「ねぇ、メリー」
「なに?」
いつもどうりのカフェでの一言。
私達秘封倶楽部の活動はいつもこの言葉から始まる。
「この前行った酒場あったじゃない?」
「オールドアダムの事?」
「そうそう。で、ちょっと思ったんだけどね...」
と、いう事は今日の活動は執筆活動系かしら?
「Drレイテンシーのさらなる発展?」
「違うわよ、大体ああいうのはこのくらいの規模がいいの。警察に目をつけられても困るしね」
違った。思えば確かに今日の蓮子はなんか適当そうな顔をしている。どうやら真面目な話題では無さそうだ。
「そうじゃなくて、あの時呑んだ旧型酒がまた飲みたくなっちゃてね。そこで今日は色んな旧型酒を漁って飲んでみたいと思うの!あと、実家から旧型酒が送られてきたんだけど1人で飲むのもなーって思って」
「後者が本音ね」
「おつまみもあるよ!」
今日の蓮子は私が思った以上に適当だった。
「...にしても、よく旧型酒なんて漁ろうと思ったわね。 前回も結構痛い目見たのに。それに高いし」
「まぁねぇ。でもなんか呑みたくなっちゃったの。...ない?そういうの?」
「依存症よ」
「まあそう言わずに〜」
旧型酒は新型酒に比べ依存性がかなり高い。
また、過剰摂取した場合には危険性もあり飲まない方が良い。...とは言うが、そう言われて呑まないでいられるほど人の心は簡単には出来ていない。
...とどのつまり、私も結構呑みたい気分なのだ。
「...でも、そうね。たまには良いわね」
「じゃあ決まり!そうと決まれば早速行くわよ!」
学生カードで支払いを終わらせ、外に出ようとする蓮子。あれ、なんか忘れてるような...
「あ、蓮子...ちょっと待って」
「何?」
「...私、これから講義」
「...え?」
あの後、旧型酒漁りは週末にしましょう。と言ったのだけれど、蓮子が今日呑む!とごねたので、私が講義を受けている間に蓮子が買い出しに行き、私は蓮子の家に直帰するという事になった。
...なったのだが
「...遅い」
いつもの蓮子の遅刻癖が炸裂。
確かに旧型酒が売ってる店はそう多くないし探すのに手間取るのは分かるけど、この2月の寒空の下は正直キツい。
「はぁ、電話してやろうかしら」
そんな独り言が出たところで、エレベーターから何やら大きな荷物を持った人影が現れた。
「はぁ、はぁ...メリー、おまたせ...」
人影の正体は大量の缶に瓶に...紙パック?とつまみらしき物を持った蓮子だった。
「...随分買ってきたわね...」
そこそこ待たされたので嫌味のひとつでも言ってやろうと思ったが、そのやる気っぷりにそんな言葉しか出なかった。
「とりあえず入ってー...よいしょっと」
「お邪魔します」
とりあえず蓮子の家に入る。
やっとこれであの忌々しい北風とおさらばだ。
「あー、荷物は...とりあえず頂戴」
大量の旧型酒が入った袋を渡す。
女子大生には少々厳しいサイズだった。
「ちょっと待ってて、今おつまみ温めるから」
「じゃあ部屋でくつろいでるわね」
「いいよー、ごゆっくり〜」
そう言われて冷蔵庫に缶の酒を入れる蓮子を横目に部屋に移動する。...寒い。
「暖房は?」
「あぁ、うちのは24時間監視の奴じゃないの。安物物件だからね」
「いつもは暖かかったと思うけど?」
「え?...あー、多分それつけっぱなし」
「よし、温め終わったよ。じゃあ、まずコレ!」
そう言って蓮子がテーブルに色々置いていく。
「枝豆とビール!」
とりあえずで出されたのはラガーの350ml缶とパックの枝豆。まるで居酒屋のお通しだ。
「エラい古典的ねぇ...温めたものは?」
「後で出すよ。てか旧型酒飲む時点んで古いも何もないでしょ」
「それもそうね」
枝豆とビール。
この2つは昔ながらの組み合わせで、科学世紀である現代でもよく出てくる組み合わせ(どちらも合成だが)だ。
枝豆がアルコールの分解を抑える、という事でまず最初にこれを頼む人間も多い。
まあ新型酒には効果が無いから、風習のみ残っている、という事になるけど。
ビールをとりあえず頼む文化については...謎ね。出てくるのが早いとかでしょうけど。
