俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

153 / 257
第百五十話:勝利竜王

 ウイルス感染し〈マガツギョウブ〉へと変化した瞬間、ギョウブの両隣にあった祠を突き破って異形の怪物が姿を現した。

 サソリのように長い身体と鋭い顎ををもつ巨体の怪物。

 祠は完全に破壊されたわけではなく、そのまま場に残っている扱いとなっている。

 しかし……

 

〈双子の祠〉P1000→P10000

九十九(つくも)の祠〉P1000→P10000

 

「祠のパワーが上がって、10000ブイ!?」

「『最終形態となったオレが存在する限り、オレの祠はパワー10000となり攻撃とブロックが可能となる!』」

「祠の強化だけじゃなくて、デメリットまで消えちまったブイ……」

「『邪魔をされなければより完璧だったのだがなァ、キサマらを潰すには十分よッ!』」

 

 ギョウブの目に宿るのは闇であり、狂気であり、視界を遮る憎悪の塊。

 ララの抵抗の意味に気づかず、ギョウブはあくまでただの邪魔と吐き捨てる。

 だからこそ藍は我慢ならなかった。

 伸ばされた手を払い退けて、ララの事を一度も見ようとしないギョウブに腹が立ってしかたなかった。

 

「ララちゃんは、ただ邪魔をしたんじゃない」

「『無駄と言った方がよかったか?』」

「無駄でもない! 初めてできた大切な友達を助けたくて、大切なパートナーの手を離したくなくて! そのために手を伸ばしただけだよ! その手を払い退けたのは他でもない、アンタでしょッ!」

「『オレが?』」

 

 訝しげな表情を浮かべるギョウブ。

 しかし次の瞬間、彼の脳裏に何かが浮かび上がる。

 

 誰かが認めてくれた。誰かが愛してくれた。

 誰かが……ニンゲンが優しさを教えてくれた。

 ならこの記憶は誰のものだ。この憎しみは誰のものだ。

 今自分に手を差し伸べたのは……誰だ?

 

「『誰だ……違う、これはオレの記憶じゃないッ! これは、この憎しみはオレのものだッ!』」

「先に払い退けるのはそれでしょ! ララちゃんの身体に入ってるなら、ララちゃんの事をもう少し見てよッ!」

「『ラ……ラ? なんで、なんで、泣いて……』」

 

 自身が取り憑いているララから何かを感じ取ったのか、ギョウブは大きく動揺する。

 その目も憎悪で赤く染まっていたが、僅かに収まり始めていた。

 これを逃すわけにはいかないと、藍はさらに言葉を続ける。

 

「なんでララちゃんがそのデッキを持ってたかわかる? ギョウブとの約束を守りたかったからだよ!」

「そうブイ。おまえララと一緒にファイトするって約束してたんだろ? それがこんなファイトで、おまえ本当にいいのかブイ!?」

 

 手にした大剣の先をギョウブに向けるブイドラ。

 人間との共存に対する否定、それはブイドラにとって許容し難い事。

 その上でブイドラは、ここからギョウブが元に戻ってくれるなら、ララの事をもう一度見てくれるならと願う他なかった。

 刺すような視線を向けつつも、ギョウブの改心を願うブイドラ。

 だが、それを許さぬ存在があった。

 

『――――――――!』

 

 ギョウブの中から、ナニかが動き始める。

 ララの身体から出ている黒いオーラの中から、ソレは開眼してギョウブを見つめてきた。

 赤く大きな眼のような紋様が浮かび上がり、藍とブイドラにもそれが視認できてしまう。

 

「なに、あれ?」

「わかんない、けど、なんか滅茶苦茶ヤベーやつブイ」

 

 その眼から感情は読み取れない。

 まるで限界が存在しない、虚無そのもののようにも感じ取れる。

 だが一方で、ギョウブが元に戻る事を許していない、という事は藍達にも理解できた。

 

「『ソラナ――グアァァァァァァァァァァァァァァァ!』」

 

