俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ファイトが終わってからの事は、あまり覚えていない。
ソラは卯月と何かやりとりしたような記憶はあったが、それすら碌に残らないほどに落ち込んでいた。
気づけば卯月と別れて帰路についていた。
心がズシリと重い感覚に襲われながら、ソラは帰宅する。
「……」
玄関を開けて、無言で帰宅。
だけどそれを咎める者は誰もいない。
暗い部屋に電気を点けながら、ソラは自室へと足を運ぶ。
母親は働きに出ていて、父親は幼い頃に亡くした。
ソラは基本的に、自宅では一人なのである。
自室に入ったソラは学校鞄を床に置くや、顔からベッドに沈み込んだ。
ただただ心が重い。自己嫌悪が強くなる。
ソラは静かに、卯月とのファイトを思い返していた。
「……勝てなかった」
それは何故か? 卯月が強かったからか?
違う。自分が弱かったからだ。
ソラは下唇を噛み締める。
「この子を使ってたら、勝てたのかな?」
ソラは召喚器から、1枚のカードを取り出す。
〈【
能力も強い。だがそれを使う勇気がソラには出てこない。
自信が無いのだ。このカードを完璧に使いこなせる自信が、ソラには無い。
その自信の無さが躊躇いを産み、彼女に負け癖をつけている。
「卯月ちゃんに「弱い」って言われちゃったけど……本当ですね」
それはサモンの強さを表しているだけではない。
きっと、ソラの心の弱さも表しているのだ。
全てを見抜かれたようで、心が苦しくなる。
だがソラには、その言葉を否定する気も起きなかった。
「私、なにしてるんだろ」
召喚器にセットしていたデッキを抜き取り、ソラは眺める。
ツルギから預かったデッキ。
失ってしまった以前のデッキと比べても、明らかにパワーアップしている代物。
そして、ソラ自身を強くしてくれたデッキだ。
「このデッキに相応しいファイターになろうと思ってたのに……なにも前に進んでなかった」
ツルギとの特訓に加えて、放課後の勉強会。
それらに参加して、自分の力が強くなったと錯覚していた。
だけど現実は、借り物の力でそう思い込んでいただけ。
肝心なソラという人間の中身は、何も進歩していない。
卯月とのファイトで、彼女はそう思わざるを得なかった。
「私、なんでサモンしてるんだろう……」
自分でもよくわからなくなる。
元々は亡くなった父親の影響で始めたサモン。
SRカードも父から譲り受けた遺品だ。
故にソラは、重く受け止めてしまう。
カードを使う事も、サモンをする事も。
「やっぱり、デッキは天川くんに返したほうが良いのかな?」
そんな考えが頭を過ってしまう。
きっとデッキを返せば、プレッシャーからは解放されるだろう。
ツルギも意志を尊重してくれるだろう。
だがそれで良いのか、ソラは悩んだ。
「……逃げて、いいのかな?」
デッキはまた時間をかけて組めばいい。
辛い事なんて逃げてしまえばいい。
だけど……ソラの中で何かが突っかかる。
「天川くん……」
脳裏に浮かぶのは、東校の生徒と戦った時のツルギの姿。
西校の皆が諦めていた中で、ただ一人最後まで諦めずファイトし続けた背中。
そして、その強さに溺れることなく、子供たちに惜しみなくサモンを教える姿。
それらはまさに、ソラが理想に描いていた「強き者」の姿でもあった。
だから憧れたのだ。天川ツルギという少年に。
だから期待を裏切りたくなかったのだ、彼が作ってくれたデッキに対して。
しかしソラの心はまだ重い。
「やっぱり明日、天川くんに返したほうが――」
きっと自分は、このデッキに相応しくないのだろう。
サモンも心も、ツルギの期待に応えられる領域に達していない。
ソラが深い闇の底で、そう決断しようとした時だった。
――~♪ ~♪ ~♪――
ソラのスマートフォンに、一本の電話が入ってきた。
「誰だろう?」
画面を見る。そこに表示されていたのは意外な名前であった。
「天川くん!?」
ソラは慌てて電話に出る。
「もしもし」
『もしもし赤翼さん? よかったー出てくれて~』
ツルギの声を聞いた瞬間、ソラは少しだけ心が軽くなるのを感じた。