俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

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第二百七十一話:雲に階、王は此処に在り

 外には風が吹き、雲が太陽を覆い隠す。

 日差しが弱まった空の下、校庭のファイトステージでは4人のファイターが反評議会連合との戦いを続けていた。

 ただしその戦い方は防御一辺倒。どこまでも時間稼ぎに徹している。

 それは禰津海(ねずみ)ティアナと(かなで)タクトも例外ではなかった。

 

「っ! 魔法カード〈オタカラ・タメタカラ〉を発動。墓地から系統:《宝神獣(ほうしんじゅう)》を持つカードを3枚選んで、表向きのままティアナのデッキの下にッ」

 

 モンスターで壁を固めては、攻撃をブロックして破壊されていく。

 現状、そんな耐久勝負を続けているティアナ。

 デッキ枚数の回復も兼ねて魔法カードを発動するも、その顔には微かな不安が浮かんでいる。

 

(コレいつまで続けんのよ〜!)

 

 心の中でぼやいてしまうティアナ。

 雑魚相手とはいえ二対一の勝負。

 いつも通りに勝ちに行く試合であれば、難なく終わらせる事ができる相手。

 しかし今回は事情が事情なだけに、慣れない戦術を取る他ない。

 手慣れたデッキでイレギュラーな戦術を強いられる、それはファイターにとって想像以上に精神を消耗する事であった。

 

「今度こそッ、モンスターで攻撃!」

「うっさい雑魚! 魔法カード〈ヨビダシ・クラダシ〉発動! ティアナのデッキで表向きになっている系統:《宝神獣》のモンスターを1体召喚できる。全員まとめて雑魚化させちゃえ、〈眠れるカッチャパ〉!」

 

 魔法カードの効果によって、ティアナの場に1体の大きな亀型モンスターが召喚される。

 眠そうな目をしている亀だが、その甲羅には財宝を背負っていた。

 

〈眠れるカッチャパ〉P6000 ヒット2

 

「〈ヨビダシ・クラダシ〉の効果でデッキの一番上にあるカードを表向きに。そして〈眠れるカッチャパ〉の効果で墓地のカードを1枚、表向きのままデッキに加えてシャッフル!」

 

 自身のデッキに表向きのカードを貯め込んでいく。

 それがティアナの使う【宝神獣】デッキの基本的な動きだ。

 そして貯め込まれた表向きのカードは、モンスターの能力へと繋がる。

 

「〈眠れるカッチャパ〉の【輝器解宝(トレジャーバースト)】で、相手モンスターは全員ヒット−1。ティアナのデッキに表向きのカードは5枚あるから、効果を5回使ってヒット−5!」

 

 デッキに含まれている表向きのカードの枚数だけ、その効果を発動できる。

 これが宝神獣の専用能力【輝器解宝】であった。

 大亀が甲羅の上に背負った財宝から光が放たれ、襲いかかるモンスターのヒットを軒並み0にされてしまった。

 ヒット0になってしまえば、攻撃してもティアナのライフに傷を負わせる事はできない。

 

「【輝器解宝】を発動した〈眠れるカッチャパ〉はデッキの下に戻るけど、ティアナはカードを1枚ドローできる」

「クソっ! ターンエンドだ!」

 

 またしても攻撃を無力化されてしまい、対戦相手の男は苛立ちを隠せなくなっている。

 その隣に立って、共にティアナと戦っている男も同様であった。

 だがそんな男達の一方で、ティアナの心境は余裕とは真逆の苛立ちが芽生えていた。

 

(本ッッッ当にいつまで続ければいいの!? ティアナだから耐えられてるけど、他の場所にいる雑魚共は大丈夫なの!?)

 

 決して他の評議会メンバーが弱いとは思っていない。

 だがティアナにとって、この思考は一種の癖でもあった。

 自分以外の力を利用した事はあれど、頼った事はない。

 成り行きで大きな仕事を任された結果、ティアナは自分の目が届かない場所で、他の者が失敗する可能性を思い浮かべていた。

 

(ティアナは別に問題ないけど……なんで)

 

 ティアナはすぐ隣でファイトをしている補佐の男に視線を向ける。

 そこには、落ち着いて防御に徹している小太郎の姿があった。

 

「〈マグネティック・ディフェンサー〉の武装時効果によって、〈ダイビルダー〉は疲労状態でブロックができる」

 

 焦りや動揺はない。

 爆弾解除もいつ終わるのか分からない状況下で、小太郎は冷静にカードをプレイし続けている。

 だがその落ち着きは、ティアナに理解できるものではなかった。

 

(なんで……落ち着いてるの? 誰か1人でも失敗したら終わりなのに)

 

