俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
時計の針が正午を過ぎた頃。
ツルギ達が反評議会連合を討ち倒し、学園内のドームでは赤翼ソラ達のステージが始まっていた。
その男は、
「どうなっている……何故情報が一つも流れてこんのだ!」
外から見れば、まだ改装工事中の古いテナント。
醜く肥えた中年の男はその建物の中で一人、苛立ちながら声を荒らげていた。
「あの餓鬼共はなにをしているッ! わざわざ『財団』の伝手を使って高価な爆弾を仕入れたのだぞッ!」
男は手にスマートフォンを持ち、簡素なテーブルの上にはノートパソコンを開いている。
インターネットを繋いで閲覧しているのは、どちらもニュースサイト。
デモンストレーションとして廃ビルで使ったような、威力の弱い爆弾ではない。
一つでも起爆すれば大惨事は免れない代物、それを11個支給した。
起爆条件も勝敗に関わらず、試合終了が条件。
それだけ条件を整えたが、現時点で一つも起爆した様子はない。
「何も起きていない……? ファイトが始まれば、もう起爆は確定するのにかッ? あの餓鬼共、寝返ったか!」
「ブッブー、大ハズレ★ あの人達みーんな、バカ正直にファイトしてたよ♪」
苛立っている男に、突然声がかけられる。
他に誰もいない筈の建物に、あまりにも不釣り合いな少女の声が響いてきた。
男が咄嗟に振り向くと、そこにいたのは外出用にお洒落をしてきたであろう少女。
早乙女コスモが立っていたのだ。
「だ、誰だキサマはッ!?」
「でもざーんねん。足長おじさんが用意した爆弾は〜、ぜーんぶ解除されちゃった★」
「誰だと聞いているのだッ! 何故ここに入ってこれたッ!」
出入り口には警備として雇った屈強なプロがいた。
その者達が通す筈のない少女が目の前にいる。
ただその事実だけで、男は強い警戒心を出していた。
「どうやってって……外にいた人なら、センセェが倒しちゃった★」
「キサマぁ、
「違いまーす★ だってコスモは『財団』側なんだもん」
故にあちらの味方ではない。
コスモの発した『財団』側という言葉が、一瞬だけ男の警戒心を緩ませる。
だがすぐに男は異変に気がついた。
「何故……『財団』の人間がここに?」
「コスモはお使いを頼まれただけ。『財団』の偉い人たちから、おじ様に伝言を頼まれたんだけど〜……面倒だからザックリ要約するね★」
そう言うとコスモは召喚器を取り出して、有無を言わさずターゲットロックをする。
当然その対象は、男が腰から下げていた召喚器である。
コスモはわざとらしい営業スマイルを浮かべながら、楽し気に、そして冷徹に判決を突きつけた。
「おじ様の事、もう誰も要らないってさ」
それは『財団』の上層部から下された審判。
早乙女コスモという少女の口から伝えられた、男に対する死刑宣告であった。
その現実を受け入れらない一方で、男は醜く肥えている身体から不快な汗を流している。
「馬鹿な、そんなわけがない」
「本当でーす★ 疑うなら『財団』の人に電話でもしてみたら?」
「あり得るものかァァァ! 『財団』が私を切り捨てる筈がないッ! 私がどれだけ『財団』を支援してきたと思っとるんだァァァ!」
自身が手段を選ばない方法で稼いできた莫大な富。
それらを用いて『財団』の手を借り、これまで好き放題の限りを尽くしてきた男。
本来であれば
だがそれも、彼が始末された事で全て水泡に帰した。
「私は『財団』のために動いているのだぞッ! 『財団』が不当に失った利益に対する報いを、今こうして受けさせようとしているのだぞッ!」
それなのにどうして『財団』が切り捨ててくるのか。
男が絶叫しながら訴えてきても、コスモは営業スマイルを浮かべたままである。
「私は——」
「爆弾。作ってる最中のやつ……勝手に持ち出しましたよね?」
「それが、なんだと」
「他にも色々。『財団』のお偉いさん達は、ず〜っと見逃してあげてたんですよ……おじ様のウ・ラ・ギ・リ★」
コスモに言われて、息を詰まらせてしまう男。
心当たりは確かにあった。
発覚していないと思っていたが、上層部に泳がされていただけに過ぎなかった。
一瞬にして青ざめて、男は足が震えてしまう。
「おじ様が唆した人達はみーんな倒されて、きっと今頃パトカーの中♪ だから後はぁ……コスモがおじ様を始末すれば全部おしまい★」
その言葉は決して冗談などではないと、男は確信に至ってしまった。
