俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百五十九話:一方その頃〜居酒屋かぁばんくる〜

 ツルギが保健室に行き、ソラがコスモと話をしている頃。

 文化祭期間中は誰も近寄る事のない学園の敷地の片隅。

 木々が生い茂る中にある物置のすぐ近くに、その屋台は出現していた。

 

 ――『居酒屋かぁばんくる』――

 

 そう書かれた暖簾を下げ屋台に、今日は化神の面々が集まっていた。

 12月の寒空の下、カーバンクルは鉢巻を頭に巻いて、おでんを作っている。

 

「はい。大根、がんも、牛すじ串っプイ」

「ありがとうございます。それから魔剤(エナドリ)とホッピーセットをいただけますか?」

「キュップイ。よろこんで」

 

 店主カーバンクルの正面に座っているのは、聖天使の限界管理職の女(とても偉いひと)ことエオストーレ。

 エオストーレは提供された、焼酎入りの冷えたグラスにホッピーを加え……そこへ迷わずエナドリを投入し始めた。

 【※絶対にマネしないでください】

 

「うぅ……ワタクシの身体と肝臓に生命の源が流れ込んでくる瞬間が、頭より先に心で理解できます」

 

 調合した限界ド底辺現実忘却飲料汁を、ゴクゴクと飲むエオストーレ。

 まるで肝臓に対する恐れを知らない飲みっぷりを見せつけると、続けて出汁のよく効いた大根に辛子をつけてから一口齧る。

 魔剤とアルコールが正常な現実認識能力を鈍らせ、じゅわっと広がる大根の優しい味わいがエオストーレの心を温かく包み込んだ。

 

「うっ、うぅ……おでんと魔剤入りアルコールが、傷ついたワタクシの心に優しく沁み込んできます……」

「エオストーレ……いくらなんでも限界すぎる思うのね。これじゃあもう、ほとんどオジさんなのね」

 

 エオストーレのあまりの姿に、隣の席にいたウィズは心底ドン引いていた。

 そんなウィズの注文はチーズ入りトマトと、おでん出汁。

 鳥型とはいえ見た目通り植物でもあるので、ウィズは基本的に水分があれば大丈夫なのである。

 

「それにしても、おでんって美味しいのね。ウィズ初めて食べたのね」

「貴女ももう少し成長すれば、ワタクシのように大人の味を楽しめるようになりますよ」

「行き着く先がエオストーレ(魔剤コンプレックス)なら、ウィズは丁重にお断りするのね」

 

 若い化神から放たれる情け容赦のない言葉。

 そのたった一言が、エオストーレの心を深々と穿った。

 

「な、なにを言いますか!? 誰しもこうして苦い経験を経て大人になるのですよ!」

「その果てがあまりにも限界過ぎるのね。ウィズは現代っ子らしく転職でも勧めるのね」

「し、仕方ないじゃないですかぁぁぁ、化神に転職なんて概念は無いんですよぉぉぉ!」

 

 淡々と返してくるウィズに、エオストーレは早々と泣き出してしまう。

 

「貴女にわかりますか!? 毎度毎度そこのDVウサギから無理難題な発注をかけられる天使の辛さが! それを達成しようにも今度は部下から突かれる管理職の悲しみが!」

「知らないのね。ウィズはうら若き植物だから気ままに生きるのね」

「そういう気ままを通り越して自由奔放な部下ばかりを押し付けられたんですよぉぉぉ! そこの光堕ち詐欺常習犯に!」

 

 過去の出来事を思い出し、記憶の奥底にこびり付いていた怒りが蘇るエオストーレ。

 牛すじの串を齧りながら、エオストーレは「アカシアは引きこもり。ガリヴァーは旅と称して行方不明。その責任は全部ワタクシに……あ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!」と酷い呻き声を上げるのだった。

 

「はいエオストーレ。昆布巻きどうぞっプイ」

「ぐぬぬぬ、よりにもよって当の本人が記憶を失っているなんてぇぇぇ……昆布巻きおいしい。貴女もこういうのを食べて子ども舌を卒業するべきです」

「ウィズは子ども舌じゃなくてグルメなだけなのね。それに……本当の子ども舌っていうのは、あっちを言うのね!」

 

 そう言うとウィズは振り返り、屋台の前に設置されたテーブル席の方を指し示す。

 そこにはカーバンクルが作ったおでんに舌鼓を打っている、ブイドラとシルドラの姿があった。

 

「ブイ? おいシルドラ、おまえ子ども舌って言われてるブイ」

「馬鹿を抜かせ。貴様の事だろう」

「あぁん!? オイラは子ども舌じゃねーブイ!」

「……その皿で言えた事か」

 

 シルドラはブイドラの皿を呆れた目で見ながら、そう呟いてしまう。

 ブイドラが注文した品はウインナー、ロールキャベツ、たまご。そして飲み物は瓶入りのコーラ。

 