 勝っても負けても、試合が終われば爆弾は起爆する。

 いつ終わるか分からない耐久勝負も重なって、精神を削られる事は必至。

 にも関わらず、ティアナの視線の先にいる小太郎は、どこまでもいつも通りといった様子であった。

 

 そして、そんな疑念を抱いている者はティアナだけではない。

 ツルギのすぐ隣のステージで戦っている、奏タクトもそうであった。

 

「〈インパクト・パスカル〉でブロック。そして相手モンスターを戦闘で破壊した事により、カードを1枚ドロー」

 

 特攻服に身を包み、ベースを手に持っている大柄な悪魔型モンスター。

 襲いかかってきた相手モンスターをベースで殴打して返り討ちにしてしまう。

 

〈インパクト・パスカル〉P7000 ヒット1

 

「さらに〈インパクト・パスカル〉がモンスターを戦闘破壊した事により、【ビートアップ!】をさせていただきます」

「また私達のモンスターを強化するの!?」

 

 専用能力【ビートアップ!】によって、全ての相手モンスターがヒットを+1される。

 相手モンスターのヒット数を上げる事で、自身の能力を発動していくカード群。

 それが奏タクトの使う系統:《爆奏団(ばくそうだん)》の戦術であった。

 

「だ、だったらこの攻撃はどう!?」

「残念ですが貴女の想いは届きません。魔法カード〈穢煌美糸羽王流(エコービート・ウォール)!〉を発動します」

 

 魔法効果によって発生した爆音が、モンスターの攻撃を中止させ、相手のアタックフェイズを強制終了させる。

 だがそれだけなら普通の防御魔法でしかない。

 タクトの使う《爆奏団》の魔法には、まだ続きの効果がある。

 

「〈穢煌美糸羽王流!〉の【MAXビート!】6を発動。貴女のモンスターのヒット数は合計6以上……よって条件達成により、ボクは墓地から系統:《爆奏団》を持つモンスターカードを1枚選んで手札に加えます」

 

 相手の場に存在するモンスターのヒット合計が指定数以上の場合に発動する専用能力【MAXビート!】。

 その効果で墓地からカードを手札に加え、次のターンに必要なものを確保する。

 

「……ターン、エンド!」

 

 忌々しそうにターンを終える女。

 一方でタクトは表面的には清々しそうに振る舞っているが、内心では疑念と微かな焦りを覚えていた。

 

(戦闘開始からそれなりに時間も経過している、他の戦況も不明……)

 

 相手は有象無象も混じっているとはいえ、仮にも主要人物は聖徳寺(しょうとくじ)学園の上位クラスに在籍していた生徒。

 生半の戦術、そしてデッキ相性によっては耐久勝負を仕掛ける隙もない事は想像に難くない。

 黒崎(くろさき)勇吾(ゆうご)の言っていた爆弾解除の専門家が本当に頼れるかも分からない。

 だが何よりタクトに不安を覚えさせた事は……

 

(何故、補佐を動員したんだ……彼らは決して、今の帝王に忠誠を誓っている訳ではない。そんな事、虹帝(こうてい)達も分かっているはず)

 

 振り分けによっては、補佐のみで迎え討っている場所もある。

 それこそが問題なのだと、タクトは目を細めてしまう。

 反評議会連合の目的は、現六帝(りくてい)評議会の失脚と政権奪取。

 野心のある者が相手なら、利害の一致を提示して交渉する事も容易。

 タクトの脳裏には悪い可能性がいくらでも浮かび上がる。

 

(今回の策は、爆弾が解除されるまでの時間をひたすらに稼ぐというもの……だが勝敗に関係なく、試合終了と同時に起爆するのだったら)

 

 たった1人の敗北、あるいは裏切りが発生した時点で詰みとなる。

 終わりが見えなければ、耐久勝負による精神消耗もある。

 策とも呼べない策。タクトには今回の作戦はあまりにも稚拙な前提条件の元に行われているとしか思えなかった。

 

(何故ですか……この策の穴に気づいていない筈はない)

 

 にも関わらず、何故そうも落ち着いて戦っているのか。

 タクトは隣でファイトをしているツルギに視線を向けながら、疑問ばかりが浮かんでしまう。

 

(この作戦のアキレス腱は、戦いに参加した全員。たった1人が崩れるだけで全てが水の泡になってしまう)

 

 一つでも爆弾が起爆すれば、反評議会連合は実質的に勝利を手にすると言ってもいい。

 元評議会メンバーには強者として、己が主が討ち取る相手となって貰いたい。

 そのような思惑があるからこそ、ここで評議会が敗北する事はタクトにとっても都合が悪かった。

 

(己の強さが足りないなら、敗北も受け入れられる……だけど他人の弱さが己の敗北を招くなんて、あって良いはずがない)

