異郷を渡る人食いの狂女   作:ポジョンボ

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とある日の森で

 

 

 

名も知れぬ森林、辺りには木々が生い茂る、ただしそのどれもがしわがれた老体の如く枯れて色褪せ、豊かさの象徴たる緑の葉は一枚たりとも見えない、歪曲し伸びる枝の先端は槍の様に鋭かった。

 

下の地面も同じ、まるで荒野の様に草は枯葉色、地面は干からびてヒビ割れた土塊だった、風が吹くたびにそれが崩れて粉塵となる。

 

日光は遮られること無く降り注ぎ、辺りには烏が飛び交い、地面には痩せ細った小動物が慎ましく駆け回っている。

 

 

「ココハ随分ト枯レタ土地ダ」

 

「……ム…」

 

 

そんな枯れ木の森をミルドレットとマリダは歩いていた、いつもの様に、不死人の性質故に人が多く集まる文明の地は避けなければならなかった。

 

 

「ダガ邪魔ナ木ガ少ナク見渡シヤスイ、無駄ニ惑ワサレル心配ハ無イ様ダ…ソノ意味デハ好マシイ」

 

 

ここはミルドレット達が旅立った地方の国から国境を超えた先にある、かなりの距離を移動してきたが不死人たるミルドレット達にはなんの疲労もない。

 

激しい動作による一時的な疲弊はあれど、ただ歩み続けるだけならば不死人はそれこそ永遠に続けられる、食事も睡眠も必要無く、己の意思で止まらぬ限り肉体は動き続ける。

 

 

「サテ、ソロソロ近イカ?」

 

「……恐ラク…ハ」

 

 

獣道すら存在しない静寂の森、だがミルドレット達は確かな道標を元に移動を続けていた。その目に移るは乾燥した土に付けられた足跡、何者かの足跡だった。

 

 

ミルドレット達はこの足跡の主を追跡し、森の中を進んでいた、その発見は暫く時を遡り、その日の早朝─

 

ミルドレット達は人気のない場所に野営の痕跡を発見する、旅人か、山賊か、何方にせよ気になったのはその場所は村や街からは遠く離れ、しかも足跡がより人気のないこの枯れ木の森に続いていた事。

 

二人はこの足跡を追跡することに決めた、人知れぬ場所に少数で動く山賊や旅人は、ミルドレット達が己の正気を保つ為に行う“狩り”の相手として最適だった。

 

 

 

 

そして現在、見たところ二人分の足跡を辿ること暫く、まだ薄暗く夜の冷たさを残していた空は今や太陽が眩く煌めいている。

 

そして遂にミルドレット達は目指していた足跡の主の元へと辿り着いた、そこに何者かが潜んでいるのは気配で解る。

 

 

「見付ケタ、忍ビ寄ルゾ」

 

「アァ」

 

 

眼の前にあるのは木々となめし革で組み立てられた三角形の簡易的な休息所であった、地べたに藁を敷いて寝床としている、それが四つ、取り囲むように中央には火の消された焚き火があった。

 

身を屈め、息を殺し、しかし右腕に持つ獲物は直ぐ様振り抜ける様に意識を込めてゆっくりと野営地に接近する、まだそこで休んでいるようなら容易い、気付かれて戦闘になろうとも取り逃がしはせぬと気を張り巡らす。

 

 

「ン? コレハ…」

 

 

ミルドレットが不意に背後から続くマリダを片腕で静止する、少しの沈黙の後、隠密の姿勢を解いてゆっくりと野営地へと歩き出した、焚き火の元まで到達してもそこに居る筈の者達からは何の反応も上がらなかった。

 

 

「…ウゥム」

 

 

ミルドレットの不審な様子に続いて近付いたマリダも周囲の光景を認識する、確かに野営地に人は居た、血を流してうつ伏せとなり、もう二度と起き上がることは無い者達が三人。

 

 

「…ぐっ…ううっ…」

 

 

そして木に寄り掛かり、同じく血を流しながらもまだ息がある者が一人、毛皮のマントの下には革製の防具がある、その手には弓が握られているがもう持ち上げる力も無いようだ。

 

見れば三人の死体も同様の装備、統一された風貌はこの者達が目的を同じくする何かしらの集団だという印象を与える。

 

