進獣戦記‐ポケットモンスター異聞‐   作:四季永

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隈眼鏡先生

「こんなのに入るの?」

 

「そ。モンスターボールって呼ばれてる。・・・あ、お前倫理観とか考えてるだろ。その点は心配すんな、どういう理屈だかこれは進獣を粒子化させて収納するカプセルなんだが、体力回復は基本的にこれに入ってる最中に行われる」

 

 昨日の夜の一件についてだが、まず、母である灯輝行乃には思い切り叱られ、思い切り泣かれた。次に戦いの舞台となってしまった廃工場だが、これがまるで話題になっていない。よくよく考えてみればユミルが電気ショックを放った・・・視覚的に派手な事柄はそれ位なので、第三者に見られてもボヤ騒ぎ紛いと認識されてお終いであろう、というかそれが一番都合が良いのだが。

 

「それで、具体的に僕はお前の何を手伝えば良いのさ」

 

「乗り気になってくれたのは嬉しいんだが、しばらくは普通に過ごしてて構わないぜ。少々ヤンチャな居候が来たと思ってくれれば」

 

「実際の所・・・拙者らも大きくは動けないのでござる。我々『リベリオン』の仲間達の手がかりを掴むまでは」

 

「仲間って・・・そんな大層なチーム名があるって事は、進獣の大群でも手懐けてるのか?」

 

「一人の人間風情にそんなん出来る訳無ぇだろ。人間が負担無く連れて行ける進獣は一人で六匹。それ以上の契約は身体がやられちまう」

 

 聞けば聞く程ゲームのような設定に目眩が起きそうだ・・・これは現実だが。

 

「オレの場合、既に六匹全員と契約済みだ。・・・脱走時にワケあって散り散り、何処にいるのか分からんけどな」

 

 ゼファスの発言には疑問が浮かぶ部分が幾つもある。来名も彼の世界に片足を突っ込んだ以上、洗いざらい話しても良いじゃないか、とは思ったが、そうする気にもならなかった。得体の知れない世界に向き合う事への畏れが、完全に拭い切れていないのだ。

 

「とりあえず時間だから、学校行って来る。あんまり外出はするなよ、不審者扱いされるから」

 

「緊急事態じゃ無けりゃあな。お前も警戒はしとけよ、昨日みたいな事があったって事は・・・」

 

*

 

「おっはよーっ来名くんっ!! 顔下がってるよ上げて上げて!」

 

「てえっ・・!? 何時も何時も元気があるな、源は何処なんだよ」

 

「別に? 強いて言うならこの眩しい青空、かな♪」

 

 彼女とは、なるべく朝っぱらから会いたくは無いのだが―――

 

「ほーお熱いねえ。こうして見てるとやっぱ絵になるぜえお前ら」

 

「こっちはちょっと心配してたんですけど、元気みたいで何よりですね」

 

「なっ、そうじゃないから!! 駆も彼方も買い被り過ぎ!」

 

 

 

進獣戦記‐ポケットモンスター異聞

第3話

『隈眼鏡先生』

 

 

 

 フィン・サイランとは、来名が14歳の時、彼の通う中学への転校生という形で出会った。何でも事業で成功して財を築いた父と、由緒正しい名家出身の母がいるらしく、それぞれ両親の仕事の都合で日本に住む事になったらしい。

 

「今日もお昼美味しいね!」

 

「・・何で世の学生ってのは昼休み程度でテンション上げるんだか」

 

「僕等はまだマシな方ですよ? 屋上で粛々と食べてるだけなんですから」

 

 周りを振り回す程のテンションの高さ。しかしそれは出自の自慢によるものでは決して無く、穏やかな環境で備わった、自然な明るさと言える性格だ。

 

「しっかしフィンちゃん、この弁当毎日自分で作ってるんだろ? すげえバイタリティだよな! 可愛い賢い逞しい、アイドル扱いも当然の流れだよな!」

 

「そっ、そんな事も・・・どう答えよう」

 

「自覚があるなら誇っとけ誇っとけ。毎日美味いメシ作れるだけで大したモンだ、なぁライナ?」

 

 

 

「ん? どした? あぁ友達諸君に挨拶か。雷の如く轟く強さと可愛さを併せ持つ、ピカチュウのユミルとはこのオイラの事―――」

 

「だあああああああッ!!!」

 

 脱兎の如くユミルを抱え、青ざめた表情で屋上を去るその姿はとても滑稽に見えた事だろう。

 

*

 

「何焦ってんだよ、弁当残して。食いモン粗末にするのはダメ、生き物の共通ルールだぜ?」

 

「焦るさ! 何でこんな所まで来てるんだよ」

 

 青い顔色はそのままに、息も荒くなっている。そういう事か、とユミルは溜息を吐いた。

 

「引っ掻き回すつもりで来た訳じゃあ全然無ぇよ。お前にダチがいるならどういうモンかと親睦を・・ってそんな怖い顔すんな、聞け。今後の事を考えると、秘密を持った仲間ってヤツ、幾らかはいた方が良いと思うんだよ、躍起になって隠すよりは」

