俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
風呂上がり、旅館の食堂。
エオストーレとカーバンクル、そしてシルドラは片隅でひと息ついていた。
無論、すぐ隣では人間女子三人が夕食をとっている。
「まさか貴方が来ているとは思いませんでしたよ、カーバンクル」
「想定外はボクの方っプイ……」
「うむ……」
ため息混じりに、面倒臭そうな態度を隠さないエオストーレ。
対してカーバンクルとシルドラは我が目を疑うかのように、エオストーレが手に持っているソレを注視していた。
「まさか目の前で、風呂上がりのフルーツ牛乳を枡の中で魔剤とリミックスされる日がくるとはな……我はどう反応すれば良いのだ」
「あげませんよ?」
「いらぬわ!」
「いらんっプイ」
シルドラとカーバンクルが辛辣に返しても、エオストーレはピクリとも動じない。
むしろ先程の露天風呂で何かが振り切れたのか、開き直ったのか。
エオストーレは枡の中で調合された馬鹿の飲料汁を、グビグビと飲み始めるのだった。
その一方では……
「何気ない旅先でお二人と遭遇するなんて、思いもしませんでした」
「それはアタシも同じ」
「ボクも同じく」
食堂のテーブル席に座りながら、旅先での奇天烈な遭遇を分かち合っている人間女子三名。
お互い示しを合わせた訳でもなく、各々別の目的で訪れた地。
知り合いに遭遇する可能性など一切考慮していなかった為、三人揃って驚きの体感も激増している気がしていた。
「
「ボクは献……ちょっとした用事」
途中で不自然に言葉を区切り、曖昧に言い直す真波。
だが言いかけた献花という単語は二人に伝わっていた。
ソラも
「そういえば、終業式の時にもツルギくん達に言ってましたね。大切な用事があるから一緒に行けないって」
「うん。大会に誘われたけど、今日だけは……ね」
小さく呟く真波。
今日は真波の両親の命日であり、彼女は事故現場に献花に訪れていたのだ。
「いつもは頑張って夜行バスで帰るんだけど、今年はその……忙しかったから」
「あはは……評議会のお仕事や文化祭もありましたもんね」
目線を逸らしてしまう真波に、ソラは思わず苦笑いしてしまう。
実際、今の評議会関係者を温泉旅行に誘えば、間違いなく皆ついて来るだろう。
その様子が容易に想像できてしまうソラであった。
「ここが一番安かったから泊まったんだけど、温泉もあるし、知ってる人達と一緒で良かった」
「だよね〜。なんでか知らないけどお手頃価格で、本ッッッ当に助かった。学生の味方!」
「卯月ちゃんのリアクションはちょっと大袈裟な気もするんですが……」
「ソラは何目的? てっきり
ツルギの事を言及された瞬間、ソラの身体がピクリと反応して、即座に硬直した。
大会の事に反応したのではない。間違いなくツルギに反応した。
その分かりやすい反応に、真波と卯月はジト目を浮かべてしまう。
「ソラさん? やっぱりお兄と何かあった?」
「な、なにもないですよ?」
「でもソラ。文化祭が終わった辺りから、天川くんと気まずそうにしてる」
「き、きのせいですよ?」
分かりやすく二人から目を逸らしているソラ。
それはそうとして、真波が言及した時期に関しては卯月も覚えがあった。
「他の人から見ても文化祭終わりからなんだ……同じ時期から家の中でもお兄の様子がおかしくなってるし」
「え゙っ゙!? そ、そうなんですか〜……」
「なんていうかさ、こう具体的には……八方美人の良い子ちゃんクラスメイトに優しく接してもらえて恋してしまったけど、ソレは結局自分の思い込みや勘違いである可能性が高く、間違っても自分からアプローチをかけようものならゴミ屑のようにドン引きされるのは必至。でもやっぱり誰にでも優しいあの娘が実は自分にだけ特別な感情を抱いていたパターンであって欲しい……ってクソ程キモい妄想を拗らせた結果彼女いない歴と年齢が完全一致している現実を直視できない、産まれてから一度も鏡を見た事がない哀れなカス男って具合に挙動不審なの。そろそろどうにかして欲しい」
「天川くんの妹さん……お兄さんに対して厳し過ぎない?」
「私も……ちょっと評価が厳し過ぎるかな〜って思います」
あまりにも辛辣な卯月の言葉に、つい困惑してしまう真波とソラ。
だが当の卯月の認識はと言うと……
「世の妹が兄に対して抱いてる評価なんて、こんなもんですよ」
「そうなのかな、ソラ?」
「ごめんなさい真波ちゃん。私ひとりっ子なので分からないです」
それはそうとして。
