俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ツルギが買い出しに行って戻って、少し経った頃。
評議会の執務室では高等部の面々が集まって夕食を摂っていた。
そんな賑やかな空間がある一方で、人目につかない場所でひっそりと食事をしている者もいる。
中等部から来た少女、
「…………」
なにも言葉を発する事はない。
話し相手がいないから必要もないのだ。
ただ一人、白いコンビニ袋を隣に置いて冬の廊下に座っている。
持っていたストールを座布団代わりにしながら、ティアナは黙々とおにぎりを食べていた。
「……アホらし」
少し離れた場所から聞こえてくる執務室の喧騒を耳にして、ティアナはボソリと呟く。
正攻法で人の輪に入る事は苦手。ましてや相手が怪物揃いの現評議会メンバーとその関係者であれば、尚更入り方が想像できない。
だが何よりティアナが内心冷めた気持ちで見ていたのは、彼らがこんな状況下でも楽しげにアナログファイトに勤しんでいた事である。
「あーあー。ティアナが勝ってたら今頃、雑魚ども全員顎で使ってあげたのに」
とは言ってみるものの、先の評議会決定戦の事もあり、今の帝王達に勝てるビジョンなど全く見えない。
だがそれしか方法を知らない。それが禰津海ティアナという少女であった。
同年代の中では圧倒的な実力を持ち、如何なる相手であろうと難なく捻じ伏せてきた。
故に何でも楽に手に入る。物であろうと人であろうと、禰津海ティアナが望めばその手に入る。
まさに、強さに裏付けされてしまったワガママ少女であった。
「寒っ」
人との関わり方はよく分からない。
故に執務室から聞こえてくる楽しげな声も理解できない。
禰津海ティアナにとってカードとは欲望を叶える万能の武具で、ファイトとは万能の免罪符。
サモンとは己の欲を叶えるために他者を捻じ伏せる事にある……それが思想、それが信条。
だからこそ分からない。
何故彼らは楽しげにサモンをしているのか、何故彼らからキラキラしたものが見えるのか。
「……ざっこ」
誰に対して言ったのかさえ定かではない。
ただ一つハッキリとしているのは、ティアナは執務室から聞こえるキラキラに対して羨望の思いを抱いていた事だ。
今まで自分の周りにいた『トモダチ』は決して出さなかった笑い声。
ティアナの『トモダチ』は決して見せなかったであろう、喜々として楽しむファイト。
自分には無いものが、近くて遠い場所にはあったのだ。
「来年、どうしようかな」
心が折れかけている自分を認識したが故に、出てしまう独り言。
成績を考えれば高等部への進級は容易。
しかし上を見上げれば凄まじい壁であり、大怪獣が跋扈する異界の空が広がっている。
いっそ逃げてしまうのも手だ。どこか別の学校で女王にでもなればいい。
だが今まで、逃げという一手を使った事のなかったティアナに、その選択をする決心はできなかった。
「あぁ〜、このザマじゃ家にも帰りにくいし……どうしよう」
「なんだ。やっぱり帰り辛いだけか」
思考に集中し過ぎて、人の気配に気付けなかったティアナ。
突然声をかけられた事で「ぴゃあ!?」と驚きながら跳ね上がってしまった。
「いいい、いつの間に!?」
「今さっきだ。中等部のキミまで泊まりだと聞いて、気になっただけだよ」
そう言ってホットココアの缶を手に現れたのは、財前小太郎。
ツルギからティアナも宿泊届を出している事と、先程から姿が見えない旨を聞いて心配になり、探しに来たのだ。
「ほら。僕の奢りだ」
「あ、ありがとうございます」
ひとまず小太郎は、手に持っていたホットココアの缶をティアナに手渡す。
「まったく。こんな寒い廊下じゃなくて、もっと暖房の効いた部屋に居ればいいものを」
「えっと、それは……」
「……はぁ……隣、邪魔するぞ」
言い淀むティアナを前にため息を一つ吐くや、小太郎は彼女の隣に座り込んだ。
だが当のティアナはただひたすら、心の中で困惑するばかり。
(な、なんで? なんでこの人ティアナの隣に座ってきたの?)
今まで自分の周りにいる人間といえば、自分を討とうとする挑戦者か、自分に媚を売る取り巻き。
それ以外の人間など、恐れを顔に出して避けるばかりであった。
なので今の小太郎のように、突然物理的な距離を近づけてくる者に、ティアナは慣れていなかったのだ。
「慣れていないのか?」
「ぴゃっ!? な、なにがです?」
「アイツらのような人間にだ」
何かを見透かしたように言ってくる小太郎に、ティアナは少し恐怖を感じる。
当たっていた。
執務室にいる彼らのキラキラ、それが眩しくて恐ろしくて、ただ逃げてきたのだとティアナ自身本当は分かっていたのだ。
故にそれを見抜かれたようで、ティアナの心には重苦しい汚泥が流れてきてしまう。
「中等部で評議会決定戦に出られるだけの実力。
「ガっ!?」
「力で支配ばかりしていたから、それしか手段を知らないのだろう? だからそうでない強者を前にしてコンプレックスを感じてしまうんだ」
呆れたように淡々と、小太郎は自身の所感を様子なくティアナにぶつけていく。
そうなれば必然的に――
(な、なんなのこの先輩ッ! ちょっと今からティアナが直接理解らせてあげようかな〜?)
