俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜   作:鴨山兄助

280 / 280
第十一章:春休み編(A面)『蛇姫と御統とギャル聖女』
第二百七十七話:蛇姫様は珍道中


 季節は3月の下旬。

 まだ肌寒い季節であり、世間は春休みの終盤と、来たる新生活への悶々に満ちている。

 そんな中、とある温泉街の最寄り駅に降り立つ一人の少女の姿があった。

 

「ふぅ〜、流石温泉街。もう匂いだけで温泉気分」

 

 キャリーケースを手に引き、黒いポニーテールを揺らしていり少女。

 ツルギの妹こと、天川(てんかわ)卯月(うづき)である。

 卯月は『神殿守(こどのもり)』と書かれた駅を出て、初めて訪れる土地をのんびり移動している。

 

「駅から少し歩けば色々あって、なんか観光地っていいな〜」

「ボクもそう思うっプイ」

 

 カーバンクルの体温を頭上に感じつつ、卯月はキャリーケースのタイヤを転がす。

 観光地らしく街道には土産屋が並び、純和風の建築物が歴史や伝統を醸し出している。

 転移後の年齢逆行があるとはいえ、現在の卯月は中学一年生の13歳。

 そんな若過ぎる少女の身で、今日は隣に兄も母も友人もいない。

 

「たまにはいいよね。こういう一人旅も」

「キュップ〜、友達二人に同行を拒否されただけって聞いたっプイ」

「頭上、やかましい」

 

 容赦なく事実を陳列してくるカーバンクルに、卯月は淡々と言い返す。

 今日の卯月は春休み終盤を活用した一人旅の真っ只中。

 目的は遠方で開催されている、爬虫類のイベントに行くためである。

 

「むぅ〜……せっかく珍しいトカゲとか蛇と触れ合えるのに。智代(ちよ)も舞(まい)もなんで嫌がるかなぁ?」

「泣いて拒否されたって聞いてるっプイ。きっとそれが答えっプイ」

「可愛いのに」

 

 口を3の字に突き出して不貞腐れる卯月。

 以前からそうであるが、卯月の爬虫類趣味はどうにも同世代の女子から受けが悪かった。

 だがコレに関しては卯月にも非がある。

 学校で智代と舞の首根っこを捕まえて、お気に入りの爬虫類写真集を開きながら「爬虫類、行こうよ!」と興奮気味に誘えば、誰でも涙目になるのは必然。

 

「他に一緒に行く友達いなかったっプイ?」

「う〜ん…………いない」

「今誰かを思い浮かべてから秒で削除したっプイ?」

「いない。バカはノーカン」

 

 どこか遠い目を浮かべながら吐き捨てる卯月。

 学校で智代と舞に断られた直後、「卯月さぁぁぁん! ボクならいつでも同伴OKでぇぇぇす!」と食い気味にアピールしてくる財前(ざいぜん)半蔵(はんぞう)の姿はまだ記憶に残っている。

 ただし数分後には、いつも通りファイトで沈められる半蔵であったので、卯月の平穏は死守されたのだった。

 

「兄弟揃って諦めが悪い性分っプイ」

「アタシとしては早急に諦めて欲しいんだけど……」

 

 呆れてため息を一つ吐いてしまうカーバンクル。

 だが当事者である卯月としては、純然たる面倒事でしかなかった。

 

「それにしても、女の子が一人旅なんて不用心っプイ」

「仕方ないでしょ。完全に趣味の遠征なんだし、お母さんもお兄も予定合わなかったんだし」

「それでも旅行を決行する辺り……やっぱりやよいの娘っプイ」

 

 卯月の頭に乗りながら、カーバンクルは薄っすらと残っているいつかの記憶を想起する。

 鮮明ではないが、心当たりの欠片は確かにある。

 同時にカーバンクルは、温泉街の匂いに不思議な懐かしさを感じていた。

 

「なんだか……懐かしい匂いがするっプイ」

「来たことあるの?」

「分かんないっプイ。でもすごく馴染む感じだから、もしかしたら……あるのかもしれないっプイ」

「ふーん」

 

 化神は普通の人間には認識できない。

 それは承知の上で、卯月は頭上のカーバンクルと会話をする。

 ツルギやその仲間たちと同様、卯月は化神を一つの生命ある個として向き合ってくれる。

 それだけでカーバンクルは、どこか安心したような表情を浮かべるのだった。

 

「カーバンクルって、本当に記憶ないんだ」

「キュプ……ほとんどないっプイ。おかげでエオストーレには散々怒られたっプイ」

「あぁ……お兄が言ってたやつか」

 