「あのぉ、卯月ちゃん? ツルギくん、お家で何か言ってませんでしたか? もしくは何かに気づいていたとか」
「気づいて……? ソラさん?」
「い、いやその! わわわ私、気づかれて困るような事はなにもしてましぇんかりゃ!」
何時ぞやの合宿の時とは打って変わって、自ら墓穴を掘ってしまうソラ。
白い肌を真っ赤に染めて手をバタバタと動かしている彼女の姿を見ている内に、卯月と真波は「もしかしなくても、何かあったな」と勘付くのであった。
「アタシ、家に帰ったらお兄を〆上げるわ。罪状の有無に関係なく〆ておく」
「お兄さんに、弁明の余地くらいは」
「不要。あの万年彼女なしブレーキ破損男は、ついうっかりで女の子に不埒な真似をしていてもおかしくない」
「お兄さんに対する信用が地の底に落ちてる……」
流石にツルギを哀れに思ってしまう真波。
しかしこれが世の兄に対する妹からの平均的な評価であるなどと、兄妹のいない真波は思ってもいなかった。
「で、ソラさん? お兄と何あったの?」
「えっ…………え〜、と……」
「文化祭での一件でしたら何も心配するような事はありませんよ。ただソラが勇気を出して、寝ている彼に——」
「エオストーレ? 全魔剤禁止令を出しますよ」
「ワタクシは何も知りません。何も語りません」
目が笑っていないソラに極太の釘を刺されてしまったエオストーレ。
魔剤中毒者は魔剤が無ければ正常な心を保てない。
エオストーレは一瞬にしてお口チャックをし、事の真相を黙秘するのだった。
(あぁ……お兄が実は起きてたとか、なんかそんなパターンな気がする)
ただし卯月は何となく、事の真相に対して予測がついていた。
ついてはいたが……それはそれとして、帰宅したらツルギに一発蹴りを入れておこうと決心していた。
「そ、そういえば! 卯月ちゃんは何の用事で来たんですか?」
分かりやすく話を逸らそうとしてくるソラ。
後で真波と一緒に、思春期女子二名による取り調べを行う事を決定しておく卯月。
ひとまず今は、ソラの質問に答える。
「アタシは爬虫類イベントに来ただけ。宿もここが安かっただけ」
「本当に三人とも別々の目的で、偶然同じ宿だったんですね……」
「そういうソラさんは?」
「うぎゅ!? わ、私はそんな、大した用事では……」
「ソラは近くで開催されているフードフェスへ食い倒れの旅に来ただけです」
「エオストーレ!」
無情にもパートナーに暴露されてしまい、今度は違う意味で顔を真っ赤にしてしまうソラ。
だが彼女の食欲を既に知っている卯月と真波はストンと納得し、特に驚く事もなかった。
そんな中、エオストーレは意外そうにカーバンクルの方を向いている。
「意外ですね。てっきり貴方の要件で来たのかと思いましたよ」
「そんなわけ無いっプイ。ボクは手違いで来ちゃっただけっプイ」
「そうなのですか……ともすれば悪戯な運命ですね。この
枡に入ったド低脳混合魔剤を飲みながら、サラリと言及するエオストーレ。
コレには流石のカーバンクルも、そして卯月達人間女子達も反応せざるを得なかった。
「卯月ちゃん、そうなんですか?」
「言われてみれば……ココに来てからずっと、カーバンクルも懐かしいとか何とか言ってた。けどアタシも詳しくは知らない」
「仕方ありません。そこの駄ウサギは先の大戦で記憶に大きな損傷を抱えています」
一度枡を置いてから、エオストーレは話を続ける。
「ワタクシも、ソラが神殿守に降りると聞いた時には驚きました。まさか再びこの地に足を踏み入れる事になるとは思いませんでしたから」
「ソラ、エオストーレ驚いてたの?」
「はい。駅を降りた途端なにも言わずに呆然としてました。それでエオストーレにお願いされて、明日はあちこち見て回ろうと思ってたんですけど……」
真波の問いかけには答えるが、ソラ自身エオストーレとこの地の関係性については何も聞かされていない。
ただエオストーレが懐かしむような様子だったから、パートナーの願いを叶えようとしただけだった。
「エオストーレ、ここに来たことがあるんですか?」
「来た、と言いますか……この神殿守はワタクシは産まれた地……そして……」
手に持った枡を力一杯握りしめながら、エオストーレは忌々しそうにカーバンクルを睨みつける。
「産まれて早々、そこの野蛮なケダモノ老害DVウサギにタコ殴りされた場所です! まだ生後半日も経ってなかったんですよ!」
「全く覚えてないけど、とりあえず謝罪はしておくっプイ」
「はぁ……忌々しい事に、ワタクシが産まれたこの地は化神が誕生しやすい土地。カー
支配者と言っても相違なかったかもしれませんね。