「じゃあ、かんぱーい」
「乾杯」
缶のプルタブを開け、中身をゴクゴク飲んでいく。
...うまい。
ラガーなんて久しぶりに飲んだが、やはり良い。
蓮子はそうでも無さそうだが。
「うん、やっぱ第5のビールより飲みにくい気がするわ...枝豆には合うけど」
「そう?私はこっちの方が好きよ?」
「通だねぇ...」
ビールにはいくつか種類がある。
今では絶滅危惧種のいわゆるラガーやエールといった普通のビール。
酒税の関係で作られた発泡酒や第三のビール。
一昔前に流行った素材だけ合成のものを使った一応旧型酒にあたる第四のビール。
そして今主流の成分だけ一緒の第五のビールである。
「でも成分でいえばソレも第5のビールも変わらないじゃない?」
「そうなんだけどねぇ...なんか飲みにくいんだよねぇ」
「そうね。私もこっちの方が美味しい気がするわ。成分は同じなのにね」
「不思議ねー。何とは言えないけどなんか違うのよねぇ、なんか重い」
「なんでかしら?歴史の重み?」
「アルコールの重み?」
「どちらにせよプラシーボ効果ね。新型酒にもアルコールは入ってるし」
ラガー、発泡酒、第三のビール。
確かに成分は違うし味も少しは違う。けどそんなのは僅か、なんか違う程度のもの。
だが値段が同じなら皆ラガーやエールを飲むだろう。
そのなんか違う、が大事なのだ。
「でもそんなプラシーボも大事かもね」
「主観が正義、ってね。メリーらしい」
そんな適当な会話をしながら枝豆をつまむ。
...ん?
「...ねぇ、今更だけどこの枝豆冷たくない?」
「そこがミソ。あえて茹で物を冷やして食べる冒涜感が素敵でしょ?美味しいし」
「美味しいけど、ツマミには微妙じゃない?冒涜感はあるけど」
「あっためる手間も減らせるしいいでしょ?」
「ズボラねぇ」
「まぁ、それはともかく...枝豆って食べ合わせも謎だよね」
「西洋の酒をザ・和食ってモノでつまんで食べる。確かに謎ね」
「どうせならソーセージとかの方が良いのにね」
「じゃあソーセージ買ってくれば良かったじゃない」
「いや、なんとなく枝豆の方がいいかな〜って」
「そんなんだからこの時代になってもとりあえずビールと枝豆が主流なのよ」
「出てくるのが早い、もあると思うけど?」
一理ある。
が、昨今の合成食品は殆ど即席だ。
その言い訳が通用するのは半世紀前までね。
と、言いたいところだけれど下らない話題でヒートアップするのもアレなので、話題を変える。
「しかし、なんで西洋の酒がこんなにもこの国で流行ったのかしらね?」
「さあ、美味しかったからじゃない?」
「ホントに美味しい?」
「おいしくない...」
元々ビールは大麦を何とかして食べる為に作られた食料であったり、生水が飲料に適さない地方で飲む飲料水...趣向品では無かった。
まぁその後すぐ趣向品になったけど。
だから蓮子の感性はどちらかといえば正常だ。
しかし食欲を満たす行為を好むのも普通だ。
つまり、私の感性も正常。
「まぁ戦後の西洋かぶれも一端かもね」
「代用品を作るくらいだしね」
「ホッピー?だっけ?」
「そうそう。焼酎で割って飲むやつ。ある意味新型酒の先祖みたいなものね。ちゃんと酔っ払うけど...ってもう枝豆がないわよ」
「あー、それ袋の割に中身が少ないんだよねぇ...ってビールも空じゃん」
「それは飲むのが早い...あっ」
「メリーのも空じゃん」
気が付いたら35缶が空になっていた。不思議なものだ...というわけで昔ながらの前座は終わりである。
「よし、1杯目は終了!次持ってくるね」
「さぁ、次はこれ!缶チューハイ!あと焼き鳥!」
「なんかさっきから親父臭くないかしら?」
「なにおう!蓮子さんはまだナウいJDですよ!」
「...ソレ、死語どころか古典よ」
缶チューハイと焼き鳥。
ベタな組み合わせだ。
ちなみに焼き鳥はネギマと皮とつくね。もうちょっと種類が欲しい...しかし、ツマミとしては上等なモノだ。
チューハイも焼酎ベースのドライ。350ml缶、度数は7度。非常にシンプルなもので古くさいが悪くない。
悪くないが...