 

 歯を食いしばって、右の拳を握ってしまうタクト。

 奪おうとしてくる者には、己が強さを以って迎え討つ。

 何かを得るならば、強さを以ってそれを勝ち得る。

 強さの果てが存在するとすれば、その先にある筈だとタクトは考えていた。

 

(なのに……何故、彼は疑っていないのですか)

 

 この大雑把過ぎる作戦が失敗するという可能性を。

 誰かが裏切るかもしれないという可能性を。

 誰かが負けるかもしれないという可能性を。

 タクトの隣でファイトをしているツルギは、一切合切疑ってはいなかった。

 

「おっ。きたか」

 

 その時であった。

 ふと、ツルギは何処かを見つめながら一言そう呟く。

 そして財前もどこか虚空を一瞥すると、口元に小さく笑みを浮かべていた。

 

『えー……マイクテスト、マイクテスト』

 

 その次の瞬間であった、突如として全校放送が流れ始めたのだ。

 マイクテストをしているのは今回の作戦にも協力してくれた評議会OB、(ワン)牙丸(きばまる)である。

 

『麗しいレディーのみんなー……じゃなかったね。今回はお仕事中の六帝評議会のメンバーに、ボクからお知らせがあります』

 

 事前に合図は聞いていた。

 校内の彼方此方で戦っている評議会メンバー達は、一瞬にして放送に耳を傾け始める。

 

『状況終了。全員……本気を出してよし!』

 

 それは、全ての爆弾を解除したというメッセージであった。

 放送が終わるとツルギはニヤリと笑みを浮かべる。

 だがその対戦相手でもある富屋(とみや)は、突然意味不明な放送が流れたとしか思えなかったようで、小さく首を傾げていた。

 

「なんだ今の放送は。暴帝(ぼうてい)がしていたようだったが……」

「簡単な話だよ。お前らが仕掛けた爆弾は全部解除したって知らせ」

「なっ!?」

 

 飄々と告げるツルギに、富屋は口を大きく開いて驚いている。

 だがすぐに冷静さを取り戻したのか、そんな訳ないと言わんばかりに富屋は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「馬鹿を言うな。こんな短時間で我らが仕掛けた6つの爆弾を——」

「6個じゃなくて11個だろ」

「な、何故、それを」

「仕掛けたのは校舎2階の消火栓に、食堂の厨房、元漫研会長が磔られてた十字架に……って、アレお前らが持ち込んだのかよ!」

 

 十字架の件で思わず突っ込んでしまうツルギ。

 対して、次々に爆弾を仕掛けた場所を言い当てられた富屋は、一瞬にして顔を青ざめさせてしまう。

 

「お前らも運が悪かったな。今日は俺らの知り合いでもある爆弾解除の専門家が、()()にも学園に来てたんだよ」

「そんな、そんな馬鹿な話があるかッ!」

「嘘だと思うんなら起爆プログラムを作動させてみたらどうだ? どうせ勝ち負けに関係なく、試合終了と同時に爆発させるつもりだったんだろ?」

 

 起爆プログラムの正体まで知られていた。

 その事実だけで大いに焦りを覚えた富屋は仮想モニターを操作し、一つのプログラムを起動させる。

 万が一の時に備えて用意されいた、試合とは関係なく起爆プログラムを遠隔で作動させるものだ。

 しかしどれだけ富屋が起爆の信号を送ろうとしても、返ってくるシステムメッセージは『エラー』のみ。

 

「馬鹿な……何故、こんな……」

「言っただろ専門家がいるって。だから後はみんなで示し合わせてたんだ」

「示し、だと……?」

「そう。全ての爆弾が解除されるまで、時間稼ぎに徹する。勝っても負けてもいけない。事が済むまで全員で試合を続行させるってな」

 

 軽く笑いながら、ツルギは自分達の作戦の真相を伝える。

 この勝負で攻撃を仕掛けてこなかった理由も、効果ダメージを極力与えてこなかった理由も、全ては時間稼ぎためであった。

 そして今、爆弾が解除された事により、ツルギ達の作戦は達成されたのだ。

 富屋だけでなく、爆弾と連動した召喚器を持つ者達は起爆プログラムを作動させ——『エラー』のメッセージを目にしてしまう。

 

「全て……貴様らの手の平の上だったというのか」

「そういう事。もう観念するんだな」

「……何故だ」

 

 爆弾という最高の武器を無力化されたという事実。

 自身が最初から手の平の上で踊らされていただけという事実。

 それらは富屋のプライドを大きく傷つけると同時に、一つの疑問を抱かせた。

 

