俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百五十八話:コスモとソラ

 ツルギ達が保健室に行ってしまった後。

 せめてもう少し広い場所で待っていようと考えたソラは、コスモと一緒に近くの空き教室へと移動していた。

 文化祭期間中、展示等にも使用していない教室にはパイプ椅子が並べられて、簡易的な休憩所として運用されている。

 ソラはひとまず、空いている椅子を見つけて座るのだった。

 

「コスモちゃんも座りませんか? 少し時間がかかるかもなので」

「じゃあお言葉に甘えて。コスモもソラちゃんセンパイとお話ししたかったし★」

 

 そう言ってコスモは、人懐っこい様子を維持したままソラの隣に座る。

 周囲には同じように、暖房の効いている空き教室で椅子に座って休んでいる一般参加者も何人かいた。

 開いたままの扉の向こうからは、文化祭らしい賑やかな喧騒が聞こえてくる。

 

「ねぇねぇ、ソラちゃんセンパイ♪ コスモJMSカップの話とか聞きたいな〜。特にチーム:ゼラニウム結成秘話とか★」

「JMSのお話しですか? それにチームの結成秘話といっても、それほどドラマチックなものもないんですが」

「えぇ〜チーム集めの苦難とか〜、ドキュメンタリーの定番ストーリーってないんですか〜?」

「同じ中学のクラスメイトでチームを結成しちゃったんで、そういうドラマはないんですよ」

 

 実際、JMSに限らずチーム戦の大型大会を扱ったドキュメント番組では定番のネタではある。

 チームメイトを集めるまでの苦難や、チームメイトとの衝突、離別や和解など。

 この世界ではよく見れる再現ドラマである事に間違いはない。

 しかしソラ自身、自分達の結成秘話はそれをするような大そうなドラマなんてないと、重々理解していたのも事実であった。

 

「改めて思い返すと……私達のチームって、本当にあっさりと結成されたんですよね。ドキュメンタリーなんて作っても撮れ高低いですよ」

「そんなにあっさりだったんだ……JMSって出場条件厳しいのに」

「それは私も速水くんも、ツルギくんに鍛えてもらったからですね」

「ツルギセンパイになんです?」

「はい。始まりは……結構色々あったんですよ」

 

 そしてソラは中学時代の出来事を思い返しながら、語り始める。

 中学二年生の時に、ツルギが他校との試合で衝撃の勝利を納めた事。

 ある日デッキの大半を失った自分に、ツルギがカードを譲渡してくれた事。

 そのカードに纏わる自身の研鑽の始まりと、ツルギの不思議な優しさ。

 天川(てんかわ)ツルギという男の子が切っ掛けとなって、共に研鑽できる仲間に恵まれた事を。

 

「亡くなったお父さんに貰ったカード。そしてツルギくんから受け取ったカード。両方大事にしたくて、見合うような自分になりたくて……そう思って頑張っている内に、JMSに出場できるまでになったんです」

「……そう、なんだ」

 

 はにかむような顔を浮かべながらも、心は真っ直ぐと前を向いているソラ。

 恵まれた環境に傲る事なく、大切な人達と共に走り続けるために、赤翼(あかばね)ソラという少女は自己を高めようと決心している。

 そんな前向きさを垣間見せられ……そしてソラが何気なく口にした「お父さん」という単語が、早乙女コスモの心を静かに黒く染めていく。

 

「それでチームを組んで、JMSに出場したんですけど……こっちは私よりも、ツルギくんとアイちゃんの方が色々ありましたね」

「決勝戦で愛梨(あいり)ちゃんセンパイがデッキを切り替えたやつ?」

「はい。あの時のアイちゃんは本当に色々あって、もしかしたらツルギくんと本気でぶつかり合えないかもしれなかったんです。でもツルギくんは、そんな壁も壊しちゃうんです」

 

 ソラはぼんやりと天井を見上げながら、当時の事を思い返す。

 自分が愛梨と初めて出会った日のこと。

 愛梨が自分の心を押し殺して、友のために戦い続けていた事。

 そして……そんな不条理に、ツルギが切っ掛けとなる亀裂を入れた事。

 

「私のことも、アイちゃんのことも。きっと普通の人だったらどうしようもなかった。諦めたって誰も責めなかったんです……だけどツルギくんは、そういう後味の悪い結果をすごく嫌がる」

「へぇ〜。そりゃあツルギセンパイくらい強かったら、連戦連勝してなんでも勝ち取り放題ですよね〜★」

「くすっ……それ、ツルギくんに対するよくある勘違いだったりします」

 

 小さく笑うソラに対して、コスモは頭上に疑問符を浮かべてしまう。

 これまで見届けてきた出来事の数々、それを経てソラは理解していたのだ。天川ツルギという人間の信念を。

 

「ツルギくんは優しすぎるんです。勝って何かを奪うとしても、相手の事を考えて最低限に留めてしまう。それどころか……勝てば自分が得をするとしても、その先にある結果に納得ができなかったら迷わず勝ちを手放す。そういう人なんです」

「……わざと負ける?」

「そうです。ビックリしますよね。でもツルギくんはそれをするんです……そうしなきゃ掴み取れなかったハッピーエンドがあるんだって、証明しちゃうんです」

 

