俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百五十五話:右手に天使を左手にも天使(?)を

 何故こうなった。

 屋外エリアを歩きながら、ついそんな事を考えてしまう。

 

「わぁ〜、色々あって面白そうですねセンパイ★」

 

 左側から早乙女さんがご機嫌な様子で言ってくる。

 なんか柔らけぇ膨らみで左腕を拘束されているんです、たすけて。

 

「そうですよ〜色々あるんですよ〜。それよりコスモちゃん? もう少し距離を取った方が良いと思いますよ。私の真似なんかしても変なウワサの元ですからね」

 

 右側からはソラの明るい……だが奥底から凄まじい圧を感じる声が響いてくる。

 一瞬ふわっとした感触があったものの、今や俺の右腕はパワー増し増しで拘束されています。たすけて。

 

「コスモ的には推しとウワサになっても全然問題なしですよ★」

「異性関係のスキャンダルとか大丈夫ですか? 人気商売なんですから、活動の妨げになるような事をしたらダメですよ」

「それ、人気上昇中のアイドルが引退するキッカケを作った人をこうして挟んだ状態でも言えます?」

「反論の余地を一撃で粉砕しないでください」

 

 あの、すみません。

 急に流れ弾を俺に叩き込まないでください。

 本人が納得した上とはいえ、改めて言語化されると鋭利に突き刺さるんだよ。

 

赤翼(あかばね)センパイも〜、もっとカワイイスマイルしてくださいよ〜♪ 黒いオーラが見えててコスモちょっとコワ〜イ★」

「見えてないですよ。私は至っていつも通りです」

「すまんソラ。腕力が明らかにいつも通りじゃ――痛だだだだだだァァァ!?」

 

 パッとみはニコニコ笑顔のソラだが、やっぱり何か様子がおかしい。

 あと俺の右腕をパワー全開でホールドしないでください。

 そろそろ骨が出しちゃダメな音を出しそうなんです。

 

「ダメですよ〜赤翼センパイ★ 男の人の腕に抱きつくなら、もっと優しく包み込むようにしなきゃ」

 

 こんな風に――そう言わんばかりに早乙女さんが俺の左腕を抱きしめてくる。

 わぁいふわふわ。

 何がふわふわなのかは絶対に言葉にしないけど、ふわふわ。

 右半身と左半身でこうも状況が異なる事ってあるんだな。

 天国と地獄と言うべきか、飴と鞭と言うべきか、あしゅら男爵状態と言うべきか。

 

「……ツルギくん? なんだか鼻の下が伸びていませんか?」

「伸びていません。むしろ縮みそうというか圧縮されそうです」

 

 声色とかも変わっていない筈なのに、ソラから放たれる圧がすごい。

 本当に誰か助けてください。

 もういっそカードゲームで解決しようかな?

 そういう世界だし良いよね? 今こそデッキを抜く時だよね?

 

「圧縮って……こういう感じですかぁ?」

 

 早乙女さぁぁぁん!? ここで追撃するのはやめてくださぁぁぁい!

 その大きくて柔らかい凶器は、全世界【思春期男子】デッキに対する最強のメタカードなんです!

 使われたが最後、【思春期男子】は抵抗の余地なく社会的死を待つだけのクソゲーを強要されるんだよ。

 なんでこの凶悪メタが規制されないんですか?

 運営の寵愛? そうでしょうね、俺が運営でも同じ判断を下す。

 

(つーか両腕拘束されてるせいで、デッキも抜けねぇ……)

 

 カードゲームで解決云々以前の問題でした。

 カードゲーム至上主義の世界といえど、女の子二人からの拘束から逃れる術はありません。

 悲しいかな、カードゲーマーである以前に男という生物の性質(サガ)が優先されてしまう。

 

(きっと文化祭が終われば、俺は全男子生徒から処刑対象に選ばれるんだ)

 

 男子軍法会議。

 弁護士をつける事すら許されぬ、怒りと憎悪が渦巻く非合法な裁判にかけられるんだ。

 罪状は……『ラブコメ罪』とかそんな名前をでっち上げられそう。

 

「あの、二人とも? できればそろそろ、俺の腕を解放して欲しいんだけど……」

「「ダメです」」

「はいぃ……」

 

