異郷を渡る人食いの狂女   作:ポジョンボ

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魔本の導き

 

 

 

深夜、人々が昼間の労働を済ませて帰路に着き、それぞれの家で家族との団らんや孤独な晩酌を終えて眠りに就く時間、ミルドレット達は月明かりが照らす街道を歩いていた。

 

人の往来が絶えた時刻は文明の営みと関わり合う事を嫌う不死人にとっては都合良い時間帯であった。

 

 

「ソレニシテモ…」

 

「厄介ナ怪物共ガ少ナイノハ良イケレド、ワザワザ人目ヲ避ケナキャイケナイノモ面倒ネェ」

 

「仕方ガ無イ、人殺シノ不死ハ人目ノアル場所ニ居ラレナイ、待ッテイルノハ迫害ダケダ」

 

「……何処カ…街カラ…離レタ住処ヲ…」

 

「ソウダナ、文明カラ離レタ地ガ良イ」

 

「ネェ、別ニ誰ニ見ツカロウトイインジャナイ?皆殺シニシテシマイマショウヨォ」

 

「イズレハ三人デ王国ヲ相手ニスル事ニナルゾ」

 

「ウフフ、ソレモ楽シソウ、ドレダケ殺セルカシラネェ…ソノ後ハドレダケ残酷ニ殺シテクレルノデショウネェ…ウフフフ」

 

「キットコノ世ノ終ワリマデ牢屋ノ中ダロウ」

 

「アラ…確カニソレハ退屈ネェ」

 

 

ミルドレットの正しく体験したかの様な言葉にその未来を想像したイザベラも凄惨な思惑を諦めた。

 

理性とは無縁の蛮行を繰り返し同族すら幾人も手に掛けたイザベラだったが、不思議とミルドレット達の言葉は理屈でもって聞き入れる事が出来た。

 

 

「完全ニ人気ガ絶エルト狩リノ時ニ不便ダ、旅人カ、近隣ノ村人カ、少シハ………ン?」

 

「……何カ…来ルゾ…」

 

「ウフフ、真ッ当ナ感ジジャア無イワネェ」

 

 

深夜の街道にミルドレット達以外の影が映る、視界の奥、踏み固められた土道を向こう側から走る人物が月明かりに照らし出された。

 

道の先から駆ける何者か、それが明確に自分達を目指して向かってきているとミルドレット達は直感した。

 

ただ動じること無く全員がそれぞれの武器を取り出す、走り寄る相手が真っ当な存在で無い事は解る、やがてその姿もハッキリと見えてくる、薄汚れた布をマント代わりに羽織ったその姿。

 

 

「……やっと見つけ出したぞ」

 

 

駆け寄る人物はミルドレット達の前で止まった、息切れも無く明瞭な声は老年の男のしわがれた声だった。

 

 

「オ前ハ何者ダ」

 

「私の事などもうどうでもいい、今に何者でも無くなるのだから、それが私の望みなのだ…」

 

「魔導書との契約を果たしに来た」

 

「……?」

 

 

老人が顔を上げてミルドレットを真っ直ぐ見つめる、その表紙に被っていた布が頭からずり落ちて隠れていた素顔が月明かりを浴びて鮮明に映る。

 

 

「…!…コイツ…」

 

「アラァ?ヤッパリ普通ジャナイノネェ」

 

 

その顔は明らかな異変を帯びていた、顔の左半分が白骨化していた、皮膚と肉がこそぎ落とされ、黄ばんだ頭骨の半分が除き出ている、更に下顎の半分もそうだった。

 

 

「…亡者ノ様ナモノカ」

 

 

見れば布の隙間から映る体も所々が骨や内部がむき出しとなっている、だが血が吹き出す事は無い。

 

明らかな致命傷、それを負ってからかなりの時間が立っている、だが目の前で言葉を話す生きている老人。

 

普通では起こり得ない異常そのものがミルドレット達の前に姿を現した、もっとも異常とは言ってもあくまで常人が当たり前に暮らすこの世界に於いては。

 

ミルドレット達の元いた世界では死に切れぬ生死者の類は全く持って珍しく無い、当然ミルドレット達にも驚愕は起きなかった。

 