 光に導かれた者のように、ソラは優しく微笑みながら語り続ける。

 その微笑みが、彼女が見ている光が眩しくて……早乙女コスモの奥底でドス黒い感情が蠢いてしまう。

 光を見上げる自分がいる。その事実から目を背けるように、コスモは人懐っこい笑顔の仮面を被り続けるのだ。

 

「でもあれで、ツルギくんも結構無理しちゃうところがあって。つい最近になってようやく弱音を言ってくれるようになって……私、なんだか安心しちゃったんですよね。やっと頼ってくれたって思って」

 

 無意識に安心と親愛が混じりあったような微笑みを浮かべていたソラ。

 そんなソラを横目に、コスモは「ふーん……愛だ」と呟くのだった。

 

「あ、あああ愛って! 急に何を言い出すんですか!」

 

 顔を真っ赤に染め上げて、湯気まで出そうな勢いでソラは動揺してしまう。

 

「だってソラちゃんセンパイのそれって、どう考えても愛ですよぉ。チーム関連の話というか、ほぼツルギセンパイの話しかしてないもん」

「ふぇっ!? そ、そんな、ことは……」

「ありましたよ〜★ ソラちゃんセンパイって本当にツルギセンパイと付き合ってないんですか?」

「ウグっ。それは……その……」

 

 肝心な場面で自己肯定感の低さが盛大に発現してしまうソラ。

 しかしそれを意に返さないように、コスモは淡々と言葉を投げかけていく。

 

「だってソラちゃんセンパイ、ツルギセンパイのこと好きですよね?」

「えっ……あっ、その……」

 

 図星だという事は理解していた。

 しかしソラはそれを具体的に言語化して認識する事から、これまでずっと逃げていたのだ。

 そんな背景事情など知らないコスモは、さらに容赦なく女子トークを続ける。

 

「コスモがツルギセンパイに抱きついただけで、めーっちゃ嫉妬オーラ全開だったし。これで愛とか恋とかありませんなんて、ないでしょ★」

「それは、その、自分でもお恥ずかしいと言いますか……」

「ソラちゃんセンパイ、なんで自分の気持ち言葉にしないの? したら一番手っ取り早いのに」

 

 コスモのそれは、ソラにとって一番痛いところを突いていた。

 言葉にする勇気が無い事など、既にソラは百も承知している。

 ではそれを乗り越えて、ツルギに想いを伝えればどうなるのか。

 拒絶という恐怖もあるが……同時にソラの頭に浮かんでしまうのは、一人の女の子の存在。

 

「ツルギくんには、私よりも、きっと良い人がいますから」

 

 その子は――愛梨はきっと、自分と同じ人に好意を抱いている。

 薄々とはいえ勘づいているからこそ、ソラは曖昧な状況に甘んじてしまう。

 何かが壊れるくらいなら現状維持でいい。だから言葉にはしないのだ。

 

「……やっぱりコスモがお隣貰っちゃおうかな★」

「だ、ダメですよ!」

「え〜★ でもソラちゃんセンパイがうかうかしてるなら、コスモ以外の子も狙っちゃうよ〜★」

「そ、それは……」

 

 反論の余地はなかった。

 実際に、これまでもツルギを玉の輿認定して狙ってくる女子は存在した。

 感情では否定したくても、ソラの理性と経験がコスモの言い分を受け入れてしまうのだ。

 

「誰かに愛されるには、自分から愛さないとダメなんだよ★」

「いやぁ、そうは言いましても」

「いい子ムーヴだけで手に入らないなら、時には悪い子にもならないとダーメ★」

 

 そう言うとコスモは立ち上がり、ソラの前に立つ。

 コスモが浮かべた笑顔は無垢で可愛らしく、しかしどこか歪な刷り込みが滲み出ているようでもあった。

 

「コスモはみんなから愛されたいから、いっぱいみんなを愛するよ★」

 

 それは配信者という外皮に覆われた言葉であり、文章の続きまでは決して口にしない。

 だが、そんなコスモの内情など知る由もないソラからすれば、ある種のプロ精神の表れにしか聞こえない。

 無垢を皮として被れば、人の内面など大抵は見抜けなくなるのだ。

 

「ソラちゃんセンパイも〜、あんまり呑気していたら……本当にコスモが()っちゃうからね」

 

 ほんの一瞬。だが確実にコスモから本音が顔をだしていた。

 彼女の真意までは伝わらなくとも、それはソラに一つの危機感を抱かせてしまう。

 自身の恋路と向き合う瞬間、そんな危機感であった。

 

(自分の、気持ち……)

 

 分かっていたつもりでも、しっかりと向き合う事は避けていた。

 故に向き合い方もイマイチ理解しきれていない。

 それを自覚していたソラだからこそ、すぐに答えを出せない事は理解できていた。

 

(エオストーレは、なんて言うかな?)

 

 どこか頼りない側面はあれど、ソラは自分のパートナー化神に相談してみようと考えつく。

 それがどのような結果になるか分からないが、エオストーレなら安心して相談ができると、ソラは心から信じていた。

 だがそれはそれとして。

 

(そういえば、今日は化神のみんなで文化祭を楽しんでるって言ってましたけど……)

 

 今頃なにをしているのだろうか。

 ソラはそんな事を考えながら、ツルギが戻ってくるのを待つのであった。

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