俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
ツルギ達が反評議会連合とのファイトを開始した頃。
学園の敷地にある大型ドームには、いくつかの関係者用出入り口がある。
その一角、出入り口付近の関係者用通路で、
通路にはソラ以外に人気はない。
ステージに出演する生徒は既に舞台に上がったか、控室で待機しているかだ。
この通路も本来であれば、しばらく人は通らない予定である。
「……根っこ」
閉まっている出入り口の扉をすり抜けて、人工的な通路の床に似つかわしくない木の根が伸びてくる。
根はあちらこちらへ張り巡らされ、壁の中にさえ入り込んでいく。
普通の人間には決して認識できない化神、ウィズのものだ。
「お疲れさまです」
ステージ衣装に身を包んだまま、ソラはしゃがみ込んで木の根を優しく撫でる。
すると太い木の根から枝分かれして、伸びてきた細い根がハートの形を作ってきた。
「くすっ。ちゃんと分かるんですね」
自分が根に触れた事がウィズに伝わったと理解して、ソラはどこか微笑ましい気持ちになる。
現在ソラは通路に一人。
「……藍ちゃん、本当に大人しくしていられるんでしょうか?」
デッキの性質上、時間稼ぎを不得手としている藍は控室で化神達からの連絡を受け取る役目を担っている。
そしてソラ達は、反評議会連合の者がステージに直接乗り込んで来た場合を想定して、自分達の出演時間ギリギリまで通路や舞台裏を見回る事となっていた。
相手が正直に6人と爆弾6個で挑んでくるとは、誰も信じていない。
現評議会のメンバーそれも帝王が3人もいるなら、このドームが狙われても不思議ではないのだ。
「ツルギくん、大丈夫かな」
「自分より師の心配かしら、赤翼ソラさん?」
突然声をかけられた事で、ソラは「ひゃっ!」と声を上げて驚いてしまう。
振り向けばそこには、自分と同じく評議会補佐をしているSクラスの女子、
「一般入場口に不審な人物はいなかった。仮に何かすれば大騒ぎになるでしょうし、彼らの言う通り裏口で待ち伏せた方が良さそうね」
「確認ありがとうございます。えっと……」
「茉莉花でいいわよ。苗字じゃ
「はい。ありがとうございます茉莉花ちゃん」
可愛らしく笑みを浮かべて礼を言うソラ。
そんなソラを前にした茉莉花は、少し顔を赤らめながらコホンと咳払いを一つする。
「補佐とはいえワタシも評議会の一員。やって当然の仕事ですわ」
「それでも、協力してくれただけで私は嬉しいです」
力で従わせた訳ではない。畏れで手中に収めた訳でもない。
打算を引き出した訳でもない……そんな相手が純粋に協力者になってくれる。
旧評議会補佐の顛末を知った事も重なり、ソラは純粋に茉莉花の助力を嬉しく思っていた。
「……『私は』ではなくて『私と天川ツルギは』の間違いでは?」
「ひゃわっ!? な、なんで急にツルギくんの名前が出るんですか!?」
「顔に出ていますわ。手に取るように分かりやすい」
茉莉花にハッキリと言われてしまうと、ソラは顔を赤くして少し俯いてしまう。
今指摘されたからではない、昨日あったコスモとの会話内容も相まって、ソラの心臓はドクドクと音を立て始めていた。
「貴女の目は師や憧れに向けるそれではない。少なくとも先のランキング戦の時には、ワタシでも気づけたわ」
「そ、それは……」
「否定、できないのはなくて?」
「……はい」
観念して茉莉花の言葉を認めてしまうソラ。
しかしソラの見せた躊躇いに、茉莉花はもう一つの真実を見てしまう。
距離は近い、だがそれ以上踏み込む事を恐れている。
