俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ツルギの母であるやよいは、お隣さんこと藍の家を訪れていた。
リビングでお茶とお菓子を並べており、一見すると昼下がりのママ友会のようにも見える。
「…………」
「あの〜、顔色が悪いですけどぉ……大丈夫ですか」
やよいの前に座っている、三十代くらいの若い茶髪の女性。
藍の養母である
「もし体調が良くないようでしたら、また後日でも」
「えっ、アハハ、大丈夫ですよ。なにも問題ないんで」
「そうですか〜、ならよかったです」
必死に取り繕おうとしている可蓮。
そんな彼女を前にして、やよい呑気な雰囲気を崩してはいないが、糸目の奥には含むものが見え隠れしていた。
異様な空気感が漂うなか、可蓮が適当につけていたテレビの音だけが二人の耳に入ってくる。
「……藍ちゃん。色々忙しそうですね」
「えぇ、まぁ、もうすぐ文化祭ですし。それに忙しいのはお宅のツルギくんもですよね」
「そうですね〜。色々と後始末もあったそうですし、今は文化祭の準備も…………だけど、本当に忙しいのは」
もう少し後の事だ。
そんな意味合いを含めて、やよいはテレビに映る情報番組に視線を向ける。
情報番組が扱っていた内容は、来年接近する予定の彗星に関する話題。
『前回観測できたのは今から12年前なので、来年は13年ぶりに
番組の司会が口にした『虹色彗星』という言葉に、やよいと可蓮は各々何かを思うような表情を薄く浮かべる。
だがそれも束の間。
やよいはいつも通りの雰囲気に戻り、あくまで世間話程度の軽さを演じて話を切り出してみる。
「虹色彗星、久しぶりだから楽しみですね〜」
「そうですね。藍は初めてだろうし、当日はしゃぎ過ぎるのが目に見えて……はぁ……」
「前回は子供達もみんな小さかったですし、覚えてなくても仕方ないですよ〜」
「ですよねぇ。アタシも前回の頃は仕事が忙しくて、結局気がついたら彗星が通り過ぎてたんですよ」
「あらあら〜、それじゃあ今度こそみんなで見ないといけませんね〜」
あくまで普通の世間話。
そうして相手が油断したところを、やよいは突いていく。
「ブイドラちゃんや、化神のみんなも一緒に」
「…………誤魔化しは、必要ないって感じかなぁ?」
「そうですねぇ、少なくとも私は最初から見えていたので。子供達はもう少し後からですけど」
のんびりと湯呑みでお茶を飲みながら、やよいは落ち着いて受け答えをする。
それとは反対に、可蓮は明らかに警戒心を強めていた。
当然それだけ露骨な警戒心は、やよいにも容易く気付かれてしまう。
「そう警戒しなくて大丈夫ですよぉ。別に何か悪い事をしようなんて気はないので〜」
「簡単に言ってくれちゃって」
「……『財団』と戦った過去を持つ。そう言えばご理解いただけますか?」
やよいの言葉を聞いた瞬間、可蓮は目を見開いた。
こんな平凡な場所で、無警戒に自身の立場を端的に伝えてくる。
そんなやよいの言動が、可蓮にはあまりにも想定外過ぎたのだ。
「どの『財団』なのか、説明は不要ですよね?」
「まさか……本当に?」
「
あまりにも大雑把な返答。
だがそれは可蓮の警戒心を和らげるのに十分な効力を持っていた。
同時に可蓮は『本来であれば警戒すべきは自分ではなく、やよいの方である』という事も理解した。
「可蓮さんも、アレらと関わりがあったんじゃありませんか?」
「えぇ……恥ずかしながら以前は研究員として色々と」
「やっぱり過去形ですよねぇ。現在進行形で関わっている人なら、今ごろ手荒な方法をとってますもん」
そう言って頬を膨らませるやよいだが、可蓮は心の中で「それはアタシが手荒な事をするの? それともやよいさんがするの?」と冷や汗をかいていた。
だが同時に、可蓮の中には疑問が芽生えてしまう。
「あの、ちょっと失礼な事を聞くんですけど……やよいさんのお子さんって、二人とも実子ですよね?」