「そういうお前なんか、よく分かんないもんばっか頼んでるブイ!」

「我は貴様と違って味の分かる竜だからな。それにしてもカーバンクルの作るおでんは美味だな」

「いや、マジでそれなにブイ? その、ペラペラなヤツ」

「知らんのか? オバケだ」

 

 そう言いながら、シルドラはオバケを一つ食べる。

 シルドラが注文した品はオバケ、イイダコ、はんぺん、巾着。そして飲み物はウーロン茶。

 

「お、オバケって……あの?」

「何を想像しているのか察しはつくが、貴様の思い描く幽霊ではない。クジラの尾ビレだ」

「ししし知ってたブーイ! 別にカーバンクルがオバケを狩って捌いたなんて思わなかったブーイ!」

「たわけ……そんなわけないだろう」

 

 変に強がるブイドラを、シルドラはイイダコを食べながら呆れた様子で見ていた。

 ちなみに屋台のメニュー表には鯨の背脂であるコロもあるので、カーバンクルのおでんは鯨出汁で作られている。

 

「それにしても、いったいどうやって作ったのだ。このおでんも屋台も」

「シルドラ、悪いことは言いません。それは聞かない方が――」

「こうしたっプイ」

 

 エオストーレが制止するよりも先に、カーバンクルは何も無い空間にその小さな手を殴りつけた。

 すると空間にはひび割れ、小さな穴が出来上がる。

 突然披露されたあまりの光景に、シルドラだけでなくウィズやブイドラも唖然となってしまった。

 

「こうやって空間に穴を開ければ狭間触れる事ができるっプイ。あとはコレの中で構築式をちょちょいのチョイと弄れば……」

 

 割れて穴のできた空間の中で、小さな手をゴソゴソと動かすカーバンクル。

 そして空間の穴からカーバンクルが手を取り出すと、空間はすぐさま元の状態に戻ってしまった。

 残ったものはカーバンクルが取り出してきた、一本のニンジンのみ。

 

「擬似物質の生成完了っプイ。屋台もおでんの材料も、こうやって調達したっプイ」

「あ、穴が空いたのね……世界の境界線に穴を空けやがったのね……」

「驚くのも無理はありません。しかし安心してください。彼が狭間の空間から何かを取り出しても、この世界には何も影響を及ぼしませんから」

「どういう事なのね?」

 

 不思議と落ち着いているエオストーレに、ウィズは首を傾げながら問いかける。

 少なくともウィズの認識では、世界の境界線を破壊した挙句、無から有を取り出したようにしか見えていなかった。

 

「簡単に言ってしまえば、彼が狭間で生成して取り出した物質はワタクシ達化神と大差ない不安定な存在なのですよ」

「そういう事っプイ。だからボク達化神はこうしておでんを食べる事ができるけど、化神を認識できない人間には匂いを嗅ぐ事すらできない。そして化神を認識できる人間であっても、このおでんを食べたところで身体を作る栄養にはならないっプイ」

「大した栄養にならないのはワタクシ達も同じです。いくら狭間の空間にあるエネルギーといえども、生成されたコレは擬似物質でしかない。趣向品の域を出ないのですよ」

「何にせよ、急激にこのおでんが荒っぽい品に見えてきたのね……」

 

 ウィズは自身の皿に乗っているチーズ入りトマトを見つめながら、どこか神妙な様子でそう呟いた。

 

「そして割られた空間も、世界そのものの修復力によってすぐ元通りとなります。穴といっても、ご覧の通りこのウサギの手は小さいですから。影響なんて出す事もできません」

「キュップイ。それに狭間の空間に手をつけても、そこを漂っている(タネ)達に変なことをしなければ何も問題ないっプイ。もっとも……影響が出るほどの何かをしようものなら、それこそ本当に世界の危機になるっプイ」

「き、急に怖いこと言わないで欲しいのね!」

 

 怖い話を聞かされた子供のように、ビクビクと震えるウィズ。

 しかし一方でエオストーレは何か思うところがあるのか、ジョッキに入った限界汁を飲みつつ、カーバンクルに視線を刺していた。

 

「さて、今はお互いパートナーがいない状況」

「キュプ?」

「言い難い話もしやすい状況だと、ワタクシは言いたいのですよ」

 

 エオストーレのその言葉を聞くや、カーバンクルも心当たりがあるのか「何を聞きたいっプイ?」と返した。

 

「ウィズから聞きました。貴方のパートナー、天川(てんかわ)ツルギの魂について」

「そうなのね、すっかり聞くのを忘れていたのね! 彼の魂、どう考えてもおかしいくらい劣化しているのね!」

「貴方は何か知っているのですか……カーバンクル?」

 

 二人の質問を聞いて、カーバンクルは少し考えるように「キュップイ」と小さく呟く。

 想定される質問はいくつか浮かんでいたカーバンクルだが、そこには安易に答えられないものも含まれていた。

 