 

 来名は周囲を見渡す。ここは裏庭の人気の無い場所、直に聞かれる事は無いだろうと確認する。

 

「一応聞くけど、どういう事だよ」

 

「まあ前置きしとくと、これはゼファスからの受け売りでもあるんだが。恐らくこれから先、オイラ達進獣の存在は」

 

「その先、というのをより良くするのが、私達の仕事。逃げる必要なんか無い筈よ」

 

 

 

「聞かれてた!?」

 

「てかあんた誰。ここの関係者じゃ無いよね」

 

 

「先に名乗るのが大人の対応ね・・・私は肯師正日。とある研究機関の・・主任よ。ああ眼は気にしないで、単純に寝不足なだけだから」

 

 突然現れたその白衣の女性は、何処となく陰気な空気を放っている・・・と来名は主観で感じる。容姿は基礎的には美人ではあるのだが、ハッキリ見える隈とどんよりした顔色、纏まり切れてないポニーテールと、一目で不健康だと察せる要素が目立つ、何なら普通は学校に近づこうものなら不審者と疑われても―――

 

「そう思ってるなら少し傷付くかも。・・言っとくけど逃げよう、って選択は無駄よ。私は君を捕まえられる。それだけの術を持っている」

 

「目的は?」

 

「そこにいるピカチュウが物語っているわ、ゼファスを匿っているのね。・・・悪い事は言わない、あの子達を差し出して。これ以上関わると命の危険が及ぶ」

 

「今更そんな事・・」

 

 動揺が全く無かったか、と聞かれれば少しはあった。だが隣のユミルが不快、抗い、そして怒りを全面に出し、目の前の女を睨みつけている。関係は昨日から始まったばかりだが、それでも仲間と認めた存在を軽々しく手放す、そんな汚い道を進みたくはない。

 

「自称相棒共々反抗期な目つき・・・今のカードは少ないし、取りたくはなかった手段だけど仕方ない。ササキ、手を貸して!」

 

 

「小生が一番手だ。手心を加えるつもりは一切無い。特にユミル、お前の様な特例種ならば」

 

 オコジョが格闘家みたいに立っている・・・第一印象はそんな感じだ。可愛げのある顔ではあるが、声や雰囲気からは手が抜けない、鋭い感覚を放っている。

 

「そうかい、じゃあまずはご挨拶だ! 言っとくがオイラのスピードは!」

 

 ユミルは電光石火とばかりにササキに突っ込む。直進であれどその瞬間は来名の目でも追えない―――

 

 

「スピードは、か。誇示したいのならばそこに依存するな」

 

「なっ・・うおおッ!?」

 

 振り返るには隙が大きい。張り手の連撃が往復してユミルを襲う。

 

「あれを見切ったのか!?」

 

「コジョフー種は武術の才覚がある進獣よ。電光石火とはいえあの程度の直進なら目だけじゃない、感覚で察して後ろに回れる位訳無いわ」

 

「へッ、やるじゃねーか・・・オイラに追い着ける奴ぁ久しぶり、腕が鳴るぜ」

 

 素早さが売りの戦法、ユミルの基本がそうだとすれば、見切って隙を突くササキの戦法には分が悪い。工夫が無ければ攻撃はほぼかわされてこちらが消費する。

 

「・・・電気に頼らずに戦える?」

 

「!? 何言ってんだライナ! 言いたかねぇが格闘戦はあいつの得意分野だぞ!?」

 

「使わないとは言ってないよ、闇雲に放ってても意味が無い。出来るだけ翻弄するんだ」

 

「・・!」

 

 ユミルは自信こそ曖昧だが、少しばかり頷く。

 

「策を講じたか。その少年の知識、経験でどこまでやれるか」

 

「うるせえッ!」

 

 ユミルの放つ二度蹴りは、当然のようにかわされる。だがその表情に焦りは無い。そこからは回避に徹する。ササキは攻撃を見舞って来るが、それをほぼギリギリにかわす。それはこちらが攻撃を捨てているから出来る、反撃の機会は未だ見えない。

 

(時間を稼いでいるの・・・? あの子にそんな気の長い事は出来ない筈、回避一辺倒だなんて)

 

 

「ハアッ・・・少しバテてきたぜ、スマン・・ライナ、もうこれ以上は」

 

「・・・これで良い」

 

「隙を見せたか!」

 

「! ササキ、間合いに入―――」

 

 

「今だ!!」

 

 

 電撃が放たれた。その規模は大きく、まるで溜め込まれた何かが解き放たれた様な一撃だ。

 

「何とっ・・・」

 

 ササキの緊急回避もそれから逃れるには至らず、電撃の影響で膝を着いた。

 

「何だ・・・スゲーじゃねぇか! 一体どういう事だよライナ!」

 

