LycorisRecoil×CITYHUNTER~AengelHeart Forever 作:ディルオン
冴羽獠は、真性のスケコマシである。
女と見れば誰彼構わず手を出し、西に美人あればデートに誘い、東に美女がいればホテルへ連れ込もうとする。
「ふっふっふ…ついにこの時が来たぜ…!」
そんな折に訪れた美人女子大生の依頼。
ここで立ち止まる男がいるだろうか、いやいない。
ついでに股間も立ち止まらない。
「ぐふふ、香が居ない時にあんな可愛い子から依頼が来るなんて…僕ちゃんとってもラッキーマァン!」
普段は相棒である槇村香が制裁を加えることでバランスを保っているのだが、向こうは今別件で出張中。
「待っててねぇ、麗子さぁん」
即ち、もっこりロードまっしぐら!
いざ、久々のワンナイトカーニバルへ!
「……と思ってたんだけどなぁ」
「……」
住処のボロアパートからスベスベのお肌目掛けて旅立とうと思い立った瞬間、アパートの入り口に立っていたのは、昨夜のおっかないJK。
「おはようございます」
「……お、おはよう」
「早速出かけましょう。滝沢恵子のマンションの場所は聞いています。妹の麗子さんが鍵を開けてくださってるそうなので」
「あの……君も、来るの?」
「はい」
表情を一切変えずに応える、井ノ上たきな。
ふわりと、微風に黒髪が揺れる。
思春期の男子なら、彼女を見て思わず立ち止まりデートに誘う算段でもつけるだろう。
しかし冴羽にとって、自身のストライクゾーンは18歳以上。
光る原石なのは認めるが、それでも声を掛けるには発展途上と言わざるを得ない。
特に胸回りの部分は……
「……」
「ひっ」
「なにか?」
「いえ、なにも」
あと普通に怖いよ、この子。
「ってか……今日日曜だぞ。何で制服?」
「仕事の時にはこれを着るのが規則なので」
「逆に目立つだろそれ……ってか、本気で付いて来る気か?」
「私達の依頼ですから」
「ぇえ…参ったなぁ…コブ付きじゃ道行く美人に声をかけることも出来やしない…」
「だから行くようにと店長が」
「あっそ……」
がくりとあからさまに項垂れる冴羽。
その様子を見て、たきなは露骨に顔を顰めた。
「……はぁ。しゃーない、やりますか」
「……」
昨日、ことのあらましをリコリコの皆に話した所、ミカは頭を抱え、ミズキは発狂し、店の常連はそんな彼女を必死で取り押さえた。
慎重に丁寧に言葉を選びながら、たきなに昨日連れて行かれた店がどのような場所なのかを説明し、すまなかったと何度も何度も頭を下げるミカを見て、たきなはミズキの言葉をようやく理解したのだった。
「よろしくお願いしま…」
「おぉ!? あの子いいねぇ〜! んー、腰のくびれと胸の張りが絶妙なバランスを…」
「……」
「そ、そんな怖い目で見るなよ…」
「……早く行きましょう」
とはいえ。
他に頼ることもできない。
『それでもいざと言うときは信頼できる』というミカの言葉を信じ、たきなは同行を決意した。
「はいはい、っと……」
歩き出す冴羽。
たきなは訝しげにその背中を追う。
「あの、マンションはこっちで…」
「まぁ待て。先に寄るところがある」
「寄るところ?」
「これがタダの家出なら、とっくに警察が探してる。事件に巻き込まれたとしても、公になる前に君のお仲間が処理してる筈だ。しかし依頼人のお姉さんはお宅の情報網にも引っ掛からない……こいつは妙だと思わないか?」
冴羽を見る目の強さが一瞬変わる。すぐにそれは戻るが、心の緊張だけはすぐには戻らない。
「DAはご存じなんですね?」
「ま、この街でこんな仕事やってくには、連中とも折り合いをつけなきゃならんしな」
苦笑して再び歩き出す冴羽。
リコリコ店長のミカは、自分の古巣であるDAの指導教官だった。