 

「魔導書を持つべき者の手に今返そう」

 

「故に力の代償たる不朽の呪縛を解きたまえ」

 

「私ハソノ本ノ持チ主デハナイゾ」

 

「実際にどうだろうと魔導書はお前を持つべき者だと判断したのだ、さぁ受け取るが良い」

 

「…フム」

 

 

老人が手渡そうとしたのは何かの皮をツギハギにして表紙とした歪な本であった、老人から敵意は感じなかったがその本が何かしらの不吉な力を宿していることは老人の話が無くとも感じ取れた。

 

 

「ナラバ望ミドオリ貰ッテヤロウ」

 

 

ミルドレットは突き出された魔導書なるその本を受け取った、勿論この老人の悪意を隠した罠の可能性もあるが、それ以上に魔導書とそれを受け取る事への興味が勝った。

 

 

「サァ、受ケ取レバオ前ニ何ガ起キル?」

 

「あぁ…ありがとう…」

 

 

ミルドレットの問いに答えるかの様に老人の体が崩れ始める、枯れきった皮膚や肉が砂の様に風化して宙に舞って消えて行く、まるで止まっていた時間が一気に本来の経過を刻み始めたかの如く。

 

数秒足らずで老人の姿は掻き消えた、残ったのは地面に落ちた汚れた布のマントとミルドレットが受け取ったその手の中の魔導書なる本だけだった。

 

 

「…死ンダ…ノカ…?」

 

「ミタイダナ、ソウルガ奪エナイノハ…何カノ呪イデ既ニ死シタ体ダケガ動イテイタカラダロウ」

 

「ソノ原因ガ受ケ取ッタ魔導書ッテ訳ネェ、ソレデ?ドウスルノ、ソノ本」

 

「…魔術ナドマルデ触レタコトハ無イガ…マァ良イダロウ、開イテ読ンデミルカ」

 

 

明らかに危険を孕んだ代物だと理解していながらも不死人特有の好奇心に身を任せる、未知への恐れは殆どの不死人が持ち合わせていない物だった。

 

皮の表紙を開いて中のページを確認する、深くは読まず視線を動かしながら何枚かめくってみる。

 

 

「…見タコトノナイ文字ダ……ン…?」

 

 

やはり知識が無い故か読み解くことは出来ない、そう判断したのも一瞬、魔導書の開いたページから不気味な黒い霧の様なものが湧き出した、ミルドレットを黒い霧が包み込んでいく。

 

 

「…オイ…」

 

「何カ変ネェ、ソレ」

 

「……ム…ッ…」

 

 

その霧を浴びて魔導書を閉じる暇も無く、ミルドレットは自分の意識が遠のく感覚を味わう、まるでその霧に思考が塗り潰される様な、それでいて開いたページの中に吸い込まれていくような未知の感覚。

 

やがてミルドレットの意識は黒い霧の中に失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ン…ン?」

 

 

何処か深くに沈んでいた意識が浮かび上がる、ミルドレットの視界がだんだんと鮮明さを取り戻すと同時に止まっていた思考もまた動きを再開し始めた。

 

 

「何処ダ…此処ハ」

 

 

どれ程の時間そうしていたのか、ミルドレットはうつ伏せの状態で気を失って倒れていた、両手を付いてゆっくりと起き上がる、外傷の類が無いことを確認して辺りを見渡す。

 

そこは先程までいた深夜の街道では無く、薄暗闇の中で蠟燭付きの吊り金具の僅かな明かりが照らす屋敷の廊下に似た場所だった。

 

 

「部屋ノ中…廊下…イヤ違ウ、コレハ…」

 

 

廊下の壁だと思っていた両側に聳える平面には天井へと届く前に途切れていた、棚の様に見えるそれは一切の隙間も無く敷き詰められた本と本棚だった。

 

 

「書庫…カ?」

 

 

そこはとても巨大な連結する本棚が壁の役割を果たした、薄暗闇と埃に包まれる広大な書庫にミルドレットは居た。

 

 

「アノ魔導書ノセイダナ」

 

 