「何故、そんな作戦を実行したッ!」

「ん?」

「爆弾は全て同じプログラムが組み込まれていた! ファイトが終わると同時に起爆する事は、貴様らも知っていたのだろう!?」

「そうだけど」

 

 それがどうしたんだ——そう言わんばかりに、ツルギはキョトンとした表情浮かべている。

 それがさらに、富屋のプライドに傷をつけてしまった。

 

「11個だぞ。11人だぞ! 帝王たる6人なら兎も角、補佐もファイトに応じさせたのだろう!?」

「だな」

「可能性を考えなかったのか!? 我らの仲間が丸め込み、裏切らせる可能性! 何より1人でも負ける可能性をだッ!」

 

 叫ぶように訴えかける富屋。

 その主張はタクトが考えていた事とほぼ同じ。

 そしてティアナが感じていた不安の言語化でもあった。

 

「1人だぞッ! たった1人の敗北で全てが瓦解する、そんな策とも呼べぬ策をッ! 何故貴様らは実行できたのだッ!?」

 

 富屋がそこまで叫んだ瞬間、ツルギの顔からスンと表情が消え去った。

 するとツルギは富屋を指差しながら、隣でファイトをしていた小太郎に声をかける。

 

「なぁ財前。なんかコイツふざけた事言ってる気がするんだけど」

「奇遇だな。僕にも100点中0点の回答が聞こえてきたよ」

「だよな〜」

 

 ツルギがそう言うと、二人はわざとらしく声を上げて笑い合う。

 益々癪に障った富屋は、怒りで顔を茹で蛸のように赤くしていた。

 

「何がおかしいッ!」

「……あのなぁ」

 

 ただ一言そう言うと、ツルギは大袈裟にため息を吐く。

 それは小太郎も同様であった。

 

「負ける? 舐めた事を言うんじゃあない」

「俺らの事を誰だと思ってるんだ?」

 

 冷たく、どこか哀れみすら含まれている視線向ける小太郎。

 そして敵に対して呆れ果てているツルギ。

 普段はぶつかり合う事もある2人だが、今は完全に同じ心を持っていた。

 

「自称といえども王は王。王たる僕のライバルは……」

「序列第2位【虹帝】である俺のライバルは……」

 

 そこに立つのは単なる学生にあらず。

 強者として君臨し、己が友を尊ぶ魂を貫く、王の姿がそこに在った。

 

「「全員、最高に強いんだよッ!」」

 

 魂の奥底から王達が絶叫する。

 その瞬間、空を淀ませていた雲が、風に押されて晴れていった。

 雲の隙間から光が差し込み、ファイトステージを照らし出す。

 

 それは反評議会連合の者達には理解できない言い分。

 だが、ティアナとタクトの心には大きく響いていた。

 

(あぁ……そっか。疑うなんて考え、最初からなかったんだ)

 

 ティアナは小太郎の姿を見ながら、彼らの在り方を理解する。

 

(彼らは最初から信じていたのか。ライバルの持つ『強さ』を)

 

 タクトはツルギの姿を見ながら、ようやく彼の『強さ』を知る。

 その強さは誰かを支配して従えるものではない。

 その強さは何かを奪って手にする強さでもない。

 彼らの『強さ』とは、カードという力によるものだけではない。

 

(そうですか、裏帝(りてい)……これが貴方の言いたかった事なんですね)

 

 その『強さ』は心に在ったのだ。

 友やライバルの『強さ』を知り、共に研鑽し、互いに信じ合う。

 その心が、彼らにとって『強さの果て』を想像させる力にもなっているのだ。

 

(違う筈だ……ボクもレンも……彼らとは違い過ぎたんだ)

 

 主従の信頼ならある。

 だがそれ以外はどうだと聞かれると、タクトは無いとしか答えられない。

 多くの裏切りや蒸発を目の当たりにしてきたタクトは、真に仲間と呼べる者を意識する機会が無かった。

 

天川(てんかわ)ツルギは帝王の座に適した人物か……ようやくその意味を理解できた気がする)

 

 何を成せば良いのか、すぐには分からない。

 だが奏タクトという人間の心には、間違いなく切っ掛けの芽が出ていた。

 そして切っ掛けが芽生えたのは、禰津海ティアナもである。

 

「さーて、心配事は全部片付いたんだ」

 

 そう言いながら、軽く身体を伸ばすツルギ。

 爆弾の脅威が去った以上、もう時間稼ぎをする理由はない。

 

「時間稼ぎついでに必要なカードも揃えたんだ……派手に——」

「お前達は僕が派手に散らせてやろう!」

「だから財前、俺のセリフを遮るなー!」

 

 小太郎とドタバタ劇を演じてしまう一幕はあったものの、ツルギ達は連合への反撃を開始するのだった。

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