その旧友なら知っていてもおかしくはない。
しかし、そうすると不自然だ。
「……何故DAがスイーパーを野放しにするんですか?」
「フランシス・ドレイク知ってるか?」
「…16世紀の私掠海賊ですよね」
「あんなようなもんだ。裏稼業で得た利益や情報の一部を渡し、見返りとしてある程度の自由を許される…ま、首輪をつけられてるようなもんだな」
「あなたもその一人ですか?」
「いや、飼い慣らされるのはごめんでね。ま、騙し騙しやってるのさ」
ヒラヒラ手を振る冴羽。
その後ろ姿を、たきなは黙ってみていた。
側から見ればただの遊び人。しかし、DAの存在を知っていながら裏社会にも通じている。それだけで異質なのは、若輩のたきなでも理解できる。
テロリストやスパイによる、犯罪行為を未然に防ぐ公的気密組織Direct Attack…通称『DA』。
彼らはその気になれば、人間一人を闇に葬り去ることなど容易なのだ。そして本来、存在を知っているだけでも抹殺対象となりうる。
そのエージェントのたきなを相手に、まるで動じる様子も、警戒する素振りさえ見せない。
もしかすると、これは全て演技で、途轍もない実力を隠し持ってあるのかもしれない。
その片鱗を垣間見た気がする。
「よっ、元気?」
と、新宿駅に近づこうとした時だ。プラザデパートの脇にある宝くじ売り場の横で、露店を出している初老の男がいた。いかにもホームレスと言った風体だ。
冴羽はそんな男に近付くと、揚々と話かける。
「いよぉ、リョウちゃん。しばらく」
「これ、土産だ」
「おっ、嬉しいねえ。春先はまだ寒くて」
茶封筒を懐から取り出し、老人に差し出すと、彼は震える手でそれを受け取った。
「…そっちの子は?」
「ん、ああ……なんて言うか……」
「はじめまして。井ノ上たきなです」
「ははぁ。リョウちゃん、今度はまた一段と若い子引っ掛けちゃって。これで何百人目のボンドガール?」
「ボンドガール?」
「い、いやいや、こっちの話! で、で、頼んでいた件、どうだ?」
「ああ。中々難物だったが、何とか仕入れてきたよ」
「流石、頼りになるぜ」
ヒッヒッと笑いながら、老人は後ろにあるボロボロのバッグから、黒い袋を取り出すと、冴羽に差し出す。
「大事にな。見つかんなよ」
「ありがとよ」
薄暗い微笑みを浮かべる冴羽。大きさはコンビニでよく見るサイズ程度だろうか。
たきなは察した。
なるほど。こうやって情報のやり取りをするのか。あの茶封筒には金銭の類が入っていて、今渡された物に手がかりが入っているに違いない。
トボけているように見えても、やはりプロなのだ。
「確認します」
「えっ」
「あっ」
ならば自分もせめて役に立てなければと、代わりにその黒い袋を横から手に取った。
「あ、ちょ、ちょっと待った! それは…!」
「はい?」
無造作に袋を開け、中を取り出すたきな。
冴羽が静止しようとした時には遅かった。
『金曜日はたまたま』
全裸で、たわわな胸をはだけさせ、こちらへ色っぽい視線を送る若い女を表紙にしたBlu-rayディスクが出て来る。
女優と思しき下着姿の美女の妖しげな視線は、たきなを画像の奥側にあるベッドへ誘っているようにも見えた。
「……」
「……」
「……これは?」
「……手掛かり、かな?」
「何のですか?」
「女性の肉体の真理へ至るためのわータンマタンマ! ちょ! まっ! ごめんなさい! 説明するからぐぼらべぇ!?」
たきなが気付いた時、既に自分の体は再び防弾鋼入りの鞄を振り下ろしていた。
冴羽の鍛え抜かれた体躯がコンクリートの地面に回転しながらめり込んでいく様は、さながら曲芸の如く。
「……グハ…ッ」
「…リョ、リョウちゃん…大丈夫かい?」
「…ダイジョーブジャナイ……」