 具体的には文化祭の少し前にあった、エオストーレによるパワハラ制裁会議。

 その件も含むが、卯月は心のどこかで「記憶がないって、辛くないのかな」と考えていた。

 それをカーバンクルに直接聞く勇気は出ないので、思考は卯月の心の中に納められてしまう。

 

「……ねぇ、カーバンクル」

 

 キャリーケースのタイヤを転がしながら、卯月は少し気になっていた事を聞いてみる。

 

「多分、文化祭が終わった後くらいかな……お兄とソラさん、何かあった?」

「キュップ?」

「なんというかその……一見なにも無さそうな感じはするんだけど、な〜んかお兄の様子が変だなぁって思って」

「そうっプイ?」

「そうっプイ。なんかたまに挙動不審というか……学生時代に女子とまともに会話した経験も無い10年選手の引きこもりが、地雷系キャバ嬢の営業トークを真に受けて一喜一憂している時みたいな雰囲気を醸し出してるから……」

「実の兄に対してちょっと辛辣過ぎないっプイ!?」

 

 だが卯月の言いたい事は伝わった。

 その上でカーバンクルは……

 

「で、どうなのカーバンクル?」

「う〜ん…………ボクには何も分からないっプイ」

 

 はぐらかす事を選んだ。

 文化祭2日目の終わりに、一連の出来事を召喚器の中から目撃していたカーバンクル。

 流石にコレは当人達で解決すべき問題だと判断して、カーバンクルは敢えて真相を話すような事はしなかった。

 

「……そう」

 

 少しもどかしいものを感じてしまう卯月。

 そんな彼女の想いは理解しつつも、カーバンクルは「これでいい」と己に言い聞かせるのだった。

 心の問題に対する手出しや助け。いずれも当人達が必要とした瞬間に出すべきものでしかない。

 であれば今必要なものは時間であり、真相を打ち明ける事ではないのだ。

 

「あっ」

 

 ふと、卯月は目についた建物の前で足を止めてしまう。

 この世界では普遍的な……むしろ普遍になり過ぎて、卯月やツルギには異様でもあったカードショップである。

 

「なんかもう……こういう温泉地にあっても驚かなくなったなぁ」

「卯月、カード買い足すっプイ?」

「買わない。だってアタシ【蛇竜(じゃりゅう)】基準でしかカードの良し悪しわかんないし」

「でも卯月、その【蛇竜】のデッキは……」

 

 卯月の頭上で、カーバンクルがそう口にした瞬間であった。

 卯月は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるや、大きなため息を吐くのだった。

 

「ハぁぁぁ〜……なんで、こうなったかなぁ」

「油断大敵。不注意が悪いっプイ」

「やめて。全部本当のことだから何も言い返せない」

 

 そう言いながらガックリと項垂れてしまう卯月。

 

 そもそも何故、カーバンクルがツルギではなく卯月と一緒に行動しているのか。

 何故、卯月の一人旅にカーバンクルが同行しているのか。

 

 答えは今現在、卯月が所持している召喚器にあった。

 

「なんで……なんでうっかり間違えるかなぁ」

「キュプ。それはツルギに対して? 自分に対して?」

「両方!」

 

 半ば逆ギレのようにカーバンクルへ言い返す卯月。

 その手に持っている召喚器は、蛇姫お馴染みの【蛇竜】デッキ…………ではなかった。

 

「まさか……お兄のデッキを持ってきちゃうなんて」

 

 現在卯月が手にしている召喚器はツルギのもの。

 つまり中に入っているデッキも、ツルギの【カーバンクル】デッキであった。

 

「お兄のデッキ……というか【幻想獣】なんてアタシ全然使った事ないんだけど!? 今トラブルに巻き込まれたら一番不味いじゃん!」

「安心するっプイ。もしもの時はボクが守るっプイ」

「それ、頼っていいの?」

「任せるっプイ」

 

 やや訝しげな卯月の頭上で、カーバンクルは落ち着いた雰囲気で言葉を続ける。

 

「キミ達家族を守る……あの日ボクは、そう約束したっプイ」

 

 記憶は欠けて不鮮明であっても、いつかの日にした大切な約束は魂が覚えている。

 誓約の瞬間をハッキリと言葉にできなくとも、カーバンクルは自分が成し得たい事は理解していた。

 