「やっぱジジくさいない?」
「大丈夫!乙女成分は昼間補給したから」
「大丈夫なのかしら...?」
「大丈夫よ。ほら、早く飲みましょう!」
「はいはい」
ビールと同様プルタブを開け、飲む。
...少々焼酎が強く出ているが良い。
少しの苦味に焼き鳥がよく合う。
一方飲むのを楽しそうに待ってた蓮子の顔はみるみる青くなってゆき...
「まずい!」
「そこでこの焼き鳥よ」
「うまい!」
「極端ねぇ...」
チューハイ。特にこのドライで焼酎ベース、フレーバーのついてないものは焼酎を炭酸で薄めただけのものでほぼ味が焼酎のため苦味が強く、はっきりいって美味しくはない。
ひたすらアルコールの味だ。
「うん、焼き鳥がいつもより美味しい気がする!」
「それがチューハイの良いとこよ。安い、よく酔える、ツマミが進む」
「回転寿司で出てくるお茶と同じ感じ?」
「酔えるから強化版ね」
「アル中みたいなこと言うわね...」
私からすると焼酎は酔うための酒だ。アル中イコールデカいペットボトルの焼酎というイメージがある事がそれをよく表している。さらにそれを飲みやすくしたコレは完璧な酔うための酒だと思う。
諸説あり、だが。
「うむ、マズイ!」
「そんなにマズイなら他のチューハイ買えば良かったじゃない」
「なんかコレの方が玄人感出ない?」
「素人が玄人の真似しても火傷するだけよ」
「確かに!喉が焼けそう!」
チューハイにも色々ある。元々チューハイは焼酎ハイボールの略称であったが、いつの間にか度数の高い酒を炭酸水で割ったもの。というのにすげ変わっており、ウォッカベースのものやジンベースのものもチューハイと呼ぶようになっていた。
特にウォッカベースのものは焼酎よりもベースに癖がないためアルコール度数を高くしやすく、一時期アル中と疲れたリーマンと大学生の間で流行っていたらしい。確かストロング...何とかってやつ
「レモン果汁とかある?調理用のやつとか」
「ない、私柑橘系そんな好きじゃないのよ。料理あんましないし」
「残念、あれ少し入れるだけどもマシになるのに」
「フレーバーは甘えよ!...にがい...」
「時には逃げも大事よ」
そしてチューハイといえばフレーバーの多さ。
チューハイは基本的に無味であり、どんなフレーバーでも基本的には合う。
特に食事に合う柑橘系のものが多くレモンなんかは定番中の定番だ。
飲みやすくなるのもあり、基本的にはフレーバー付きの方が人気。まぁ蓮子は何故かナシのを選択したが。
「でもほら、そんなフレーバーマシマシのじゃ新型酒と大差ないじゃない?」
「まあそうねぇ」
「せっかく高い金払って旧型呑むんだからこれくらいじゃないと」
「たしかになんか損ね」
「でしょ?焼き鳥もなんか美味しい気がするし」
そういえば酒のことばっかりで忘れかけていたがこの焼き鳥もなかなかいける。
串はねぎまと皮とつくね。全部塩。...チョイスが渋い。
だがこの渋い酒にはちょうどよく合う。
ナイスチョイスだ。
「メリーは焼き鳥塩とタレどっちが好き?」
「普段はタレ、呑む時は...塩ね」
「お、じゃあちょうど良かったじゃん」
「なんで若干他人事なのよ」
「私タレ派だから」
「なんでコレ買ってきたのよ...」
「塩の方が玄人っぽいから」
「さっきからそればっかねぇ。ほら、酒が切れたわよ」
「え、もう!?って私もじゃん。次用意するね〜」
「3つめは...えーっとコレ!」
「焼酎かしら?」
「そう!実家から送られてきたやつだけどね。あとその辺で買ってきたポテトフライ」
「焼酎はさっきので懲りたんじゃない?」
「探究心には勝てない!」
「...あとポテトフライは一個前に出した方が良かったんじゃない?」
「...そうかも!」
焼酎とポテトフライ。
まあ合わなくない組み合わせだ。風情も何も無いが。
ポテトフライは冷凍の奴ね。油要らずのチンだけで出来るやつ。
焼酎は...成分表等が載ってない。ただ紙のラベルには輝夜殺し、とだけ書いている。鬼殺しのパクり?
