俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第九章:高校生編⑥
第二百話:少しだけこの気持ちを


 窓の外から雨の音が聞こえる。

 季節は十月に入ったけれど、心はどうにも重苦しくて仕方ない。

 時刻は昼過ぎ。自宅でリビングのソファに座りながら、俺はどうにも考え事ばかりしてしまう。

 ここまで気分が落ち込んでいる理由は、もちろん先日の一件についてだ。

 

 伊賀崎(いがさき)さんは死んだ。

 失われた生命をどうこうするなんて、できる事じゃない。

 そんな当たり前の事に対して、俺はどうしても無力さを感じる他なかった。

 

(カードゲームで解決できる範囲ならなんでもできる……裏を返せば、俺にできる範囲はそれだけなんだよな)

 

 強くはなれても、神になるわけではない。

 結局自分はちっぽけな人間なのだという事実が突きつけられて終わってしまう。

 

(……いや、違うか)

 

 喪われた生命まで掴みたいなんて願ってしまう、ただの傲慢なんだ。

 カードゲーム至上主義の世界ならなんでも出来る。ただしそれはカードゲームで解決できる範囲に限る。

 いくら化神という超常的な存在がいようとも、俺達も化神も万能の神じゃない。

 

(カーバンクルの言う通り。既に終わってしまった生命を救うなんてできない)

 

 仮に救う事ができたとしても、その後はどうなるんだ。

 伊賀崎さんを無理に生かして、その後にあの子が向き合う事になる事実はなんなんだ。

 ちょうどその答えが今、意味もなく点けていたテレビで流れている。

 

『マンション集団失踪事件。消えた住民はどこに?』

 

 それらしい題をつけて、画面の向こうで事情を知らない大人達があれこれ喋っている。

 集団失踪事件。被害者は今のところ全員行方不明という扱いになっている。

 もちろん、その中には伊賀崎さんも含まれている事になっている。

 

(死体も残っていないんじゃ、そうなるか)

 

 あのマンションで何が起きたのか、真実を話しても普通の人は理解できないだろう。

 ましてや遺族ともなれば、遺体が見つからない以上余計に信じたくないと思うはずだ。

 何より……もう、ほとんど終わった事件だと言われても受け入れ難いだろう。

 

(元凶である(まつり)誠司(せいじ)風祭(かざまつり)(なぎ)の存在を差し引いても、実質的な実行犯がもう消滅しちゃったからな)

 

 だからこそ、伊賀崎さんが助かった場合の事を考えてしまう。

 もしも助かってしまえば、あの子は唯一の生き残りであり……最も怒りをぶつけられる対象になっただろう。

 植え付けられてクイーンが全て悪いとはいえ、その重圧に伊賀崎さんが耐えられたとは到底思えない。

 

(口にはしたくないけど、そんな展開を迎えるくらいなら)

 

 これで良かったんじゃないか。

 そんな理不尽極まる事を考えてしまう自分に嫌気が差す。

 テレビの向こうでは出演者が好き勝手に憶測を飛ばしているが、もはや虚無しか感じられない。

 荒唐無稽な真相なんて、想像できる方がおかしいんだ。

 

「……3枚、か」

 

 頭の中に浮かび上がるのは、合宿で和尚から受け取った3枚のブランクカード。

 隠神島(いぬがみじま)ではギョウブとの戦いで、(らん)が1枚を使った。

 一方俺はというと、まだ1枚も使えてない。

 万が一の保険で入手したけれど、今となっては迷いの種になっているのも事実。

 

「どうしたもんかな」

「あらあら、悩みごとかしら〜」

 

 突如後ろから声をかけられたので、思わず振り返ってしまう。

 今日は珍しく在宅ワークの母さんが立っていた。

 

「母さん、仕事は大丈夫なの?」

「大丈夫よ〜、必要な資料は全部完成させたから。あとは編集長(おかみ)理解(わか)らせるだけね〜」

「前から思ってたんだけど、考古学雑誌の編集部ってなんでそんなに武闘派なんだよ」

 

 あと編集長さん、割と定期的に母さんが「理解らせた」発言してるんだけど、大丈夫そうですか?

 主にストレスとか胃袋とか、あとついでにサモンで爆殺されてませんか?