――などと思考しながら、ティアナは額に青筋を浮かべるのだった。
だがそんな彼女の苛つきに気づいても、小太郎は落ち着いたままである。
「今のキミによく似た人間を二人知っている」
ふと、小太郎はそう切り出して話を始めた。
「一人は圧倒的な力を以って、絶対的な支配者として君臨した。何人も寄せ付けない、何人も逆らわせない……それを押し通すだけの力を持っていた男だった」
だけど……と、小太郎は続ける。
「その男は力に溺れて、後戻りできない場所まで行ってしまった。勝利は何かを奪うために。力は何かを支配するために……己の願いを叶えるためとはいえ、それしか出来なかった哀れな男がいたんだよ」
「あの、その男の人って……今は?」
「もういない。最後はほとんど孤立状態で討たれて、滅んでいったよ。結局あの男は最後まで、真に臣下と呼べる人間に恵まれなかった。当たり前だ、力による支配しかできなかったんだからな」
気づけば小太郎の話に聞き入ってしまうティアナ。
その男が誰なのか分からなくとも、ティアナはまるでそれが、自分が歩むかもしれない可能性の一つに思えてしまったのだ。
小太郎もどこか遠い目をしながら、終ぞ自分が勝てなかった宿敵の事を想起してしまう。
「そしてもう一人……コイツも大馬鹿者さ。自分には無敵の力があると勘違いして、自分の強さを免罪符に掠奪と支配を繰り返した愚か者」
「なんか、さっきの人と変わりませんね」
「その通りだ。やっていた事は何も変わらない……勝利して奪い、自分達の繁栄だけを考える。そんな瓦礫以下の砂鉄野郎だ」
自嘲するように、小太郎はティアナに話を続ける。
「だけど最初の男と違って、そいつは二つ違うところがあった」
「……なにが違ったんです?」
「一つは、そいつには自分を支えてくれて、そして守りたいと思える臣下がいた事……そしてもう一つは、切っ掛けに出会えた事だ」
小太郎にとっての切っ掛け、即ち天川ツルギに出会った事。
自分を顧みる切っ掛けがあった。新しい理想ができた。
だからこそ、己の進む道を盲信し続けた男と同類にならずに済んだ。
「力は覇道を切り拓いてくれる。だが自分の力を過信して暴君に成り下がってしまえば、振り返ったところで誰もいない孤独な道にしかならない」
そこまで聞いて、ティアナは己自身の道を振り返ってみる。
捻じ伏せて、ついて来させた者達ならいた。
だがそれ以外は? 純粋に自分を慕ってついて来た者は一人でもいたのか?
後ろには誰もいない。いても精々、自分の懐に入り込んで騙そうとしてくる不埒な輩くらい。
今まで見て見ぬ振りを続けてきたが、遂にティアナはその事実を認識してしまった。
「キミは、まだ引き返せる方なんじゃないか?」
「……やり方、わかんない」
「そんなもの、今から学べばいい。僕も切っ掛けがあってから学び始めた」
「先輩の切っ掛けって、なんだったんですか?」
窓の外から月の光が廊下を照らしてくる。
そしてティアナの問いに、小太郎は静かに答えた。
「天川ツルギ。僕にない強さを持っていた……僕が討ち取る予定の最強だ。キミも、彼らに何かを感じていたからココに居るんじゃないのか?」
「……キラキラしてた。嫌になるくらい」
「それが分かっていれば、いくらでも先に進める」
あの男のようになる事はない。
それを確信できただけで、小太郎はひっそりと安堵するのだった。
「輪に入り辛いなら僕が話相手くらいにはなってやる」
「先輩……もしかしてティアナと同族?」
「誰が友達ゼロのぼっちだ! 少し前の九頭竜じゃあないんだぞ!」
「えっ、九頭竜先輩ってぼっちだったの?」
どさくさに紛れて過去を暴露されてしまう真波。
幸い本人はいなかったが、ティアナの中で真波の評価が「ちょっと怖いクールな先輩」から「ちょっと怖いけど可愛らしい先輩」にグレードダウンしていた。
「勘違いするな。僕はただキミのような人間を放っておけなかっただけだ」
「……よからぬ狼!?」
「ちがーう! やましさじゃなくて、性分だ!」
妙な勘違いをして後退るティアナに、小太郎は叫ぶように突っ込んでしまう。
だがそのおかげか、ティアナの心に溜まっていた汚泥はいくらか軽くなっていた。
「なんか人たらしっぽい」
「そんなつもりは微塵もないし、きっと僕が来なくても後から天川達が来ただろう」
だけどそれ以上に……財前は言葉を続ける。
「ここで見捨てればヒトハ――僕の臣下にこれでもかと怒られてしまう」
「……ありがと、先輩」
形式的なものではない。
それはティアナが、初めて自分の意思で口にした感謝の言葉であった。
進み方もやり方も分からないけど、少しだけでも前に進んでみよう。
小さくとも確かな切っ掛けが、ティアナの中に芽生えていた。
「それで、執務室には戻らないのかい?」
「すみません正直あの人達まだ怖いです。特に
「……すまん」
昼間の執務室で起きた音無ツララの奇行で負った心の傷は、未だティアナの中に残っているようであった。