「ねぇ蓮子、この焼酎大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。...多分」
「はぁ、まあいいわ。にしても輝夜殺し、ねぇ」
「凄い名前よねぇ...輝く夜を殺す。よっぽどアルコールが強いのかな?」
「明るい夜でも思わず寝ちゃうほど?」
「そう」
輝く夜、といえば白夜の事だろうか?
いや、超新星爆発...もっと簡単に繁華街の事...かもしれない。
それにしても面白い銘柄だ。蓮子の実家、東京の人は面白い事を考えるものだ。
そういえば輝夜、で引っかかるものが...ああ、
「かぐやごろし...竹取の姫かしら?」
「じゃあ、殺しは殺しでも悩殺?」
「そう。作ったのは帝...いや、貴族のほうね」
「藤原さん?」
「なんで車持御子限定なのよ...」
「いや、何となく」
「じゃあコレは蓬莱の玉の枝ね」
「でも鷹作よ?」
「さぁ?呑んでみないと分からないわよ?案外本物だったりしてね」
話がだんだん明後日の方向に逸れてきたが、とりあえずコップに少し注いでぐいっと飲んでみる。
...!?口に入った瞬間に妙に濃いアルコールの味が口いっぱいに広がり、思わずえずきそうになる。
蓮子に関してはもう酒を口から吹き出していた。
コレは...はっきりいって非常に不味い。
「...コレは鷹作ね...」
「ゴホッゴホッ!この味は姫様殺せるわ...」
「何、輝夜殺しってそういう意味?」
「それしかないでしょ」
「確かに」
なんか殺意的なものが混ざっていた気がする。
ちなみにポテトフライは普通の味がした...気がする。
焼酎の味がヤバすぎて味覚が麻痺してるから正直分からないけど。
「ちょっと水と氷持ってきて...」
「口直し?」
「いや、割ってみる。そうすればおいしい...かも」
「...ベースがダメなやつはいくら割っても一緒よ...」
「じゃあ...そうね、これは保留で」
「それが懸命ね」
これはアレね、自棄酒用だわ...
「さぁ気を取り直して次行きましょ」
「そうだね。今回は口直しも兼ねて上物を用意したよ」
「上物?」
「そうそう。よいしょ、これ!日本酒と、筍の煮物!」
「...その筍、もしかして天然?」
「お、大当たり!これも東京の実家から送られてきたやつだよ。おばあちゃんが好きでねー、って天然物の筍はメリーの天敵だったっけ?」
「食べられる筍は好きよ」
「現金ねぇ」
日本酒と筍の煮物
蓮子が完全に年季の入った年寄りになっている。
まぁ実家からの贈り物なら納得がいくけど。
日本酒は瓶に入った普通の清酒。なぜか一升
銘は...博麗神社、ってこれ御神酒じゃない...確かに上物ね。
成分表は...またないし...大丈夫かしらコレ?
