俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
第二百三十一話:天翼神と積年の諸々
外は秋の気候を肌で感じる11月。
ひとまずというのは、あくまで異世界転移を経験している俺の中ではという話。
二年生に進級したらしたで、世界大会だとか、新たな脅威だとかはあるんだろうけど。
今はこれで良い。
物語が変わった影響で、前の世界で見たアニメ知識もどこからどこまで信じて良いのか、俺自身分かりかねている。
で、今俺は何をしているのかと言うと。
「……なぁソラ……なにこれ?」
「私にもちょっとよく分からないです」
現在地、俺の自室。
部屋の中にいる者、俺、ソラ……そしてカーバンクルとエオストーレ。
今俺とソラの目の前には、座布団の上に正座しているエオストーレとカーバンクルの姿があった。
(なんでこうなったんだ?)
始まりは昼過ぎに突然家にやってきたソラであった。
今日は日曜日なので学校もなく、評議会の仕事も休みである。
そんな中、急にソラが来たとお思えば……「エオストーレがカーバンクルとお話しがしたいそうで」との事。
で、とりあえず自室に上げた結果がこれである。
「…………」
エオストーレさん、天使らしい佇まいではあるが圧倒的無言。
いつもと違い翼が見当たらないが、ソラ曰く小さくして邪魔にならないようにしているらしい。便利だな。
これならパッと見、普通の成人女性と変わらない体格になっている。
「粗茶ですっプイ」
小さな座布団の上に座りながら、カーバンクルは湯呑みを差し出す。
……前のバカンスセットもそうだったけど、そのミニ座布団とかどこから出したんだお前。
あとなんだよその湯呑み。よく見たら『居酒屋かぁばんくる』とか書かれてるんだけど、マジでどこから突っ込めばいいんだ。
「…………」
あっ、エオストーレさん無言で湯呑みを掴んで……カーバンクルの頭上で逆さまにした。
当然熱々のお茶がカーバンクルにぶっかかるのだけど、どう見てもエオストーレの顔が「この程度で許すとでも?」と言わんばかりなんだよな。
「アッチャァァァァァァ!? アチャャチャチャ!? アチャっプイ!?」
「これでまず一つ目の罰です。ですが貴方の所業はこの程度ではありませんからね?」
「本当に覚えてないっプイ〜。過去のボクは何をしたっプイ〜?」
熱々のお茶をかけられても、すぐに復活するカーバンクル。
あれで無傷なあたり、流石はモンスターといったところだろうか。
「はぁ……本当に何も覚えてないのですね」
あからさまにため息を吐くと、エオストーレは湯呑みを床に置いて――カシュ――どこからか取り出した
何食わぬ顔で魔剤を湯呑みに注ぐエオストーレ。
とても聖なる天使の行動には見えない。
「なんで、魔剤中毒になったんだろうな」
「分からないです。でも私が〈聖なる魔剤〉を使い過ぎたせいかもしれません」
「使ったカードが性格に影響するなら、今頃カーバンクルは社畜(レベルMAX)だぞ」
何故ならカードゲームには労働基準法が採用されていないから合法なのだ。
そんな社畜の鑑がパートナー化神に……ちょっと想像したくない姿が浮かぶから止めておこう。
「……どこまでなら、覚えていますか?」
湯呑みに淹れた魔剤を一口飲むと、エオストーレはカーバンクルに切り出す。
「キミの方は、何までなら覚えているっプイ?」
「質問しているのはワタクシです。まずは答えなさい。貴方の確認事項はその後です」
だからエオストーレさん、圧が強い。
「ボクは少しだけ、時間感覚がおかしくなっている筈っプイ。だけど把握できる範囲で答えるなら、ボクが記憶を失う切っ掛けとなった戦いは、今から12年前の筈っプイ」
「……一番大切な事は覚えているのですね。貴方は昔からそうでした」
「そういうキミは、何を知ってるっプイ?」
カーバンクルの問いかけに、少しの沈黙が流れる。
そしてエオストーレは再び湯呑みの魔剤を少し飲むと、言葉を紡ぎ始めた。
「貴方と出会いはもう少し遡るのですが、本当に必要な話は12年前の戦いでしょう」
「ボクは何かと戦って負けた。それだけは覚えているっプイ」
「その通りです。もしも貴方が勝利していれば、ワタクシはとうの昔に貴方をミートパイにして葬っていますから」
「ボク本当に何をしたっプイ!?」
正直俺も気になる。
カーバンクルが記憶を失っているってのは前にも聞いたけど、具体的にどんな過去があるのかは全く知らないからな。
「一つ。当時まだ目覚めて間もなかったワタクシに対し、保護者面をして油断させてきたと思えば……次の瞬間タコ殴りにしてきた挙句『天使の娘っ子よ。その身を我に仕えさせると言ふならば、データダストにするのは勘弁してやろう』などと言って脅し! 挙句10年以上もワタクシを馬車馬のようにこき使ったのが貴方です!」
「エオストーレ、その信じられないド畜生は誰っプイ?」
「他でもない貴方ですよカー
やべーぞ、エオストーレさんどう見ても積年の怨みつらみを爆発させている。
というかカーバンクルってそんな昔話の邪神みたいな悪役ムーヴしてた時代あったの?