 絶叫を上げ苦しみ始めるギョウブ。

 ウイルスが増殖して、場の〈マガツギョウブ〉に流れ込んでいた。

 ほんの数秒で苦悶の叫びは終わり、赤い眼が消えると同時にギョウブは再び憎悪に飲み込まれてしまう。

 

「『アタック、フェイズ』」

「ギョウブ!」

 

 藍がもう一度名前を呼ぶが、ギョウブからの反応はない。

 ただファイトを進めてくるのみ。

 

「『オレ自身で攻撃ッ!』」

 

 悍ましい牙を剥いて、狂気染みた咆哮を上げる〈マガツギョウブ〉。

 そして禍々しい鍵爪の生えた腕を振り上げて、攻撃を開始した。

 現在藍のライフは2点で、場には〈ブイドラ〉のみ。

 ヒット4の〈マガツギョウブ〉の攻撃を受ければ敗北が確定し、ブロックをすれば〈ブイドラ〉を失ってしまう。

 

(でもアイツのテキストは読めない……だったら一か八か!)

 

 相手に耐性がない事を祈りながら、藍は1枚のカードを手札から使用した。

 

「魔法カード〈スリップ・コンブ〉を発動! 〈マガツギョウブ〉のヒットを0に!」

 

 防御魔法を使うが、〈マガツギョウブ〉に耐性の類があれば効果がない。

 そうなれば非常に厳しい状況は避けられないと理解しているからこそ、藍は緊張感のある表情を浮かべていた。

 魔法効果で〈マガツギョウブ〉の足元に1枚の昆布が出現する。

 それを踏んでしまい、〈マガツギョウブ〉はスッテンコロリと転んでしまった。

 

〈【怪狸(かいり)の感染】バンジン・マガツギョウブ〉ヒット4→0

 

「効いた! なら続けて〈スリップ・コンブ〉の【Vギア】を発動。相手モンスターを全て疲労状態に!」

 

 さらに祠を突き破って出現していた2体の怪物の足元にも昆布が出現する。

 それを踏んで転んでしまい、祠モンスターは行動不能になってしまった。

 これでこのターンは凌ぎ切った。

 藍がそう思った矢先、彼女はギョウブが小さく笑っている事に気づいてしまった。

 

「『魔法カード〈蛮神(ばんじん)壊放(かいほう)〉を発動ォ!』」

 

 狂い笑うように叫びながら、ギョウブは1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 

「『このカードは、オレの場の祠を好きなだけ破壊するッ!』」

「破壊するだけ……」

「嫌な予感しかしないブイ」

 

 このターン、ギョウブはまだ一度も祠を破壊していない。

 そして今、このカードで祠を破壊すれば【壊放】の条件を満たすという事になってしまう。

 

「『オレは当然ッ! 2体の祠を破壊ッ!』」

 

 飛び出ていた怪物ごと爆散されてしまう〈双子の祠〉と〈九十九の祠〉。

 効果によって破壊された祠の効果は当然発動する。

 まずは〈九十九の祠〉の効果で〈マガツギョウブ〉のパワーが+5000される。

 そして〈双子の祠〉の効果で〈ブイドラ〉が疲労状態になってしまった。

 

「うぐぅ、でも今疲労したところで」

 

 意味はないと考えるブイドラ。

 だがギョウブの狙いは、祠を2枚破壊しておく事であった。

 

「『オレ自身の【壊放】を発動。このターンに破壊された系統:《祠》を持つモンスターを全て復活させるッッッ!』」

「全部って、回復状態で!?」

「アイツがいる限り、祠は攻撃できるブイ! それが2体も復活したら」

 

 そしてギョウブの場に復活する2つの祠。

 当然〈マガツギョウブ〉の効果で強化され、パワー10000、ヒット3の怪物として行動可能になっている。

 藍の墓地にはモンスターの攻撃を1度だけ無効化できる〈カサ乱舞地蔵!〉があるものの、全ては受け切れない。

 