「ゼファスから聞いてたんだよ、ユミル・・というかピカチュウの特徴。頬に電気、溜め込んでるだろ。接近戦重視の相手だったら小出しにするよりも大規模にやる方が間合いに入ってくる分当たる・・・ユミルは気性が荒いから電気も早く溜まるし、そこに賭けた」

 

「ちょーっと引っ掛かる言葉もあるが・・・とにかくそういう事だ! さあ反撃開始と―――」

 

 

 

「おっとそこまで!」

 

 対峙する者達の間合いを遮るように、火の粉が舞う。

 

「何だよジャマするヤローは!」

 

「変な動きの火の粉ね。・・・ギル、今までどこで油売ってたの?」

 

 

「そんなにイラつかなくていいじゃない? お目当てを連れて来たんだから」

 

 挑発的な声色が目立つ、狐のような進獣。彼女(声からして恐らくそうであろう)に続いて彼は現れた。

 

「・・・ワリィな。どうやら嗅ぎつかれる以前の問題だったらしい。大人ってこえーわ」

 

「ゼファス!? 母さんは!? 母さんはどうした!?」

 

「そう焦らないの! 安心して、別にあたし達は民間人に手を出す程殺伐としてはいないわ」

 

「コイツはこっそりとオレに会いに来た。・・それで正日先生、見込みは? まあボロクソ言われても今更こいつは辞めねーけどな、多分」

 

「現在進行形ではまだまだ未熟。呑み込みは早いっぽいけど少々無謀なところがある・・・あとはやる気次第。・・意志はその若さ全開の目が物語ってるけど」

 

 認めた、という事なのだろうか。

 

「あまりファンタジーな期待はしないで。これから君が踏み込もうとしているのは正真正銘命懸けの世界。友達と遊ぶ時間、恋愛事に心躍らせる瞬間、心安らぐ日々を過ごせる感覚を捨てる事だって普通にある。・・・そんな日々が待ってる事を受け入れられるのなら―――」

 

*

 

「・・・・本当に来た、この子」

 

「だろ? こいつは違うんだよ、その辺の若造とは」

 

 時刻は放課後、待ち合わせと告げられた場所は通学路とは逆方向に停まる黒い車。さすがにセンスが古いだろうと思わざるを得ないが、逆に怪しさ全開かつバレバレな方がこの場合良いのかもしれない。

 

「何というか・・・正日さんが昼言ってた日常みたいなの、僕受け入れられないんです。別に危険を求めてるとかそういうんじゃなくて、僕がやれる・・」

 

「その先は読めるから結構。・・・じゃあまずは試験、と行きましょうか」

 

*

 

「もう8時か・・・すっかり暗くなったけど、母さん大丈夫だろうか」

 

「一応先生も大人だ、責任もって取り成してはくれるだろ。・・じゃ、とりあえず偵察と行くか、頼んだぜ、ゲンノスケ」

 

「心得た」

 

「オウガ、行ける?」

 

「偵察は本来不本意な役どころだが、恩がある。今回は受け入れよう」

 

 

「・・で、そろそろ話してもらって良いんじゃないのかな」

 

「何が?」

 

「とぼけるなよ、ここに至るまでの経緯だろ。言い方悪いけど、何で逃亡犯みたいに隠れて・・」

 

「独立だよ。言葉を選ぶならな」

 

 ゼファスのその返答は、面倒臭そうな挙動と相反して声の語気は強く感じた。

 

「今言えるのはそこまでだ。先生にこうも早く捕まったのは計画外だけどな、どーもあの連中とは反りが合わんのだわ」

 

 危険事に突っ込むのは別に怖くはない。だが自分の今の行動が誰の、何と関わり、意味がある事なのか。来名は少しそこが解らず気持ち悪くなった。

 

「んな事より、そろそろこっちも動くぞ。気付かれた、かもな」

 

「・・・工事現場なんかで集会やってて。まともな奴等では無いか、少なくとも」

 

*

 

「何だ、ガキが二人じゃねぇか! あんなのが純正品を連れてんのか!?」

 

「人は見かけによらないっすよ、あんさん達! あっしの情報網では一人は経験豊富なベテラン進獣使い、もう一人はエース級を手懐けた期待のルーキー! ですがあっしらの数で袋叩きにすれば楽々ブン取れるっすよ!」

 

「言うじゃねぇか、まぁお前のやり口で儲けさせてもらってるからな、俺らの戦力の大半はお前の横流し、ヤツらのバケモノじみた活躍でここいらに俺らに張り合えるヤツはいねえ」

 

「ヘヘン、褒められるのは光栄っすが、されてもそうそう儲けには繋がらないモンっす。まずは目の前の結果に繋がる事に集中しましょうや!」

 

 ゼファスと来名に課せられた任務、進獣を利用していると思しき非合法暴力集団の調査、可能であれば壊滅。

 

 僕は非日常に、禁じられた世界に行こうとしているのだろうか。

 

 だが少年の・・・灯輝来名の心には恐怖や後悔は無く、代わりに湧き上がるのは高揚感と期待だった。

 

 

 

 

 

続く

 

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