 

「息ガアル、ダガスグニ死ヌダロウ」

 

「トドメヲ……刺スカ…?」

 

 

「ぐ…誰か、気が付いた、のか…生きて、いるのか…」

 

 

ミルドレット達の声に反応して死に体の人物が息を絶えさせながらも声を絞り出す、もはや誰の目にも明らかな程にその肉体は死に向かっている、そしてミルドレットはその小さな希望が込められた問いを感傷無く否定する。

 

 

「イヤ、生キテイルノハオ前ダケダ」

 

「ソシテオ前モモウスグ死ヌ、此方ニハ助ケル気モ、ソノ方法ダッテ無イカラナ」

 

 

「…なるほど、なら、ば……」

 

「故、知らぬ人…我等の話を、聞いてくれ…」

 

 

「言ッテミロ」

 

 

「我等、は…獣を狩り…毛皮と、…血肉を売って…富を得る狩人…」

 

「だが…失敗だった、…この、森には他にも…狩人、達がいると…知って、知っていれば…」

 

「獲物の…奪い合い、となり…」

 

「…ぐふうっ」

 

 

男の口元からゴポリと血が吹き出す、内臓が損傷し血がせり上がって来ている、死は目前まで迫っていた。

 

 

「そなたらが…何故この、森に…それはどうで…いい……金、ならば…我等の死体…を、漁れ…」

 

「あの狩人共を…討ってく…頼む…」

 

 

「未練ヲ残シテ死ニタクナイカ」

 

 

「…そ、そうだ…」

 

 

ミルドレットは眼の前の死にゆく男を無感情に見下ろす、今更人が死ぬとて同情など有りはしないが、願いを否定するにもそれに足る理由が無かった。

 

 

「結果的ニダガ…オ前ノ願イヲ叶エル事ニナルダロウ」

 

「金ハ要ラナイ、別ノ物ヲ貰ッテイク」

 

 

「…構、わ…ん……好きに…ろ…」

 

 

会話の終わりと同時にミルドレットが男の前で不意にしゃがんで、その腕が男に伸ばされ首元を傾ける。

 

男が暗転していく視界で最後に見たのは、ズタ袋を上にずらして露出したミルドレットの開かれていく口内だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、

 

 

「…ソレデ…ドウスル…ンダ」

 

「他ノ狩人トヤラカラモ溜メ込ンダソウルヲ奪ウ」

 

 

野営地の者達から人間性を回収し終えたミルドレット、マリダもまたその光景には疑問も嫌悪も抱かない、真似しようとは思わなかったが。

 

そしてミルドレット達は更に森の奥へと進むことに決めた、男から他の狩人の居場所を聞く時間は無かったが、今度は男がこの野営地に逃げ帰ってきた時のものであろう血痕混じりの足跡が道標となった。

 

 

見通しの効く森を進むのはそう苦労しない、足跡を辿れば長く掛からず目的の場所に辿り着く。

 

 

森の奥地の開けた場所、辺り一には同じ様な簡易的な寝床と焚き火だけの野営地がある、ただし周囲一帯が血で染め上げられ、物言わぬ亡骸が横たわっていた。

 

明らかな殺人の痕跡、その中央に標的の者がいた。

 

 

「がああっ……」

 

 

体中を血で滴らせ、粗い呼吸を途切れ途切れに溢す、唯一まだ息のある狩人が死体の群れの真ん中に寝そべっていた、体を染める色の原料たる鮮血は腹部を裂く傷跡から流れている。

 

 

「ホウ?」

 

「………」

 

 

恐らく戦闘が発生するだろうと予測していたミルドレット達の期待を裏切り、眼の前の狩人、先程の狩人達と似通った革鎧と弓を背にかける狩人にはもう立ち上がる力も残されていなかった。

 

血溜まりに近づくミルドレット達に気付いてもただ視線を向けるだけで首をもたげることも叶わない。

 

 

「お前ら……さっきの連中じゃ無いな…」

 

「俺の命を…奪いに来たか……アイツらの様に…」

 

 

「ソウダ」

 

 

「……構わねぇ、もう死ぬ…だが代わりに俺の願いを…!」

 

