俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
「トップバリュのスリーブはないだろ! トップバリュは!」
「我らファミリーはそこまで陰なスリーブを使ってはいない!」
「普段使いは誇り高きセブンプレミアムだぞ! 撤回しろ!」
俺が言うのもなんだけど、どんだけトップバリュが嫌なんだよ。
涙目で否定するレベルなのか?
あとその流れで他所のプライベートブランドあげても評価は覆らないぞ。
「とりあえずお前らのスリーブが激安の殿堂かどうかは置いておいて。男三人で女の子一人を囲むのは道徳的にどうなんだ?」
「おのれぇ、的確に我らの心を抉り抜きおってぇ……」
「教本に従えばキラキラ系女子に話しかけられるというなら、我らファミリー全員道徳の教科書を常備しているわァァァ!」
「貴様にはわかるまい! 話しかけただけで女子のテンションが下がり、冷たい目線と孤独を味わうあの恐怖が!」
「俺は自分を棚に上げられるような人間じゃないけど、そこから集団ナンパと宗教勧誘に走る精神性は絶対に理解したくない」
そもそもカードショップで勧誘活動なんかするな。
しかもクソSRを狂信するような、カスの逆張りするタイプの宗教に。
「ともかく勧誘するならもっと別の場所でやれ。今度は集団で囲まず一対一でさぁ」
「それができる我らファミリーだと思うなァァァ!」
「我らファミリーの邪魔をする羽虫が。荒っぽい手段がお望みのようだな!」
揃いも揃って気の短い勧誘員だなぁ。
というかこの文脈で暴力ではなくデッキを手にする事に違和感を持たないあたり、俺もこの世界に馴染んだものだよ。
「覚悟しろ。我らが御神体〈【勝利の女神】ゴッデス・マザー〉を3枚採用した最強デッキで、貴様の罪深さを思い知らせてくれるわァァァ!」
「あぁ、うん……その……そのデッキで挑むっていうなら、止めはしないぞ」
宗教化している時点である程度想像はついていたけど。
本当に御神体(前の世界ならネタにすらならない)を3枚積み込んだデッキを握っているのか。
なんというか……相手のデッキパワーを察してしまった瞬間に、却って可哀想に思えてくる。
「小僧! 我らファミリーとファイトしろ!」
「セブンプレミアムのスリーブを使っている我らの偉大さを、その身に教えてくれる!」
「我ら断じてトップバリュではない!」
「お前らいつまでスリーブのくだり引きずってんだよ」
まぁ今は状況が状況なので、ファイトしてでも不審者を止めるんだけど。
俺が召喚器を手にすると、男達は感情赴くままにフリーファイトスペースへと移動するのだった。
……やっぱりこういう流れに適応できている自分に、ある種の成長を感じてしまう。
(とりあえずこれで不審者の関心は俺に向いたし……あの子も勝手に逃げてるだろ)
元よりそれが目的。
別にお礼がどうとか要らないし、むしろさっさと逃げてもらえた方がありがたい。
「我らファミリーの掟に則り、ファイトは一対一で執り行う!」
「三連戦でもなんでも良いから、お好きにどーぞ」
ヤる気満々なところ悪いけど、俺も手早く済ませるつもりだからな。
なんか周りにギャラリー集まっているし、妙に心配そうな目線を向けられているけど、コイツらもしかして常習犯か?
……その目線は俺に対してだよな?