自分の身に起きた現象が老人から受け取った魔導書だとすぐに気付く、不可思議な体験には事欠かない元いた世界、身一つで危険な場所に引き釣りこまれる事は何度もあった。

 

 

「ドウスル…奥ニ続イテハイソウダガ…取リ敢エズ先へ進ンデミルカ」

 

 

「…おい、アンタ…本を開いたのか」

 

 

「ン?」

 

 

暗闇の中に蠟燭の明かりが遙か先まで点々と見える書庫の廊下、かなりの距離がありそうなその通路を進もうとしたミルドレットに声を駆ける人物がいた。

 

そしてミルドレットはその姿には見覚えがある。

 

 

「サッキノ男、死ンデイナカッタノカ?」

 

 

その姿はミルドレットに魔導書を手渡した老人だった、ただ痩せこけて生気がないのは変わらなかったが肉がこそげ落ちて剥き出しの骨を体の随所から覗かせはしていなかった。

 

ただの老人、だが生者の見た目でも街道であった頃より更に深い諦観と失意の気配を纏っていた。

 

 

「さっきの…?まさかアンタが開いた本は…」

 

「オ前ガ渡シテキタンダロウ?」

 

「あぁ…そうか…そうだな…」

 

「何ガ起キテイルカ知ッテイル様ダナ」

 

「…教えてやろう、だがもう手遅れだ」

 

「私も、アンタもな」

 

 

老人は魔導書の事について語り始める、やはり言葉の端々から深い諦観が見て取れたがミルドレットは口を挟むこと無く聞いていた。

 

 

「あの魔導書は持ち主の望む未来を作り出す…その為の力を与えてくれるんだ、だから若く愚かだった私もその力に縋り付いた」

 

「だが魔導書は与えもするし奪いもする、魔導書の与える力には恐ろしい代償があったんだ」

 

「力の代償として持ち主の魂の一部を取り込んでしまう…そして次の持ち主、いや…生贄をその者が見つけ出すまで永遠の時を生かされる」

 

「その間も体は老いていく、病に掛かっては苦しみ、体が腐り落ちては苦しみ、狂う事は許されぬと知り苦しみ…それでも死ぬことは出来ない…」

 

「囚われた魂の一部が魔導書の責め苦に屈すると…契約者は必ずそうなるんだ…」

 

「ソレガオ前ナノカ、アノ老人ノ魂ノ一部」

 

「そうだ…そして今やアンタも私と同じだ」

 

「フム…」

 

「理解したか、もう逃れる術は無い…いや、無いわけじゃない、だがもはや無いと同義だ」

 

「何カ方法ガアルトイウ事カ?」

 

「あるだけだ…簡単だよ、試すだけならな」

 

「此処から出たい、そう思いながらこの廊下を進んでいけばいい、やがてヤツの元に辿り着く」

 

「ヤツ?」

 

「魔導書の番人さ…囚われた魂達が逃げ出さないようにその意思を砕く番人…生贄を従わせる為に最上の苦痛を与える魔導書の呪いそのもの」

 

「行ってみるが良い、私の様に…そして心を砕かれてまた戻って来るが良い、私の様に…」

 

 

語り終えた老人はフラフラとミルドレットの横を通り過ぎて廊下の奥へと去っていく、やがてその姿は深い闇の中に溶けて消えていった。

 

 

「此処ガ魔導書ノ中ダト?兎モ角進ムノガ正解カ」

 

 

ミルドレットが薄暗闇の通路を点々と奥まで続く光を目指して進み始める、そうすればひたすらに続く本棚の壁は変わらなかったが、先の老人と同じく一様に絶望を顔に滲ませた者達とすれ違う。

 

どれも項垂れて座り込むか、完全に発狂したのか意味の無い呟きや身動ぎを繰り返すか、ミルドレットを横目で見た後、また項垂れる。

 

 

「……」

 

 

どれも魔導書の力に手を伸ばして代償を受けた者達の切り離された魂の一部、それが魔導書の養分の役割を果たしているとミルドレットは理解した。

 

