俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

266 / 267
第二百六十三話:王に問う①

 結局あの後、みんなで学園に泊まる事となってしまった。

 文化祭中という事も相まって、どこか不思議な青春とでも言うか、純粋なワクワクを感じている事に間違いはない。

 とはいえ、明日がくるまで時間はあり余っている。

 その上、今晩の食事の調達も必要……となればやるべき事はただ一つ。

 

「アナログファイトしようぜ、アナログファイト! 俺と一緒に買い出し係やるの賭けてもいいぞ」

「やろー、やろー!」

「ねぇ、誰かこのファイトジャンキー二人を止めてくれないかしら」

 

 俺の提案に乗り気な(らん)に対して、アイは淡々と呆れた目を向けてくる。

 良いじゃないか、アナログファイトだって風情があるんだぜ。

 そんな事を考えていると、近くにいた速水とソラまでジト目を向けてきた。

 

天川(てんかわ)、お前今日は特にファイト疲れしていたんじゃないのか?」

「と言いますか、ツルギくんサラッと勝敗に関係なく自分が買い出しに行くって言ってませんでした?」

「天川の事だ。負けた場合のみ買い出しだと、自分が買い出しに行く可能性が激減するとでも思ったんだろう」

「その上で自分は絶対に買い出し係と言ってしまう辺り、ツルギくんですよね」

 

 良いじゃんか別に。

 こういう買い出しって結構ワクワクもんなんだぞ。

 あと俺が外に出たら、俺が料理をする事も可能になります。

 メニュー選びと材料選びは任せろ。

 

「はい、テーブルの用意できた」

「ありがとう真波(まなみ)ちゃん! さぁみんな、やろー!」

 

 気づけば九頭竜(くずりゅう)さんが執務室に小さなテーブルを用意してくれていた。

 盤面に置くカードの枚数が少ないゲームだから、アナログファイトならこれで十分。

 だがそれはそれとして、藍は早くファイトしたくてウズウズしているらしい。もう召喚器からデッキを取り出している。

 

「ソラ。ここからファイト以外の方法を取れる保険ってあるかしら?」

「ないと思います。でもせっかくですし、私達も久しぶりのアナログファイトしませんか?」

「まったく……しかたないわね」

 

 アイはやや渋々といった感じだが、2人共やる気になったらしい。

 速水も参加してくれたので、最終的に一年生6人でアナログファイトをする事になった。

 財前は気づいた頃には何処かへ行ってしまったけど……アイツの事だ、またミリタリー再現飯でも調達しに行ったんだろう。

 

「ソラちゃーん! ファイトしよー!」

「はい。今日は勝たせてもらいますよ」

 

 テーブルでは早速、藍とソラがファイトを始めるようだ。

 ちなみに上級生の皆様は宿泊届の提出と説明諸々に行ってる。

 早めに戻ってきたら何食べたいか聞いておこう。

 ファイトの始まったテーブルを眺めながらそんな事を考えていると、頭の上に慣れ親しんだ重力が乗ってきた。

 

「キュプ、ただいまっプイ」

「おかえり。そっちはそっちで楽しめたか?」

「しっかり楽しめたっプイ。ボクも久々におでん屋台ができて満足っプイ」

 

 ……化神のおでん屋台ってなに?

 というかカーバンクル、どうやって校内におでん屋台出したんだよ。

 考えれば考える程、何をやっていたのか分からない。

 

「おでん美味しかったブイ〜」

「おかえりブイドラ……おでん?」

「シルドラ……おでん食べてたの?」

「うむ。美味であった」

 

 ブイドラとシルドラも戻って来たようだけど、やっぱりおでんは疑問符浮かぶよな。

 藍と九頭竜さんも首を傾げているぞ。

 

「クジラ出汁? のおでんだったのね。美味しかったのね」

「そう……えっ、貴女おでん食べられるの?」

「お出汁とチーズトマトだけなのね〜」

 

 ウィズもアイの元に戻ってきている。

 そうか、鯨出汁のおでんだったのか……また随分と手の込んだメニューを。

 

 外から化神が戻ってきて、俺たちは俺たちでアナログファイトを続ける。

 こうして和やかにやるカードゲームに風情を感じつつ、少し特別感のある時間が過ぎていくのだった。

 

(……あれ、そういえば誰か忘れているような?)

