俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百六十二話:1日目の終わり……

 文化祭1日目、無事終了。

 冬は日が落ちるのも早いので、既に空は暗くなり始めている。

 校舎の外からは屋外スペースの片付け等をしている生徒達の声が聞こえてくるのだが。

 そんな中で俺はいったい何をしているのかと言うと。

 

「ですくわーくはわるいぶんめい」

 

 評議会の執務室で、書類作業に追われていました。

 具体的には本日執行した処罰内容に関する報告書である。

 どうやら喧嘩の仲裁でファイトしたのは俺が最多だったらしく、必然的に作成する書類の数も膨れ上がってしまったのだ。

 

「ちょっとツルギ、本当に大丈夫なの?」

「肉体疲労と頭脳疲労がループコンボを組み始めてる」

「休みなさいよ……その報告書の締め切り、今日じゃないでしょ?」

 

 隣で俺と同じく報告書を作成……していたけど終えてしまったアイに、ジト目を向けられながら心配されてしまう。

 

「仕方ないだろぉ、数多いから今の内に片付けないとなんだよぉ」

「1日くらい後回しにしなさい。パフォーマンスが落ちるくらいなら、素直に休んで体力回復に勤しむべきよ」

「元アイドルに言われると説得力が違い過ぎる」

 

 そりゃあ元はフィジカルのパフォーマンスで稼いでましたもんね。

 流石にアイに言われてしまうと何も反論できない。

 

「流石に少し休憩するか。コーヒー淹れるけどアイも飲むか?」

「あら、いいのかしら?」

「ミルで豆挽くから、5分くらい待っててくれ」

「……本格的なのね」

 

 椅子から立ち上がり、俺は執務室の棚にしまってあるコーヒー豆やミルを取り出す。

 ここにはちょっとした給湯室も併設されているので、俺はポットで湯を沸かしながら、豆を挽き始めるのだった。

 

「やぁやぁお疲れ――って、愛梨(あいり)くんだけかい?」

「あら(ワン)先輩。生憎とそこの給湯室にツルギがいるわ」

 

 挽きたての豆の香りを楽しんでいたら、執務室に牙丸(きばまる)先輩がやってきたらしい。

 この後他のみんなも来るだろうし、少し多めに挽いておくか。

 

「らしいね。コーヒー豆の匂いで分かったよ……というかアイツ豆を挽いてるのかい?」

「豆もミルも、ツルギが個人的に持ち込んだのよ」

「コーヒー好きだとは聞いていたけど、遂にそこまできたか」

 

 聞こえているぞ二人とも。

 良いじゃないか、挽きたてコーヒーは人生に彩りを与えるんだぞ。

 簡単な作り方メモだって、この給湯室に置いてあるんだからな。

 ……完全に俺の趣味100%だけど。

 

「湿らせて10秒。あとは段階的にお湯を注ぎます」

 

 これだけで美味しいコーヒーは完成するんだ。

 そして出来上がったコーヒーの入ったポット、マグカップや砂糖などを、おぼんに乗せて持っていく。

 

「はいよ、お待たせ」

「ありがとうツルギ」

「牙丸先輩もどうですか?」

「良いのかい。じゃあお言葉に甘えて」

 

 砂糖は粉末タイプ、ミルクはポーションタイプ。

 ガムシロップやスキムミルクは俺が認めない。

 なんて思想を抱きながらも、俺はいつも無糖ブラック派なのだが。

 

「へぇ、なかなか良い香りを出してるじゃないか」

「慣れれば素人でもいけるもんですよ」

「そのようだね」

 

 牙丸先輩は俺と同じくブラックで飲んでいる。

 そういえば初めてせんと二人で話した時も、こうしてコーヒーを飲んでいたな。

 ちなみにアイはミルク一つと砂糖ひと匙が好みらしい。

 

「そういえば天川(てんかわ)、今日は随分と可愛らしいレディに懐かれていたじゃないか」

「牙丸先輩。早乙女さんの事を言っているなら、誤解を招きそうな表現です」

「有名人に懐かれるとは、中々やるじゃないか」

「あら。もしかして本当に早乙女コスモが来てたのかしら?」

 

