俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第百八十一話:タネは開花した

 現地時刻10時40分。

 アメリカ・ニューヨークにある高級ホテル。

 (まつり)誠司(せいじ)風祭(かざまつり)(なぎ)はそこで待つ者達に会うために、とあるスイートルームを訪れていた。

 

「やぁやぁこうして会うのは久しぶりだね。ミスターセイジ、ミスナギ」

「お久しぶりですゼウスCEO」

 

 応接間のソファで寛ぎながら、一人の男がワインとチーズを楽しんでいる。

 UFコーポレーションCEO。JMSカップの開会式にも登壇した事のある身長2メートル近いこの男は、ゼウス・T・ボルト。

 誠司と凪が恭しく挨拶をすると、ゼウスに促されて二人とも向かいのソファに座った。

 

「そういえば君たちは今回、姉妹校との交流という名目で来ていたね。そちらの方は楽しめたかい?」

「えぇ、無事問題なく終える事ができそうです……財団の方々には色々と助力を頂けましたから」

「それは良かった。仕込みまで済ませているようで、私もワクワクが抑えきれない」

 

 ゼウスの口から「仕込み」という言葉が出てきた瞬間、誠司の隣に座っていた凪が顔を強張らせる。

 何故それを知っているのか、まるでそう言いたげな様子の凪であったが、ゼウスは笑いながら安心するように言ってきた。

 

「ハハハ。大丈夫だミスナギ。私は別に君たちの邪魔をする気はない」

「誠司様」

「大丈夫だ凪、なにも心配は要らない。それにしてもゼウスCEOにはいつも驚かされてばかりです。貴方には全てがお見通しのようですね」

「その通りだよミスター……私は、デウスエクスマキナだからね」

 

 妖しげな笑みを浮かべてそう口にするゼウス。

 しかし彼がデウスエクスマキナを自称することは今に始まったものでもない。

 世界的にも有名な彼の性格なので、誠司と凪は大して気にしていなかった。

 

「誠司様、博士の姿が見えませんが」

「すまないねミスナギ。ドクターは諸用で少し遅れて――」

 

 ゼウスがそう言っている最中であった。

 応接間に白衣を着た大柄な一人の男が姿を現した。

 ボサっとした黒い髪に、どこか親しみやすさのある表情を浮かべながら、男はゼウス達の元へ歩み寄ってきた。

 

「掃除は終わったようだね、ドクター三神」

「はいゼウス様。誠司くん達も遅れてしまってすまないね」

「いえ。三神(みかみ)博士の事情を優先していただいて問題ありませんよ」

「そう言ってもらえると助かるよ。ここ最近は僕の周りも騒がしくてね、中々落ち着けないんだよ」

 

 どこか悲哀すら感じそうな様子でそう口にする三神当真(とうま)

 三神がゼウスの隣に座ると、誠司は今日の本題を切り出した。

 

「出国前に仕込んでおいたタネが開花を始めました。監視の者達からの報告では、順調に感染者を増やしているようです」

「ほう。タネというのは確か、君達が手を回して聖徳寺(しょうとくじ)学園に入学させた女子生徒だったね。名前は……」

伊賀崎(いがさき)ヒトハです、ゼウス様」

 

 誠司の報告に興味を示しているゼウスに、三神がタネの名前を補足してくる。

 三神の説明を聞いたゼウスは「そうだそうだ。ミスヒトハだったね」とスッキリした様子で言うのだった。

 

「どうやら誠司くん達の計画は順調に進んでいるようだね。それなら何よりだよ」

「これも全てはウイルスを発明してくださった三神博士のおかげですよ。僕も凪も、その点に関しては心から感謝しています」

 

 笑顔を浮かべている誠司だが、どこか含みを持っている。

 それは三神とゼウスに容易く見抜かれているが、誠司にとっては織り込み済みでしかなかった。

 

「誠司くんが送ってくれた感染者のデータは、どれも素晴らしいものだったよ。おかげでアームドの次のフェーズも、予定より早く試作品が出来た」

「伊賀崎ヒトハに仕込んだ人造化神ですね。不完全とはいえ新たな生命体を造り出すとは、科学の進歩は目覚ましいものです」

 

 好奇心を抑えられない科学者の顔で、三神は誠司の送ってきたデータを思い出して笑みを浮かべている。

 そんな子どものような喜びを見せている三神に、誠司はただ無意味に笑顔を浮かべていた。

 

「まっ、一つだけ問題があるとすれば。あの人造化神はウイルスを元にして造ったせいで偏食極まっている事くらいだね」

「ですが三神博士が手を回してくださったおかげで、裏で始末される予定だった人間をエサとして供給できてます」

 