 

 禰津海(ねずみ)さんは校内のどこかにいる筈だし……まぁいいか。

 

 

 

 

 で、楽しいアナログファイトが盛り上がる中。

 

「ちょーっと盛り上がり過ぎたかな〜」

 

 俺は一人で買い出しに行く事にしていた。

 仕方ない、思いの外みんなアナログファイトで盛り上がってしまったからな。

 大人しく俺が何か買ってくるとしましょう。

 

「ツルギ、なに買うっプイ?」

「注文が多かったんで、コンビニおでんをたっぷりと」

 

 頭上のカーバンクルと他愛ない話をしながら、夜の廊下を歩いていると……

 

「……なぁカーバンクル。窓の外に何か見えるんだが」

「ちょっと飲み過ぎただけっプイ」

「そうか、屋台で飲み過ぎたのか」

 

 窓の外に視線を向けながら、俺は思わずそう呟いてしまう。

 そこにいたのは四つん這いの体勢で、出してはいけない声を出している限界大天使(エオストーレ)がいた。

 

「オボロロロロロロロロ」

 

 あーあー、虹色というかモザイク不可避なもん出ちゃってるよ。

 しかも相手が化神だから普通の人間には認識できないんだよな、腹立たしい事に。

 とりあえず見なかった事にしよう。こういうのは飲み過ぎた奴が悪い。

 なんて考えながら廊下を進もうとすると。

 

「あっ」

 

 ものすごく見覚えのある金髪縦ロールお嬢様が、廊下で体育座りしていた。

 というか真っ白に燃え尽きていた。

 そうだ……戴冠式の時もそうだけど、この姉妹の事をすっかり忘れていた。

 

鳳凰院(ほうおういん)姉、なにしてんの?」

「見て分かりませんか? 疲労で燃え尽きているのよ」

「あぁ。そういえば準備期間中もずっと、音無先輩にこき使われてたんだっけ?」

「えぇ……おかげさまで、ワタシも鈴音(すずね)も真っ白よ」

 

 それは、本当にお疲れ様です。

 聞けば今日もずっと雑用やらで裏方仕事を頑張ってくれていたらしい。

 良かった……窓の外にいる閲覧注意大天使が認識できない人で、本当に良かった。

 

「えっと、マジでお疲れ様です」

「いえ、ワタシはまだ良いわ。貴方こそ今日は相当派手にやっていたのでしょう?」

「なんだかんだ色々あったんで。それで、この時間に残ってるって事は」

「鈴音は今買い出し中よ。あの子の方が体力あるのよ」

 

 なるほど、メイド服は伊達じゃないという事か。

 とはいえ人員が多いに越した事はない。

 

「そういう貴方は?」

「他のみんなはアナログファイト中。なので俺が買い出しに」

「はぁ……貴方といい、ワタシの同期にはファイトジャンキーしかいないのかしら」

「仕方ないだろ、楽しいんだから」

 

 ただし藍がジャンキーなのは全面的に同意する。

 アイツは前の世界で見たアニメの時点でそうだったからな。

 それに付き合う九頭竜さんも、ややジャンキー寄りなのかもしれないけど。

 

「なんだか、貴方達が玉座に着いた理由も分かる気がするわ」

「……そうかな」

 

 無難な返事しか出せないけど、正直内心では複雑だ。

 可能性を潰した。俺からすれば、この子が座る筈だった玉座を奪ったような感覚だからな。

 当人にそんな認識が生まれる筈ないと理解していても、やっぱり気まずさは感じてしまう。

 

