俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ソラ達が女子会をしていた頃。
休日の平穏な時間を、一人で過ごしている男がいた。
いつも通りの眼鏡かけ、私服姿の
「こうして一人で街を歩くというのも、久しぶりな気がするな」
日曜日なので人通りの多い繁華街を、学人は目的もなく歩いていく。
新たな帝王も無事に決まり、学人も評議会補佐として忙しい日々を送っていた。
「しかし……
現在序列3位。
ツルギ達はまだ評議会入りしたばかりなので、現状実質的なナンバー2でもある。
つまり事後処理に関しても多忙の極みに至ってしまうポジションだ。
今頃忙しさのあまり無の局地に至っているだろう。
「黒崎先輩は連絡が取れないし、やはり無理を言ってでも手伝いに行った方が良かったか?」
一応休日に入る前に、一年生の面々で手伝いを申し出たのだが……
『上司命令よ休みなさい。このツケは全て急にサボり癖を再発させた【///聞くに耐えない罵詈雑言///】の不良帝王に全額耳揃えて払わせるわ』
と、明らかに大丈夫じゃない形相のツララに言われてしまったのであった。
なお、やはり手伝いは必要だったのか、すぐ後には
「こう言うのも何だが、鳳凰院達は妙なところで運がないな」
ツララに捕まった事だけではない。
本人達がライバルと言って憚らない九頭竜真波からは、イマイチ視界に入れてもらえず、合宿等では相変わらず圧倒され。
ランキング戦ではツルギの試運転に蹂躙された挙句、財前との試合には呼ばれ忘れて会場の外に放置されていた。
学人は一度、一連の運の無さについて鳳凰院妹こと鈴音に聞いた事があるが、返ってきた答えは「よくあることデス」だけであった。
「
人の喧騒を背景にしながら、学人は何気なく足を止める。
目に入るのはビルに備え付けられた大型ディスプレイ。そしてビル前の広場に設置された屋外ファイトステージだ。
ファイトステージでは幼い子供達が無邪気にサモンで対戦をしている。
そんな未来ある子供達を見下ろすように、ビルの大型ディスプレイには昨日行われたプロリーグの様子が流れていた。
学人は大型ディスプレイに流れる試合映像へ視線を突き刺す。
「大きく前進した実感はある……だけど、これで足りているとは思えない」
試合を終えたプロ選手の男は甘い仮面を被って、あくまで爽やかな好青年のようにインタビューに応じている。
その男は学人にとって深い因縁のある実兄……速水リュウトであった。
兄に勝つという速水学人の目的は、なにも変わっていない。
加えてこの二年間で、学人自身大きく力をつけたという実感はあった。
だが足りない……足りているのか、自身の中でも判断しきれない。
(下手に焦ればウイルスに感染した時の二の舞……それだけは繰り返すわけにいかない)
頭では理解している。
地下ファイト施設でツルギが魂の奥底から叫んできた一件も、学人の心に深く刻み込まれている。
だが同時に、来年には自分にとって最大級のチャンスもやってくると、学人は理解していた。
(
四年に一度開催される大型世界大会の一つ。
来年の開催地は日本、それも
WUCSは大型世界大会の中では有数の、参加条件が緩い大会である。
それは実質、プロとアマチュアの垣根が消え去った無差別級大会と呼んでも過言ではない。
相手の性格を知っているからこそ、学人は自分の兄が『雑魚狩り遊び』ができる大会を見送る筈がないと考えていた。
だが同時に、学人の中に芽生えるのは一つの悩み。
「チーム戦、か」
目の前にある屋外ファイトステージで和気藹々とサモンをしている子供達を眺めながら、学人はポツリと呟いてしまう。
WUCSはチーム戦、一人で出場する事はできない。
必然的にチームメイトを集める必要があるのだが……そこで学人の中に躊躇いが生まれてしまう。
JMSカップで共に戦ったツルギとソラ、決勝でぶつかり合った愛梨。
そして六帝評議会に名を連ねている
きっと彼らは、声をかければチームとして参加してくれるだろう……だからこそ、学人は悩んでしまう。
「俺の都合で、巻き込んで良いのか」
学人は人々の喧騒と、ファイトステージから聞こえる平穏な声を耳にしながら自分自身に問いかけ続ける。
だが、コレだという答えは出てこない。
問題を先送りにするような気持ちになったが、学人は静かにその場を後にする。
少し歩き疲れたのでどこかで休憩でもしよう……そう考えて適当に選んだ喫茶店に入った時であった。
「…………あっ」
偶然にも視界に映り込んできたのは、あまりにも見覚えのある白黒半々の髪が特徴的な序列第1位。