「泣いたり笑ったりできなくしてくれる!」
で、ファイトが始まったわけなのだが。
案の定というべきか、俺の予想を一切裏切らない展開にしかならなかった。
「手札1枚とライフ2点を支払って〈【勝利の女神】ゴッデス・マザー〉を召喚! これで我らの勝利は確実――」
「魔法カード〈サーヴァント・サンダー〉を発動。碌な耐性すら持っていない女神様にはご退場願います」
「我らのマザーがァァァ!?」
「じゃあ後は適当に《眷属》のモンスターを召喚して攻撃あざっしたー」
「ぎゃァァァ!?」
不審者その1:ライフ8→0
ツルギ:WIN
これでまず一人。
そもそも先攻1ターン目に場持ちの悪い切り札を出すな。
「兄弟ィィィ!? おのれェェェ、俺が仇をとってくれる!」
テンション高いなぁ。
あとどうせお前も同じタイプのデッキなんだろ。
だったら当然こうなる。
「アタックフェイズ! 〈ゴッデス・マザー〉は戦闘で相手モンスターを破壊した時、味方を犠牲にすれば連続攻撃でき――」
「魔法カード〈トリックミラージュ〉を発動。ブロックしなければそもそも連続攻撃もできない」
「だがダメージは受けてもらう!」
「〈トリックミラージュ〉の効果で、このターン中俺が受ける戦闘ダメージは全部相手に跳ね返します」
「なにィィィ!?」
不審者その2:ライフ8→4
「クソっ、ターンエンド」
「はいじゃあ俺のターン。コストで《眷属》を2体疲労させて〈ダイヤモンドの幻竜〉を召喚。効果で相手モンスターを2体疲労させて、俺のモンスターを2体回復。これでお前のブロッカーがいなくなったので全員攻撃あざっしたー」
「何一つ通じないだとォォォ!?」
不審者その2:ライフ4→0
ツルギ:WIN
はいこれで二人目。サクサク終わらせましょう。
「おい。お前が最後の一人だぞ」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさァァァァァァい!」
「……そこは根性みせろよ」
もっとこう「ここで逃げたらファミリーの恥!」とか何とか。
そんな絵に描いたような小悪党の逃げ方をするなよ。他の二人まで同じ逃げ方してるし。
「……ボクの出番すら必要なかったっプイ」
「わかったか? アレはそういうカードなんだ」
「実践演習、勉強になったっプイ」
頭上に現れたカーバンクルが、拍子抜けと言わんばかりの様子で呟いてくる。
実際今回はカーバンクルを出す必要なかったからな(当然出してもよかったんだけど)。
とまぁそれはそれとして。
「なんか……気分乗らなくなったな」
「キュプ〜、今日は大人しく帰るっプイ」
さっきから視線がスゴいし、連続で不審者とファイトしたし。
急激に無差別級フリーファイトタイムを実行する気力が失せてしまった。
カーバンクルの言う通り、今日は大人しく帰ろう。
そう思って俺は、ため息だけ一つ吐いてからカードショップを出るのだった。
「あの〜」
「ん?」
ショップを出て帰路につき始めた瞬間であった。
一人の女の子が声をかけてきた。
俺は反射的にそちらへと振り向いてしまう。
「さっきは、ありがとうございました」
「あぁ、別にいいって、見てられなかっただけだから」
礼儀正しくお辞儀をしている女の子。
白に近い灰色の髪に、青いメッシュやインナーカラーがチラリと見えている。
服装的にも今どき女子って感じの女の子だけど……やっぱり見覚えがある気がするんだよな。
「あの人達、あっという間に店から出て逃げていったけど……やっぱりセンパイって強いんですねぇ」
「いやそれは、俺が強いっていうより……先輩?」
なんで急に先輩?
もしかして卯月の同級生とか、
そう思っていると、お辞儀の体勢から頭を上げたその子の顔を見て、俺はようやく全てを理解した。
「……あっ! 今年の優勝チームの子」
「はーい♪ 早乙女コスモです。よろしくお願いしまーす★」
まるでアイドルのようにウインクをしてくる女の子。
どこかVtuberのような風貌すら感じるこの子は、今年のJMSカップ優勝チームのリーダー。
チラホラと名前は聞いていた配信者の早乙女コスモだ。
「これまた奇妙な。我ながら変なところで出会いがある人生だよ」
「なんですかそれ。でもコスモ的にもセンパイに出会えて良かったです。だってコスモ、センパイ達のチームに憧れてJMSに出場したんですよ」
「マジ? なんか照れるなぁ」
まさか自分達の翌年に優勝したチームのリーダーが、自分達に憧れていたとは。
こう面と向かって言語化されると、むず痒さと照れを感じてしまう。
「なるほど。それで先輩か」
「それもですよ〜。コスモ来年には聖徳寺学園の後輩ちゃんになってるから」
「おっ、受験希望の子だったか」
今の時期だと受験勉強で大変だろうに。
いや、JMSカップ優勝しているだけの実力者なら、実技試験は余裕か。
……あっそういう事か。この時期に学園の近くにいるって事は。
「もしかして、文化祭に来る予定で遠征しに来たのか? 毎年そういう進学希望者が泊まりで来るって聞いてるし」
「せいかーい。センパイにもワンチャン会えるかな〜って思ってたんだけど、こんな場所で出会えるなんて……コスモ運がいいかも★」
「そんなに俺らに興味あるの……?」
これは所謂ファンと呼ばれる人種なのではなかろうか。
俺こういう時の対応なんて何も知らないぞ。
こんな展開になるって知っていたら、アイから色々と教わったのに。
「う〜ん、コスモ的に一番の推しは
「ブフォ!?」
急に何を言い出すんだこの子は!?
「彼氏!? なんで!?」
「えっ、違うんですか? すっごく仲がいいって聞いてたのになぁ〜」
「違うから! ソラとはまだそういう関係じゃないから!」
「ふーん……
あざとく人差し指を唇の前に持ってくる早乙女さん。
何というか、こういう感じで女子に弄られるのは慣れてないんだよ。
あと顔面に熱量を感じるので、あんまり見ないでください。
「……じゃあコスモがお隣立候補しちゃおうかなーっ★」
そう言って、早乙女さんは突然俺の腕に抱きついてきた。
えっ、なにこれ? 謎のモテ期突入ですか?