筍は天然物で美味しそうだ。しかしコレいくらするの?...蓮子の実家ってもしかして金持ち?
「蓮子ってお嬢様だったのね」
「違う、違う。おばあちゃんいわくこれは貰いものだとか」
「つまり、貰いものを貰った、と」
「そうそう」
「二次請けね」
「それは違くない?」
そうすると私は三次請け...いや顧客か。
等と思考が明後日の方へ向いていると蓮子が何やら緑の筒のようなものを取り出してきた。
「あとコレ、入れ物ね」
「竹のお猪口?良いわねぇ」
文字通り竹を割った用なお猪口を蓮子から貰う。
最近では100円均一でもこんなオシャレなものが売ってる。いい時代になったものだ。
なんかいい匂いもするし...うん?若干劣化もしてるわね。
「コレ、プラスチックでも合成でもなさそうね...本物?」
「多分。...っとじゃあ早速呑みますか」
「一升瓶からそのままお猪口に注ぐつもり?」
「おっとコレはお手厳しい...はいこれ」
そう言って蓮子が取り出したのはおそらく4合サイズの徳利。...デカくない?
「サイズ感がおかしい」
「実家にあったのがこういうやつばっかだったから」
「へぇ、親御さんは結構呑むのねぇ」
「そうでも無いと思うけど...まあいいや、とりあえず注ぐわよ」
「ノー、蓮子。こういうのは酌むって言うのよ」
「はいはい、じゃあ酌みまーす」
蓮子がうわ、なんだこいつ酔うとめんどくせぇ、みたいな顔をしながら徳利に酒を入れる。
酌む、じゃないのかって?
...呑みでマナーを気にする奴は不粋よ。
「で、この徳利を...はい」
「どうも。じゃあ蓮子も」
「こりゃどうも、っと」
「じゃあ、乾杯」
「かんぱーい」
乾杯をしたところでスっと酒に口をつける。...美味い。
私としては日本酒はあまり呑まないけれど、これは...そうね、異物が排除された味...かしら?
「くぅ〜日本酒は効くねぇ〜」
「そうねぇ、昔ながらの味って感じ」
「アナタいくつよ」
「大学生」
日本酒、とひと口に言っても様々なものがある。
純米酒やら吟醸酒やらにごり酒やら...まぁ細かい。
この日本酒は...ラベルが無いから正確には分からないけどなんだろう...雑味はあるけどそれが美味しい。
この前飲んだ市販の吟醸酒とは全然違う。
「うん、美味しいわね。ほら、蓮子。お猪口が空よ」
「おっとこれは...どうも。ってメリーさんも空じゃないですかー」
「オヤジ臭いわよ」
それとこの竹のお猪口、口当たりがいい。
そうそう、口当たりってのは大事だ。
酒によって酒器が変わるのはこの口当たりもある。
些細な違いかもしれないが、日本酒をコップで呑むとよくわかる。アレは...なんか違う。
そして清酒も美味しいけど、この筍もいい。
「筍、美味しいわね」
「でしょ、この味が染みてるのがいいのよねー」
「清酒によく合うわ」
「せいしゅ...ああ、日本酒の事ね。そうねー...うま」
この煮物...美味い。食感が癖になる。
そういえばこの博麗神社って神社...なんかで聞き覚えがある。...なんだっけ?
「そういえばこの瓶に書いてある、博麗神社ってなんか聞き覚えない?」
「たしか...蓮台野の後に行ったとこよね?」
「あー、そういえば。でもあそこって完全に廃墟、というか空き地に近かったわよね」
「...分社?」
「うーん、でもそんな名前の神社聞いた事無いのよねぇ」
「...謎ね」
「謎」
そんな話をしている内になんか視界が揺らいできた。
思考は冴えてるのだけれど...
「ちょっとメリー、赤いわよ」
「あー、うん」
...日本酒を飲むペース、早かったかも...