 

ミルドレットはまた短く唸る様な声を上げて考える、聞き入れる必要は無い、先程と同じく。

 

だが日に二度、同じ場面に直面する事があるのか、何故この様な今に至るか、その成り行きに対して不死人特有の余計な好奇心が湧き出るのをミルドレットは感じていた。

 

 

「言ッテミロ」

 

 

「……山賊なんぞに…遅れを取った…」

 

「先に同業と…獲物を奪い合って…」

 

「消耗して…いなければ……俺達が…」

 

 

「同業、四人組ノ狩人ノ事カ」

 

 

「そうだ…そして後から来た…山賊共…」

 

「連中を退けて…まもなくの所を…奴等…!」

 

 

「フム、山賊…カ」

 

 

ミルドレットは血溜まりとかした野営地を観察する、そうすれば確かに地面を複数の人間が踏み荒らした痕跡が見受けられる、その足跡は森の奥へと続いていた。

 

 

「俺に代わり…あの憎い賊共を…!」

 

 

「頼ミヲ聞ク訳ジャナイ、ダガオ前ノ願イハ叶ウ」

 

 

そう言うとミルドレット達はすぐさま死に体の狩人に永遠の休息を与えた、最後の血しぶきを上げて眠りに落ちるかの如く静かに息絶える狩人の体から、白い霧の様な生命の力が溢れ出す、それはミルドレット達の体に吸い込まれていった。

 

 

「日ニ二度モ同ジ頼ミヲ聞クトハ不思議ナモノダ」

 

「……アァ…」

 

 

ミルドレット達は三度、追跡を始める、その時はまだこの何か因果めいた再現の連続が継続する等とは欠片も思っていなかった。

 

 

その後

 

 

三度の追跡を終えて、ミルドレット達の前に現れた光景は先程の再現とも言うべき二度目の既視感だった。

 

 

「……フム」

 

「……」

 

 

「ぐううっ、誰かあ…!」

 

 

そこにあったのは同じく広く血に染まった地面、争いの形跡、転がる死体の数は先程よりも数倍多かった。

 

狩人の言っていた山賊とやらであろう、それぞれが略奪品の武装を身にまとった荒くれ者達、それらがうめき声を上げる一人を残して皆何者かの手に掛かり絶命していた。

 

 

「あ、アンタ達…た、助け…!治療を…」

 

 

「……何ガアッタ」

 

 

「う、裏切りだ…頭領、頭領だったヤツが…!」

 

「と、突然、俺達を…か、狩人を殺したら金になるって、し、死体を漁らないのかって、聞いたら…」

 

 

生き残りの男の話す言葉は興奮気味で要領を得ず、だが先程の狩人とフードの狩人の話と合わせればこの森で起きている事態が見えてくる。

 

 

「フム、ツマリ…」

 

「最初ノ連中ガ他ノ狩人ト殺シ合イ、生キ残ッタ方ヲ山賊ガ殺シ、ソノ山賊ガ頭領ニ殺サレタ」

 

「……ウム…」

 

「な、なあ…治療を……!」

 

 

「ソノ頭領トヤラハ何処ニ行ッタ」

 

 

「む、向こうだ、、森の出口…そ、そうか!アイツを殺すのか!?…いいぞ、や、やってくれ、あんなヤツ!」

 

「そ、それより…この傷を…」

 

 

「アァ、ソノ頼ミ通リニシテヤロウ」

 

「ダガオ前ガ生キ残ル事ハ無イ」

 

 

「え?」

 

 

ミルドレットの肉断ち包丁が空間に軌道を描いて生き残りの男の首を軽々と切り飛ばした、何が起きたかもわからずに男の意識は永遠の闇に落ちて消えていった。

 

ミルドレットの興味は既に死んだ山賊達よりもそれを引き起こした山賊の頭領とやらに向いている、それに元より誰も生かして帰すつもりはなかった。

 

 

「逃シハシナイ」

 

 

ミルドレット達の四度目の追跡が始める。

 

 

 

更にその後

 

 

目当ての人物はすぐに見つかった、山賊達を見つけた場所からあまり離れぬ場所に男はいた、腐り落ちて倒れた大木に腰掛け、やはり略奪品なのか古びた防具に身を包む。

 