 俺は無力だ。

 世の中には『両手に花』なんて言葉があるけれど、実際その通りになっても心的疲労の方が勝つ。

 すれ違う男子共よく見ておけ、そして夢は夢で終わらせておけ。

 輝きの向こう側には重苦しい現実(リアル)しかなかったぞ。

 あと頼むから助けてくださいお願いします。

 

「ソラぁ、絶対今の状態を卯月に見られたら面倒な事になるから、離してくんない?」

「じゃあ先にコスモちゃんを分離しましょう」

「……早乙女さぁん」

「え〜、コスモ憧れのセンパイに甘えたかったのに〜。ぴえん」

 

 うんうん。小悪魔的な可愛らしい涙目ですね。

 でももう少し耳を傾けてくれないかな?

 聞いてくれよ、俺の右腕から鳴り響くミシミシという音を。

 ソラが笑顔のまま青筋浮かべて、俺の右腕を限界突破のパワーでホールドしている音だぞ。

 

「頼むからさぁ……もうちょっとこう、側から見た時の絵面とかそういうのを……」

 

 そこまで口にして、俺はふとある事に気がついた。

 現在俺はソラと早乙女さんに両腕を拘束されているという、事情を知らない人間が見れば相当にインパクトのある状況である。

 しかし屋外エリアですれ違う人々は、確かに一瞬俺達の方を見るけれど……すぐに興味を失ったかのように目を逸らしてくる。

 何らかの優しさ、という感じでもない。

 これではまるで……この程度ではインパクトの範疇ですらないといった様子だ。

 

「なんか……あんまり俺らの状況って注目されていない? 世界にバグでも起きた?」

「なに言ってるんですかツルギくん。でも確かに、コスモちゃんがいるのに全然注目とかされてないですね」

 

 本当になんでだ?

 というか向こうから随分と賑やかな声が聞こえてくる。

 トラブルの類では無さそうだけど、何故か本能的に嫌な予感がするぞ。

 

「わぁ〜、見て見てセンパイ! すっごい人がいる!」

「あぁ……うん、そうだな」

「はい……すごく、モテモテな人がいますね」

 

 賑やかな声の発生源が見えた瞬間、俺とソラは全てを察した。

 ものすごく好奇心が湧き出ている早乙女さんだけど、俺とソラは心底白けた目になる他なかった。

 それもその筈。

 賑やかな声というのは……

 

「ねぇ牙丸(きばまる)くん、今日はずっと一緒にいられるのよね?」

(ワン)先輩、私のクラスの出し物に行きませんか? オムライス食べさせてあげますよ」

「やーだー! 牙丸先輩、2年生の占いの館行こうよー。アタシと先輩の恋の占いを……キャッ」

「ハハハ。ボクはどこにも逃げないから、そう焦らなくても大丈夫だよチトセ、サクラ、ハヤテ、そして他のレディ達も。全てのレディを等しく愛する事はボクのモットーなんだ、だから安心してくれ」

「「「きゃぁぁぁぁぁぁ♡」」」

 

 ……牙丸先輩だ。

 なんか目算だけでも十人くらい女の子を連れている牙丸先輩がいる。

 そりゃあんなん見たら、両手に花程度じゃ無個性にも程があるっての!

 なんだよアレ、両手というか全身に花を装備みたいな状態じゃないか。

 

「ツルギくん……確か先輩って、昨日女子を口説き過ぎて修羅場になっていたって……」

「そのはず、なんだよな……顔とか身体に平手の跡がつきまくってた」

「そこから、逆転勝利したんですか?」

「逆転勝利したんだろうなぁ……マジでどうやったんだよ」

 

 ここまできたら一度後学のために牙丸先輩から話を聞いてみたい気がする。

 主にその処世術とトークスキルについて。

 学んでも絶対に使わないだろうし、使いたくもないけど。

 

「おや? ヘイヘイヘーイ! 天川(てんかわ)じゃないか」

 

 うわぁ、よりにもよってなタイミングで見つかった。

 

「お疲れ様です、先輩……その、スゴいですね、色々と」

「ボクはレディ達全員の恋人だからね。そういう天川も隅に置けないじゃないか。麗しいレディ二人に両サイドから愛されるなんて」

「本当にそう思っているなら今すぐ助けてください。お願いします」

「すまないね天川。ボクはレディが悲しむ事は避ける主義なんだ。あと命が惜しい」

 