「そうよ。だからこそワタシも、貴方達を凌駕したくなる」

「だったら良かった。ついでに九頭竜さんとも距離縮めてやってくんねーか? 今ならみんな執務室にいるから」

「あら、お膳立てかしら?」

「偶然とか運命って言ってくれ」

「知ってるわよ。貴方はそこまで器用な人間ではないでしょう?」

 

 よくお見通しで。

 

「でもそうね。貴方の言う通り今夜はきっと良い機会だわ……鈴音が帰ってきたら一緒に執務室で夕食にでもしましょうか」

「だな。そっちの方が楽しい」

 

 原作でも鳳凰院姉妹は、二年生から九頭竜さんと仲が良くなり始めていたし。

 こういう流れは原作よりも早く達成されてしまって良いんだ。

 もしも何か問題が起きそうなら、その時は俺も手を貸そう。

 

「おや? アナログファイトから抜けてきたのですか、虹帝(こうてい)?」

 

 ふと、これまたある意味聞き慣れた声が聞こえてきた。

 振り返るとそこに立っていたのは糸目メガネの二年生、(かなで)タクトだった。

 うーん。夜の廊下に登場しただけなのに、面白いくらい胡散臭い雰囲気を出すなこの人。

 

「お疲れ様です奏先輩。俺は買い出しに行くつもりなだけですよ」

「先輩なんて畏まらなくても良いのに。階級は貴方の方が上なんですよ」

「生憎と、俺は年上から称号で呼ばれると息苦しさを感じる人間なんです」

「仮にも序列第2位の帝王なのですよ? 多少傲慢であっても、それが貴方なら誰も文句は言いませんよ」

 

 うーん。比喩的な仮面越しの笑みを向けられているせいか微妙に気持ち悪いものを感じるなぁ。

 何か探っているのか。それとも何かを見定めているのか。

 まぁ単純に考えれば、俺が獅子王(ししおう)レンの修行に利用できるか否かを考えているんだろうけど。

 今回の意図は何なんだろうか。

 

「戴冠したからって、そんなに変わる必要もないですよ。普段通りに少しの仕事を足すだけです」

「ご立派ですね。寝首を掻かれる可能性を想定していらっしゃらないのですか?」

「怖いなぁ、戸締りならちゃんとしますよ」

「ジョークは必要ありません。あとボクのこれは純粋な好奇心です……貴方は何故自分の手札を晒すのだろうか、とね」

 

 なるほど。

 どうやら執務室でやっていたアナログファイトの事を言っているらしい。

 確かにアナログファイトは召喚器を使う試合と比較して、文字通り手札などの情報が漏洩しやすいからな。

 評議会の帝王と補佐がそれをしている光景が異様に思えたんだろう。

 

「そんなに難しい事なんて考えてないですよ。楽しいお泊まり会の暇つぶしです」

「強さへの自信か、それとも警戒心が無さすぎるのか。補佐の身からすれば、帝王の攻略情報なんていくらでも利用方法がある。貴方程の人間であれば理解できているはず」

「でしょうね。そういう意味じゃあ俺って一番王様に向いてないと思いますよ」

「自覚していたのですか。強さは間違いなくあっても……ボクを手元に置いた件といい、貴方はあまりにも帝王らしくない」

「耳が痛い」

 

 本当に、自分でもその通りだと思う。

 力で押さえつける事しかできない、回避したくても回避しきれない。

 暴力がカードゲームに差し代わっているだけで、俺にできる事は力の行使でしかないんだ。

 なら結局、俺という帝王は暴君と紙一重でしかない。

 

(奪わずに済ませられたら理想だけど……今のところ、ほとんどが何かしら奪う結果になっているからなぁ……)

 

 力はあっても、自分が思い描いた強さの果てはまだまだ遠い。

 自分の未熟さを改めて痛感してしまう。

 

「お言葉ですが奏先輩。彼は十分、帝王の座に適した人物であると思いますわ」

 

 ふと、意外にも鳳凰院姉からフォローが入ってきた。

 これはちょっと予想していなかった展開なので、俺も内心驚いてしまう。

 