......ヤバい
「おーい、メリー大丈夫?」
「大丈夫よぉ...」
「じゃあコレ、何色に見える?」
「えーと、らんいろ?」
「ダメだこりゃ」
藍色のブックカバーを見せるとメリーは妙な事を言い出した。確かに藍は、らんとも読む事もあるけど...どうやら彼女の思考回路は現在短絡しているみたいだ。
「ほら、水」
「えぇ...助かるわ」
「もうちょっとお酒あるけど、今日はお開きかなぁ。私も結構キてるし」
まだワインやらウィスキーやら変なリキュールやらふざけて買った紙パックの日本酒やらがあるけど、この調子じゃあキツい。
と、思ったのだけれど
「いや、まだいけるわ。蓮子、鍋ある?」
「あるけど...大丈夫?」
「大丈夫よ」
そう言うとメリーは立ち上がり日本酒を持って台所に歩いていった。...千鳥足で
「料理でもするの?」
「料理...まあそうね。繊細な料理よ」
「繊細?というか材料無いわよ」
「いや、材料はコレだけで十分よ」
メリーは持っていった日本酒を指差しながらそう言う。
ああ、熱燗だ。フランベでもするのかと思った。
「なるほど。で、繊細ってのは?」
「まだまだね蓮子。コレは繊細なのよ」
「まだまだって、私旧型の日本酒なんか全然飲んだ事ないし。それにメリー、答えになってない」
「なってるわよ」
適当な返しをすると瓶を置き、鍋に水道水を入れてコンロを温めた。
なんかウチのコンロが働くのをひさびたに見た気がする...
「蓮子、温度計は?」
「ないけどそれIHだから温度調節できるわよ」
「あら、そうだったわね」
「ちょっとメリー、ホントに大丈夫?」
「ええ」
安物物件のウチでもさすがに第三世代IHくらいある。
というか今はIHの普及で調理用の温度計なんて昨今使わないものだ。
やはりメリーはキてるっぽい。
の割には手つきがいいが。
「というか、なんか手慣れてない?」
「こんなものよ。さあ、お酒を入れるわよ」
「随分気合入ってるねぇ」
足元の瓶を取り、温まってきた鍋に突っ込む。
IHの温度は...90℃
熱くない?
「90℃って、熱くないの?」
「酒自体を温めるのは50℃くらいまでよ。 ただ50℃のお湯で温めるとアルコールが飛ぶから熱湯で温めるのよ」
「へぇ、詳しいのね」
「そんなものよ。常識、常識」
なんか馬鹿にされてる気がする。
昨今そんなの知ってる方が非常識だと思う。
「蓮子、時間は?」
「家の中じゃ月は見えないわよ」
「いや、携帯」
「ん?...ああ、そうね」
「アナタこそ大丈夫?」
「大丈夫」
「酔っ払いは皆そう言うわ」
「メリーに言われたくないんだけど」
キてる自覚はあったが、想像以上にアルコールが回ってるようだ。
...私もメリーも。
「じゃあほら、測るよ。...ほいスタート」
「なんで若干投げやりになってんのよ」
「気のせいじゃない?それはともかく、どこで熱燗のやり方なんて覚えたのよ?」
「うーん、物心ついた時?」
「なんじゃそりゃ」
メリーの家庭はどうなっているのか...
超飲酒型家庭?
少なくともこの時代...いや、この時代でなくとも物心ついた時から熱燗できる人間はいないと思うけど...
「で、これ何分やるの?熱燗だから...3分ちょいね」
「3分かー...じゃあ私ちょっとベランダで煙草吸ってくる」
「身体に悪いわよ」
「いいの、若いから」
そういえば旧型酒と紙タバコは相性が悪いと聞いた事があるが...どうなんだろう?
まぁ...いいや。
私が一服から帰って来ると丁度タイマーが音を鳴らしていた。
というかメリー、熱湯から出したばっかの瓶そのまま持ってるけど熱くないのかな...?