その惨めに心折れた姿はかつての世界に溢れかえっていた亡者達と重なる、なんの感傷もなくそれらの横を通り過ぎて先に進み続けると老人の言っていた景色が見えてくる。

 

 

「コレガソウカ」

 

 

縦に続く通路から円形状に本棚が取り囲む開けた場所に出る、そこだけ吊り金具からの明かりは強く、隅には積み上がった本と埃の山が幾つもあった。

 

真ん中にまるで王座の様な肘掛けの付いた椅子が一つ、そしてそこには王の様に、事実この空間の支配者が鎮座していた。

 

 

「 望む願いは なんだ 」

 

 

黒い靄がソレの全身から沸き立つように発生してその輪郭を不鮮明にする、靄の隙間から見えたのは人に似た姿、まるで濃い影がそのまま主の元を離れて動いている様だった。

 

声は男女の区別も付かぬ無機質で気味の悪い反響を起こす、黒い靄の人影が椅子から立ち上がった。

 

 

「願イカ…ソウダナ…」

 

「コノ世界デ篝火ノアル場所ガ解ルカ」

 

「 ここより 遥か西の草原 魔術達が住む館」

 

「 魔法の掛かった指輪 鋭利な名剣 竜の体の一部 魔女の心臓 魔女達の火に焚べる 」

 

「ホウ?」

 

「 望みは叶えた 願いの代償を頂く 」

 

「フン、ヤッテミロ」

 

 

その言葉を合図に黒い人影の姿が形を失う、靄の塊と化した闇が一瞬の間をおいて一気に解放された。

 

 

「ムッ」

 

 

漆黒がその場を包む、吊り金具の明かりを吹き消して周囲一帯を何も見えぬ黒一色の空間へと染め上げた。

 

ミルドレットも高まる脅威の気配を感じ取りソウルの奥から肉断ち包丁を取り出して構える、やがてその漆黒の空間に一つの影が現れる。

 

 

「 逃れる事はできない 」

 

 

あの人影だった、黒い靄を今も尚吐き出し続け、しかし黒一色のその姿は同じく黒い空間の中で不思議と溶け込むこと無くハッキリと視界で認識できた。

 

その右腕には鋭い棘の生えた鞭が握られていた。

 

 

「 痛みを与える 」

 

 

人影がその鞭を振るう、空気を震わせる音と共にその一撃は遠く離れたミルドレットを高速で打ち付けた。

 

 

「グゥッ…!」

 

 

黒い鞭は振るわれると闇の空間に溶け込んでその軌道を不可視のものとした、ミルドレットの剥き出しの素肌と肉を鞭が引き裂く、無数の棘が傷口を更に酷く傷ませ出血を強いる。

 

一瞬にして皮のみならずその下の肉までも断裂されるその鞭はもはや斬撃に等しい殺傷能力だった。

 

 

「 心を折る 」

 

 

二度、三度と棘の黒鞭が振るわれる、その度にミルドレットの体に深刻な裂傷が浮かび上がった、太腿、腹部、胸、傷口から骨までが見える。

 

 

「ッ…ウウッ」

 

 

常人ならその痛みだけで理性を失い絶叫して転げ回る、更に続ければ血を流し尽くす前に痛みだけで死に至る程。

 

ダメージを意に返さず斬り結ぶ事を当然とする不死人にさえ鞭の生み出す激痛は有効打と成り得た、人は皆、奴隷の痛みを本能に宿しているのだとさえ言われていた。

 

 

「ソンナモノ…ッ」

 

 

ミルドレットが反撃の為に黒い人影に走り寄る、腕が振るわれる瞬間での横方向への回避を試みるが、読んでいたのか黒い人影が鞭の軌道を直前に横薙ぎへと変えた。

 

身を交わした先に滑り込むように迫った一線、またミルドレットの体に赤い血肉の線が刻まれる。

 

 

「……鞭カ」

 

(…コノ程度…幾ラ受ケテモ死ヌコトハ無イガ…)

 

(近ヅケナイノハ厄介…ダガソレサエ越エレバ決着ハ付クダロウ、先ズハ鞭ヲ奪ウカ)

 

 

次の一撃が始まろうとする、黒い人影が腕を振り上げようとしている、ミルドレットも動き出した。

 