「そうですけど……あっ! もしかして化神適性のお話ですか?」
やよいの言葉に、可蓮は頷いて肯定する。
化神適性は生まれつき持っていなくても、後天的に付与する処置が可能である。
しかしその処置方法を知るのは一部の限られた者のみであり、その方法も決して人道に則っているとは言い難い。
それらを知っているからこそ、可蓮は気になってしまったのだ。
「……子供達は二人とも後天性です。先天性で適性を持つのは私だけ」
「やよいさん、先天性だったんですか!?」
「昔は色々大変だったんですよ〜。でも適性のおかげで夫と出会えたので結果オーライです」
やよい曰く、子供達の父親も先天性で適性を持っていたとの事。
だが化神適性は決して遺伝するようなものではない。
であれば二人の子供に備わった適性が後天性だという事は納得できるが、何故適性付与をしたのか可蓮には見当もつかなかった。
「もしかして、やよいさんも元『財団』関連で――」
「いいえ。私も夫も『財団』の元で働いた事はありません。子供達の適性は後天性ですが、特別な処置を施したという訳ではないんです」
「えっ……? どういう事ですか?」
「後天的に適性を得るには、たった一つの条件を満たせば良い。それを意図せず満たしてしまっただけなんです」
そう言うとやよいは湯呑みを置き、「むしろ私は」と話を変えてくる。
「どうして藍ちゃんが適性を持っているのか。そっちの方が気になりますね〜」
糸目の奥から、やよいの「絶対に逃さない」という意思が可蓮に向けられる。
蛇に睨まれた獲物のように、可蓮は情けなく心拍数を上げてしまう。
とはいえ、この流れでは聞かれても仕方はないと判断し、可蓮は大人しく質問に答えるのだった。
「藍は……アタシが働いていた研究所に送られてきた、被検体だったんです」
「研究……化神関係の?」
「ええ。化神そのものと適性者に関する研究……という事になっていました」
嫌なものを思い返すように、可蓮は顔をしかめる。
「実際その通りではあったんですけど……上が徐々に変な要求をし始めまして。気づけば身寄りのない子供を使った人体実験までやり始めたんですよ」
「……『財団』のやりそうな事ね」
「『財団』の息がかかった施設なんて、いくらでもありますから。アイツらには養護施設も人間牧場でしかないんでしょ」
「そうですねぇ……アレはそういう事を平気でする」
そうして研究所に連れられて来た子供達の一人が、藍であったと可蓮は言う。
数いたはずの子供達の、たった一人。
だからこそ、新たな疑問も出て来てしまう。
「藍ちゃんの他にも、被験者の子はいましたよね? その子達は?」
「今となってはもう……」
分からない。
生き死にさえ、何も分からない。
可蓮は後悔を浮かべながら、そう答える。
「どうして、藍ちゃんだけ連れ出したんですか?」
可蓮が『財団』を辞めた……否、逃げた理由はいくらでも想像ができる。
だがその一方でやよいは、何故可蓮は藍だけを連れ出したのかが気になってしまった。
可蓮は言葉を選ぶように、しばし黙り込んでしまう。
「……最初は、気のせいだと思ってた」
ポツリポツリと、可蓮は語り始める。
「初めて研究所にやってきた時も、何人かいる子供達の一人だと思っていて……親友に似ている気がしたのも、全部気のせいだと思ってた」
「……気のせいじゃ、なかったんですね」
やよいの言葉に、可蓮は頷いて肯定する。
髪色も顔つきも、見れば見るほど『母親』に似ているとしか言いようがなかった。
「
「研究所に運ばれてくる条件は、一応満たしていたんですね」
「最初は本当にまさかって思ったんですけど……藍が、決定的なものを持ってたんです」
この世界は、児童養護施設が少し多い。
同時にカードゲーム至上主義という価値観故に生まれた文化もある。
生き別れる我が子に最後の愛情を託す親心。
物心がついていない赤子であっても、カードを1枚託して預けて去っていく親は珍しくないのだ。