「攻撃を防御しきれないブイ!?」

「『攻撃? その必要はない……オレの能力で祠を復活させた時ッ! 復活した祠の数だけ相手にダメージを与える!』」

「なっ!? それじゃあ」

「『復活した祠は2体! キサマの残りライフ全てもらうぞォォォ!』」

 

 そう叫ぶや、場の〈マガツギョウブ〉は口に凄まじい量のエネルギーを集め始める。

 そして紫電が光って鳴るエネルギーの塊を、藍に向けて解き放った。

 

「『これで、終わりだァァァァァァァァァァァァ!』」

「ラァァァァァン!」

 

 ウイルスを内包しており、まともに食らえばタダでは済まない。

 そんな攻撃を前にして、藍は覚悟を決めたように目を瞑る。

 そして……凄まじい爆発音と共に、ギョウブの攻撃は藍に着弾した。

 

 藍:ライフ2→0

 

「藍……」

「『愚鈍、傲慢、弱小ッ! オレ達の憎しみを命で学べたようだなッ!』」

 

 嬉々とした声で勝利に酔いしれるギョウブ。

 ブイドラは砂煙が舞う中で、藍の無事が気になっていた。

 だが同時に違和感が芽生える。

 藍のライフが0になったにも関わらず、ファイトが終了していない事にブイドラは気づいたのだ。

 

「藍……?」

「『ん? なんだこれは』」

 

 ギョウブも違和感に気づく。

 そして砂煙が晴れると、そこには血だらけになりながらも立ち続ける藍がいた。

 

 藍:ライフ0→?

 

「『ライフが……決まっていないだと!?』」

「魔法、カード……〈レッドゾーン・ブイソウル!〉を、発動……」

 

 藍が発動したカードは、相手のターン中に自分のライフが0になった場合にのみ発動できる魔法カード。

 傷の痛みに耐え、息を切らしつつ、藍は効果処理に入る。

 

「相手ターンに、アタシのライフが、0になったら……デッキの〈レッドゾーン・ブイソウル!〉を2枚、除外して……その後、自分のデッキの一番上のカードを墓地に送る……」

 

 息も絶え絶えな状態で、藍は召喚器から1枚のカードを手にとる。

 

「墓地に送ったカードが……系統:《勝利》をもつ、モンスターカード、なら……アタシはライフ1で、復活する」

 

 そして藍は、手にとってデッキトップのカードを確認して墓地に送る。

 墓地に送られたカードは〈ブイ・カチカチラクーン〉。

 系統:《勝利》を持つモンスターカードであった。

 

 藍:ライフ?→1

 

「そして、復活したターンの間……アタシのライフは……0に、ならない」

「『チッ! 小癪な事を……ターンエンドだッ!』」

 

 ギョウブ:ライフ10 手札3枚

 場:〈【怪狸の感染】バンジン・マガツギョウブ〉〈双子の祠〉〈九十九の祠〉

 

 これ以上の攻撃は無駄となり、ギョウブは忌々しげにターンを終える。

 とはいえギョウブの場には、回復状態でブロック可能な祠が2体残っている。

 ひとまず復活にも成功して、ターンが回ってきた藍だが……そこでダメージが限界に達したのか、その場で膝をついてしまった。

 

「藍ッ!?」

 

 悲鳴のような声を上げてしまうブイドラ。

 幸い藍に意識はあり、身体を震わせながらも必死に立ちあがろうとする。

 その姿がギョウブにとって、不可解でしかないものであった。

 

「『何故立ち上がる。何故逃げない。何故見捨てないッ!?』」

「やらなきゃいけない事、だから」

 

 額の傷から血を流しながら、藍は真っ直ぐギョウブを見る。

 

「友達も、家族も、手を伸ばし続けないと急にいなくなっちゃうの……アタシは、手を伸ばせなかったから」

 

 記憶の底から蘇るのは幼き日の光景。

 同じ施設にいた友達と一緒に笑い合った日々。

 そして、気づいた時には別れてしまい……手を伸ばせなかった事を後悔し続けた日々。

 