 そう言って興味深そうに聞いてくるアイ。

 そういえば今日の巡回中、アイとはすれ違ってなかったな。

 という事はアイは早乙女さんに会わなかったのか。

 

「来てたぞ。色々あって俺……よりもソラに懐いてたけど」

「ソラが懐かれる展開は簡単に想像できるわ。だってあの子のデッキって【聖天使】でしょ」

「だな。ソラに憧れて【聖天使】デッキを組んだって本人が言ってたぞ」

「それ、言われた本人はパニックになってたでしょ」

「ご名答。映画館の4DX座席くらい震えてたぞ」

 

 そして俺は今日の出来事を軽く話す。

 とは言っても、ほとんど早乙女さんとソラについてなんだけど。

 

「へぇ……どうやら将来有望な後輩候補だったらしいね」

「ですね。俺よりもソラが喜びそうな気がしますけど」

「そうか。じゃあそんな天川に、人生の先輩としてボクから忠告を」

 

 忠告? コレはまた牙丸先輩にしては珍しい言い回しだな。

 

「あの早乙女コスモって子には、気をつけた方がいい」

「……へ?」

「ボクも今まで色んなレディ達と遊んできたけど……経験側からして、あの子は何か危ない秘密を抱えている気がしてならないんだよ」

「先輩……それ先輩が言うと洒落にならないです」

 

 曲がりなりにも女好きの牙丸先輩。

 そんな先輩の経験側から出る忠告なんて、言葉の重みがありすぎる。

 しかも危ない秘密なんて、不安しか出ないぞ。

 

「……危ない、か」

「なにか心当たりでもあったのかな?」

「そこまで大層なものじゃないです。ただ少し引っかかる事があっただけなんで」

 

 一応明日も文化祭に来るらしいし、ちょっとだけ気をつけおくか。

 

「レディとの火遊びは火傷上等。だけど消し炭になってしまっては手遅れなんだよ」

「すみません先輩。既に何度か消し炭寸前になってる人に言われても反応に困ります」

「そう言うなって、ボクは全てのレディと愛を語り合えるなら何度だって復活する不死鳥のようなものさ」

「アイ、この人の言葉を信じていいと思うか?」

「思わないわね」

 

 だろうな。

 特にアイはよくない男に絡まれた経験も色々あるだろうし。

 以前ソラに「牙丸先輩にナンパされたら蹴りなさい」って言っていたそうだし。

 うん、火遊び云々の件は聞かなかった事にしよう。

 

「……なぁ、今更なんだけど……(らん)の報告書は?」

「藍ならチャレンジファイト以外でファイトしてないそうよ。真波が全部代わりにやったって」

 

 そっか〜、あの後ちゃんと九頭竜(くずりゅう)さんが一緒に行動してくれたのか〜。

 まさか結果的に藍がファイト禁止状態になり、書類作業から逃れる事になるとは。

 しかも九頭竜さんはもう書類仕事終えてるし。

 

 そんなこんなで再開した書類仕事に勤しんでいると、次第に他の皆も執務室に戻ってきた。

 ただし書類仕事をしているのは俺だけで、他の皆はそれ以外の作業等を終えてきたところである。

 

「コーヒーの匂い。という事は天川が作業中か」

 

 速水も戻ってきた。というかコーヒーの匂いで判断するのかよ。

 

「なるほど、随分と派手にファイトしたな」

「うっせぇ。そういう速水は書かなくていいのかよ」

「俺は全て口頭で終える事ができたからな」

 

 この交渉人め。その話術スキルを俺にも分けてくれ。

 だけど流石にコーヒー飲んでも限界はある。

 区切りのいいところまで終えたら、今日は終わりにするか。

 

「ところで速水……その執務室の隅っこで丸まっているのは」

「補佐の禰津海(ねずみ)さんだ。疲れているんだろう」

 

 本当にそれだけかな?

