俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百六十一話:夕焼け空と危険な二人

 見上げれば空はオレンジ色になり始めている。

 文化祭1日目も、もうすぐ終わりの時間だ。

 事前に聞いていた話と比べれば、恐らく今年は相当平穏な文化祭だったのだと思う。

 ただしそれを言っていいのは、例年の様子をよく知る者達だけだ。

 今年が初参戦の俺はというと……

 

「れくてしかをてらなまひえまおるでんよらかくゃぎをれこいお」

「ツルギくん本当に大丈夫ですか!?」

「疲れ過ぎてツルギセンパイ壊れちゃった」

 

 とても疲れています。

 確かに先輩方から聞いていた、所謂『お礼参り』の類は全く来なかった。

 だが内部のトラブルはそうでもない。

 アレだけ言っていたにも関わらず、結局智代(ちよ)ちゃんを保健室に届けた後には大なり小なり喧嘩をする奴らがいました。

 

「交渉……俺、ネゴシエーション、する」

「落ち着いてくださいツルギくん。交渉手段が口じゃなくて暴力(デッキ)になってます」

「でもセンパイ、口より先にデッキ抜いてましたよね? 全部★」

 

 だってよー早乙女さん、この学校じゃあそっちの方が話が早いんだよ。

 口より先にカードを持て。肉体言語ならぬ紙札言語だ。

 ……その紙札言語で喧嘩の仲裁(〆あげ)をすること計7回。

 口で分からぬ者を連戦で分からせた結果、俺は疲れているのであった。

 

「ソラちゃんセンパイ。もしかして評議会ってめーっちゃハードワークなとこ?」

「た、多分今年が特別なだけだと思います……特にツルギくんは色々と頑張ってくれているので」

 

 ちょっぴり苦笑いを浮かべながら、ソラは早乙女さんにそう説明してくれる。

 実際今年に限っては色々とイレギュラーがあったわけだし、黒崎(くろさき)先輩達が頑張ってくれたとはいえ、諸々の後始末もあったからなぁ。

 ……いや、俺が今疲れているのって昨日の諸々が原因じゃないか?

 戴冠式の件とか音無(おとなし)先輩の暴走とか。

 

「ツルギくん、明日は少しゆっくりしていた方が良いんじゃないですか?」

「なーに言ってんだ。明日はソラ達のステージがあるだろ? 尚更俺らが気合い入れないと」

 

 でもまぁ、心配してくれるのは素直に嬉しい。

 それに忙しかったとはいえ、なんだかんだ文化祭1日目は楽しかった。

 早乙女さんという後輩との交流も案外面白かったし……明日も比較的平穏に終わって欲しいもんだ。

 

「ほえ? ステージって、ソラちゃんセンパイなにかするの?」

 

 俺が口にした「ステージ」という言葉が気になったのか、キョトンとした表情で聞いてくる早乙女さん。

 なんだ、てっきりソラから聞いた後か、既に知っているものかと思っていた。

 

「ステージって、たしかあの大っきいドームでやるんですよね?」

「そうそう。普段は特別な試合をする時に使うんだけど、文化祭2日目は生徒によるステージパフォーマンスをする会場になる。で、ソラもそれに出るんだってさ」

「アイちゃんのプロデュースで、ちょっとアイドルっぽい事……『文化祭限定ユニットライブ』をする予定なんです。私はまだちょっと恥ずかしさが勝ってますけど」

 

 と、そこまでソラが言った次の瞬間。

 早乙女の目が、これでもかと言うほど分かりやすくキラキラと輝き始めていた。

 

「ソラちゃんセンパイと愛梨(あいり)ちゃんセンパイでアイドルユニット……★」

「あっ、私とアイちゃんだけじゃなくて、(らん)ちゃんと真波(まなみ)ちゃんも――」

「いく! コスモ絶対に行く! 推しとそのライバルが組んだアイドルユニットなんてエモとロマンの塊だよー★」

 