 ちくしょう……それっぽく逃げられた。

 

「ところで天川。キミの左側にいるレディ、どこかで見た覚えがあるのだけど」

「あぁ、この子は――」

「早乙女コスモです★ 入学予定は来年だけど〜、今日はコスモ激推しのセンパイ達に文化祭を案内してもらってまーす★」

 

 俺の左腕に抱きつきながら、早乙女さんは可愛らしくウインクをして牙丸先輩に挨拶をしている。

 なんか先輩が「へぇ、通りで見覚えが」って言いながら、早乙女さんを見定めるように視線を向けているけど……まだ中学生だからな。

 万が一ナンパなんてしようものなら、俺が現評議会メンバーとして全力で止めるぞ。

 

「へぇ……それは良いね。是非とも我が校の文化祭を楽しんでいってくれ」

「はーい★」

 

 おや、予想に反してかなりあっさり。

 てっきりナンパの一つでもするかと思ったけど、守備範囲外だったのかな?

 

「ソラくん、そして天川。大切な未来の後輩候補なんだ、手が空いている内に色々と案内してあげてくれ。せっかく今年はまだ大きなトラブルも起きてないんだ」

「例年ならもうデカいトラブル起きてるのか……」

「キミ達は運がいいね。この後はどこの巡回に?」

 

 牙丸先輩の問いかけに、ソラが「屋内の展示に行く予定です」と代わりに答えてくれる。

 特に漫研にはアレの回収を言わないといけないからな。

 

「それじゃあ皆、文化祭を楽しんでくれ。ボクも愛するレディ達と楽しむ事にするよ、ハッハッハ!」

 

 言いたい事だけ言い残すや、牙丸先輩は女の子達を連れてこの場を去っていった。

 一瞬、先輩がこちらを振り返ったけど……何か意味がある訳じゃないだろう。

 当たり前だけど、その凄まじい絵面から行く先々で注目を集めるのは目に見えた展開だ。

 

「ホント、根はメチャクチャ頼りになる良い先輩なんだけどなぁ……」

「女性関係だけは色々と心配になりますね〜」

 

 そう言うとソラは、ついさっきまで全力でホールドしていた俺の右腕から身を離した。

 同じく早乙女さんも俺の左腕から突然離れた。

 

「解放してくれたのはありがたいけど、スゴい急だな」

「えっと、そのぉ……王先輩やガールフレンドの皆さまを見て、ちょっと思うところがあったと言いますか〜……」

「コスモ的に、アレと同類に見られかねないのはNG★」

 

 色々と容赦ない早乙女さんの発言に、ソラはコクコクと頷いている。

 そっか……理由はなんであれ、考え直してくれたなら俺は嬉しいよ。

 ありがとう牙丸先輩。先輩の社会的評価という犠牲は決して忘れません。

 

「んじゃあ俺は屋内展示へ行くけど――」

「コスモもいっしょです★」

「だと思った」

 

 もう諦めて学園の案内でもするか。

 ソラも似たような感じで、早乙女さんがついて来る事を拒否する様子はない。

 そんな訳で俺達は三人で屋内展示のエリアへ向けて、移動を開始するのだった。

 

「わっ!? センパイセンパイ、なにアレ!?」

 

 その道中、まだ回収されていなかった元漫研会長が早乙女さんの視界に入ってしまった。

 ホント早く回収しろよな。

 

「十字架に磔られているアレなら、ウチの元漫研会長だよ。通称【豊胸将軍】(///以下長いので省略///)で、遂に一年生の男子に敗北して追放された結果がこのザマ」

「なにそれ、情けなさ過ぎてウケる★」

「情けないだろ。その通りなんだよ」

 

 だからさっさと回収して欲しいんだよ。

 漫研の奴らめ、後片付けまで考えて制裁しろよな。

 

「つーかあんな十字架どこから持ってきたんだよ」

「倉庫にでもあったんじゃないですか? 過去の文化祭で使った小物類も色々残ってましたし」

「誰か目録作ってくれよ〜、デカいし物多いんだよあの倉庫」

 

 そんな愚痴を軽く口にしつつ、俺は校舎の出入り口へと向かうのだった。

 

 だから……背後で早乙女さんが、妙な様子で十字架を見ていた事など全く気づきもしなかった。

 

「ふーん……コレも、かぁ」

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