「あの」
「ひぃ!?」
「情報が欲しいのですが」
「分かった! 話す! 何でも話すから!」
のちに新宿周りの情報屋には、『命が惜しければ、井ノ上たきなには必ず情報を売れ』という文言が出回ることになるのであった。
・・・・・・・・・・
「偽装なら偽装と言って下さい」
「ああ……実はね、言おうとする前に叩きのめされたんですよ……」
首筋を摩りながら高架下を歩く冴羽。横では、頭ひとつ分以上小さな女の子が、軽やかな足取りで動いている。
未だに首がズキズキする。冴羽は依頼を回したミカを怨んだ。
こんな凶悪な女が付き添うなんて話は聞いてない。
「そもそも、情報を普通に渡せばいいじゃないですか」
「あのね…情報屋が情報をそのまま渡すわけないでしょ。カモフラージュは必須なの」
「外見が成人向けDVDって、逆に目立ちますよね。警官にでも見られてたら私は補導されてました」
「……普通の奴ら向けの偽装じゃないんだよ」
「え?」
とは言え、この依頼は急がなくては。
成人向けソフトのパッケージの中に入っていたメモ書きを、冴羽は改めて取り出した。彼等にしか分からない符牒で文字が綴られている。
「ジイさんの話じゃ、似たような失踪事件が他にも2件。しかも警察やDAには感知されてない。犯人は何らかの方法で、お上の目から逃れ続けている」
「……つまり」
「そう、向こうにも情報屋が付いてるのさ」
首筋から手を離した冴羽の目が光る。
「そいつは巧妙に先回りをし、手掛かりを残さず、追手を知らせてる。正攻法で幾ら追っても捕まるわけがない」
「…どうすれば良いんですか?」
「ま……滝沢恵子さんの行方を追いつつ、犯人を突き止めるしかないな、今のところ」
犯人の狙いは分からない。そしてバックについている存在も杳として知れない。
しかし依頼人の姉の安全を考えれば、あまり悠長にもしていられない。
「……」
「どうかしたか?」
「あの、今回の事件は難しいですか?」
「ん? そうだな……他の奴等なら、少々手に余るかもな」
「そうですか……」
「どうした?」
「いえ、何も」
たきなを見下ろす冴羽。しかし少女はスタスタと歩を進めて行ってしまう。
冴羽も後を追いかけると、改めてその横顔を眺めた。
年端も行かない女の子特有の無垢さ。それでいて、この世界に生きるプロとしての冷徹な表情。その二つが絡み合って同化している。
しかし、時折、年相応の素直な表情が漏れ出る瞬間がある。
これをなんと表現するべきか……
(さてはワケありだな……ったく、とっつぁんの悪い癖だぜ)
ミカは確かに人格者で腕も確かだが、自分以上の狸である。
そもそも、自分とソリが合わなそうな少女を同行させるなど、端から別の狙いがあること位、お見通しだ。
どうやら彼女の過去を詳しく知る必要もありそうだが……。
「……」
「ん? どうかした?」
「そっちこそなんですか? さっきからジロジロと」
「あー……」
まずい、流石にガン見し過ぎた。
冴羽は爽やかな笑顔で取り繕った。
「いやなに、君という美少女に、つい見惚れてしまってね。男の性…ってやつさ」
「……」
「だから無言で鞄取り出すの止めてくれるかなぁ!?」
慌てて後ずさる冴羽。
こんな問答無用で凶器を飛ばしてくる女は前代未聞だ。相棒の香の方がサッパリした性格の分、まだ御しやすい。
「トホホ……」
「着きましたよ、ここです」
「ん、おう」
溜息を着いた時、たきなの声が横から聞こえ、冴羽は顔を上げた。
新宿区郊外にある、滝沢恵子のマンションには、予め依頼人である妹の麗子が鍵を開けて待ってくれている筈だ。
ここは代々木に近い区域にある、外れた場所で、人通りも少ない。華やかな都会から一転、薄汚れた雰囲気が見え始める。