オレンジジュースを片手に、一休みを通り越して最早虚無の表情を浮かべている黒崎
あまりにも意外過ぎる遭遇に、速水は思わず間抜けな声を出してしまう。
「黒崎先輩……なにをしているんですか」
「…………あっ、見つかってしまったか」
学人が声をかけるも余程無になっていたのか、勇吾は数秒間を置いてから反応をしてくる。
いつもの冷徹な仕事人のイメージから一転して、完全に脱力しきっている勇吾に、学人は一つだけため息を吐くのであった。
「見つかってしまった、じゃないですよ。急に音信不通になるものですから、音無先輩がカンカンに怒ってましたよ」
「そうか……ちなみに音無はなんて言ってた?」
「その、見つけ次第【///無駄にボキャブラリー豊かな罵詈雑言///】の不良帝王は【///具体的過ぎる制裁方法///】に処すと」
「……あとで音無に連絡を入れておく」
「そうしてください。既に二人程労働力として捕まっています」
表情こそ崩していないが、冷や汗をかいてジュースを持つ手が震えている勇吾。
一応ツララに一言連絡を入れておこうかと思っていた学人であったが、勇吾が明らかに焦っている様子なので、一旦保留にする事とした。
学人はひとまず、そんな先輩の向かい側に座る。すると勇吾はメニュー表を差し出してきた。
「オレが奢る。チョコレート以外なら好きに頼め」
「先輩……口止めにしか聞こえないのですが」
「否定はしないが主題でもない。個人的に速水には負い目があっただけだ……せっかくこうして、話をできる機会もできたしな」
勇吾が負い目に感じる事に心当たりがないので、学人は反射的に「負い目?」と聞き返してしまう。
「政帝がお前にウイルスを感染させた事件があっただろう?」
「えぇ……でも何故先輩が負い目を」
「これは身勝手な贖罪だと思って聞いて欲しい。あの時オレは、個人的な調べ物でとある地下ファイト施設を探る予定だった」
当然、その地下ファイト施設とは学人が政誠司に呼び出された場所。
ウイルス感染した学人がツルギとファイトをした場所である。
「あの時のオレはお前と兄の件も知らず、政帝の愚行にも気づいていなかった。だから生徒が地下ファイト施設に入っているとしても、よくある非行だと思っていたんだ」
「それなら別に、先輩は何も悪くないのでは……」
「流石にお前も気づいているだろ、オレのサボり癖を」
まさか勇吾が自分のサボり癖に自覚を持っているとは思わなかったので、学人は少し驚きつつも頷いて答える。
「昔色々あってな。自分のキャパシティを超えそうになったら即座に逃げてサボる……そういう生き方をしているんだ」
「そうなんですか」
「特に誰かに押し付けて問題無さそうな事が続くとな……何も考えない時間をかき集めたくなるんだ」
どこか虚な目を浮かべて、そう語る勇吾。
元々学人は勇吾のサボり癖に対して、暗部の仕事をする際の言い訳だと解釈していた。
出会ってからずっと色々と頼りになる先輩だっただけに、まさか本当にただサボっているだけだとは思いもしなかったのだ。
とはいえ勇吾にも何らかの事情があるのだろうという察しは、今の学人でもついていた。
「あの時、オレは地下ファイト施設へと向かう
「それって、もしかしなくても……感染した俺と天川がファイトした時の事ですね」
学人の言葉に、勇吾は「そうだ」と言って肯定する。
勇吾曰く、日本だけでも各地に点在すると言われている地下ファイト施設。
その中には『財団』が関わっていると思われるものもあり、勇吾は近隣の地下ファイト施設に忍び込んで調査をしていた。
連日の調査で流石に疲労が溜まっていた頃、次の調査を終えたら少し休もうと考えていた矢先に……勇吾は目的の施設へと焦って急行する牙丸とツルギを目撃したのだ。
ある意味では、色々と運が重なってしまった結果でもある。
勇吾自身の疲労とキャパシティに加えて。
序列第3位の王牙丸と、学園でも話題の一年生こと天川ツルギが血相を変えて地下ファイト施設へ向かっていく状況。
これらを前にした当時の勇吾は少し考えてから……
『……明日にするか』
牙丸が一緒なら、下級生が地下ファイトで金銭を賭けるような事にはならない。そこにツルギが加われば敗北によるトラブル発生もないだろう。
何より牙丸が血相を変えている時点で、間違いなくややこしいトラブルなので、今は首を突っ込みたくない。
そう結論付けた勇吾は、踵を返してしまうのだった。
「事件の真相を知ったのは、その後の事だった……本当にすまない。オレも行っておくべきだった」
「……そう言ってもらえるだけで十分です」
静かに、だが同時に微かな笑みを口元に浮かべて、学人はそう返す。