 テンションの上がった早乙女さんは、明日のステージを想像しているのか「ソラちゃんセンパイのアイドル衣装……」と口に出してしまっている。

 推しのライブというものが、相当楽しみなのだろう。

 

「な、なんだかこうして面と向かって言われると……恥ずかしさといいますか、責任と緊張が」

「大丈夫だ。楽しみにしてるのは俺らもだから」

「ツルギくん!? 今それを言うのは追撃でしかないですよ!」

 

 俺としては正直な期待を口にしただけなのだが、顔を真っ赤にしたソラにポカポカと叩かれて抗議されてしまう。

 別になんて事のないやり取りなのだが……ふと、俺は早乙女さんの方へ視線を向けてみた。

 

 一瞬、だから気のせいだったのかもしれない。

 早乙女さんがこちらを見る目は、どこまでも冷めていて。

 瞳の向こう側には果てのない闇が広がっているように、そう見えてしまった。

 

「仲良いですね、お二人とも★」

 

 そう言葉にした時には、早乙女さんは元の様子に戻っていた。

 やはり気のせいだったのだろう。疲れているから変な錯覚でもしたんだ。

 時間も時間、一般の客も疎らになってきている。

 

「それじゃあ、コスモはここでさよならです★ 明日も絶対に来ますから、ぜ〜ったいにソラちゃんセンパイのステージ観に行きますねー!」

 

 校門の近くまで行くと、早乙女さんはそう言い残して去っていくのだった。

 とは言っても、何度かこちらに振り返っては元気よく手を振ってきたので、こちらまで名残惜しさを感じてしまう。

 

「来年は色々頼られそうだな、ソラ」

「あはは……そうかも、しれません」

 

 既に早乙女さんの姿が見えなくなった方を向きながら、俺とソラは来年度の事を思い描く。

 なんだか騒がしい子だったし、実力は間違いなくあった。

 だから来年は退屈しなさそうだな……と思う一方で、俺の中では少し気になる事もあった。

 

(あの藍との試合……早乙女さんは本当に全力を出していたのだろうか?)

 

 どうにも引っかかってしまう。

 そして試合中、一瞬だけ見えたような気がする〈黒翼化(こくよくか)〉のカード。

 

(確かにあのカードは《聖天使》に関連する効果だ……でも本当にあのカードだとすれば)

 

 普通なら【聖天使】デッキに入れる事はない代物。

 故に珍しいし、腑に落ちない。

 とはいえ、どれだけ考えようが今は推測の域を出ないのだけど。

 

(もしも……早乙女さんのデッキが()()だとすれば)

 

 ある意味では一番怖いかもしれない。

 そんな事を考えながら、俺はソラと共に学園の奥へと戻っていくのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 ツルギやソラと別れて、早乙女コスモは聖徳寺(しょうとくじ)学園から少し離れた場所まで来ていた。

 ニコニコと笑みを浮かべ、楽しいお祭りの余韻に浸っている最中だと言わんばかりに小さくスキップまでしている。

 すれ違う人々からの視線など気にも留めない。

 今が楽しいから、その感情を動きに出している。

 

 そんな様子のままコスモは、人気の少ない目的地まで移動する。

 余計な視線はもうない。それを確認した途端、コスモの表情から笑みが消え去った。

 

「……ちょっとガード固いかな」

 

 今日再会したツルギの事を思い出しながら、コスモはボソッと呟く。

 するとコスモの元に、一人の男が近づいてきた。

 

「例の調べ物は済んだかね? 早乙女くん」

 

 それは色黒の肌にスキンヘッドが特徴的な、筋骨隆々の男。

 普通の少女なら怯んでしまいそうな怖さを持ち合わせているが、コスモは全く様子が変わっていなかった。

 

「あっ御筆(みふで)センセェ♪ こんばんはです★」

「文化祭は楽しめたか?」

 

 コスモに話しかけた男の名は御筆・ヴンダー・(うつろ)

