俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ツルギは保健室、シーカーは化神達で集まりおでんを楽しんでいた頃。
「今年は平和だな」
「そうですね。去年なら今頃、お礼参りが何人か来てたように思います」
校庭に作られた簡易的なファイトステージ。
そこでティーチング担当の生徒にアシストをされながら、小さな子供達が召喚器を使ったファイトをしている。
文化祭恒例行事の一つである『ちびっこサモンスクール』だ。
和気藹々と召喚器を使ったファイトを体験して、無邪気な喜びが空気に乗って伝わってくる。
勇吾とタクトはその場で立ち止まり、平和の象徴とも言えるような光景をぼんやりと見つめていた。
「たしか去年は、
「そうだな。集団でやってきた元生徒をアイツがまとめて迎え討っていた」
「あとで聞いた時にはボクも驚きましたよ。なんせ終始朗らかな雰囲気である筈の『ちびっこサモンスクール』で、そのちびっ子がみんな号泣していたんですから」
今となっては笑い話だと言わんばかりに、タクトは当時の事を振り返る。
お礼参りに集団が校庭にやって来たと連絡が入り、評議会補佐として急行したタクト達だったが。
不運にも元生徒達は、偶然近くを巡回していた音無ツララによって発見。
そのままツララの手によって、モンスターというモンスターを【凍結】させられた上で敗北していたのだった。
「あれは不審者退治よりも、事後処理が大変でしたね」
「そうだろうな……特にお前が近づいた瞬間に子供達がさらに泣き叫んだからな」
「見ていたんですか、アレ……見ていたなら助けて欲しかったですよ」
「悪いな。ちびっ子の相手はオレの専門外だ」
苦々しそうに、タクトは勇吾に抗議のオーラを向ける。
決して当時のタクトは、大声を出すなど子供が怖がる行為をしたわけではない。
ただ、目と雰囲気が怖かったのだ。
ただでさえ糸目にメガネ、赤いメッシュの入った長い青髪を後ろで束ねているという、やや怪しげな風貌。
そこへよりにもよって……当時タクトが所属していたクラス、1年A組が『中華風カフェ』をやったものだから……
「お前は中華系の服とサングラスをつけるべきではないな。アレは完全にマフィアにしか見えなかった」
「おかげでボクはちびっ子達に『ころさないで』って命乞いされましたよ……なぜか一部の女の子からは好評でしたけど」
「そういう女の心もオレの専門外だ」
バッサリと切り捨てる勇吾。
タクトは昨年の心の傷を思い出して、少し落ち込むのだった。
12月の冷んやりとした空気の中、勇吾達は元気な声を出しながらサモンを楽しむ子供達を見守る。
視線の先は同じだが、勇吾とタクトが想う先は異なる。
「……なんだか、懐かしいですね」
最初に口を開いたのは、タクトであった。
「ああいう風に、ただ純粋に楽しいファイトをする。ボク達も子供の頃は同じだった」
「……そうだった、
優しく落ち着いた様子で、いつかあった時代に思いを馳せるタクト。
対して追憶するものを持たない勇吾は、空虚な可能性だけでその場を濁す。
ただカードを場に出すだけで楽しかった時代。
そんな誰にでもあった時代を通り過ぎてしまったという実感は、確かにタクトと勇吾の中にあった。
「こういう学校に通っていると、どうしても強く在り続けないといけません」
「高みを目指す向上心は必要だ。そういう意味でオレ達帝王は、ファイターとして一つの到達点と言えるだろう」
「ご謙遜を。到達点以外に何と表現するのですか?」
軽く笑うように返すタクト。
一般的な認識であれば、
だが、今この場で必要な答えがあるとすれば、それは『到達点』の先を見る事である。
「奏。『到達点』は『終わり』であってはならない。それはオレ達ファイターなら尚更心に刻んでおく必要がある」
「身に沁みるお言葉です」
「しっかり染み込ませておくんだな……お前を補佐にスカウトした男は、それで『終わり』を迎えた」
冬の気候だからではない。
二人の間に流れていた空気が、一瞬にして冷え込んだ。
勇吾が口にした男とは当然、
勇吾はいつも通りの無表情。タクトもいつも通りの糸目に穏やかな笑みを浮かべている。
だが確実に、お互い相手の腹の中を探ろうとしていた。
「評議会補佐を再選定する際に、加入までの経緯や背景を徹底的に調べ上げた」
「なるほど……ボクが補佐に入った経緯も調べがついていた訳ですか」