可蓮は……親友が我が子に託したカードを知っていたのだ。
「〈【勝利竜】ブイドラ〉のカード……顔も似てるってのに、希少なカードまで一致していたら疑う余地なんて消し飛んじゃう」
「じゃあ可蓮さんは『財団』から逃げたというより、藍ちゃんのために……」
「結果的には、ですね……アタシの意思も多少はありましたけど」
それ以上に……と、悔恨の想いを滲ませながら可蓮は続ける。
「優華が、自分の娘を取り戻そうとしたんです……アタシはその手助け」
「…………お辛いようでしたら、無理にお話しなくても大丈夫ですよ」
当の藍自身が、現在実母の元ではなく可蓮の元で暮らしている。
それが答えであった。
そう判断したからこそ、やよいはどこかやり切れない感情を抱いてしまう。
「託されちゃったの。『この子をお願い』って……絶対断れないって分かってた筈なのに」
「信頼してたんだと思いますよ。我が子を託せるくらいに」
「……これ、藍には秘密にしていて貰えますか? あの子、あー見えてメンタル弱いから」
「分かりました。正直私も、子供達には色々ナイショにしているんです……真実を知った時、受け止めてくれるか分からなくて」
「お互い、苦労しますね」
「そうですね〜、親って本当に大変なことばかりです」
お互いに出来上がっていた壁が消えたのか、軽い気持ちで笑い合える。
逃げたからといって終わるわけではない。
悪意はまだどこかで生きている。戦いはいつか再開するのだろう。
それを理解した上で、二人は今この時この平穏を謳歌する。
「……可蓮さん」
とはいえ、分かりきった厄災は対策しておきたい。
やよいは可蓮に一枚の名刺を差し出す。
「12年前『財団』との戦いで、私達を支援してくださった先生の連絡先です」
「先生……?」
「夫の考古学の師匠なんです。今はお寺の住職をされていますが……信頼できる方です」
「……もしもの時はって事ですか」
「はい。必ず力を貸してくれます」
そしてやよいは「先生、藍ちゃんとはもう会った事があるそうなので」と言う。
可蓮は名刺に書かれた名前に視線を落とした。
「
「可蓮さんの事は、後で先生にお伝えしておきます……来年は虹色彗星が来ますので、『財団』も動くはずです」
「なるほどねぇ……化神関連なら確かに見逃せないか」
仮にも化神関連で研究をしていた人間。
可蓮はすぐに『財団』が動き始める動機を理解した。
彗星に世界大会そして『財団』が動くとなれば、来年は激動の一年になるだろう。
そんな未来に想いを馳せながら、やよいはある事を考えていた。
(来年は色々ありそうだし……やっぱり先生にお願いして、
やよいはかつて共に過ごした化神を思い浮かべながら、万が一に備えるべきか考える。
来年は何が起きるか、いくら想定しても足りない。
ツルギから聞かされている話とも照らし合わせるが、それでも足りないだろうと、やよいは考えていた。
「隠し事の限界、近づいてるのかな」
「かもしれませんねぇ……ならせめて、その時までに子供達の心が成長している事を願いましょう」
可蓮の言葉に、やよいは願望を含めて返す。
激動の中で真実に辿り着いた時、子供達はどう思うのか。
方や『自身の出生と、娘を守って実母が死んだ』という真実。
方や『父の死と、転移の真相』という真実。
過酷な真実を知った子供達に恨まれた時、自分達は親としてどう向き合うべきか。
二人の母親は、遠くない内に来るかもしれない瞬間に思い悩むのだった。
「……それにしても可蓮さん。よく『財団』から逃げ切れましたね〜」
「運が良かったってのもありますけど……追跡を妨害するために、ちょ〜っとお役所関連で黒い細工もしたんで」
「あら〜、でもそれくらい必要ですよね〜」
黒い細工について耳にしても、やよいはのほほんと納得する。
逃げる相手が相手だったで、ある種の不可抗力ではあったが……それはそうとして、心の中で「この人の倫理観大丈夫かな?」と思う可蓮なのであった。