「ララちゃんは今、アンタに手を伸ばし続けてるの! 四年前からずっと手を掴もうとしてるの! お願いだからそれを無視しないで!」

「『手……ララの、手……』」

 

 ララの身体で、ギョウブはその手を見下ろす。

 そして浮かび上がるのは、あの記憶達。

 誰かの優しさ。誰かの温もり。誰かが教えてくれた幸せ。

 誰かじゃない……コレは、この記憶は。

 

『ラ、ラ?』

 

 ギョウブは思い出した。これは自分自身の記憶であると。

 人間を知り、人間を好きになれた自分の記憶と思い出だと。

 憎悪が無かった、なんて事はない……だがギョウブは今の自分が抱えているソレが、自分の意思ではないと気づいた。

 

「わかるかギョウブ? これが人間なんだブイ。悪い奴だっているけど、オイラたち化神のために怪我をしてでも戦ってくれる。オイラたち化神を生命だって認めてくれる。それが人間なんだブイ」

「ギョウブ……帰ろう。ララちゃんのところへ」

『ララのところ、へ……』

 

 ギョウブは自身の中で蠢く闇を振り解こうとする。

 しかし闇はそれを許さない。

 黒いオーラという形になって、場にいるギョウブの身体を強引に操作しようとする。

 

『グッ!? また、キサマか!?』

「さっきと同じ。やっぱり何かがギョウブを」

「テメェェェ! 邪魔すんじゃねェェェブイッ!」

 

 怒りに任せて叫ぶブイドラ。

 だがそれを嘲笑うように、黒いオーラはギョウブの身体を操ろうとする。

 何がなんでもギョウブが元に戻る事を許せないらしい。

 

「どうにかして、アレを倒さないと」

 

 そしてギョウブを助けないといけない。

 カーバンクル達の言うように、このファイトでギョウブが最期を迎えようとも。

 少しでも可能性があるなら、少しでもララと和解できる時間が生まれるなら。

 

「アタシの、ターン」

 

 このファイトに勝つしかない。

 ギョウブを縛り付けている、あの闇を討ち払うためにも。

 

「ドロォォォ!」

 

 藍:手札2枚→3枚

 

「えっ……これって」

 

 ドローしたカードを確認し、藍は心底驚いた。

 それはお守りのように、デッキに1枚だけ入れていた白紙のカード。

 合宿の時に、召臨寺の和尚から受け取ったブランクカードであった。

 

――これの名はブランクカード。無限の希望であり、世界を破壊する邪悪でもある――

 

 和尚の言葉を思い出し、藍はブランクカードを胸に押し当てて強く願う。

 

(アタシが今、本当に必要な力……ウイルスを、あの闇を消して、ギョウブを助ける力)

 

 これが希望になるのか、邪悪になるのか藍には分からない。

 だが本当に希望となってくれるなら、藍はただ彼らを助ける力を望むだけ。

 そんな藍の願いを聞き入れたのか、ブランクカードは突然凄まじい光を放ち始めた。

 

「『この、光は……』」

 

 光が収まると、藍はブランクカードを確認する。

 そこにあったのは白紙のカードではなく、藍の願いを叶えるために変化した、新たな力の姿があった。

 全てを救うなんて、都合のいい結果にはならないかもしれない。

 それでも、このカードで何かを変えられるなら。

 

「メインフェイズ!」

 

 藍はこの力を使う事に躊躇いはなかった。

 

「魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動! デッキを上から1枚オープンして、その後2枚ドローする!」

 

 オープンしたカードは系統:《勝利》を持つ魔法カード〈スティング・ビー〉。

 それを手札に加えた後【Vギア】の効果で2枚ドローした。

 

 藍:手札2枚→5枚

 

「……ブイドラ。ごめんね」

「ブイ?」

「アタシ、きっと今から酷い事をしちゃうかもしれない……それでも、ララちゃんとギョウブが、また友達になれるなら」

「藍。なにがあってもオイラは、最後までパートナーと一緒にいるブイ」

 