「……これかなって、予想はあるっプイ」

「それを、彼は知っているのですか?」

「知らないっプイ。知ってどうにかなる話でもないっプイ……酷い言い方だけど、アレはツルギにとって本当に不幸な事故だったっプイ。()()が悪かっただけっプイ」

 

 どこか遠い目を浮かべながら、そう語るカーバンクル。

 しかしウィズやエオストーレに問いただされても、決して全ては語ろうとしない。

 パートナーに不幸を齎す可能性があるなら、真実など永遠に秘匿する。

 それはカーバンクルという存在が持つ、一つの信念でもあった。

 

「ボクは記憶が欠けているから、覚えていない事もあるっプイ……だけど、覚えている事であっても、後先考えずに話すような事はしないようにしているっプイ」

「そうですか」

「エオストーレ、この事はツルギに」

「言いませんよ。貴方を怒らせた時の恐ろしさは身を以て知っていますので」

 

 そう言いながらも、エオストーレは内心「ソラにも言えませんね」と考えていた。

 仮に話してしまえば不必要にソラの不安を煽り、よくない結果へと辿り着きかねない。

 だが同時にエオストーレは、どうにも気になる事があった。

 

(外見年齢に影響は出ていない……そして魂の劣化……考えられる原因はウィズの考えるように、なにか大きな力の奔流に曝された……?)

 

 しかし人間の魂だけを劣化させてしまうような、そんな凄まじい力の奔流などあるのだろうか。

 ……ある。一つだけそれを可能にする空間がある。

 

(狭間の空間……あそこを渡ったのだとすれば……)

 

 辻褄は合う。

 合うのだが、それが真実だと仮定すると新たな疑問がエオストーレの中に生まれてしまう。

 

(しかし、仮に狭間の空間を渡れた結果だとして……片道通行ならまだしも往復での移動なんて……)

 

 できる筈がない。

 だからこそ、この疑問は疑問で止まってしまう。

 出汁のよく効いたがんもを食べながら、エオストーレがそんな事を考えていると、新たな来客がやってきた。

 

「オや。素敵な匂いに釣られて来てみれば、皆様オ揃いで」

「なんだこりゃあ、おでんの屋台?」

 

 大きな懐中時計のような外見の化神、シーカー。

 そして大きなロボットの化神、アーサーである。

 

「カーバンクル殿が作ってオられるのですか」

「自信作っプイ。二人も食べるっプイ?」

「気持ちはありがたいが、オレ様は遠慮しとくよ。見ての通りスーパーメカなんでな」

「ではワタシはいただくとしましょう」

 

 そう言ってテーブル席に移動するシーカーを見て、アーサーは「お前その見た目で食えるのかよ」と口にするのだった。

 

「ご注文は何にするっプイ?」

「そうですねぇ……ではコンニャクとちくわ、厚揚げ、ごぼ天。あと焼酎の水割りをいただけますか?」

「かしこまりっプイ」

「酒飲めるのかよ……なんか渋くて、ロックだな」

「水割りですよ?」

 

 シーカーには、アーサーが口にする『ロック』の意味は伝わらなかったようであった。

 

「オいしいですね、このおでん」

「然り。我も心底気に入った」

「なー。オイラもこのおでん大好きブイ」

「マジか、そんなに美味のか……オレ様も食える身体だったらな〜」

 

 カーバンクルのおでんに舌鼓を打つシーカー。

 シルドラとブイドラはその気持ちを共有し、アーサーは羨ましく思いながらも輪に入っている。

 和気藹々と化神達が仲良く笑い合っている光景を、エオストーレとカーバンクルは優しい目で見守っていた。

 

「良い光景ですね。あの大戦を知っている身として、これ程嬉しい事はありません」

「みんなパートナーがいる。化神もこうして幸せに生きられる。それだけで十分っプイ」

「今度はパートナーも一緒に、皆で宴をしたいものですね」

「それも良いっプイ」

 

 先程生成して取り出したニンジンを食べながら、カーバンクルは心の底から未来を想い描く。

 かつては想像の余地すらなかった事。

 不完全な生命体である自分には叶わないと思っていた夢。

 人と化神が共に生き、共に夢を見られる世界。

 幸か不幸かは分からないが、今こうして自分達は理解ある人間に恵まれた。

 

「来年も、その次の年も……ボクもみんなと一緒に、おでんを食べたいっプイ」

 

 細やかな願い。

 そんな願いを抱けるようになった自分達に、過去からの変化を感じるカーバンクルとエオストーレ。

 遠くから聞こえてくる文化祭の喧騒と、目の前で広がる若き化神達の喧騒。

 二つの平凡に穏やかな幸せを感じつつ、カーバンクルとエオストーレは一日を過ごすのであった。

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