「そうなのかい?」

「えぇ、少なくともワタシはそう思いますわ」

「ボクには、自ら玉座を手放そうとしているようにしか見えない」

「その認識こそ大きな間違い。仮に彼が玉座を降りるとすれば、その時はきっと……満足しているはずですよ」

 

 そう言うや鳳凰院姉はこちらを向いてくる。

 同意を得たいそうだけど、実際そうだから俺は「そうだな」と返す以外にない。

 俺が在学中にこの玉座から去る瞬間。

 それは卒業を除けば、ライバルに完敗したという純粋な理由だけだろう。

 ならその敗北に悔いはなく、きっと俺にとって満ち足りた瞬間になっている筈だ。

 

「頂点はあっても絶対的な最強なんてない。だからライバルと戦い続ける事が楽しくて仕方ない。サモンってそういうもんですから」

「楽、しい……」

 

 何か思うところがあるように、ただ一言そう返してくる奏先輩。

 おや? これはもしかして、何か良い変化でも起きてくれそうなパターンかな。

 サモンを『楽しむ心』っていうのは、二年生編で大きく関わってくるキーワードだったし。

 

「自分の寝首を掻く敵になるかもしれない。そんな相手を育てるようなファイトであっても、貴方は楽しいと言うのですか?」

「当然。だからこそ俺達はライバルで……仲間なんですよ」

「人間ですよ、裏切られるとは思わないのですか?」

「全然。何よりみんなで強くなった方が面白いじゃないですか」

 

 そして何となく、アンタが今何を想起しているのか察してはいる。

 流石に俺も全ての手札を切るような真似はできないけど、使えそうな言葉は使わせてもらうよ。

 アンタは死んじゃダメな人だから。

 

「……何が、違うんだろうな」

 

 奏先輩が出した小さな呟き。

 恐らく比較対象は『強さを求めて修羅の道を歩んでいる自分達』と『サモンを純粋に楽しんで、研鑽をしている俺達』なんだろう。

 これはただの願望。そういう比較を今の内にしていて欲しいという俺の願い。

 それができたら、奏タクトという人間は少しだけ早く変われるかもしれないから。

 

「ところで貴方、買い出しには行かなくていいの?」

「あっ! そうだった」

 

 鳳凰院姉に言われてハッとなった。

 早く行かないとコンビニなんて碌なもん残ってないからな。

 そう思い、さっさと行こうとした時であった。

 

「虹帝、一つだけ聞いてもいいですか?」

 

 奏先輩に呼び止められてしまった。

 

「貴方にとって『強さ』とは何ですか?」

 

 曖昧な質問。何に対する『強さ』なのか主語が欠けている。

 だけど奏先輩の問いはきっと、カードゲーム……そしてその先にある『強さ』の事なんだろう。

 ならば俺の答えは単純なものだ。

 

「……? なんですか、それは」

 

 俺は右手を伸ばし、訝しげな表情の奏先輩に手の平を向ける。

 

「手ですよ。目に見えた範囲、伸ばした手の先くらい掴み取りたい。大事なものを取りこぼさなくて済む『力』……そういう『守る力』があれば、きっと『強さ』を手にしたって言えるんだと思います」

「それは、勝利すれば成せるだけの話ですね」

「勝つ事()()が手段なら、この世界は退屈ですよ……それと、俺の願う『強さ』は奪う力や支配する力じゃない。取りこぼしを出さない『守る力』です」

 

 我ながら理想論を口にしていると思う。

 それに今すぐ奏先輩に分かってもらう必要なんてない。

 いつか、少しだけでも分かってもらえれば良いんだ。

 ただそれを願って、俺はその場を後にするのだった。

 

(そういえば、禰津海さんも残ってるんだよな)

 

 冷静に考えると、あの子はまだ中等部なんだよな。

 こんな夜中の学園に泊まるなんて、親もよく許したもんだ。

 ……さっきから姿が見えないけど、大丈夫だよな?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。