これだけ時間が経っても、警備の者達がやって来る気配が全くない。
恐らく建物は既に、『財団』の関係者によって囲まれているだろう。
目の前に立つ少女は間違いなく、『財団』が寄越した処刑人だ。
「ッッッ!?」
逃げねば命は無い。
そう考えた男であったが、部屋の床を覆い隠している黒い靄を目にして足を止めてしまった。
これは『財団』が開発した含質量電子プログラムを用いたウイルスの一種。
ファイトに応じなければ命はなく、ファイトに負けても死が待つのみ。
「外に逃げても無駄★ おじ様、御筆センセェに勝てる自信あるの?」
「御筆……御筆だと!? よりにもよってあの死神が来ているのかッ」
「大丈夫★ おじ様はコスモに勝てば良いだけなんだから」
だから……とコスモは続ける。
「早く、ファイト始めよ★」
「や、やってやる……やってやるぞォォォ!」
避けられぬ命懸けの戦いを前にして、男は目に涙を浮かべながら自身の召喚器からカードを取り出す。
一方コスモは何も動じる事がない。
張り付いた営業スマイルの奥底から垣間見えるものは、冷たい見下しのみ。
絶対に負ける事はないという圧倒的な自信だけであった。
「デッキにだって金をかけたんだ。たかが小娘の一人くらいッ!」
「わーすごーい♪ じゃあ頑張ってくださいね〜★」
焦りで正常な判断などできない男。
だがいざ試合が始まってみれば、男は予想外に優勢であった。
男の場には大型のモンスターが2体、回復状態で残っている。
対するコスモの場には〈マイナ〉〈メジャー〉〈オリオン〉という3体のペガサス系聖天使が揃っていた。
だがモンスターの数など、大した問題ではない。
「ハハハ、『財団』も耄碌が進んだようだな。処刑人も大した事ない」
先程から一転して、余裕を振りかざしている男。
それもその筈。
コスモの使っているモンスターは系統:《聖天使》、即ち自身のライフが相手より多くなければ本領を発揮できない。
しかし現在、お互いのライフはというと。
中年の男:ライフ8
コスモ:ライフ3
これである。
【天罰】を発揮できなければ、《聖天使》は相手にとって脅威にならない。
男は完全に自身の勝利を確信していた。
「コスモのターン。スタートフェイズ★」
完全に慢心しきっていた。
だからなのだろう。
「ドローフェイズ★」
本来であれば追い詰められている筈のコスモが、一度も焦っていない事。
本来であれば相手よりライフが多い状態を維持したい【聖天使】のデッキで、ここまでライフを削るという異様なプレイングをしてきた事。
それら全てに、男は気づいていなかったのだ。
「メインフェイズ★ じゃあそろそろ……コスモも本気出すね」
一瞬にして空気感が変わった。
部屋の中に不気味なプレッシャーが広がり、男の心に不安を覚えさせる。
だが男はどうにか強がってみせるのだった。
「何を馬鹿馬鹿しい事を。このライフ差で、どうやってそのペガサスの能力を使おうと言うのだ?」
「あのね……コスモの使ってるコレ、全部カモフラージュだから」
「カモフラージュだと?」
「本来の姿を出すのは来年までお預けって言われてるんだけど〜……馬鹿を始末する時には使って良いって言われてるの★」
そう言うとコスモは、手札から1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。
それは昨日、
ツルギが心の中で「珍しい」と評した魔法カードであった。
「魔法カード〈
魔法カードの効果で除外の処理を受ける3体のペガサス達。
だがすぐに場を離れる事はなく、ペガサスはただ苦悶に満ちた声を上げるばかりであった。
「〈黒翼化〉は発動コストとして自分の場にいる系統:《聖天使》を持つモンスターを好きなだけ除外する。そして除外したモンスターは全員、同じパワーを持つ系統:《堕天使》のモンスターに生まれ変わる★」
「堕天使……だと」
「さぁみんな、本当の姿に戻っちゃえー★」
苦悶の声がおさまると、3体のペガサスはそれぞれ全身が黒く染まっていく。
白く美しかった頃の面影は消え去り、漆黒の翼と禍々しい邪悪さが表に出た姿へと変貌してしまう。
こいぬ座のペガサスは小さく無垢な姿から、心無き闇の権化に。
おおいぬ座のペガサスは、獰猛な狩猟者に。
オリオン座のペガサスは、無情な殺戮兵器へと生まれ変わる。
「デッキからおいで。〈
〈FDプロキオン〉P6000 ヒット2
〈FDシリウス〉P9000 ヒット2
〈FDペテルギウス〉P7000 ヒット2
