それなら、まずは目の前の少女を助けてみろ。
サンジェルマンはため息混じりにそう告げた。
世界を変える、この国の仕組みを壊す、口でなら何とでも言える。だが、『どこにでもいるような平凡な高校生が見知らぬ土地で日々を過ごす』ことがどれだけ難しいか。文化レベルが低ければ知識で活躍、絶対的存在から与えられたチート能力で無双、なんて都合のいい展開は見込めない。
食堂『インデックス』を黒字回復させる。そのためには問題の炙り出しと現実的な解決案を考えなくてはいけない。……いけないのだが、
(問題点が明らかすぎて頭が痛くなってきた……)
テーブルには紙製のメニュー表が置かれていた。見たことのない文字で書かれているにも拘らず、内容が理解できるのが不思議だ。
書かれている献立に視線を向けると、
「ゴミ肉の辛味噌焼き」
「ちょっと腐りそうなパン」
「ガムみたいな食感のパン」
「棄てられた魚のスパイシー煮」
「家畜の餌にされている野菜の炒め物」
……、兎にも角にもメニュー改革である。
料理名がゴミ肉だの、棄てられる魚だのと、食材の表記が致命的にも程がある。こんなもの見ていたら頼む前に食欲が失われていく。穴の空いたコップにどれだけ水を注いでも無駄なのだ。
「念のために聞くけど、このネーミングは……?」
「本来なら廃棄される下魚を使った料理ですから、嫌がるお客様も多いんです。 表示義務はありませんけど、お客様を騙して提供するのも……」
「上条さんは昨日から廃棄品を食べてたの……?」
規格外品というだけで品質に問題はありませんなんて言われても、いい気分はしないのが人間だ。そもそも、自分達に不利な情報を隠すことは、必ずしも相手を騙す悪意にはならない。知らない方が幸せなことだって世の中には沢山ある。
「家畜の餌に使うような野菜を使ってるのはなんでだよ。まともな食材も買えないほど経営状況が火の車になってる、……ってわけでもないよな」
「その説明をするには、この国の身分制について話さなくてはいけません。聞いていてあまり気分のいい話ではないと思いますが、どうします?」
「この店で働く以上、いつまでも他人事じゃいられないんだ。遠からず思い知らされる現実だって言うなら、予め聞いておいた方が気が楽だよ」
その言葉に納得したのか、デディは大きく息を整えると、ゆっくりと口を開いて語り出した。
「まず初めに、この国の名前はパラケルス皇国。領土面積は概算すると六〇〇平方粁で、この世界に本国以外の国家や独立地域は存在しません」
「存在しなくても概念自体はあるんだな……?」
「架空の国家を舞台にした隣国の恋人との駆け落ち物語が貴族達の間で流行していた時期もあったんですよ。タイトルは確か恋の墜落事故、少し前はバカゲーム、醜顔ですね辺りが流行していました」
「単なる事故だし、単なる悪口じゃねえかっ!」