まぁ、そんな細かい事は気にせず、呑み再開である。
「注ぐわよ」
「酌む、じゃなくて?」
「気にしない」
「言い出しっぺに言われるとすごいムカつく」
メリーが徳利に熱燗を注いでいく。
注ぎ終えられた徳利を手に取り匂いを嗅ぐと、鼻にツーンと来るような、でも少し甘いような不思議な香りがした。
「お、意外と美味しそう」
「案外いい温度になったわね」
「案外って...にしても温めたお酒を飲むなんて初めてだね」
「まぁあまり飲む機会も無いでしょうしね。それに酒を熱するのは日本特有の文化、レア物よ」
「確かに、ワインやビールはあっためないねぇ」
「ビールを温めるのはあるけどね。ほら、1口飲んでみなさいよ」
「そう急かさないでって」
そう言いつつ、徳利からお猪口に注がれた熱燗を飲む。
アルコールのせいで味覚やらが少し麻痺してるが、さっき普通に飲んだ時より味が濃い気がした、あと胃が熱い。でもなんか...
「美味しい!」
「そう、良かったわ。寒い冬といえばやっぱコレよねぇ」
「なに、毎年飲んでんの?」
「それなり」
「お金持ちねぇ」
「入手ルートがあるのよ。ほら、コップが空よ」
「あら、じゃあお酌してもらっちゃおうかな」
「ふふ、じゃあもう一杯」
メリーにもう一杯注いでもうらう。
で、飲む。
なんかおいしい。
で、私がゆっくり飲んでる間にメリーは勝手になんか呑んでる。
「...メリー、手酌はマナー違反じゃないの?」
「あら、よく知ってるわね、そんな前時代的なマナー」
「おばあちゃんが呑みに行く時よく言ってたのよ。「あの人たちはいっつも手酌でバカスカ呑むのよ!マナー違反でしょ!?それ指摘するとあー?って言われるし!」って。ほら、私が入れるから」
メリーの徳利を取って少しぬるくなった日本酒を注ぐ。
...いつの間にか一升瓶が三分の一くらいになっている。
いや、なんでこんなに減ってるの?揮発した?
と思ってたらメリーがさっき注いだはずのお猪口を空にしてまたこちらに差し出してきた。
犯人はお前か。
「ちょっと、飲みすぎじゃない?天狗や鬼じゃあるまいし」
「私が天狗や鬼ならここにある酒全部飲んだ上に自前の酒を飲み出すわね。特に鬼なら明日にも同じ事をするでしょう」
「いや、飲みすぎでしょ...今でも十分飲み過ぎだと思うけど。もしかしてメリーって飲むとすぐダメになるけど無限に飲めるってタイプ?」
「違うわよ。というかアナタももう少し飲んだら?ちょっと冷めた熱燗も美味しいわよ」
「そう?じゃあ少しもうおうかな」
メリーに酌んでもらって1口飲む。
...酔っているせいもあってか正直違いが分からない。
でも少し飲み口が柔らかい気がする。
「なんか飲みやすい気がする」
「冷酒と熱燗の境界よ」
「ぬる燗の大層な言い方県大会1位」
「2位は?」
「思いつかない」
「あら残念。そんなアナタには参加賞のコレをプレゼント」
そう言うとメリーは何やら壺を取り出した。
「...その壺は?」
「なんだと思う?」
「神秘的ななにか」
「不正解。正解は...」
メリーは壺の中身を小さい柄杓のようなもの(トンカツ屋でソースをすくうようなアレ)ですくってコップに入れた。
中身は黄と橙の間くらいの色の液体。
少し甘い匂いがする。
「どうぞ」
「どうも。って何これ、すごい色してんだけど。メタルスライムにダメージが入るやつ?」
「こんな色なら今すぐ泌尿器科に行った方がいいわね」
「じゃあ違うと」
「違う。飲み物よ。ほら、1口」
「はいはい」
とりあえず1口。
香りどうりすごい甘い。アルコールの味もする。あとなんかすっぱい。でも柑橘系じゃなくて...コレは...梅!