彼女は土地代が安いからという理由でここを選んでいたらしい。
しかし多少高くついても、特に女性は住む地域の安全に気を配るべきだ。
明日などと言う、遠い未来のことなど、誰も分からない。
「こんにちは」
「たきなちゃん、いらっしゃい。さ、入って……って、さ、冴羽さん!?」
「あはは、ドーモ……」
出迎えた滝沢麗子は、冴羽の腫れ上がった顔を見て仰天した。
「何でそんな顔がボコボコなんですか!?」
「イヤァ…さっきそこで鋼鉄入りの鞄を振り回すJKに……」
「……」
「じゃなくて、道で転んじゃって…ハハ……」
「は、はぁ……と、とりあえず、入って下さい」
玄関先でそんなやり取りをして、二人はマンションの部屋の中へと招き入れられた。
冴羽は玄関から中へ入ると、キョロキョロと廊下を見渡しながら進む。たきなもそれに続いた。
シンプルな1LDKの作り、特に内装そのものに違和感はない。
たきなは自分の部屋によく似ていると感じた。
「デザイナーの部屋にしちゃ、随分と殺風景だねぇ」
「姉は昔からそうでした。無駄なものは置かないんです。どうぞ」
リビングへ招かれ、中へ進む。やはり室内も殺風景なものであった。
たきなが見渡しても、生活に必要な品以外は置いていない。
「……」
冴羽は目を細めて部屋を見回す。
戸棚にあるカップも、グラスも、皿もシンプルなもの。
床のカーペットも無地で質素だ。
他に家具の類を見渡しても、装飾や洒落っ気は必要最低限である。
「……あの、幾ら何でもこれ、何も無さすぎるんじゃないの?」
「そうでしょうか? シンプルで良い部屋だと思います」
「……」
たきなは真顔で言う。冴羽は頬をひくつかせた。この子やその仲間が、世情に疎いのは知っている。しかしその反応は余りにも……
「姉はわざと置かないんです。想像力の邪魔だって」
「邪魔?」
「他人の作った物に影響されたくないって。私の作品は、私の感性で完結させないとって言ってました。そしてその通りのものを作るんです」
後で聞いた話だが、滝沢恵子のデザインする服は実用性もさることながら、そのオリジナルティが評価されていたようだ。
興味のないたきなにはその違いはわからないが、常人とは違うセンスを持っていた人間なのは間違いない。
「天才でしたよ、姉は。私の憧れです……今も」
そう言って俯く麗子。
その心中は、たきなには分からない。孤児である自分はDAに育てられた。無論、兄弟姉妹の関係性は知るべくもない。
「あ、ご、ごめんなさい。私ったら……今、お茶を淹れますから」
「ああ、お構いなく。それより……だ」
冴羽はそんな彼女を見て、微笑みながら口を開く。
たきなには見覚えがあった。あの時のバーで一瞬垣間見た、包容力のある顔だ。
「寝室はこっちかな?」
「は、はい」
「むぅ、金品や貴重品の類が手付かずと言う事は……」
「…」
「犯人は、悪質な下着ドロ…と言う可能性もある」
「え、し、したぎ?」
「こりゃいかん! 今すぐ何か盗まれてないか抜き打ちチェックを…」
「……」
そしてその後で変態行為に走ろうとするのにも、見慣れてしまった。
「あの、鞄の中へ突っ込んだ右手には、何が握られているのかな?」
「抜き打ちチェックしますか?」
「だ、だいじょーぶだよぉー…あはははは」
顔を青ざめさせながら、冴羽は改めて麗子へと向き直った。
「さ、さて、麗子君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「このマンションのゴミ捨て場って、どこにある?」
「……え?」
ポカンとする麗子。
冴羽は飄々と笑いながら、その真意は読めない。
「え、えっと、確か、入口の真裏だったかと」
「ありがと。さ、たきなちゃん、参りましょうか」
「え……は、はい」
ゴミ箱?