 三神がやや恥ずかしげに欠点を挙げるが、決して人間を喰わせる事に関しては問題とは言わない。

 それは誠司も同様であり、何より現在ヒトハに供給されているエサの人間は、以前誠司がウイルス感染させた者達であった。

 その中には夏休みが始まる前、誠司の手でウイルス感染をさせられた速水(はやみ)学人(がくと)とツルギが戦った地下ファイト施設。その観客席にいた人間達も含まれている。

 

「不要な人間を始末するのも楽じゃない。跡形もなく食べ切ってくれる上に、誠司くん達の夢まで手伝ってくれるなんて……これほど効率的なシステムはそうないと思うよ」

「おっしゃる通りです。僕としても不要なゴミを処分を兼ねてもらえるなら、これ程ありがたい事はありません」

 

 あくまで笑顔で語り合う三神と誠司。

 利害は一致しているが、最後の到達点に見ている風景はまるで別物。

 だがそれを考慮した上で、誠司は三神と手を組んでいる。

 

「朝方……日本では夜頃ですね。彼女に電話してみましたよ。きっと今日の配給もしっかり完食してくれているはずです」

「それなら嬉しいなぁ。僕も頑張って彼女を蘇生させた甲斐があるってものだよ」

「感動的でしたね。生命の復活も博士の謀略も」

 

 誠司はヒトハに仕込みをした日の事を思い出す。

 生まれつき身体が弱く、15歳にして末期の心臓病を患っていた伊賀崎ヒトハ。

 三神にヒトハの存在を教えられた誠司は、彼女とその母親に接触。

 腕の良い医者に心当たりがある、手術費用はこちらが受け持つ等と甘言に乗せて……三神の手が回っている病院に転院をさせた。

 

「転院先の病院で一度死亡するのを待ち、死亡してからすぐに博士直々に手術を執り行う」

「人造化神を植え付けるのなんて人類史上初めてだからね。僕が責任を持ってやらなくちゃ示しがつかないよ」

「そして伊賀崎ヒトハは蘇った。人間という皮を被っただけの、巨大なウイルスの塊として」

 

 ヒトハの「生きたい」という願いは、彼らにとっては最高の素材でしかなかった。

 三神と誠司の共謀によって、伊賀崎ヒトハは存在するだけで周囲に少量のウイルスを感染させていく存在と化した。

 当然ながらウイルスは人体の中で潜伏し、その発症タイミングは誠司の手で操作ができる。

 

「伊賀崎ヒトハというタネは開花し、ちゃんと学園にも通ってくれています……僕と凪が帰国する頃には、彼女による下準備も完了しているでしょう」

「それは良い。僕は誠司くん達が世界を破壊する様が見たくてウズウズしているんだ」

「ご期待に応えてみせますよ、必ず」

 

 自信に満ちた様子で三神に答える誠司。

 だが少しだけ、誠司の中には不満があった。

 

「しかし一つだけ残念なのは、伊賀崎ヒトハは普通の食事が不可能という点ですね。せっかく蘇ってもらったのに、我が校の学食を楽しんでもらえないのは心苦しい」

「それは申し訳ない事をした。今回の人造化神はエネルギー補給を第一に考えて設計したからね。元より人間を喰らってくれそうな化神を選んで、そのコピーをベースにしたんだよ」

 

 そこまで言うと三神は息を荒くして、右手で顔を覆い始める。

 苦しんでいるわけではない、楽しいのだ。

 三神当真という男は楽しくて、笑い声を我慢しているだけであった。

 

「あぁ本当に人喰いをベースに造って良かった。やっぱり最高だよ……自分の娘を破滅させるというのは」

 

 狂気的な笑みも、喜びも、一切合切が抑えきれない三神。

 伊賀崎ヒトハが三神当真の娘だという事実を、誠司は知っている。だが三神の要望によって、その事実はヒトハに伝えられていない。

 

「実の娘だからこそ、博士の喜びになっているのですか?」

「そうだよ誠司くん。いやぁ子供って作っておくものだねぇ。随分前に遊びで適当な女に何匹か産ませてみたんだけど、こうも有効活用できるとは。ソラちゃんが産まれた時に、子供のいる幸せを教えてくれた光一(こういち)には感謝しかない! やっぱりアイツは僕の最高の親友だよ!」

 

 娘を苦しめる。娘を破滅させる。

 それだけが目的であり喜び。

 ヒトハの母親がシングルマザーとして、病気の娘を育てていたのは三神にとっても都合が良かった。

 今の三神にとってウイルスの散布やデータ収集は都合のいいオマケでしかない。

 最大の目的はヒトハを苦しめて破滅させる事、ただそれのみ。

 

「本当に……実の娘がゲロ吐きそうな状態で、人間を喰っていると思うとさぁ……勃起する」

 