しかもエオストーレが言うには10年以上って……化神って俺が思っていた以上に昔からいるのか?
「二つ。12年前、貴方がワタクシに『娘っ子よ、今まで苦労をかけてきた詫びだ』などと今まで見せた事のない優しさを向けたと思えば! 突然『詫びの品は栄誉だ』と言って軍勢の指揮を任されたせいで、ワタクシは何度も過労で倒れました。上からも下からも毎日苦情を受け付ける中間管理職の苦悩が、貴方に分かりますか!?」
「分からない。だけどボクには過労死の辛さなら分かるっプイ」
「黙りなさい光堕ち詐欺常習犯のDV老害。何故よりにもよって〈
あのエオストーレさん。なんかさらっと重要な事を言ってる気がするんですが。
12年前の戦いってのも気になるけど、それより俺としては〈極限獣〉って言葉が気になる。
えっ? もしかして前の世界ではアニメ未登場だったけど、カードの背景ストーリーでは滅茶苦茶目立ってた〈極限獣〉シリーズが化神で存在するのか。
「12年前の戦いで軍勢が全滅した後……最後まで戦おうとしていたワタクシに、貴方は何をしたと思いますか?」
しまった、聞きたかったけどシリアスゾーンに入られた。
明らかにエオストーレの口調がそんな感じになっている。
またタイミングを改めてにしよう。
「『貴様の顛末を選ぶのは我だ。死ぬことは許さん』……ワタクシをそう言いくるめて、貴方はワタクシを休眠状態に追い込んだ」
その言葉を紡ぐエオストーレの声色に怒りは薄く、どこまでも切なく……どこまでも寂しそうに聞こえた。
自責の念だとか、答えの返ってこない問いかけだとか。
ただカーバンクルに、かつての思いをぶつけたくて仕方がないといった様子に思えた。
「ただ一人生き残り。亡き同胞の無念を背負って、ソラナキへと挑みたかった。ですが貴方はそれすら許さず、ワタクシを騙して休眠状態に追い込んだ」
「……その時、どんな道筋がボクとキミの間にあったかは分からない」
だけど――とカーバンクルは続ける。
「きっと同じ状況になったら、今のボクも同じ事をするかもしれない。名誉の死より、泥塗れで明日を手にした方がずっと良いいっプイ」
「泥では洗えぬ情もあるのですよ。もっとも……今となっては全て終わった事ですが」
「終わっているけど、終わってない。だからキミはボクのところへ来た」
「……やはり記憶を失っても貴方は変わりませんね」
怒りも何も落ちたかのように、エオストーレは淡々と言葉を返している。
「あの戦いで生き残った化神は貴方とワタクシ……で合ってるのでしょうか? 休眠状態にされたせいで、ワタクシもまだ記憶が完全に回復していないのです」
「それは……申し訳ございませんっプイ」
「この流れで素直に謝罪をしてくる辺り、貴方も相当丸くなったのですね。あのボディーブローは絶対に許しませんけど」
ようやく感情が落ち着いたのか、エオストーレは改めて湯呑みの中の魔剤を飲み始める。
やっぱり絵面が凄まじいんだよな。
ただそれはそうとして、俺としても聞いておきたい事が――
「エオストーレ。ソラナキってなんですか?」
――ソラに先を越されてしまった。
でも俺が聞きたかった事も同じである。
カーバンクルとエオストーレが戦ったと思われる存在についてだ。
「カーバンクル。貴方はソラナキについて覚えていますか?」
「覚えてない……けど、その名前で心がゾワゾワするという事は確かっプイ」
「ではワタクシが知る範囲で話しましょう」
湯呑みを置くと、エオストーレは座布団の上で正座をしたまま話を始める。
「ソラナキ。簡単に表すのなら……最強にして最悪の化神です」