いきなり何を言ってるんだ?
とうとうネジが外れきって精神に不調をきたし始めたのだろうか。
今からでもミカに連絡を取った方が……
「おーい、置いてくよ」
「い、今行きますっ」
慌てて反射的に返事をしてしまった。
・・・・・・・・・・
たまに独断で動くものの、基本的にたきなは目上の人間の指示に従うように徹底的に訓練されている。それが今回裏目に出た、とたきなは後悔した。
(目的を聞いてから付いてくれば良かった……)
思えば、ここに至るまで悔しさの連続だった。
DA本部では仲間を救った筈なのに叱責され出向の沙汰。辿り着いた場所は今までの張りつめた空気とは無縁の喫茶店。そこで働いているのは捉えどころのない先輩や飲んだくれ。そして腕利きと紹介されたスイーパーは、ある意味犯罪者よりたちの悪い色狂い。
自分の人生、どこでどう間違えたのか。
全て夢であるならどれだけ幸福だろうか。
「さて、と。本格的に、お仕事始めますか」
「……これがですか?」
階段を下りて、言われた通りにゴミ捨て場まで来る。
人通りの少ない場所で、周りには誰もいない。
ゴミ捨て場には、業者も手を抜いているのか、ゴミが山積みになっている。
「たきなちゃんは、怪しい奴が来ないか見張っててくれ。女の子に、汚いもんは触らせたくないからな」
あなたが一番怪しいです。とは流石に言わなかった。
「あの」
「ん?」
「さっきから、真面目にやってるんですか?」
しかしゴミ袋を開いて中をかき分けていく冴羽を見て、問わずにはいられない。
「ゴミ漁りなんて……」
「ゴミ漁りとは人聞きが悪いな。こういうのは習わなかったのか?」
「……諜報活動は、別の部署の担当でしたから」
「じゃ、覚えとくといい。ゴミからは有益なデータが山ほど得られる。探偵も使うテクニックだ」
「はぁ……」
イマイチ要領を得ない。
たきなの表情から不満を読み取った冴羽は、ゴミ袋から一枚の紙を取り出した。
「例えばコイツだ」
「コンビニのレシートですか?」
「そう。青山にあるコンビニで買われてる。他にも同じ店のモンが何枚もある。恐らく、この部屋の主の仕事先だ。買っているモンは弁当の他に歯ブラシ、爪切り、入浴剤、流行誌……おっと、コンドームまで買ってやがる。しかし、同じ袋の中には子供用の靴下や、女性用のストッキングも入ってる……つまり」
「この部屋の住人は、出張先で不倫をしているということですか?」
「そゆこと。ま、俺達の依頼とは関係ないし、今回は見逃してやろう。こんなズボラな証拠隠滅方法じゃ、いつまでバレずに済むか分からんがね」
「……なるほど」
「いつどこに立ち寄って何を買ったか、量はどのくらいか。どの程度の頻度でその店を使うのか。人間関係や日常生活も露わになる」
初めて、彼の行動を感心した。
へらへらした風体だが、その辺りのテクニックは心得ているのだ。
DAでは直接戦闘任務しかこなさなかったが、将来、諜報活動もあり得る。その時に役に立つかもしれない。
「さてと、こんなん探しても仕方ないな。手掛かり手掛かりと……」
「私も探します」
「え?」
たきなは素手で、近くのゴミ袋を開けた。
冴羽は慌てて静止する。
「お、おい、無理しなくていいぜ?」
「私もやります」
「割れたガラスとか、下手すりゃウンコ付いたおむつとかが出て来るぞ」
「私も依頼主ですから。率先して、協力する義務があります」