魔法カードの効果によって、コスモのデッキから3体の堕天使が召喚を踏み倒して現れる。
突然モンスターが変化した事に驚く男であったが、コスモの動きはこれで終わらない。
「〈FDペテルギウス〉の効果♪ この子を召喚した時、自分か相手に1点のダメージを与える。今日はおじ様に1点ダメージ★」
中年の男:ライフ8→7
機械化した堕天使から放たれた一発の光弾。
それが男のライフを削り取っていく。
だがまだ優勢には変わりない——
「ふん、この程度のダメージ」
——そう思い込んでいるのは、男だけであった。
コスモは自身の手札にあるカードへ視線を向けながら「うんうん、わかってる」と呟くばかり。
「せっかくコスモ達の本当の戦い方ができるんだもん……ちょっとくらい暴れたいよね?」
自身の切り札とも言えるカードに向かってそう呟く。
するとコスモは仮想モニターに、そのカードを投げ込んだ。
「進化条件は系統:《堕天使》を持つこと……コスモは〈FDプロキオン〉を進化★」
比較的小柄な黒いペガサスを拘束するように、赤黒い魔法陣が展開する。
それは普通のものとは異なり、進化元を包み込みような事をしない。
魔法陣は触手のように解けるや、進化元となるペガサスの体内へと侵入し、内側から生贄として貪っていく。
あまりにも悍ましい光景に男は言葉を失うが、コスモはただただ楽しそうで……どこか狂気染みた目を浮かべていた。
だが何より恐ろしいのは——
「純真なる輝き」
その召喚口上がどこか、鏡写しのようで——
「いま翼を漆黒に染めて」
まるで憎い相手に当て擦るかのような口上で——
「世界を従える
どこまでも闇に落ちた模造品に捧げる、悪しき祝詞でしかない。
黒いペガサスの身体を突き破って召喚されたソレは、あまりにも似過ぎていた。
だが翼は黒く、感情も読み取れず、どこまでも邪悪に満ちているような……天翼神の贋作でしかなかった。
「おいで。コスモの……エオストーレ」
〈【
「ここで、SRを出すかッ」
「〈エオストーレ・ネビュラ〉の召喚時効果♪ コスモの場のカードを好きなだけ破壊して、その数だけ相手のカードを破壊するね★」
コスモが指示を出すと、黒い翼のエオストーレこと〈エオストーレ・ネビュラ〉は無表情のまま、味方である2体のペガサスの首を刎ねてしまった。
そして死んだ堕天使の憎しみは破壊の力となり、男の場にいた2体のブロッカーを全て消し去ってしまうのだった。
「わ、私のモンスターが、たった一撃で……」
自身を守るモンスターが全て除去されてしまい、男は動揺する。
だがコスモの場に残っているのは〈エオストーレ・ネビュラ〉1体のみ。
「破壊された〈FDペテルギウス〉の効果♪ 破壊時にも相手に1点のダメージ★」
中年の男:ライフ7→6
それがどうしたと言わんばかりに、コスモは精神的余裕を保ってターンを進める。
「最後にコスモのお気に入り★ 魔法カード〈エンジェリック・プライド〉はっつどー。コスモ自身に1点のダメージを与えて、デッキからカードを1枚ドロー♪」
コスモ:ライフ3→2
ただでさえ少ないライフに、コスモは敢えて自傷ダメージを与える。
一見するとドローが主のように見えるが、コスモにとっては自傷ダメージの方が重要であった。
「アタックフェイズ★」
必要な手順が済めば、後は標的を圧殺するのみ。
「〈エオストーレ・ネビュラ〉で攻撃」
「たかが一回の攻撃ッ、ライフで受ける!」
まだ余裕はある。
そう考えた男は、自身のライフで攻撃を受け止める。
しかし処刑人と手を組んだ堕天神の一撃は、決して並大抵のものではない。
散布されたウイルスの影響もあり、ダメージは実体化して男に襲いかかってきた。
中年の男:ライフ6→4
「グゥゥゥ、この程度ォ!」
「おじ様張り切り過ぎ〜、ウケる★」
「喧しい! これで貴様の攻撃は——」
もう終了した。
そう言い切るよりも先に、男はコスモの場に起きた変化に気づいてしまった。
先程、〈エオストーレ・ネビュラ〉の召喚時効果によって破壊された2体の黒いペガサス。
〈FDシリウス〉と〈FDペテルギウス〉が復活していたのだ。
「何故だ、なぜ、そいつらが……」
「【
「ライフを下回っていれば、だと」
「これは〈エオストーレ・ネビュラ〉の【FDC】♪ 攻撃した時に、コスモの墓地から【FDC】を持っているモンスターを2体まで復活させられるの。スゴいでしょ★」
そして復活した〈FDペテルギウス〉が、男のライフに1点のダメージを叩き込んでくる。