肉断ち包丁の刃の付いていない四角い先端を左腕で持ち、両腕で目一杯に振り上げる構え。

 

処刑じみたミルドレット必殺の両手強攻撃、数多の不死人を解体してきた肉断ち包丁の振り下ろす戦技。

 

 

(見エズトモ…合ワセルコトハ出来ル筈)

 

 

その構えのまま、敵の攻撃を待つ。一気に体重を決めるための両腕を上に伸ばした背伸びに近い体制、全身の全てががら空きとなる。

 

黒い人影がその空いた肉体目掛けてすぐさま鞭を振り払った、その動きとミルドレットが肉断ち包丁を前に振り下ろすのもまた同時。

 

 

「 ? 」

 

 

ミルドレットの体に幾度目かの裂傷と出血、だが今回はそれだけでは無かった、互いの攻撃が交差して鞭はミルドレットを打ち付ける。

 

 

「ッ…成功ダ」

 

 

そして肉断ち包丁は胴体に伸ばされた鞭に振り下ろされ、その殆どを切断して消失させた。

 

 

「 貴様 」

 

「オ前ノ負ケダ」

 

 

ミルドレットが走り出す、黒い人影が鞭を振るうも大部分が消失したそれでは牽制にもなら無かった。

 

駆け寄るミルドレットが突然片足で踏み込み急停止、そうすれば見る影もなくリーチの失われた鞭がミルドレットの目の前を通過していくだけ。

 

振り抜いた鞭でもう一度攻撃を始めるより速く、ミルドレットが肉断ち包丁を掲げる様に振り上げて小走りに駆け寄る。

 

そのまま黒い人影を右肩から斜めに両断、血飛沫の代わりに黒い靄を大量に撒き散らし、ゆっくりと黒い人影は崩れ落ちてその全身を闇の中に沈めていった。

 

 

「単純ナ痛ミダケガ苦痛ナラ…アレ程マデニ絶望ガ蔓延ル事モ無カッタダロウ」

 

「結局、大シタ苦痛デモ無カッタナ」

 

 

決着を確信した瞬間、漆黒の闇しか映さない視界が突然の眩い光で急速に埋め尽くされていく。

 

 

「ムッ…」

 

 

ミルドレットはその光の中に意識が吸い込まれていくような不思議な感覚をまた味わう、だが今度のそれは意識を失うというよりもむしろ逆、今や失われて久しい眠りから覚める目覚めの感覚に近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ン…ン?」

 

「アラァ?ヤット目覚メタノネェ」

 

「……」

 

 

ミルドレットの視界がまた開かれる、霞がかった様にぼやけた視界がだんだんと鮮明になり、身体中の失われていた力が再び巡りだす。

 

気を失って倒れていたミルドレットをイザベラとマリダが興味深そうに覗き込んでいた、気を失いながらもその片腕には自分が開いた魔導書が握られている。

 

 

「本ヲ開イテ黒イノヲ浴ビテカラ倒レタノヨォ」

 

「…ソウカ…ドレクライソウシテイタ?」

 

「……ホンノ…数刻ダ…」

 

「ソウカ」

 

「ソレデェ、素敵ナ魔法ハ見ツカッタカシラ?」

 

 

ミルドレットが立ち上がる、質問の答えを聞かずともマリダとイザベラはミルドレットに起きた何かしらの事象が何らかの変化を齎したという漠然とした確信があった。

 

ミルドレットは静かに得た答えを二人へと伝える。

 

 

「アァ、進ムベキ場所ト行ウベキ事ガ解ッタ」

 

「ヘェ…ソレジャア案内シテチョウダイネェ」

 

「……何処ダ…」

 

「遥カ西ダ、魔導書ニヨレバナ」

 

 

予想外に訪れた旅の導きにも大した驚愕もなく、三人の狂女はまた道を歩き出す、宛のない旅から一応の目的地を得て。

 

ミルドレットは手にした魔導書をどうしようか、数秒の間立ち止まって考えた後、魔導書をソウルの中へと仕舞い、二人を連れてまた深夜の街道を歩き始めた。

 

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