 

「これ、大変な事件ね」

「……そう、だな」

 

 テレビの画面を見て、母さんがそう口にする。

 怪奇極まる大事件。だけどアニメにはこんな内容は無かった。

 知っていたら、俺ならもっと早く対策できたかもしれないのに。

 

「ねぇツルギ……誰か、亡くなったの?」

 

 ふと母さんが口にした言葉が、俺の心に突き刺さってきた。

 この報道内容で死者の有無をわざわざ聞くのも変な話だ。

 じゃあ母さんは何を聞いてきたのか、答えは分かっている。

 

「誰か、お友達が亡くなったの?」

「なんで、そう思うんだ?」

「ツルギが前にも同じ顔をしていたからよ」

 

 前……心当たりは一つしかない。

 前の世界で速水が死んだ時の事だ。

 多分、今の俺は相当酷い感じなんだろうな。

 

「転校生の女の子がいた。その子は何も悪くなかったんだけど――」

 

 俺は知っている限りの出来事を打ち明けた。

 伊賀崎ヒトハというクラスメイトと、その最期を。

 

「せめて魂だけでもって、そう思ってたんだけど……やっぱり、全部は無理だった」

「それで学校を休んでまで、ずっと酷い顔をしていたのね」

 

 別に今日は学校をサボっているわけじゃないんだけどなぁ。

 ランキング戦が今日から始まっているけど、合宿での成績上位者は予選の一部が免除されるんだよ。

 つまり自由登校だから行っても意味がないだけ……なんてのは言い訳なんだろうな。

 クイーンが散布したウイルスは、まだ学園のどこかに潜伏し続けているかもしれないんだ。

 

「もっと何かできたんじゃないかって、後から後から嫌になるくらい出てくる。次に活かすより先に、過去の後悔がくる」

「そうねぇ……人間って生きていると、どうしてもそうなっちゃうわよね」

 

 そう言うと母さんは、俺の隣に座ってくる。

 

「終わった事をいっぱい後悔して。もしもをずっと考え続けて……たくさん泣いちゃって。それでも結局明日が来ちゃうから、仕方なく生きるしかない」

「それを避けたくて、せめて他のみんなは普通に過ごして欲しくて、頑張ったんだけどなぁ」

「普通なんて人の数だけあるわよ。それにねツルギ――」

 

 頭に上に、母さんの手がそっと置かれた感覚がくる。

 

「お友達もみんな、同じことを考えていたんじゃないかしら? 他の人のために戦おうとして、頑張っていたんじゃない?」

「……それでも、なんとかしたかった」

「一人の限界なんてすぐそこにある。ツルギの周りには誰がいるの?」

 

 周りに誰がいるのか。考えようとすればすぐに浮かび上がる人達は何人もいる。

 せめて守りたい、だから背負おうとするけど……それじゃあダメだった事が続いてしまった。

 ギョウブとララちゃんは、藍達がやらなければあの結末にならなかった。

 伊賀崎さんは……財前じゃなければ、魂すら救えなかったかもしれない。

 

(一人の限界か。速水にも言われたんだよな)

 

 強者の責務なんて独り善がりでしかないんだろうか。

 そんな事を考えていると、インターホンが鳴り響いた。

 荷物でも来たのだろうか。母さんが玄関まで早足で行く。

 

「ツルギ〜、お客さんよ〜」

「えっ、俺?」

 

 平日の昼間に誰なんだ。

 そう考えながら玄関に向かうと、見慣れた白い髪の女の子がいた。

 

「あっ、こんにちは」

 

 お馴染みの小さなシルエットをしている、ソラであった。

 俺と同じく予選免除の対象になっているから、今日のソラは私服で傘を手にしている。

 

「ソラ、どうしたんだ?」

「えっと、ちょっとツルギくんが心配になって」

 

 少し要領を得ない感じで喋るソラ。

 とりあえず立ち話もアレなので、俺は自分の部屋に上がってもらう事にした。

 ……母さん、露骨に期待の笑みを浮かべながら見切れないでくれ。多分この後もしばらくシリアスな予感がするから。

 

「おじゃまします」

「どうぞどうぞ。カーバンクルが寛ぎまくってるけどお構いなく」

「あっ、いらっしゃいっプイ〜」

 

 俺の部屋に入るや、そこには何時ぞやのようにリラックスしているカーバンクルの姿があった。

 小さなデッキチェアに寝そべり、サングラスをかけて、小さな手を器用に使って漫画を読んでいる。

 

「えっと、なんでしょうか? あの小さなデッキチェアやサングラスは」

「分からないだろ。恐ろしい事に俺もアレが何処から出て来たのか分からないんだ」

「企業秘密っプイ」

 

 さいでっか。

 とりあえずザ・休暇モードに入っているカーバンクルは置いておいて、俺とソラは適当に座布団の上に座る。

 なんだか、何から切り出せばいいのかお互い分からない状態が少し続いてしまう。

 

「ツルギくんは、ランキング戦どうしますか?」

 

 静寂を破ってくれたのはソラだった。

 どうするのか。それはつまりランキング戦に最後まで参加するのかという話だ。

 と言うのも政帝達が日本に帰国する日、もっと言ってしまえば空港に到着するタイミング。

 それはランキング戦の本戦をやっている最中だからだ。

 