その背には巨大な大刀、刃が幾重にも歪曲する剥き出しのその大剣は、賊の獲物には似つかわしくない程に鋭利な艶めきを放っている。

 

ささくれだった長髪と薄ら笑いの様に見える男の表情が不気味で不穏な気配を醸し出していた。

 

 

「ほう、こんな森に他にも人はいるのか」

 

 

男が少し驚いた様な低い声で話す、もうミルドレット達は姿を隠してはいなかった、男がまだ健在であると見ればすぐに姿を現して歩み寄る、男の方も以前として座り込んだまま。

 

 

「オ前ハマダ死ンデハイナイナ」

 

「………」

 

 

「なに?…あぁ、馬鹿共の死体を見てきたのか」

 

 

「一ツ聞キタイ、何故自分ノ手下ヲ殺シタ?」

 

 

「飽きたんだよ、馬鹿共で遊ぶのは」

 

「頭は悪い、要領も悪い、取り柄も無い、だから従えるのも簡単だった…暫くは良いように使ってやったが」

 

「余りにも皆愚図だからな、試しにこんな何も無い森に住むなんて言い出しても疑問すら誰も抱かない」

 

「挙げ句、手負いの狩人なんかに手こずる始末…だから最後くらいは楽しんで使うことにした」

 

 

「ナルホドナ…デハ気ニナッタ事モ聞ケタカラ…」

 

「私モサッサットオ前ヲ殺ストシヨウ」

 

 

ミルドレットが肉断ち包丁を構える、男の方も初めからミルドレットがそうするつもりなのが解っていたのか、何の同様も無く背の大剣を抜き放ち立ち上がった。

 

 

「さて、そう簡単に行くかな?」

 

「人知れぬ森で狂人と殺し合いか、奇妙な一日よ」

 

 

「奇妙ナ一日カ…確カニナ」

 

 

ミルドレットと大剣の山賊が互いに獲物を構えてにじり寄る、横に立つマリダは加勢は不要と言わんばかりに武器も構えず無言で立っていた。

 

 

「そっちの仲間は見学か?二体一でも構わんぞ」

 

 

「必要ナイ」

 

 

「ふふふ、では後から後悔の無いようにな…」

 

 

大剣の山賊が最初に動く、姿勢を低く一直線に駆け出した、そしてミルドレットの肉断ち包丁の間合いにあと少しで入る所で左側に身を滑らせて潜り込む。

 

 

「ムッ…」

 

 

「そらっ」

 

 

反応してミルドレットも肉断ち包丁を振り下ろすが、読んでいた男がローリングで地を転がる回避を繰り出す、更に左側、背後に回ると同時に、転がる勢いと体制のまま波打った刀身の大剣を素早く振るう。

 

ミルドレットの左側の脹脛から出血が起きる、続けて背後に回った山賊が大剣を振り下ろすが、今度はミルドレットが前方へ転がり込むことでその一撃を回避する。

 

 

すぐさま構え直しまた向かい合う二人、ミルドレットの左足の出血と痛みは傷の深さに対して嫌に酷かった、それは大剣の形状によってできた特異な傷跡が原因であった。

 

 

「どうだ、波打つこの刃の切れ味は」

 

「深く踏み込まずとも軽い傷で多くの出血を強いる、あと四度ほど斬りつければ傷は浅くとも血を流し過ぎてお前は動けなくなるだろう」

 

「そして最後に味あわせてやろう、この剣が深く食い込まれた時の耐え難いほどの激痛をな」

 

 

「無駄口ヲ叩クナ」

 

 

今度はミルドレットの方から駆け寄りだす、走る勢いを乗せて肉断ち包丁を振り抜くがそれもまた回避される、そしてやはり回避と同時に振るわれる大剣。

 

再び見合わぬ出血をもたらす傷が刻まれた。

 

 

「ヌ…」

 

 

すぐさま山賊が突撃する、だがやはりミルドレットが反撃すると攻撃をやめて飛び引き、回避ざまに大剣を素早く振るう。

 

一撃の速さのみを求めて振るわれる大剣には重さも力も籠もっていない、傷そのものが致命傷になることはまるで無いが、男の言うように数度の手傷で相当量の血液が流れ出す。

 