 笑顔でそう答えるブイドラに、藍は小さく「ありがとう」と返す。

 ならば覚悟はもう決まった。

 

「爆アゲてくよ、ブイドラ!」

「ブイ!」

 

 運命なんて変えてやる。

 必ず勝利を掴むためにも、藍はブランクカードから変化したその1枚を仮想モニターに投げ込んだ。

 

「アタシは系統:《勝利》を持つモンスター……〈【勝利竜】ブイドラ〉を進化!」

「よっしゃあ! オイラも派手にパワーアップブイ!」

 

 真っ赤に燃え上がる魔法陣が、ブイドラの周囲に展開されていく。

 そして炎は猛スピードでブイドラを飲み込み、その身体を進化させ始めた。

 

「絶対勝利の誓いをここに! 真っ赤に爆ぜてドラゴン魂! 一緒にいくよ〈【勝利竜王(しょうりりゅうおう)】ビクトリー・ドラゴン〉召喚!」

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 

 巨大な炎塊から、天空に向かって極太の火柱が立ち昇る。

 暗闇に染まっていた空に風穴を開けると同時に、炎の中から1体の巨大なドラゴンが姿を現した。

 

〈【勝利竜王】ビクトリー・ドラゴン〉P13000 ヒット2

 

 もはや小さな竜の面影はない。

 雄々しく、勇猛、強靭な力を感じさせる紅蓮の竜がそこにいた。

 

「これが、進化したブイドラ」

「そうらしいブイ。今ならどんなヤツにでも勝てる気がする!」

 

 これがブランクカードが与えてきた力。

 藍の願いを受け止めて生み出した力。

 ならばこれで勝利を掴む。そう決心をして藍は効果発動の宣言をした。

 

「うん。じゃあいくよ! 〈ビクトリー・ドラゴン〉の召喚時効果発動! アタシのライフが5以下なら、パワー7000以下の相手モンスターを全て破壊して、破壊したモンスターのヒット数の合計分〈ビクトリー・ドラゴン〉のヒットを上げる!」

「『馬鹿めッ! オレの場にはパワー7000以下のモンスターはいない!』」

「そいつは、どうかな?」

 

 ギョウブの嘲笑を一蹴する〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 確かにギョウブの場にはP7000以下のモンスターは存在せず、破壊対象が不在にも見える。

 しかしそれすらも、藍達にとっては織り込み済みであった。

 

「進化したオイラが持っている【Vギア】はタダの【Vギア】じゃない……【(スーパー)Vギア】だァァァ!」

「『【SVギア】だと!?』」

「アタシのライフが3以下の状態で召喚した時〈ビクトリー・ドラゴン〉には追加能力が適用される」

「藍の墓地に眠る系統:《勝利》を持つカード1枚につき、オイラの召喚時効果で破壊できるモンスターのパワー上限が+1000される! ビクトリーチャージ!」

 

 現在、藍の墓地に眠る系統:《勝利》のカードは10枚。

 よって〈ビクトリー・ドラゴン〉の破壊範囲の上限は+10000となっていた。

 

「破壊対象はパワー17000以下全て! お願い〈ビクトリー・ドラゴン〉!」

「任せろブイ! みんなの想いをこの炎に込める。食らえェェェ! ダイナミック・フレアァァァ!」

 

 両手に集めた巨大な火球を投擲する〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 たとえ〈マガツギョウブ〉の効果で強化されていようとも、今の〈ビクトリー・ドラゴン〉の前には無力でしかなかった。

 2体の怪物は、祠ごと炎によって消し炭にされてしまう。

 

「モンスターを破壊した事で〈ビクトリー・ドラゴン〉のヒット数が上がる」

 

〈【勝利竜王】ビクトリー・ドラゴン〉ヒット2→8

 

 祠のヒットが3だった事もあり、凄まじいヒット上昇をする〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 だがギョウブもタダでやられるわけではなかった。

 

「『破壊された〈九十九の祠〉の効果を発動! このターンの間、オレは疲労状態でもブロックが可能となる!』」

 