「そうだな。だからこそ先の事件でお前がした奇妙な動きも、理解できてしまった」
「なにかボクに不信なところでも?」
「惚けるな。お前の動きは都合が良すぎた」
そして勇吾は淡々と、自分の調べた事実と所感を語っていく。
「仮にもあの男が直接迎え入れた補佐だ。秋のランキング戦でも立ち回りに関する指示が出ていただろう?」
「えぇ。出ていましたね」
「だがお前はその指示に殆ど従っていなかった。それどころか仲間である他の補佐を手にかけていただろう」
「……そうですね。少し邪魔だったので」
「それだけでも奇妙だが……奏、お前はランキング本戦が始まってすぐに姿を隠したな」
タイミングとしては、ツルギが不戦勝をしてすぐ後の出来事である。
政誠司達によって発生したパンデミック、そのギリギリ直前のタイミングでタクトは人のいる場所から身を隠していたのだ。
まるでそうなる事を分かっていたかのような、都合の良すぎる立ち回り。
勇吾はそれが引っかかって、調査をしていた。
「政誠司の部下……改めて記録を調べてみれば、それを名乗るには従順性に欠ける場面が多い」
「おや、そうでしたか?」
「何よりお前は、政誠司が倒されても全く動揺する事がなかった。他の補佐達は分かりやすく動じていたにも関わらずな」
「偶然ですよ。偶然そう見えただけ」
あっけらかんとした様子で返してくるタクト。
だが勇吾にはその反応も想定内であった。
「オレも最初は不思議に思った……だが今となっては納得感しか残っていない」
「へぇ……納得してしまうのですね」
「それもそうだろう。何故ならお前は最初から――政誠司に仕えてすらいなかったのだからな」
「…………へぇ、
糸目を微かに開いて、タクトは妖しげな笑みを口元に浮かべる。
心情こそ読めないが、少なくとも友好的とは言えない。
それでも勇吾は話を続ける。
「お前の家は昔から、ある一族に仕えてきたそうだな」
江戸時代から続いていた名家。
当主の大失態と死によって今では見る影もない没落をした一族。
勇吾はある調べ物の過程で、その一族の名前を知っていた。
「
「……後継者がご存命です。ならば我が王として擁立を目指すのは当然ですから」
「その後継者とやらの意志か」
「『強さ』を極め、獅子王家を再興する事は我が王の意志。ですが我が王に仕えているのは、ボクの勝手な意志でございます」
もはや隠す気もないと言った様子のタクト。
いつお互いにデッキを抜いても不思議ではない空気感になっているが、双方まだ召喚器に手を触れようとはしない。
「お前の目的はなんだ、奏」
「我が王の悲願を叶える。そのために我が王が『強さ』を高め、勝利を手にできる環境を作り上げる」
「…………そうか」
「おや、食いつかないのですね」
心底意外だといった様子で、タクトは勇吾の方を見る。
タクトはてっきり、勇吾がファイトを挑んでくると予想していた。
しかし実際には、勇吾はタクトに敵意の一つも向けてこなかったのだ。
「今のお前にはそういう気分が起きない……奏、どちらが本心だ?」
「なんの事ですか?」
「自分が仕える王に『強さ』を与えようと、謀略家を気取るお前。無邪気にサモンをする子供達を羨ましそうに見ていたお前。どっちだ?」
勇吾の言葉に思うところがあったのか、タクトの笑みが一瞬崩れた。
「普遍的で両立する感情だと思いますが?」
「その割には、微かに迷いのようなものが見えたが?」
そう問いかける勇吾だが、タクトの返答は沈黙のみ。
一応の危機感を抱いたのか、タクトは営業用の笑みは仮面として貼り付けて、己の内側を保護する。
そんな目に見えない精神的な仮面の存在は、すぐに勇吾も察してしまう。
だが勇吾は仮面の事を態々指摘などしない。重要なのは、今この場で仮面を使ったという事実だけなのだ。
「……全く、
「おや? 審査を通過させたのは貴方ではなかったのですか?」
「まさか、オレはお前を切り離そうとした側だぞ。奏タクトを補佐として続投させろと言い張ったのは天川だ」
面倒事のように事実を吐き出す勇吾に対して、タクトは心底意外だといった様子を浮かべている。
決してタクトには天川ツルギと接点があったとは言い難い。
それでも彼が自分を評議会補佐の地位に就かせておこうとした真意を、タクトは計りかねていた。
「アレもよく分からない男ですね。貴方に勝利したにも関わらず序列第1位の座を譲ったんですから」
「色々事情があったんだ。アイツが望むなら、オレはいつでも席次を譲り渡すつもりだぞ」