最初から勇吾を責める気などない。あの一件は自分が蒔いた種だと、学人は考えていた。
「あれは俺個人の問題でもありました。天川が手を伸ばしてくれたからこそ、俺は今ここにいられるんです」
「オレでは役不足だったか」
「そうやって心配してもらえるだけで、俺には十分ありがたいです……誰かに思ってもらえるだけで、幸せですから」
「そうか……良い友を持ったな」
速水学人という後輩の背景事情は、勇吾も把握している。
故に学人の口にした「幸せ」という言葉の重みも、勇吾は理解していた。
同時に「友」という言葉を耳にした瞬間、学人の目が微かに揺れた事も、勇吾には見えていた。
「今日は遠慮せず好きに頼め。チョコレート以外なら奢る」
「チョコレート、苦手なんですか?」
「そうだな……あまり良い思い出はない」
どこか遠くを見るように、そう口にする勇吾。
学人はあまり深く考えずに、カフェラテとケーキを注文するのだった。
そして注文したものが運ばれてくると、勇吾は軽く鎌をかけてみる。
「そういえば来年はWUCSがあるが、速水は出るのか?」
「そ、それは、まだ決めかねて……」
「お前の兄の事は聞いている。裏では随分と色々やっている輩だという事も、その性格も」
故にWUCSには出てくる可能性は高い。
ならば学人にとってこの大会は、公の場で兄を討つチャンスである。
それは勇吾でも簡単に理解できた。
「動機は十分にある。出場に必要なチームメイトもJMSを制した『ゼラニウム』のメンバーが揃っている筈だ」
「それは、そうですが……」
「なるほど、そこで悩んでいたのか」
学人が何を躊躇っているのか、勇吾はおおよそ検討がつく。
己のトラウマに怯えているのではない、他人を信用できない訳でもない。
友を想うから踏み出せないのだ。
「悩むくらいなら壊す覚悟で踏み出せ。なにもせずに終われば、永遠に後悔する」
「……俺は、あいつらの隣に立てるのか、不安になります」
「評議会決定戦に出場するような男が、よく言う」
「それでもです。俺は自分の強さが足りているのか……分かりません」
出てきた言葉は己自身に対する疑問。
周囲が規格外の強者である故か、学人はどこか己を低く見積もってしまう。
それはある種の必然……だがそれ以上に、勇吾は学人の発した一言が引っかかっていた。
「足りない……か」
勇吾は小さくそう呟くと、少し考え込む。
そして意を決したようにグラスに残っていたジュースを一気に飲み干すと、勇吾は学人に問いかけてきた。
「速水。召喚器は持っているな?」
「持っていますが」
「ソレを食い終わったらファイトするぞ。オレが稽古をつけてやる」
あまりにも予想外なファイトの誘いに、学人はポカンと口を開けてしまう。
一方の勇吾はいつも通り落ち着いた様子ではあるが、どこか年長者としての含みがあった。
「財前の奴といい……世話が焼ける」
聞こえない程の小さな声で呟く勇吾だが、後輩を見捨てるような選択肢は最初から存在しなかった。
【第二百三十九話:オマケ】
●黒崎勇吾の生存フラグについて
この真実を知る者はいない。
速水学人は知らず、赤翼ソラも知らず……黒崎勇吾も知らない。
前の世界でアニメを見ていた天川ツルギでさえ、この真実に気づく事はない。
ツルギが速水を探して地下ファイト施設へと急行したあの日。
本人が語った通り黒崎勇吾はツルギ達を目撃していたが、疲労とキャパシティオーバーによりその場を去ってしまっていた。
だがもしも……もしもこの時、勇吾がサボらずにツルギについて行っていたら?
ツルギと速水(感染)が戦う、あの会場に行ってしまっていたら?
速水感染事件そのものは無事に解決しただろう。
だがその後は……黒崎勇吾はどうしただろうか?
他の地下ファイト施設とは比べ物にならない規模の会場。そして裏社会に身を置く、気絶した人間達。
当然その中には『財団』に関わる人間もいただろう。
自身にとって最大の因縁であり目的でもある『財団』に大きく近づける可能性。
黒崎勇吾が欲を出してしまう展開は想像に難く無い。
もしもあの時、ツルギが速水を探しに地下ファイト施設へ突入するという選択をしていなければ。
黒崎勇吾がサボる理由を、ツルギが無意識に作っていなければ。
……一人で調査に乗り出した黒崎勇吾はその動きや動機が、『財団』と政誠司に全て伝わってしまっただろう。
そうなれば黒崎勇吾は命を狙われ、『財団』の差し向けた使者と戦う事になる。
そして黒崎勇吾は人知れず殺害されてしまい、ツルギの言う「原作通りに忽然と退場していた」という状態になっていた。
しかしこの真実知る者は誰もいない。
特に当事者達は決して、知る事がないのだ。