 なんか丸いというか真っ白になっているというか。

 自分の意思で虚無と一体化しようとしているようにも見える。

 

(まぁ……仮に何かあったとしても、どうせ原因は音無(おとなし)先輩だろ)

 

 当の音無先輩はなんか「私、満たされてます」って感じでツヤツヤしてたし。

 何があったかは聞かないでおこう。聞きたくもない。

 そして当分そのまま大人しくしていてくれ。それだけで俺としても安心できるんだ。

 

「ん、全員揃っているようだな」

 

 どうにか作業に区切りをつけて、身体を伸ばしていた時であった。

 執務室の扉が開いて、黒崎先輩と(かなで)タクトが戻ってきた。

 そして俺は改めて執務室を見回してみる。どうやらいつの間にか全員ここに戻ってきていたらしい。

 

「黒崎先輩、お疲れさまです」

「天川は書類作業中だったか」

「数が多いし、身体も脳も疲れたんで、残りは明日です」

「そうか。区切りがついているなら都合がいい」

 

 おや、このタイミングで『都合がいい』なんて言われると、少し不安になるぞ。

 厄ネタで無いことを、心よりお祈りいたします。

 

「天川。今日の巡回中、所謂『お礼参り』のような奴に遭遇したか?」

「いや、俺は一度も遭遇しませんでしたね」

「……他の皆はどうだ?」

 

 黒崎先輩の呼びかけに、全員首を横に振る。

 どうやら今年は、事前に聞いていたような『お礼参り』の類は来なかったらしい。

 

「誰も……遭遇しなかったのか?」

「良いじゃないかですか先輩。平和が一番ですよ」

 

 なんて呑気に言ってしまうが、俺は何か妙な引っ掛かりを感じてしまう。

 

「……今年に限って?」

「そうだ天川。妙じゃないか? 何故()()に何も起きていないのか」

 

 黒崎先輩に言われて、俺も嫌な感じがしてきた。

 今年は本当に色々あった……それも俺達、新評議会メンバーが怨みを買う理由も明確な程にだ。

 そうだ。コレと言って変な動きがなかったから気にしていなかったけど、文化祭を襲撃してきても不思議じゃない集団がいたじゃないか。

 

「旧評議会補佐……」

「そうだ。妄信的な政帝(せいてい)派だったヤツらが何もしてこなかった」

 

 黒崎先輩が口にしたその言葉で、執務室にいたほぼ全員がハッとなった。

 政帝派こと旧評議会補佐メンバー。

 新体制にする際に、政帝に深く加担いていた奴や過激派とも形容できそうな奴らは全員補佐の資格を剥奪した。

 怨む理由は十分、襲撃をする可能性はそれ以上……なのに今日まで何もしてこなかった。

 

「これは念の為の確認だが……今日学校で、旧評議会補佐のヤツを見た者はいるか?」

 

 そう問いかけた黒崎先輩だったが、執務室に流れたものは沈黙。

 なにも言葉が出てこない、それが答えだった。

 誰も、その面々の姿を見ていないのである。

 理解した瞬間、俺だけじゃなく執務室全体に嫌な予感を伴う空気が張り詰めた。

 

「……天川、校内宿泊の届出をだしてくれないか。念の為に」

「俺も書きます。流石に嫌な想像が山ほど浮かび上がるんで」

 

 とりあえず書類棚から『校内宿泊届』の書類を2枚取り出して、1枚を黒崎先輩に渡した。

 人がいなくなった夜の襲撃だって想像できる。

 もっと厄介な何かを仕掛けてくる可能性も想像できてしまう。

 杞憂で済めば良いけれど……状況が状況なだけに、あまり楽観的な思考ができなさそうだ。

 

「ねーツルギくん、なにこの書類?」

「本来は校内合宿用の届出書類。だけど今回は緊急事態という事で――」

「アタシも書くー!」

 

 そう言うなり、藍も棚から書類を取り出し始めた。

 こんな事を言っているが、藍は絶対に学校の警備だとかそんな理由で書類を書くつもりなんじゃない。

 絶対にそうだ。

 

「文化祭。夜の学校にみんなでお泊まり。絶対にワクワクするイベントじゃん! アタシ、テンション爆アガってきた!」

 

 ほらね、楽観的。

 でも藍はこれくらい楽観的でいてくれた方が頼りになるか。

 

「真波ちゃんもお泊まりしよーよー! ソラちゃんとアイちゃんも!」

 

 ……あれ?

 もしかして藍さん、『みんなでお泊まりイベント』でも始める気?

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