男の場にブロック可能なモンスターはゼロ。
男の残りライフは3で、復活したコスモのモンスターのヒット合計は4。
もはや勝負はついたようなものであった。
「これでお終い。〈FDシリウス〉と〈FDペテルギウス〉で攻撃★」
「さ、させるかァァァ! 魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動ッ。貴様のアタックフェイズを強制——」
防御魔法でコスモのアタックフェイズを強制終了させようとした男。
しかしその抵抗は虚しく、防御魔法は一瞬にして無効化されてしまった。
「なっ!?」
「墓地の〈エンジェリック・プライド〉を除外して効果発動♪ このカードを含む魔法カードを3枚除外すれば、相手が発動した『アタックフェイズを終了する効果』を無効にできる……」
「バイバイおじ様★ 地獄へいってらしゃい♪」
ダメージの実体化。そして〈エオストーレ・ネビュラ〉の化神としての力が合わさる。
結果、2体の黒いペガサスは飢えた猛獣のように、中年の男を見下ろすのだった。
「へ……へへっ……」
抵抗はできない。
腰の抜けた男が辿る末路は、獣に貪られる哀れな食糧でしかなかった。
「あ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙ッ゙ッ゙!」
鮮血を飛ばしながら、男の身体はペガサスに食い千切られていく。
骨の欠片、肉の一片も残さず食い尽くされると、ようやく黒い靄は消え去るのだった。
中年の男:ライフ4→2→0
コスモ:WIN
「はい終わり。〈ネビュラ〉もおつかれ〜★」
壁に飛び散った血など気にも留めず、コスモは自身のパートナー化神に例を言う。
だが当の〈エオストーレ・ネビュラ〉は、何も言わずにカードの中へと戻るのだった。
「相変わらず無口だな〜もう。でも……パパがくれたパートナーだから、大事にしなきゃ★」
コスモはカードを自身の召喚器に仕舞い込むと、すぐさまスマートフォンを取り出すのだった。
人を殺した直後とは思えない程にウキウキとしながら、コスモはある人物に電話をかける。
「もしもしパパ? コスモだよ★」
舞い上がっているようにステップを踏みながら、コスモは自身の父親と通話を始める。
「うん……今ファイトが終わったの。ちゃんとパパの言う通りに始末したよ★ ……うん、見つけたのは御筆センセェ」
どこか期待感を滲ませながら。
どこか幼さを露呈させながら、コスモは電話を続けている。
「ねぇパパ。来年コスモが進学したら、一緒に文化祭…………うん。
電話の相手。
コスモの実の父である男、三神
ただ父親に甘えたい。
だがそんな純粋な気持ちは、何度でも理不尽に蓋をされてしまう。
「えっ、ソラちゃん…………うん、会ってきた……うん。頑張ってたよ……そう、ステージで歌って踊って……ねぇパパ、そんなに見たかったの?」
こんなやり取りは初めてではない。
三神当真は
彼女の亡き父親と親友だったから……そう言えば聞こえは良い。
だがコスモには、心の中でドス黒い感情を育む要因にしかならなかった。
「うん……うん……そうなんだ。パパもお仕事忙しいもんね…………うん。また、電話するね」
仕事の忙しさを理由に、電話を切られてしまう。
コスモはただ一人スマートフォンを手に持ち、建物の中でポツンと立ち尽くしてしまう。
いつもの明るい配信者としての顔も、今はどこにも無い。
彼女の中で蠢く黒い感情はただ一つ。
「ソラちゃん……ソラちゃん。ソラちゃんソラちゃんソラちゃんッ! またアイツの事ばかり見てるッ!」
感情が爆発するように、本音を叫んで吐き出してしまうコスモ。
その中に蠢く感情は、ソラに対する歪んだ憎悪であった。
「ねぇ、褒めてよ……もっとコスモのこと、見てよ」
思いは届かない。
ここからでは肝心な人に聞こえない。
そうして長い時間をかけて蓄積した闇は、コスモの心を歪に変形させていってしまう。
「アイツを倒したら、見てくれるよね……? パパはちゃんと、コスモの事、見てくれるよね……?」
父親から愛されないのは、自分が捧げる愛が足りないからだ。
もっと頑張って、父親に貢献して、赤翼ソラに奪われた父の愛を奪い返す。
それだけが狂気と化して、コスモの心身を蝕んでいくのだった。
「コスモが潰すんだから……それまで誰にも負けちゃダメだよ……ソラ」
どうせ潰すなら大舞台で。
きっと父ならそうしただろう……そんな考えを浮かべながら、コスモは建物から去るのだった。