そう続けたエオストーレだが、突然の真相判明に人間女子三名とシルドラは口を開けて驚いている。
あまりにも想像の外に位置する情報だったせいか、言葉も出てこない。
一方、当のカーバンクルはどこか腑に落ちた様子であった。
「……宿に来る途中、神社に立ち寄ったっプイ……石像が象っていた獣に親近感を抱いてしまったけど……」
「
「通りで……鏡のような気持ちになったはずっプイ」
なるほどと頷き、己の過去という真実を咀嚼するカーバンクル。
そうやって静かに事を受け入れられるのは、結局のところ当事者のみ。
ソラは驚きを感じつつも、卯月に問いかける。
「カーバンクルって神様だったんですか?」
「知らない。初耳。というかあの石像とカーバンクルって耳の形くらいしか似てない」
「本当に神というわけではありませんし、石像が象っているのは先の大戦以前の姿です。この駄ウサギもかつては人間から信仰を得ていた、ただそれだけの事」
枡の中に入った代物を飲み干すと、エオストーレは説明を開始した。
「化神……読んで字の如く『
「……無いな。我にとっては最初からそういう呼び名だった。それだけの事でしかなく、疑念を持つような余地もなかった」
「普通はそうでしょう。どのような種族、生命体であってもそういうものです」
「化神は不完全な存在であり、不安定な生命体だ。我らは適性のある人間にでなければ認識すらされぬ」
「その通りです。故にある時代では、人間は我々を『神』という偶像として描きました」
ある時代では、『妖怪変化』と呼んで人間は化神を恐れた。
ある時代では、『土地神様』として化神を信仰の対象にした。
ある時代では、『悪魔』『妖精』『怪異』などなど。
土地や時代によって、様々な呼び名が化神に貼り付けられたとエオストーレは語る。
「どれ程の言葉を重ねようと、ワタクシ達は存在しているようで存在していない、雲のように曖昧な幻想である事は事実。人が幻想を想い描けば、その情報は狭間の空間に情報として記録されます。その記録が何かの拍子に現実に近づくとバグが発生します」
「その現実に近づき過ぎるバグから産まれるのがボク達……化神って事っプイ」
「なるほど、故に『化けて出る神』と書くわけか」
納得したように、そう呟くシルドラ。
今まで己の存在を表す名称に疑問を持った事など無かったが、いざ由来を知ると存外面白く感じてしまう。
思わぬ肴を得たと言わんばかりに、シルドラはひっそりと楽しそうにしていた。
「深く考えず泊りに来た場所ですけど……そんなに化神と馴染み深い場所だったんですね」
「ボクも正直びっくりしてる」
「身内が土地神っぽい事やってたって、アタシが一番びっくりして良いと思うんだけど……」
完全に想定の外。ソラと真波は何とも不思議な気分になっている。
それ以上に卯月は、断片的とはいえカーバンクルの過去を聞いて、もうお腹いっぱいであった。
「エオストーレ……後で色々聞かせて欲しいっプイ」
「貴方のパワハラについてですか?」
「ここがどういう場所で、ボクが何をしていたのか」
「……そうですね。せっかく懐かしい場所にいるのです。ワタクシもここで同胞達を思い出したいのです」
空っぽになった枡を手に持ちながら、それはそうとエオストーレはカーバンクルに問いかける。
「ところで今更なのですが……何故貴方はパートナーと一緒ではないのですか?」
「ツルギと卯月が揃ってやらかしたっプイ」
「はい……お互いに持ってくるデッキを間違えました」
改めてガクリと項垂れる卯月を見て、ソラもようやくカーバンクルがツルギと一緒でない理由を理解した。
同時に、現在ツルギは卯月のデッキを持っている事も察したが……即座にツルギなら大丈夫だろうと思うソラであった。
「あっ! それなら後で休憩室に行きませんか? あそこならテレビもありますし、ツルギくん達まだ大会中ですから」
「そうだね。ボクもどうなってるのか気になる」
「そういえば48時間生中継されてる大会だってお兄言ってたっけ……」
いざ言葉に出してみると、前の世界では考えられない狂気の番組内容と放送時間。
卯月は正直「この大会と番組考えたヤツ頭おかしいのかな?」と思っていたが、ソラと真波が一切疑問視していそうになかったのでグッと堪えた。
「あとソラさんは番組というかお兄が目当てなんじゃ——」
「アイちゃんも出てますから! ツルギくんだけじゃないですよ!?」
「ソラ、流石に必死すぎ」
顔を真っ赤にして誤魔化そうとしているソラを、真波がバッサリと切り捨てる。
だが実際番組の様子は気になるので、食事を終えた三人と化神達は、旅館の休憩室へと向かうのだった。