「むしろ……今一番心配すべきは……」

「あぁ〜、お兄の方」

「キュップイ……卯月がツルギのデッキを持って来たという事は、逆に今ツルギが持っているデッキは」

「間違いなくアタシの【蛇竜】デッキ。でもそれなら大丈夫だと思う」

 

 自分が兄のデッキを持って来てしまった件とは打って変わって、卯月はツルギが【蛇竜】デッキを持っている件に関しては全く心配していなかった。

 

「心配じゃないっプイ?」

「あのねカーバンクル。そもそもアタシにサモンを教えて、【蛇竜】デッキの使い方まで仕込んできたの誰だと思ってんの?」

 

 当然ながらツルギである。

 それを理解した瞬間、カーバンクルは即座に「じゃあ心配無用っプイ」と言い切るのだった。

 

「んま、せっかく安くていい感じの宿も予約したんだし。トラブル避けて温泉楽しも〜」

「それもそうっプイ。ボクものんびり温泉休暇と洒落込むっプイ」

 

 完全に温泉休暇モードに突入して、気を緩めている二人。

 春休み終盤。

 珍奇な組み合わせによる、二人旅が始まるのだった。




ゆっくりと
ゆっくりと進めていきます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TCG販促アニメでどう足掻いても悪役ポジションの私が開き直って悪役RPを満喫するお話(作者:木津 吉木)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

"ドレッドギアス"というTCGが中心の世界に転生してしまったこの小説の主人公の"白掟(ハクジョウ)優義徒(ユギト)"は気づけば過激派宗教のトップに就任していました。明らかに主人公ポジションの人にボコられる事が確定している彼はやけっぱちになって悪役RPを行い始めます。▼どうせ破滅が分かっているならその日までエンジョイしな…


総合評価:2153/評価:7/連載:191話/更新日時:2026年10月29日(木) 23:24 小説情報

カードゲームで世界が滅ぶ世界に転生してカードショップを開店したら、周囲から前作主人公だと思われている(作者:暁刀魚)(オリジナル:現代/日常)

【書籍発売中!】▼ カードゲームで世界が滅ぶのはカードゲームの世界だと定番だ。▼ そんな世界に転生した俺、棚札ミツルは念願かなってカードショップの店長になることができた。▼ カードバトルをする人たちが楽しそうなこの世界で、それを近くで眺めていたかったのだ。▼ しかし、そんな俺は端から見ると大きな事件を解決し、先達として子どもたちを見守る前作主人公のように見え…


総合評価:49639/評価:8.92/完結:376話/更新日時:2026年08月08日(土) 12:05 小説情報

【書籍化】俺の切り札は光らない(作者:雨 唐衣)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 カードゲームが好きだ。▼ 集めて集めてうんざりしたカードの山の中で手に取った一枚に焦がれることもあった。▼ 何度も、何十も、何百回もスリーブが擦り切るまで回した果てに出来たプレイングに自分を褒めたくなったことこともあった。▼ 練り込まれたデッキには色んなものが入っている。▼ 揃えたカード資産の金額、ひらめきと考え抜いたゲームメイク、試行錯誤に費やした時間、…


総合評価:64289/評価:8.91/連載:126話/更新日時:2026年10月26日(月) 19:35 小説情報

数多の英雄を束ねる者(作者:R1zA)(原作:Fate/)

「俺がギリシャ最強?そんな訳無いだろ!いい加減にしろ!」▼目が覚めたらFGOの金髪ワカメに転生してた。▼ただし雷の権能が使えたし何か全能神に気に入られた。▼…何でぇ?▼これは原典から誰おまレベルで逸脱した金髪ワカ…イアソンに転生したよくわからん奴―――基(もとい)、ギリシャの勇者王伝説の物語である。▼AD.2022/11月26日:神話編、完結。▼AD.202…


総合評価:22804/評価:8.73/連載:33話/更新日時:2023年11月05日(日) 22:26 小説情報

TCG能力《創世札典》を手に入れた俺、一日一マナから現代社会を攻略する~治療、未来予知、若返り。マナが足りないので山を買います~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

都内のシステム関連企業で主任として働く、三十六歳の会社員・門倉啓介。▼仕事も収入も安定し、独身ゆえに貯金もそれなり。大きな不満はないものの、同じ毎日を繰り返しながら少しずつ疲れていく人生を送っていた。▼そんな休日の朝、啓介は突然、TCGのルールで現実を変える異能《創世札典/GENESIS DECK》を手に入れる。▼最初の土地カードは、彼が暮らす賃貸マンション…


総合評価:1616/評価:7.11/連載:62話/更新日時:2026年10月12日(月) 20:21 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>