「俺は、途中でリタイアするつもり。当日の朝から空港に乗り込んで政帝をブチのめす」

 

 そう、最速で政帝を倒すにはランキング戦を途中離脱する他ない。

 当然デメリットもある。予選の一部を免除されているとはいえ、ランキング戦を途中離脱すれば成績の大幅な低下は免れない。

 少なくとも最速で評議会入りするのは不可能になる。

 だけど、それを加味してでも、俺にとっては優先しなくてはいけない事だからだ。

 

「ソラはどうす――」

 

 どうするのかを聞くより先に、俺の両頬にソラの手が添えられてきた。

 ほんのりと温かい、小さな手のひらの感触に少しドキドキしそうになる。

 でもそんな気持ちは、ソラの真剣な表情を見てすぐに消し飛んでしまった。

 

「やっぱり、同じ顔してます」

 

 頬を少し膨らませながら、ソラがそう口にする。

 

「速水くんがいなくなった時と同じ。全部一人で抱え込もうとしてる顔です」

「……一人でなんとかできたら、よかったのにな」

 

 ソラが何を心配して尋ねてきたのか理解してしまった。

 伊賀崎さんの一件があったから、俺があのファイトには何も干渉していないから、自己嫌悪で酷い事になっているんじゃないかと思ったんだろう。

 そう考えた瞬間、俺の中で長い間張られていた糸が数本、プツリプツリと途切れた気がした。

 

「カードで解決できる事なら、大抵の事はなんとかできるけど……それでもできない事は、本当にどうしようもなくてさ」

 

 ずっと意地だけで立ち続けていた。

 だから弱音を吐いて周りに迷惑をかけたくないって、どこかで心にブレーキをかけ続けていた。

 

「ギョウブの事も、伊賀崎さんの事も……終わった後から何度も何度も他の方法がなかったのかって考えるようになってさ」

 

 この世界での自分の強さはある程度理解している。

 カーバンクルという特殊なパートナーがいるという事実も理解している。

 だからこそ……

 

「本当は俺が何かすれば最善手になったんじゃないかって。ギョウブや伊賀崎さんとのファイトだって、俺はただ他の奴に重荷を押し付けただけだったんじゃないかって」

 

 底なしの後悔が出てくる。

 見える範囲だけでも手を伸ばそうと足掻いた結果、見えなかった場所の出来事まで刺さってくるんだ。

 終わりなんて見えない。たとえ政帝を倒しても戻ってこないモノが多すぎる。

 

「強者の責務なんて言ったら、傲慢で独り善がりもいいところだと思う。それでも目に見えた範囲が広がり過ぎて、今まで見えてなかった場所まで聞こえてきて。自分の選択が正しかったのか自信が持てなくなってくるんだよ」

 

 言わなくても良いような、下らない弱音。

 特にソラには聞いて欲しくなかった筈なのに、自分の中にある糸が緩んでしまった。

 きっとこの後の反応は引かれるか、嫌われるかってところだろう。

 俺はてっきりそうなると思い込んでいた。

 

「――えっ?」

 

 だから俺の頬から手を離したソラが、その両腕を首の後ろに回してきて、フワリと優しく抱きしめてくるとは思わなかった。

 ソラと頬同士がに接触するような形になり、俺は思わず固まってしまう。

 

「あの、ソラ?」

「よかったです。ツルギくんがちゃんと弱音を言ってくれて」

 

 俺の頭を撫でながら、ソラはそう言ってくる。

 体温や吐息が近過ぎて思考がグチャグチャになってしまうが、ソラはまるで人間不信の獣に接するかのように優しく触れてくる。

 

「ずっと張り詰めて、私達の分まで背負おうとしてくれて。たくさん危ない事もして。なのに全然弱音を言ってくれなくて」

「言いたくなかった」

「でも今、やっと言ってくれました。だから私すごく安心してるんです。やっとツルギくんが心を開いてくれたみたいで」

 

 やっとか……無意識に壁作ってたのかな。

 誰かに頼られるのは良いけど、自分が誰かに頼るのはどこか苦手だ。

 

「ちょっとずつで良いんです。あと少しだけ、頼ってくれると嬉しいです」

「……ソラ」

「はい――えっ、ひゃ!?」

 

 軽く、腕を背に乗せる程度の力。

 俺も自分の腕をソラの背に回してしまった。

 

「少しだけ、このままでも良いかな」

「……はい」

 

 今だけは少し弱音を吐いて、誰かに甘えたい。

 そんな身勝手なワガママを受け入れてくれるソラには、本当に感謝する他なかった。

 

「……キュップイ?」

 

 だからこそ俺は、自分の召喚器に入れてあった1枚のブランクカードからパチリと小さな音が鳴った事に気づけなかった。

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