 

「頑丈な鎧でも纏っていればそうはなるまい?まぁだとしても死ぬことに変わりは無いがな」

 

「俺は王国の騎士団長だったんだ、忠誠だの名誉だのに飽いて…将軍を殺して抜け出すまではな!」

 

 

「………」

 

 

突然動くのを止めて立ち竦み、反応も示さぬミルドレットを見て勝機と確信した山賊が突撃する、大剣の切っ先を向ける刺突の構え、だが反撃が来ようともすぐに飛び引けるよう意識しながら駆け出した。

 

 

「さぁ死ぬがいい!」

 

 

山賊が大剣を突き出すのと、ミルドレットの左腕が伸ばされるのは同時だった、そしてミルドレットの肉付きが良い腹部に波打つ刀身が食い込んで突き破る、山賊が手元を捻れば傷口が激しく複雑に裂傷し、鮮血が水瓶を逆さに溢した様に溢れ出した。

 

ミルドレットのズタ袋が内側から赤く染まる、喉まで迫り上がった流血が吹き出してた。

 

 

「グウゥ、ゴフッ…」

 

 

「ははっ、ははは………ん?」

 

 

山賊が勝利と殺人の快楽に浸り、しかしそれが打ち切られる、突き刺した大剣を握る自分の腕を、伸ばされたミルドレットの左腕が握りしめて掴んでいた。

 

最後の足掻きと思われたが、込められた力が尋常ではなく、何よりも死する以外の選択肢が絶えた筈の眼の前のミルドレットに倒れる気配がまるで無い。

 

 

「……貴様」

 

 

ミルドレットのズタ袋の向こうからただ此方を覗き込む両目、死人の様に無感情で、深淵が眼の前に広がる錯覚を起こすかの様な暗い色、それに山賊が恐怖を覚えたその瞬間、戦いが終わった。

 

 

「読ミ合イナド好カン」

 

 

ミルドレットが山賊の体に肉断ち包丁を押し当てて、そのまま乱雑に引き抜いた、それだけでもはやどうしようも無いほどに決定的な損傷が山賊の胴体に刻み込まれた。

 

 

「………ぁぐ…」

 

 

大剣を握る力が消失し、山賊が仰向けに倒れる、ミルドレットは山賊よりも遥かに血を流していたが、なんてこと無いようにその場に立っていた。

 

ミルドレットが力任せに大剣を引き抜く、当然のように肉を巻き込み更なる出血が巻き起こるが、やはりミルドレットは小さいうめきを上げるだけで絶命することは無かった。

 

 

「セッカクダ、コノ剣ハ貰ッテオコウ、アァソレト…」

 

「オ前ニモ最後ノ頼ミガアルノカ?」

 

 

「………そ…な…もの…は……無ぃ……」

 

 

「ソウカ、ナラ良イ、コレデ終ワリノヨウダ」

 

 

ミルドレットが手にしたばかりの大剣をトドメとして山賊に突き刺した、この枯れ木の森の流血に塗れた一日が終わりを迎える、空では日が沈み始めて薄い月が浮かび出していた。

 

 

「……ソウルヲ…回収…スル…」

 

「アァ」

 

「…ダガ…山賊達ニ…狩人…時間ガ…掛カル、ナ」

 

 

全てが終わってマリダが話し出す、それはまた森の中を往復することについて言っていた、ミルドレットは取り出した炎色の硝子瓶の中身を一口飲んでから答えた。

 

 

「時間ナド無キヨウナモノダロウ?」

 

 

その後、結局ミルドレット達が目当ての物を回収し終えて森を抜け出したのは既に太陽が沈みきってからの事だったが、二人共そんな事は気に留めなかった。

 

 

 

 

 

とある国の辺境には、踏み入った者達が何故か不幸に見舞われる場所がある、ある時は敵対者の手に掛かり、ある時は互いに殺し合い、ある時は恐ろしい何かの餌食となる。

 

帰る者がいない故、誰もそこが何処にあるのか解らない、ただ枯れた木々だけが立ち並ぶ森だという、ミルドレット達がこの不気味な伝承を伝え聞くことは永遠に無かった。

 

 

 

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