そんな彼女の心中を察しつつ、茉莉花はソラの隣に移動する。
(あっ……)
こちらに来る茉莉花の足は、床に伸びている木の根をすり抜けてしまう。
それを見たソラは、改めて彼女は化神を認識できないのだと理解するのだった。
「貴女が強さを手にした切っ掛け、彼なのでしょう?」
「はい。中学生の時に色々と」
「手にした切っ掛けは強さだけではない。その気持ちもではなくて?」
静かな通路にエアコンの音が響いている。
ソラが問いかけに対して小さく頷くと、茉莉花は「やはりね」と返すのだった。
「一つ聞いてもよろしい? 貴女は彼に一番近い位置にいる筈……それは自らの手で勝ち得たものではないのかしら?」
「それは……違うんです。私は成り行きで今の位置にいると言いますか……今が一番良いんじゃないかなって、思ってしまっているだけで」
踏み込めば何かが変わる。
だがその変化は必ずしも良いものとは限らない。
壊れてしまえば後戻りはできず、保守的に無言を貫いた方が良い。
ソラはずっとそう思っていた。だが……
——誰かに愛されるには、自分から愛さないとダメなんだよ★——
昨日、コスモに言われた言葉がソラの脳裏に反芻されてしまう。
「自分の選択で何かが壊れてしまう……それを恐れない人間なんていないわ」
「茉莉花ちゃん」
「だけど、恐れを乗り越えてでも選択しなければいけない……ワタシ達は特にそう」
ファイターは常に選択を迫られ続ける。
時には究極とも言える二択を迫られる事さえ珍しくない。
それでも乗り越えねば先に進めない。だからこそ恐怖を乗り越える勇気が必要になる。
「なんて。そう言ってみた手前だけど、灯台下暗しなんて事もある……ワタシ達はそうでしたわ」
微かに自嘲するように言葉を紡ぐ茉莉花。
彼女が想起しているのは、九頭竜真波の事である。
「考えて考えて、あの手この手を試して失敗して……でも正解はすごく単純な方法だった」
「真波ちゃんの事ですか?」
「えぇ。人間って遠回しな言い方じゃ伝わらないものなの。思いきって正面から挑んだ方が伝わってしまう」
茉莉花は思う、九頭竜真波は直接手を差し伸べてしまう事が正規だったと。
そしてソラも過去の出来事を思い出す。
正面からぶつかりに行かなければ、
(私も……もしかしたら……)
デッキを諦めて、目覚めたエオストーレと話をする事も出来なかったかもしれない。
遠回りで堅実な道を選ぶのではない。
彼は恐れを乗り越えて、正面から最適の道を切り拓いてきた。
それが天川ツルギという人間だったのだ。
「覚えはあるようね」
「ずっと見てきましたから……ツルギくんが、みんなの為に頑張ってきたところを」
「太陽の温もりに憧れたのなら、尚更躊躇する必要などないのでは?」
なにより……と、茉莉花はソラの方に視線を向けて続ける。
「一番手を取り逃がすというのは、存外悔しいものでしてよ」
「……実体験ですか?」
「えぇ。貴女の想い人に先を越されたのよ」
クスリと笑いながら、冗談めかして言う茉莉花。
それが真波の件を指している事は明白であったので、ソラも釣られてクスッと笑ってしまう。
「誰かさんに配慮をしていると未来で後悔しますわ。無いとは思いますが、有象無象が手を出してくる前に刻印でも入れてみてはいかがですか?」
「こ、刻印……?」
「この人は私のモノだと、誰が見ても分かるようにマーキングを——」
「しししし、しませんよそんなこと!」
不埒な光景を想像してしまったソラは、心底焦った様子で茉莉花に反論する。
そんなソラの反応が面白かったのか、茉莉花は口元を手で隠しながらクスクスと笑うのだった。
しかしそんな和やかな雰囲気で、時は過ぎ去らない。