来るならせめて予告編を流してからにしてください。こちらにも心の準備というものがあります。
「あのぉ、早乙女さん? できれば物理的な距離感をとっていただけますと……」
「えー、なんでですか〜? コスモは全然オッケーですけど〜」
わー積極的ですねー。
でも貴女有名人なんですよ。俺燃やされるかもなんですよ。
あと……そのですね……
「あたってます……思いっきり」
思ったより大きいと思われる、柔らかい膨らみが二つほど。
歳下ぞ、この子一個下ぞ。
そりゃあ俺だって漫画とかアニメとかゲームで後輩系ヒロインを好んで攻略した事もあったさ。
だけどそれをリアルで体験する可能性は一切合切考慮していないんだよ。
「なので早乙女さん、あたらない程度の距離で――」
「あててます★」
聞きましたか? ラノベとかラブコメ漫画でしか聞かない女の子のセリフ堂々の第一位(俺調べ)のやつですよ。
俺このセリフをリアルで聞く日が来るとは夢にも思わなかったぞ。
もしかしてここフィクションの世界なんじゃね?
……ある意味フィクションの世界で間違いなかったわ。
「コスモすっごく興味あるな〜……推しの彼女になるとかロマンあるもん」
「それはちょっと欲張りというか、はみ出しているというか」
「知ってます? 誰かに愛されるには、自分から愛さないとダメなんだよ〜」
さようですか。
とはいえ、開幕早々向けられる矢印が大きすぎて俺は戸惑っております。
こちらが憧れの先輩と認識されているのは理解したけれど、この子の積極性は流石に想像の範囲外だ。
何というかこの早乙女コスモって子、愛に生きすぎじゃないか?
「ねーセンパイ……せっかくこうして会えたんだし〜、コスモともっとお話ししませんか?」
「えっと、それは、そのぉ……」
なんだろう、万が一この子について行こうものなら、底なしの沼に沈められて窒息死しそうに思えてしまう。
理屈だとか経験則なんかじゃない、本能が「今は逃げろ」と叫んでくる。
幸い早乙女さんの抱きつく力は強くないので、逃げようと思えば簡単に逃げられる。
「ほ、ほら! どうせ話するならチーム全員揃っていた方が良いだろ? 文化祭に来てくれたら他のみんなもいるから!」
「赤翼センパイも!?」
「いるいる。だからお話しはその時に」
隙ができた。
俺は早乙女さんから離れて、ようやく腕が解放される。
よし、今のうちに逃げよう。
「今度は文化祭で会おうな! 歓迎するから!」
「あっ、センパイ!」
引き留められそうになったけれど、俺はこの場を去ります。
この疲弊した身体にこれ以上ハニートラップ(?)を受け続ければ、確実に俺は何か間違いを犯しそうだ。
というわけで逃げます。
グッバイ思春期男子のロマンスメロン!
「……キュップイ?」
「どうした、カーバンクル」
とにかく全力疾走をしていると、頭上のカーバンクルが首を傾げていた。
「さっきの子……ボクの事をチラチラ見てたような」
「……まっさかー」
でもカーバンクルが言うなら……文化祭の時にでも確認するか。
とにかく今は去ります。この煩悩を置いて去ります。
そう考えながら、俺は家に帰るのであった。
◆◆◆
走り去るツルギの背を見届けると、コスモは途端に笑みを消す。
そして唇に人差し指を当てると、「ふーん」と小さく呟いた。
「女の子慣れはしてないんだぁ……ふーん」
残念そうに、だがどこか未来への期待を込めているように。
早乙女コスモという少女は、年相応の無邪気な笑みを口元に浮かべる。
それは無垢でありながら、どこか残酷さを滲ませているようでもあった。
「あーあ。ツルギセンパイと遊びたかったのになー……でもいっか」
今はこれで良い。
そう言わんばかりの様子で踵を返すと、コスモは宿へ向けて歩き始めた。
「ちゃーんとコスモの事は覚えてもらえただろうし……あんなに可愛い反応されたら、もっと遊びたくなっちゃう」
だから……
「センパイと遊んだあとでもいいかな〜……アレを叩き潰すのは」
そっちの方が楽しそうだし。
誰かに聞こえるような声量は出さず、コスモは口元に笑みを浮かべたまま歩みを進める。
だが一方で、その瞳の奥には確実に獲物を狩るという執念が宿っていた。
一度足を止めて、コスモはツルギが去っていった方角へと振り返る。
そして右手を指銃の形にすると、その方向へと人差し指を向けた。
「……#ロックオン★」
バンっとわざとらしく擬音を口にしてから、早乙女コスモはその場を後にするのだった。
【第十章へ続く】
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狭間の章、後書き
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