー」

 

「怖いヒトじゃないと良いね・・・」

 

「ギルもメディアも悠長な事を・・・タダヒ、この事実が起きた、その意味が解るな?」

 

「ええ。これでまた一つ、『繋がり』が生まれてしまった・・・深入りする者が増えるまえに処置を行う、それも私達『進化議会』の仕事」

 

*

 

 突如として、何処からか飛んで来た光が、来名の右腕を包む。その感覚に痛みは無く、むしろ温かみに似た物を感じる。

 

「何だこれ・・・ブーメラン?」

 

「オイラにゃあヒト様の武器はあんま詳しかぁねーが・・・それがお前の戦う為の力にして、オイラとライナの契約の証拠! つまり仲間ってヤツだ!!」

 

 困惑の連続で頭が最適に回らない。だが目の前で苦しんでいる一匹の姿、そして自分に不敵に、かつ力強い笑みを向けているユミルを見て、迷うのは無駄だと確信した。

 

「ユミル、まずはあいつを助ける! 近づけなくするぞ!」

 

「おうよっ!! ってなワケでお先!」

 

 その直進は正に「電光石火」に近い速さ。肉眼では見切れないであろうスピードで、ジグザグマに直撃する。

 

「上のポッポを何とかしてくれ!」

 

「了・・・解っ!!」

 

 来名が投げた、手に握られたその得物は、形状から見た想像の通り高く飛行し、その手に戻る。使い慣れてはいない為些か不器用な軌跡だが、それでも回避したポッポに大きな隙を与えるには十分だった。

 

「そらあっ痺れろおおおッ!!」

 

 跳び上がったユミルが放つ電撃が、ポッポに確実に当たった。飛行能力を持つ進獣にとっても、身体に麻痺を促す電気は致命的な威力だ。直撃を受けたポッポは飛行に必要な体力を失い、地に落ち、伏した。

 

「今さっき電光石火をジグザグマに食らわせたが、オウガの毒が回って戦いにはならなかった。そしてこの通りポッポもオイラの電気ショックでバタンキュー・・・さぁて、手持ちがこんなんじゃあもう勝負はついたよなあ?」

 

「くっ・・・」

 

「そこまでキツく・・・なるのも無理無いか。・・事情はよく分からないですけど、一匹をこんな風にして追い詰めるやり方、正直見過ごせないです。ひとまずこの子は僕が面倒見るので、今日は帰っていただけませんか」

 

 

 

 追手の男は顔をしかめ、舌打ちだけをして、何も言わずにその場を去った――――

 

「よっ。初陣にしては中々のコンビプレイだったじゃねえか」

 

「屋根の上とか・・・いつからそこにいたの」

 

「お前が駆けつけたのと同タイミングさ。トンズラしてたら記憶喪失になる位ボコってたかもな」

 

 ゼファスが来名を助けなかったのは、来名自身を試したのだろう。最良の決意と結果を見せてくれたからこそ、今は眼前の彼は無邪気に笑っているが、もし自分が恐れをなして逃げていたら言葉の通り半殺しにされても可笑しくなかった、筈だ。

 

「んじゃまあ、オウガとか言ったな。その様子だと行くアテもねーんだろ? 何時までも・・・ってワケには行かねえが・・」

 

「感謝する・・が、悪いがもう、俺の道は決まった。」

 

 オウガは少し目を閉じ、開く。その目の輝きは、まるで何かを吹っ切ったかの様な決意に満ちた物だった。

 

「先程の戦い、しかと見届けた。お前がその域に覚醒したのならば、ライナ。俺を貴殿の眷属として迎えてほしい」

 

 

「・・・僕が?」

 

 驚きの感情は確かに働いたが、不思議と不快感は無かった。受け入れても良いと、考える程に。

 

「貴殿にその意思があれば、の話だ。不服であれば・・」

 

「僕で良ければ。僕なんかを受け入れてくれるなら。・・・これからどうするか、何も考えてない、けど」

 

「・・・御意。感謝する」

 

 

「夜が明けるみてーだな。何かが始まった様な雰囲気じゃねぇか」

 

「何だよ始まったって。・・・とりあえず家に帰ろう、母さんが心配してる、かも」

 

「かもじゃなくてガチで、だぜ。あんな母ちゃん泣かすんじゃねーぞ」

 

「それだけではあるまい。こうなった以上、拙者らからも教える事は沢山ある。覚悟しておけ」

 

 考えてみれば、夜中に家を抜け出して近所を歩き回り、廃工場で怪しい大人と喧嘩紛い、そしてその理由が逃げていた謎の動物を助ける為。

 

 マトモな体験じゃない。・・・だが、今この状況が、来名の中では何かのキッカケになるかもしれないと思った。

 

 確証は無いが、少年達は思う。

 

 

 始まりっていうのは、こういうものだと。

 

 

 

 

 

続く

 

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