 まずは自身を疲労ブロッカーにして防御を固めるギョウブ。

 続けてもう一つの祠の効果を発動した。

 

「『さらに〈双子の祠〉の効果によって、オマエは疲労状態になる!』」

 

 破壊された祠の呪いによって、〈ビクトリー・ドラゴン〉膝をついて行動不能になってしまう。

 これではもうどうにもならない……ギョウブはそう確信したが、藍達の目は諦めていなかった。

 

「〈ビクトリー・ドラゴン〉の【Vギア】を発動!」

「『なッ!? もう一つ持っていたのか!?』」

「オイラは【Vギア】を2つ持っている! その効果で各ターン1度だけ、回復できるブイ!」

 

 回復し、攻撃可能となる〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 流石に不味いと感じたのか、ギョウブはすぐさま自身の効果を発動した。

 

「『オレ自身の【壊放】を発動! 2体の祠を復活させて、オレ達の勝ちだァァァ!』」

「魔法カード〈スティング・ビー〉を発動! 相手モンスター1体の効果を無効にする」

 

 当然対象は〈マガツギョウブ〉。

 藍は先程の〈スリップ・コンブ〉が効いた事で、ギョウブはカード効果で選べるという事に気づいていたのだ。

 蜂に刺されて〈マガツギョウブ〉は効果を失ってしまう。

 

「……なるほど、直接殴り合えってことか」

 

 一人で納得をする〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 彼は藍が意図的に〈スティング・ビー〉の【Vギア】を使わなかった事に気づいた。

 ならば正面からやり合うのみ!

 

「アタックフェイズ! 〈ビクトリー・ドラゴン〉で攻撃!」

「歯ぁ食い縛れブイ!」

 

 進化した身体のサイズに合わせて巨大化した〈ビクトリーセイバー〉を握りしめて、飛翔する〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 様々な想いを乗せて、渾身の力を込めて大剣を振り下ろす。

 

「『魔法カード〈怪異封印陣(かいいふういんじん)〉を発動ッ! これでオマエのアタックフェイズは強制終了だ!』」

 

 魔法効果によって弾かれてしまい、〈マガツギョウブ〉へ攻撃が届かなかった〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 しかしすぐさま後方の藍に視線送り、彼女の名前を呼んだ。

 

「藍!」

「わかってる! 魔法カード〈ドラゴニック・リベンジ〉を発動!」

「こいつは相手の効果でオイラ達のアタックフェイズが強制終了した時に使える魔法カードだブイ」

「効果で〈ビクトリー・ドラゴン〉を回復させて、もう一度アタシ達のアタックフェイズを行う!」

 

 さらに藍の場に進化モンスターがいた事により、追加効果で回復させた〈ビクトリー・ドラゴン〉には【貫通】が与えられる。

 あらゆる手を尽くした、しかしギョウブにはもう対抗札がない。

 であればこの攻撃を受け止めるのみ。

 

「もう一度いくよ〈ビクトリー・ドラゴン〉!」

「応ッ!」

「『だったら迎え討つ! 疲労ブロッカーとなったオレ自身でブロックだぁぁぁ!』」

 

 巨大な異形の怪異である〈マガツギョウブ〉が〈ビクトリー・ドラゴン〉に襲いかかる。

 それを〈ビクトリー・ドラゴン〉は手にした大剣で弾き返す。

 ギョウブの鍵爪と大剣がぶつかり合い、激しい金属音がなり続ける。

 

「『こなックソがぁぁぁ!』」

「ふんッ! ギョウブ、これがサモンファイトだ。これが人間達の魂のぶつかり合いなんだ!」

「『これが、ぶつかり合い?』」

「そうだ。人間は争う事もあるし、間違いだって犯す。それでもぶつかり合って分かりあう事ができる。オイラたち化神だって同じ生命体なんだ! 同じことができない筈ないんだブイ!」

「『分かりあう……オレは……ボクは、ララと』」

 