 よく知る間柄故に、二人は気兼ねなく会話をしている。

 

「もち★ やーっとソラちゃんセンパイにも会えたから、コスモ今めーっちゃテンション上がってるの★」

「そうか。それで? 今回の目的でもある調べ物の方は?」

「ちゃーんと探り入れておきましたよーだ……思いっきり仕掛けられてたね。バ・ク・ダ・ン★」

 

 爆弾。

 文字通りの代物が仕掛けられていた事について、コスモは御筆に報告をする。

 しかし二人共爆弾の存在は察していたせいか、あまり大きな驚きを感じている様子は無かった。

 

「やはり仕掛けていたか。今回のターゲットはそういう唆しに長けていたようだな」

「ねー★ 評議会を追い出された雑魚を上手く集めて、ツマンナイ花火でも上げたいのかな?」

「鉄砲玉というヤツだ。怒りを煽って仕立て上げれば、勝手に特攻をしてくれる。今回の手合はそういう類だ」

「ひどーい。死なせるならもっと愛を込めてあげなきゃコスモ的にNG★」

 

 あざとく媚びるかのようにそう言うと、コスモは「それで?」と御筆に問いかける。

 

「雑魚を煽ったお行儀の悪ーい足長おじさん、もう見つけたの?」

「ある程度まで絞り込めた。だが明日には特定できるだろう……見つけ次第始末せよ、それが『財団』からの指令だ」

「はーい★ 早く見つけて教えてくださいね♪」

「承知している。早乙女くんも例の化神は持ってきているだろうな?」

「とーぜん★ パパから貰った大事なプレゼントだもん」

 

 コスモは自身の召喚器から1枚のカードを取り出して、証明をするように御筆に見せる。

 それを一瞥すると、御筆は「なら良い」と短く返すのだった。

 

「それで御筆センセェ。爆弾はちゃんと見つけたし、黒幕のおじさんも後でないないするのは良いんだけど……本当に爆弾の解除しなくてよかったの?」

「問題ない。どうせ明日には実行犯となる者達が学園に押し寄せてくる……それすら討ち返せぬ弱卒に用はない」

「えー!? センセェもしかして、まだチームメンバー探そうとしてるのー!?」

 

 唇を突き出して、コスモは「ぶーぶー」と子供っぽく抗議をする。

 だがそれを意に返す事なく、御筆は淡々と「実用性のる戦力なら、あるに越した事はない」と言うのであった。

 

「ぶぅ〜……そりゃあコスモも今のチームに思うところはあるよ。具体的にはあの脳みそ性欲塗れ男がマジで大ッッッ嫌い! パパからのお願いじゃなかったらコスモ今すぐ殺してるよ!」

「だがアレでも我々にとって利用価値がある。馬鹿だからな」

「わかってますよー……あーあ★ あのクズも弟を見習って少しは真面目に生きればいいのに」

「生き方など問題ではない。使えるか否かだ」

「だったら早く代わりの人見つけてくださーい★」

 

 笑顔こそ浮かべているが、コスモは自身の中にある嫌悪感を隠そうともしていなかった。

 

「では明日は指示が来るまで自由に行動してもらって構わない」

「はーい★」

 

 明るく年相応の少女らしい返事をするコスモ。

 それで話は終わりと言わんばかりに、御筆は彼女の元を去っていくのだった。

 一人残されたコスモは、明日の文化祭について考える。

 

「うーん……本当に不味そうだったら、コスモも手を貸してあげようかな★」

 

 学園が爆破されるのは、コスモにとっても都合が悪い。

 化神と共にいる彼らであれば、解決自体は可能であろう。

 だが本当に手が回っていないのであれば、コスモは自身のデッキに眠る化神を使うつもりであった。

 

「あれもこれもぜーんぶ。コスモからの愛……わかってくれるよね?」

 

 そして空は綺麗な夕焼けになる。

 明日という瞬間は、一歩一歩と近づいてきていた。

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