開くはずのない扉が開く音、聞こえてくる筈のない足音が二つ。
「ふぅ……ここまで予想通りですと、却って白けますわ」
「でも茉莉花ちゃんが来てくれたおかげで、二対一にならなくて済みそうです」
「それは光栄ね」
そして、二人の前に侵入者が姿を現した。
男女一人ずつの組み合わせ。ソラと茉莉花が待ち伏せているとは思っていなかったのか、分かりやすく驚愕している。
「反評議会連合の人ですね?」
「な、なんで待ち伏せされてるのよ」
「あら、もしやワタシ達が挑戦状の中身を間に受けるとお思いでしたの? だとすればとんだマヌケですわ」
「っ! まぁ良い、探す手間が省けた」
男はそう言うと召喚器を取り出して、目の前に立っていた茉莉花に勝負を挑む。
女の方も同様に召喚器を手に取り、ソラに勝負を挑んだ。
「ファイトさえすれば報酬が出る。勝てば上乗せって話だったけど」
「あっちの二人には悪いけど、こっちの相手が補佐なら勝ち目もある!」
あと二人襲撃に来たそうだが、それらは今頃真波と愛梨が相手しているだろう。
そうとは知らずに男は金に目をギラつかせ、女も補佐という肩書きを軽んじる。
一目で分かる数合わせの雑魚。
だが勝敗に関係なく爆弾が起爆するのであれば、連合としては使い勝手が良い人材だったのだろう。
自分達が利用されている側だと気づいていない哀れな二人組に、茉莉花は冷たい視線を向ける。
「不粋ね。嘘一つ美しく吐けないなんて……ならせめて、ファイトくらいは美しくして差し上げますわ」
「あの、茉莉花ちゃん?」
「……分かってますわ。時がくるまで守り抜く、ですわね」
コホンと恥ずかしそうに茉莉花は咳払いをする。
時間稼ぎという使命は忘れていない。
だが内心、爆弾解除の専門家という話には疑念を抱いている茉莉花。
そのような都合のいい話があるのか……しかし彼らが嘘を吐いている可能性も考えられない。
何か人には言い難い秘密があるのではないか、茉莉花はそれだけを頭の片隅に置く事にするのだった。
「さぁ、開演といきましょうか! 貴方が主演の三流喜劇を!」
「貴方達の思い通りにはさせません!」
そしてソラと茉莉花の防衛戦が始まる。
反評議会連合として差し向けられた二人は予めカードの支給もされていたようであり、それなりのデッキで挑んできた。
とはいえこの程度、本来であればソラや茉莉花の敵ではない。
(この戦いはいつもと違う……エオストーレ達が爆弾を解除するまで、試合を長引かせないと)
手札を見ながらそう考えるソラ。
幸い【聖天使】デッキはライフ回復に長けており、時間稼ぎは得意だ。
その上で最終的なフィニッシュ方法を考慮し、ソラはモンスターの召喚を行う。
「メインフェイズ。来てください〈スピリット・ベガ〉〈スピリット・アルタイル〉!」
カードを仮想モニターに投げ込むと、ソラの場に2体の天使が召喚される。
〈ベガ〉は緑の髪が特徴的な、大人しい雰囲気の天使。
対して〈アルタイル〉は赤い髪が特徴的な、活発そうな雰囲気の天使。
どちらの天使も髪色こそ異なるが、エオストーレを幼くしたような外見であった。
〈スピリット・ベガ〉P3000 ヒット2
〈スピリット・アルタイル〉P5000 ヒット1
「続けてアームドカード〈
緑色の髪の天使が、一枚の大鏡を手に持つ。
これでソラの防御陣形はひとまず完成した。
「ターンエンドです」
「はぁ? なによ、攻撃しないの?」
小馬鹿にしてくる相手をスルーして、ソラは自分のやるべき事を押し通す。
これで良いのだ。
相手のライフを不用意に削る事なく、耐久勝負を仕掛けるにはこれで良いのだ。
(絶対に、守り抜いてみせます!)