俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

248 / 260
第二百四十五話:#ロックオン①

 文化祭当日も近づいてきて、学園生活は絵に描いたような忙しさとなっている。

 加えて俺達は六帝(りくてい)評議会という、実質的な実行委員会も兼ねているから更に忙しい。

 今日も空が暗くなった中、頭の上にカーバンクルを乗せて帰路につくのでしたと。

 

「はぁ……黒崎先輩が戻ってきたとはいえ、俺ら新入りの仕事が多いこと多いこと」

「仕方ないっプイ。それが社畜というもの。ツルギも社会人として過労の辛さを知るべきっプイ」

「俺学生なんですが」

 

 もちろん前の世界も含む。

 あと過労を勧めるな。俺達人間には労働基準法が採用されているんだぞ。

 この世界で過労死して良いのはループコンボのパーツだけだ。

 

「癒し、労働を終えた人間には癒しが必要だと思うんだよ。分かるかカーバンクル?」

「キュップイ。分かるからボクにも癒しを与えるべきっプイ。具体的には休暇とか」

「検討はします(実行するとは言ってない)」

 

 だってよぉ、文化祭の諸々書類事務仕事やってるんだぞ。

 慣れない仕事は脳に負荷をかけるものです。

 

「カーバンクルも学校で見てなかったか? 音無(おとなし)先輩が右手で書類を片付けながら、左手で黒崎先輩を締め上げていた場面とか。補佐として手伝ってくれていた鳳凰院(ほうおういん)姉がカフェインの飲み過ぎで目ェバキバキのゾーン状態になりながら仕事してた場面とか。鳳凰院妹なんて紅茶とエスプレッソと砂糖を1:1:2の割合でブレンドした地獄みたいな魔剤を錬成してたんだぞ」

「ダブルで飲めば大陸横断レースも制覇できそうっプイ……あとボクその時寝てたと思うっプイ」

「……そうか」

 

 じゃあ地獄の瞬間は見ていないのか。

 それなら仕方ないのだけど……どうにも気になる点は別である。

 

(頻度は間違いなく減っているんだけど……やっぱり化神が眠る事があるんだよな)

 

 俺は赤土(あかど)町や学園で化神が眠ってしまうのは、ウイルスカードによる影響だと思っていた。

 だけど(まつり)誠司(せいじ)達を倒してウイルスカードが町や学園から消えた今、化神が眠ってしまう要因は無いはずなんだよな。

 だけど実際問題、頻度こそ目に見えて減っているけれど、前と変わらない様子で眠ってしまう事がある。

 

(あれはウイルスが原因じゃなかったのか? ただの名残がまだあるだけか……それとも別の何かが原因なのか?)

 

 ただウイルスの名残がまだあるだけ、それが時間で解決されるなら別にいい。

 だけど本当に、全く違う何かが原因であれば……俺としてはそっちの方が心配になってしまう。

 実際ウイルス関係の事件では、この現象のせいで化神達の力を上手く借りる事ができなかった場面もあった。

 

(原因不明が一番怖いんだよな。今後の大きな問題に繋がらなければいいけど)

 

 結局こんなのは、願望や希望論の域を出ない。

 だったら今は余計な事を考えずに、自分自身を癒すための時間を過ごそう。

 カードゲーマーにとっての最強癒し空間、それ即ち!

 

「適当に選んで入ったカードショップ!」

「キュプぅ……仕事終わりに仕事してるみたいで狂気すら感じるっプイ」

 

 そりゃあ俺達はカードゲーマーですから。

 仕事(カード)終わりに仕事(カード)くらいするさ。

 書類という紙で疲弊した心身は、カードという紙でしか癒せない。

 それがカードゲーマーの背負う宿命なんだよ。

 

「ほぉらカーバンクルも感じるだろ? 過剰に効いたエアコンも無ければ、クソみたいに狭い通路もない、この理想郷のようなカードショップを」

「ツルギ、前の世界で何を見てきたっプイ?」

「この世界とは真逆の陰の空間。あとこっちのカードショップは店内環境の平均値が桁違いに高いので、シンプルに心地いい」

 

 もちろんこっちの世界の人々にとっては、ありふれたカードショップなんだろうけどね。

 俺がイレギュラー極まっていて、色々と比較対象がおかしいだけなのも理解はしているよ。

 だけどやっぱり、こっちの世界のカードショップは居心地いいんだよ。

 ……ちょっと値札からは目線を晒させていただきますね。

 

「キュップイ。でもツルギ〜、カードなら沢山持ってるのに今更なにか買う予定あるっプイ?」

「カードのシングル買いだけがカードショップじゃないんだぞ。あと俺だって持ってないカードくらいある」

 

 確かに俺は前の世界で入手したカードを持ち越せたから、こっちの世界の人々に比べて圧倒的なカード資産を持っている。

 とはいえ前の世界で入手できなかったカードだって何枚もあるんだ。

 なんでもは持っていないし、それこそ運が良ければこっちの世界で入手したいカードもある。

 

「それにさぁ、フリーファイトだってあるんだぜ。カードゲーマーたるもの勝負だって楽しみたいだろ」

「ツルギ。それはツルギが近所のカードショップで避けられている事と関係はあるっプイ?」

「……アリマセンヨー」

 

 仕方ないじゃん。近所のカードショップじゃ顔を知られて、フリーファイトを挑んだら逃げられるのも珍しくないんだぞ。

 たまに向こうから挑んでくる事もあるけど、ちゃんと俺は全力で迎え撃っているからな。

 別に普段行かないカードショップを適当にローテーションして、無差別フリーファイト挑戦マシーンになろうなんて考えていませんよー。

 