 狂気だけで形作られているような目を浮かべて、そう口にする三神。

 父親としての一般的な情は欠片も存在しない。

 三神の中にあるのは、自分のために生きてくれている娘に対して、苦しみ破滅という形で親の愛を注ぐことであった。

 

「っ……」

 

 そんな三神の姿を前にして、流石に凪は嫌悪感を抑えきれなくなっていた。

 一方の誠司はポーカーフェイスを浮かべて、何も悟らせないように徹している。

 三神の趣味は以前から知っているので、誠司にとってはコレすらも今更でしかなかった。

 

「伊賀崎ヒトハ……博士の娘さんは、僕達の作る世界でもきっと良い友達になってくれると信じていますよ」

「そうだね。誠司くんが友達になってくれるなら、僕は父親としてとて嬉しいよ」

 

 すると三神は突然「だけど、計画とは常に順調に進むものではない」と言い始めた。

 

「邪魔者というのは常に潜んでいるものだ」

「……心当たりがあるのですか?」

天川(てんかわ)ツルギ。誠司くん達も聞き覚えがある名前じゃないかな?」

 

 その名前を聞いた瞬間、凪は不機嫌になり、誠司は興味深そうな表情を浮かべている。

 

「彼が僕らの脅威になると?」

「確か誠司くん達は直接戦ったことはないんだろう? だったら尚更警戒しておいた方がいい……あの少年はきっと、父親譲りの厄介者だからね」

 

 三神がそう言うと、凪は思わず「天川ツルギの父親?」と呟いてしまった。

 誠司も三神の言い方から、何か因縁があるのだろうと察してはいた。

 

「簡単に言ってしまえば、僕と彼の父親は昔、本気で殺し合った仲なんだよ」

「それで、息子も厄介だと」

「うん。あの男にはかなり手こずったからね……本当に殺すまで手こずったよ」

 

 過去を思い出して、三神は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 だがそれも一瞬。自分を邪魔した男にトドメを刺した瞬間を思い出して、三神は恍惚とした表情へと変化していた。

 

「誠司くんが〈ザ・マスターカオス〉を持っているとはいえ、油断は禁物。イレギュラーなんていつでも発生するものなんだ」

「肝に銘じておきます」

 

 そうして和やかに会談は進んでいく。

 和やかではあるが、そこにあるのはドス黒い暗黒のみ。

 だが彼らはそれで良かった。

 

「そういえば博士、一つお伺いしてみたいのですが」

「なんだい誠司くん」

「博士の親友という方の娘さん。たしか赤翼ソラという子ですね。博士は彼女に何かを仕込んだりはしたのですか?」

 

 本当に些細な疑問。

 実の娘に細工を仕込む男だ。親友の娘に仕込みをしていて不思議ではない。

 そう思っていた誠司だったが、三神は笑いながらそれを一蹴した。

 

「アッハハハ! 僕はソラちゃんには何もしていない。これは本当だ」

「おや、意外ですね」

「そう思うかい? まぁ今までの僕を思い返せばそうなるのも必然か」

 

 目を細めて、何かを思い描くように、三神は言葉を続ける。

 

「いいかい誠司くん。育成方針というのは一つじゃダメなんだ。色々試してみないとゲームは面白くならない」

「ゲームですか。それでは赤翼ソラも何か考えがあって手を出していないと?」

「その通り。こう見えて僕は育成ゲームが大好きでね、ソラちゃんには何もしない。僕はあくまで優しいおじさんに徹する……種明かしの時が来るまではね」

 

 いつか来る未来を想像すると、三神はまたも興奮を抑えきれなくなる。

 

「ソラちゃんがツルギくんと友達になる展開は予想外だった。だけどこれも嬉しい誤算……自分が想いを寄せる男の子に紹介した僕が、その男の子の父親を殺した相手だと知ったら、ソラちゃんはどんな顔をしてくれるんだろうか。僕は楽しみで仕方ないよ」

「それが博士の育成方針ですか」

「そうだ。じっくりゆっくりと育てあげて、最高のタイミングで絶望させる! 光一の件を暴露しても良いけど、新しい玩具が出てくれるなんて、人生とは最高に満ちているよ!」

 

 楽しそうに立ち上がり、狂気だけを発露させるように語る三神。

 ある程度発散し終えると、三神は落ち着いて再び誠司と向き合った。

 

「帰国したらヒトハの事を頼むよ。あとで例のお土産も渡すから」

「ありがとうございます。お土産は最大限有効活用させていただきますよ」

「本当に、誠司くんと出会えて良かったよ。来年はもう一人の娘が学園に入学する予定だからね、その時があればよろしくお願いするよ」

「今日本で話題の娘さんですね。お任せください」

 

 この部屋に他者を尊重する者は存在しない。

 あるのは歪みきった独善と陰謀。

 今も日本で苦しむヒトハを心配する瞬間など、彼らには一瞬たりとも有りはしなかった。

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