 ギョウブの目に光が戻ろうとする。

 しかし闇がそれを邪魔しようと、再びギョウブに襲いかかろうとする。

 それが〈ビクトリー・ドラゴン〉の逆鱗に触れるという結果は、火を見るより明らかであった。

 

「邪魔を、するな! 真っ黒野郎ォォォォォォ!」

 

 手にした大剣に炎を纏わせて、ギョウブの身体に絡みつこうとする闇を斬り払う〈ビクトリー・ドラゴン〉。

 炎は闇を焼き尽くし、ギョウブの拘束を消し去っていく。

 無意識的な行動だったが、これこそブランクカードが藍達に与えた力でもあった。

 

「『あ……あぁ……』」

 

 ギョウブの目に光が戻る。

 思考を染め上げ、全てを呪い続けた憎しみが煙のように消え去っていく。

 周囲がハッキリと見え、ようやくギョウブは自分が何をしたのかを理解した。

 

「『ボクは……なにを』」

「反省は後回し! まずはララちゃんから出るブイ!」

『……あぁ!』

 

 しかしパワーは〈マガツギョウブ〉が23000。

 〈ビクトリー・ドラゴン〉は武装効果も合わせて、同じくパワー23000。

 

「『相打ちか!?』」

「そんなに単純だったら、ファイトなんて面白くないブイ……藍!」

「うん! これがアタシ達の切り札、魔法カード〈ビクトリーオーラ〉を発動!」

 

〈【勝利竜王】ビクトリー・ドラゴン〉P23000→P28000

 

 真っ赤なオーラに包まれて〈ビクトリー・ドラゴン〉のステータスが強化される。

 とうとう〈マガツギョウブ〉にパワーを上回ってしまった。

 

『ボクの負け、か……』

 

 自身の敗北を確信して、目を伏せるギョウブ。

 だがそんな終わらせ方を、藍達は許さなかった。

 

「ギョウブ! また一緒に戦うブイ!」

「うん。今度はちゃんと、ララちゃんと一緒に」

 

 血を流して辛い筈なのに、藍は笑顔で再戦の約束してくれる。

 〈ビクトリー・ドラゴン〉……ブイドラも同様であった。

 化神と人間の共存、かつてララと共に過ごした日々を思い出しながら、ギョウブは光ある未来を感じとって涙を流す。

 

『そうか……ボクが、ボク達が望んだものは、ここにあったんだ』

 

 であれば、未来を信じてみよう。

 ギョウブはこの後起きるであろう自分の運命を悟りながら、目の前にいる人間と化神に未来を託したくなった。

 

『……頼む』

「すまない」

 

 ギョウブと〈ビクトリー・ドラゴン〉が短いやり取りをする。

 それだけでお互いに思いは伝わった。

 大剣の柄を握りしめ、〈ビクトリー・ドラゴン〉は一気に上昇する。

 

「お願い〈ビクトリー・ドラゴン〉……全部、終わらせてあげて!」

 

 大剣凄まじい量の炎が集まる。

 ギョウブの呪いを終わらせるために、〈ビクトリー・ドラゴン〉はそれを勢いよく振り下ろした。

 

必勝剣技(ひっしょうけんぎ)……ビクトリー・パニッシャァァァ!」

 

 必殺の一撃がララとギョウブに迫り来る。

 その時であった。

 ララの身体からギョウブが抜け出し、彼女の前に立ちはだかったのだ。

 

「えっ?」

「……たのしかったなぁ」

 

 ウイルスによるダメージがいかないように、ララを守るようにギョウブは前に出る。

 そして〈ビクトリー・ドラゴン〉の攻撃によって、場の〈マガツギョウブ〉は一刀両断。

 付与されていた【貫通】による8点と、〈ビクトリーオーラ〉によって発生した4点のダメージによって、ギョウブのライフは全て消し飛んでしまった。

 

 ギョウブ:ライフ10→2→0

 藍:WIN

 

 ファイトが終わり、立体映像は消え去る。

 ララをウイルスによるダメージから守り抜き、傷だらけの化神ギョウブは、その場で無言のまま仁王立ちするのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。