「キュ〜。人間の文字は読めても、金銭や宗教の価値観まではボクにはよく分からないっプイ」

「まぁ金銭の価値なんて常に変わるからな。世界どころか時代だけで色々と……宗教?」

 

 思わずショーケースから意識が飛んでしまったぞ。

 なんで急に宗教なんて言うのか。俺がそう考えていると、頭上のカーバンクルは「プイ」と言ってどこかを指し示した。

 なにも考えずにカーバンクルの示した方を見ると、そこには壁に貼られたポスターの群れがあった。

 一般的なカード関連の製品から、雑誌、プロチームの広告など。

 多様なサモン関連のポスターに紛れて、それは俺の視界に入ってきた。

 

「……うわぁ」

「これ確かツルギが売り払ったカードだったはず……いつの世も変な奴は出てくるものっプイ」

 

 噂には聞いていたが、俺はそれを視界に入れた事を深く後悔してしまった。

 

――おまえも我らのファミリーにならないか? 『ゴッデス・マザー教団』信者募集中――

 

 宗教勧誘のポスターである。

 しかもハズレSRを信奉するタイプのヤバいカルト教団だ。

 確かに前の世界でもクソカード無限回収勢だとか、雑魚レアに脳を焼かれたカルト集団とかは存在したよ。

 でもこの世界と違って、ガチの宗教法人にはしなかったよ。流石にそこまで脳を焼却してはいなかった。

 

「ツルギ、この御神体をどれだけ売り払ったっプイ?」

「い、1枚残して全部売り払ったから……9枚ほど売却しました」

「御身体を売却って考えると字面がヤバすぎるっプイ」

 

 仕方ないじゃないか。転移して早々の高額買取だったんだぞ。

 というか〈ゴッデス・マザー〉は前の世界じゃ1枚50円だったんだぞ。

 なんならシンプルに弱いから自分で使う予定もないのに、無駄にレアリティがSRだからカードショップのくじで10枚も集まってしまった。

 前の世界なら満場一致で大ハズレ枠です。

 

「いいかカーバンクル。信仰と経済を天秤にかけるなら俺は経済を優先するぞ」

「その言葉は目に¥マークを浮かべながら言っていいのか、ボクには疑問っプイ」

 

 人間の心は弱いんだ。特に俺のような小市民はお金に弱い。

 

「にしてもカードショップにこの手の張り紙があるってのも、こういう世界だからかな? 俺は初めて見たけど」

「宗教勧誘って珍しいものっプイ?」

「少なくとも俺の知るカードショップというものには勧誘の張り紙なんてなかったな。ショップ近隣で悪質な勧誘する輩が出たって話ならあったけど」

「ふ〜ん……それって、あんな感じの勧誘っプイ?」

 

 頭上のカーバンクルがどこかを指差している。

 つまり俺の中で猛烈に嫌な予感がしたと言う事だ。

 絶対に何かよろしくないものがあるし、絶対に巻き込まれたら面倒な何かがある。

 とはいえこの期に及んで目を向けないというのも、今の俺にとっては後味が悪いのであった。

 

「お嬢ちゃん。お前も我々のファミリーにならないか? あとサインください」

「我らファミリーの案件を受けてくれるなら、報酬は惜しまないぞ。あとインフルエンサーの力が欲しいのでマジで入信しください」

「我らファミリーの神子(みこ)、いやマザーの代弁者になっていただけないだろうか?」

「うわぁ、マフィアコスプレの集団から宗教勧誘される事ってあるんだ〜。コスモまた一つ賢くなっちゃった」

 

 視線の先には混沌と事案が悪魔合体した光景が広がっていた。

 なんだろうか、間違いなくよろしくない事態が起きている筈なんだ。

 だけど絵面があんまりにもあんまり過ぎる。

 だって「我々はマフィアです」と言わんばかりに黒い高級スーツとサングラスを身につけて宗教勧誘をしているんだぞ。

 ……マフィアからは程遠そうな体型の男三人組が、女の子一人に対して。

 

「なぁカーバンクル。これは俺が介入するのと警察に通報するの、どっちが良いと思う?」

「店員に通報という選択肢はどこにいったっプイ……まぁツルギの好きな方で良いと思うっプイ」

 

 じゃあ介入の方を選びます。

 流石に卯月と歳が変わらなさそうな子が囲まれているのは、見ぬふりでスルーしたくない。

 それに……ここはカードゲームが幅を利かせている世界だ。

 万が一のトラブルは、デッキを以て解決できる。

 

「どうか、どうか我らのファミリーに!」

「う〜ん……ごめんなさい。コスモはみんなに愛されたいから、モラルに難ありなクライアントさんの案件はお断りしたいかな〜って」

「そこをなんとか! みんなに愛されるJC神子の誕生をどうにか!」

「……キッモ」

 

 やべーぞ思った以上に不審者案件だ。

 介入の後警察も呼ばなきゃいけない。

 というかあの女の子、どこかで見たことあるような……?

 まぁいいか、そんな事は後回しだ。

 俺はショーケースから離れて、マフィアコスプレの男達に近づく。

 

「おいそこの……イオンモールで買ったトップバリュのスリーブ使ってそうなお前ら。女の子を集団で囲むなって道徳の授業で――」

「「「突然のヘイトスピーチが我らファミリーの心を傷つけた!?」」」

 

 やかましい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。