「梅酒?」
「正解」
梅酒だった。
「梅酒は新型しか飲んだ事無かったけど、なんか味の違いがあまりないわね。飲みやすくていいけど」
「まぁ、味はほぼ砂糖だから。微糖のコーヒーみたいなものよ」
こんな事を言うのもアレだけど確かに砂糖の味がすごい。逆にアルコールがフレーバーになっているくらいだ。
「これ飲みやすいわねー。メリー、もう1杯!」
「あんま飲みすぎちゃ駄目よ。日本酒より度数高いんだから」
「え、嘘でしょ〜」
「本当。だってコレほとんど焼酎よ?砂糖と梅で味付けしてるだけで」
「焼酎...?」
「さっきのヤツじゃないわよ。もうちょっと普通のやつ」
ビックリした。
まああの焼酎はどうもメーカー製じゃ無さそうだしこの梅酒に使われてるはず無いんだけど。
...というかなんか誤魔化されてるけどこの梅酒はどこから持ってきたのだろうか?
...まあいいや、なんか眠くなってきたし
「いやーうまい!」
「美味しいわねぇ」
「あと...ねむい!」
「眠いわねぇ」
「ヨシ!じゃあ...寝る!あとよろしく!」
「え、ちょっと、蓮子さーん?」
そんな若干キャラが崩れかかったメリーの言葉を最後に、私の意識は途絶えた。
「おーい、蓮子ーそろそろ起きなさい」
「はっ」
「あ、起きた」
気がつくと私は床に横たわっていた。
どうやら寝落ちしたらしい。
いや、そんな事はどうでもいいのだけど。どうでもよくない?...今はそんな事よりもものすごく体調が悪い方が問題だ。
「蓮子、ちょっといい?昨日のこと」
「あ、ちょっと待って。胃がすごいムカムカする。というか吐きそう」
「...はい、水」
「これはどうも...」
「ちなみにそれは誘う用」
「飲む用じゃなくて?」
「そう。1番効果的な対処療法よ。ほら、行った行った」
多少マシになった。
...何をやってるんだろうか
「戻ったー」
「戻した、でしょ」
「あらお下品ですわ」
「二日酔いってのは2日連続で酔っ払ってるって意味じゃないのよ。はい、肝臓回復薬」
「ありがと。で、どこからそれを?」
「昨日蓮子が持ってきた袋の中から」
「あ、そういえば買ってたや」
メリーから肝臓にいい意味で効きそうなドリンクをもらって飲み干す。
あまり美味しくはない。けど口の中に残ってた謎の酸っぱさは取れた気がする。
そういえば窓の外がエラい明るくなってる。
今何時だっけ?
「メリー、今何時だっけ」
「13時半くらい」
「...え?」
ちょっと待った。今日は二限目から講義が入ってる。
...13時半?
いやいやいや
「うぁー今日岡崎教授の講義だったのにー」
「岡崎って、あの学会追放されたって噂の?」
「そうそう。あー、あのぶっ飛んでる講義行きたかったのにー」
「まぁ、ドンマイ」
非統一性魔法世界論...気になったんだけどなぁ...
まぁ過ぎた事を気にしてても仕方ない。
...あ、いいこと思いついた。
「メリー、今度居酒屋に行ってみない?」
「居酒屋?この辺にはバーくらいしかないし、旧型置いてあるとこは大体接待用とかの高級料亭よ」
「東京」
「へ?」
「東京よ!あっちは昔からの名残で大衆居酒屋がいっぱいある!」
「遠くない?」
「とにかく!もうすぐ春休みだし、行くしかないでしょ。ちょっと実家に用事もできたしそのついでに」
「後者が本題ね」
「いい居酒屋もあるよ!」
「よく二日酔い中に酒の話が出来るわね...」
「ほら、言うじゃん。3日目には帰りたくなるって。帰省準備よ!」
「酒のない国に行きたい二日酔い、ってやつ?明日の事言うと鬼が笑うわよ」
「来年、でしょ。大丈夫、鬼は酒の無い国には行きたくならないらしいから」
「二日目にも呑むって?...あ、ちょっとトイレ...またぶり返してきた...」
「行ってらっしゃーい」
そんなこんなでこの第1回秘封倶楽部旧型酒選定会は幕を閉じた。
あと私は夜までずっと横になってた。
皆さん、二日酔いには、ご注意を...