「だとしてもです。事を成す上で『力』などあるに越したことはありません。勝利とは即ち『得る』こと、敗北とは即ち『失う』ことです」
「なるほど、普遍的な考え方だ……だが天川はそう決めつけなかった」
そう言うと勇吾は、タクトの方へと向いて視線を突き刺す。
「奏、お前にとってオレはどんな存在だ?」
「六帝評議会序列第1位、学園最強の――」
「そういう上っ面の情報を求めているんじゃない。オレや、他の生徒達は……お前にとってどんな存在だ?」
「……一般論でしか答えられませんが、覇道に転がる邪魔な大岩。一人残さず砕くべき相手です」
そしてタクトは「我が王もきっと、同じように答えるでしょう」と続けた。
何もおかしな答えではないだろう。聖徳寺学園という弱肉強食の環境に身を置く者は、その大半が同様の答えを出すだろう。
だが勇吾はタクトの答えを聞くと「そうか」と心底退屈そうに返すのだった。
「ならばお前は……お前とその主は、決してオレ達に勝てない」
「……」
「お前の主にも伝えておくんだな――お前達の望む力は、『強さの果て』を想像できない者が手にできる代物ではない――とな」
「……その伝言。確かに預かりました」
己が仕える王を愚弄されたと激昂するわけでもない。
何か感じるものがあったのか、タクトは淡々と勇吾の言葉を持ち帰ると返すのだった。
悲願を成し遂げるために『強さ』を得る必要はある。
だがその後に残る『強さの果て』とはなにか……タクトはすぐに想い描く事ができなかった。
(あの男の元で、レンは確実に強くなっている……ならばコレで間違いない筈なんだ……)
言われてしまえば確かに、現在獅子王レンに手を貸している
だが彼のおかげでレンと自分の悲願達成に近づいているという実感はある。
柄の悪い人間がレンの周りに集まり始めているなど、もはや些細な問題だと思っていた。
(ボクはレンの右腕、レンの進む道を拓く剣……我が王の願いを叶える事こそ、ボクの存在意義)
そう自分に言い聞かせるものの、過去の思い出がタクトの心に迷いを生じさせる。
純粋な気持ちでサモンを楽しんでいた幼き日の思い出。
自分にファイターとしての道を歩む切っ掛けを与えてくれた、幼き日のレン。
今、彼が歩もうとしている道の果てに……あの日の平穏は在るのだろうか。
(迷う事など……ない筈なのに)
近くて遠い場所から見える、手の届かない光がタクトの脳裏に反芻される。
それは評議会決定戦での光景。
負けられない一戦、重要極まる一戦であったにも関わらず……天川ツルギとその仲間達は、心から試合を楽しんでいた。
自分達と、なにが違うのだろうか。
そんな疑問ばかりが、タクトの心に重くのしかかるのだった。
◆◆◆
勇吾とタクトが真面目な話していた一方。
評議会の執務室にて電話番を命じられていた音無ツララは……己の精神を落ち着けようと試みていた。
「あ、あのぉ……音無先輩? これは?」
「人間はね……精神が限界を迎える前に、推しを摂取して安寧を手にしなきゃいけないのよ」
「えっ、コレって全部……
ツララは執務室のあちこちに、黙々と
この時点で既に、
「そう……
「先輩、ちょっとなに言ってるのかティアナわかんないです」
そして盗撮写真を配置し終えると、ツララは執務室の中央で座禅を組み始める。
まだ中等部のティアナに見られていようが関係ない、ツララは藍と一緒に文化祭を回れないという現実から今すぐ逃避したかったのだ。
「はぁぁぁ……ッ! 藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん――【///以下長すぎる上に同じ言葉しか言ってないので省略///】――藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たん藍たんの藍たんによる私のための【///ガイドラインやコンプライアンスに反する発言ため自主規制///】藍たぁぁぁぁぁぁん!」
それっぽく手で印を結びながら、ツララはキマりきった目をガン開いて推しの名を詠唱し続ける。
徐々に恍惚とした表情へと変化している辺り、精神安定の効果はキチンとあるようだ。
ただ一つ問題があるとするなら……
「うぅ……ぐずっ……この人、怖いぃ……」
間近で見てしまった禰津海ティアナの心に、深い傷を負わせてしまった事だろう。
音無ツララという女の狂気を前にして、ティアナは恐怖のあまりただ嗚咽を上げる事しかできなかった。