頑固だ、と前に言われたことがある。
そうかもしれない。
でも、不誠実ではいたくない。
冴羽は微笑して、彼女の座り込むスペースを開けた。
「……じゃ、なんかあったら教えてくれ」
「はい」
その内、二人は黙々と作業を続ける。
と、その時だ。
「……お、こいつは!」
「何かあったんですか?」
「ピンクレースのブラジャー! むっほー! まだ僅かに芳しい香りが…!」
「…」
「あの、それ、しまってくれる?」
「そっちを先にしまって下さい」
「分かったよ! 分かった!」
とうとう、危険物を出してしまったたきな。
しかし、このゴミのような男なら仕方ないかもしれないと、たきなは自己弁護に走った。
携行用ナイフをカバンに仕舞うと、再びゴミの山と対面した。
「ちぇー…」
「あなたへの敬意がさっきから3分と持たないんですが」
「……おい」
「今度はなんで……っ!」
下着の次は水着でも見つけたんだろうか。
なら今度こそ黙らせないといけない。
そう思って、冴羽を睨み付けるたきな。
しかし、黙りこんだのは彼女の方だった……
「……」
袋の中で、タオルに何重にも包まれた物体。
中を解くと、陶器の破片が折り重なって出てきた。
血がべっとりと付着したまま、である。
「……鼻血が出たって量じゃないな、こいつは。おまけに…」
「骨、ですね」
赤黒い血に塗れた青い陶器の破片に交じって、幾つか別の感触のする欠片が出てきた。指と爪で擦ると、石灰質に似た質感の乳白色が露わになる。
明らかに、骨の一部だ。
「どうやら……行方を突き止めるだけじゃ、済みそうにないな」
ジャケットからハンカチを取り出すと、冴羽はそれらを幾らか包んで、丁寧に縛り上げた。他の手頃なコンビニ袋を物色して、中へ入れる。
「ミカのとっつぁんに渡してくれ。誰のどんな骨か、知り合いに当たってくれる筈だ」
「分かりました」
真顔でそれを受け取るたきな。
ただの行方不明事件から一転、猟奇性を帯びてきた今回の依頼。
正直、自分が経験してきた任務と明らかに違う。
ここから先は未知の世界だ。
「さてと…まだ手がかりがあるかもしれん。もうちょっと探してみよう」
「はい」
しかし、たきなの胸中に、不思議と不安は無かった。
この目の前にいる、得体のしれない男のせいだろうか。たきなは、直感をあまり信じるタイプではない。しかし、信じてみようと……目の前の男、冴羽獠は、何故かそうさせるのだった。
「たきなちゃん、不審な奴がいないか見張っていてくれ」
「はい」
「いいか、常に誰か来ないか気を配るんだ。一瞬たりとも見落とすな」
「はい」
「こっちに目線を送るなよ。勘付かれる」
「はい」
「絶対に目を離すな」
「……」
「おい、聞こえてるか? ちゃんと道路の方を見て、絶対にこっちを見たりするんじゃ……」
「……」
ゴミ袋からグラビア雑誌や先程の下着、パンストなどを物色していた冴羽を、たきなは文字通り、ゴミを見る目で見降ろした。
信頼値、一瞬でゼロへ。
3分どころか5秒と保っていない。
「あ、あの……ふ、不審な奴は?」
「ここにいます」
ヒュン、と鞄の風切音が聞こえた時、冴羽の身体は再び宙を舞っていた。
・・・・・・・・・・
「たきなちゃん、お帰りなさい。あら、冴羽さんは?」
「燃えるゴミに出しました」
「……は?」
千束ちゃんはどこだ!?千束ちゃんを出せ!
もうちょっと待っててね。