俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
JMSカップまで残り日数も僅か。
今日もチームの皆で特訓だー!
……と、なる予定だったんだけど。
「まさかソラも速水も来れないとは」
今日は二人とも外せない用事があるらしい。
なので本日は俺一人。
二人を鍛え上げる事ができないなら、自分自身鍛えるまでだ。
というわけで今日は土曜日。確実に人で溢れているであろう、いつものカードショップに来ていた。
「よっしゃあ! フリーファイト時間じゃあ!」
「「「逃げろぉぉぉ!!!」」」
単身フリーファイトスペースに入った途端、人が逃げた。
酷くない?
近くにいた小学生にまで冷たい目で見られてる気がする。
「またツルギにーちゃんがワンキルしようとしてる」
「失礼な! そんなつもりは……ちょっとしかない!」
「中学生以上の人はツルギお兄ちゃんの強さ知ってるから、みんな逃げちゃうよ」
「ウチのねーちゃんもトラウマって言ってたー!」
トラウマ……トラウマなのか、俺のファイトは。
そんなに酷い事した覚えなんて……!
「……ダメだ、心あたりしか出てこない」
「にーちゃん強すぎるよ」
「これが、強者の苦悩かッ!」
戯けてみせたが、心はダメージ入ってる。
だが反省はしない!
それはそれとして、今日はどうしようか。
「……なぁちびっ子達よ。俺とファイトしないか?」
「本気のデッキ?」
「大会前だから本気のデッキ」
「絶対勝てないじゃん」
「ツルギお兄ちゃんの相手にもならないよ」
うーん、綺麗にフられたな。
だがちびっ子達の言うことも正しい。
これは卯月から聞いた話だけど、やっぱりこの世界におけるサモンの強さはあまり高くない。
特に小学校くらいの子供となれば、それが顕著だ。
召喚器無しだと、基本ルールをミスる子もいるらしい。
そりゃあ卯月もデッキ破壊で無双できるよ。
「さーて、どうしたものか」
結局、俺の前には誰も居ない。
ファイト相手がいなくては、サモンはできない。
カードゲームはぼっちに厳しいゲームなのです。
とにかく誰か相手を探さないと特訓ができない。
俺はフリーファイトスペースをキョロキョロと見渡す。
すると、見覚えのある帽子を被った女の子が居た。
「あっ、あれは」
帽子とサングラス。栗色の髪の毛。
間違いない、アイだ。
一人でぼーっとしてるけど、どうしたんだ?
「まぁいっか。ファイト相手ゲット!」
俺は迷わずアイに近づいて、肩を叩いた。
「よっ、アイ。今日も遠征か?」
「きゃっ。ツルギ」
「フリーファイトスペースで一人突っ立ってると、変に目立つぞ〜」
「それは……そうね」
「アイドルしてるんだから、気をつけろよ」
俺がそう言うと、サングラスの向こうでアイが目を見開いた。
あっ、そういえば俺が気付いてる事言ってなかったな。
「気づいてたの?」
「始めて会った日の夜にな。こっちから聞くのは無粋かと思ってたんだけど、うっかりした」
「そう……気づいても、普通に接してくれてたのね」
俯き気味にそう呟くアイ。
これは……何かあるな。
「……立ってるのもアレだろ。向こうのベンチに行こうぜ」
俺はアイの手を掴んで、休憩スペースにもなっているベンチに連れて行った。
その間アイは無言。とりあえず座らせてから、俺は近くにある自販機でジュースを買う。
「はい。好みはわからないから、オレンジジュース」
「ありがとう、ツルギ」
ジュースの缶を両手で握りながら、アイは無言のまま。
俺はコーラの缶を開けて、とりあえず一口飲む。
やっぱり俺から切り出さなきゃな。聞きたい事もあるし。
「なぁアイ。サモン楽しいか?」
いつかアイの方から聞かれた質問を、今度は俺がする。
どうしても聞きたかったんだ。
アイが辛そうだったから。
数秒の間を置いて、アイは口を開いた。
「ツルギ達とのファイトは、すごく楽しいわ。自分が自分でいられるから」
「という事は、【妖精】デッキの方は」
「やっぱりそれも気付かれてたのね。えぇ……楽しくは無いわ」
「俺はアイドルってのをあまり知らないから、一応自分で調べたんだ。サモンをするアイドルのデッキって、基本的にはそのアイドル個人のデッキの筈だよな」
「……そうね、普通はそうよ」
これは俺がネットで調べた事。
このサモン至上主義社会では、アイドルを含む芸能人がサモンをするのは普通の事だ。
その際使用するデッキというのは、特別な企画など絡まない限り個人のデッキを使うもの
アイのように、異なるデッキを公の場で使い続けるというのは、この世界でも異常な事だ。
「全部……プロデューサーの意向なのよ」
「プロデューサー?」
というと、アイドルにつきもののアレか?
「アイドルとしてのイメージを確かなものにする為に、ユニットメンバー全員が同じ系統デッキ使ってるの」
「おい……それじゃあアイ以外二人も」
「他の二人は幸い元々【妖精】のデッキ使ってたのよ。【樹精】デッキを使っていたのは、私だけ」
言葉を失った。
プロデューサーの言いたい事は何となく想像できるけど、それは前の世界の常識に沿った場合だ。
ここはサモン至上主義世界。
そんな世界でデッキ変更を強制する事が、アイをどれだけ傷つけているのか、俺には想像もつかなかった。
「アイは、プロデューサーに抗議したのか?」
「何度もしたわ。でも、無駄だったのよ」
「どうして」
「私がデッキを戻すのは自由。だけどそうした場合、他の二人の進退は保証しない。それがプロデューサーの言葉よ」
悔しそうに缶を握りしめるアイ。
つまり彼女は仲間を守るために、自分を殺し続けているのか。
「プロデューサーはね、宮田愛梨という血統種が欲しいだけ。他の二人を捨て駒するのに躊躇いはないのよ」
「血統種?」
「私はね、祖父母も両親も芸能人なのよ」
「すげぇな。芸能一家だ」
「そうよ。産まれてからずっとそういう環境で生きてきた。だから自分が芸能界に入ることも疑問には思わなかったわ」
だけど……とアイは続ける。
「私が抱いていたのは、本当に私の夢だったのか……それが分からなくなったのよ」
「アイ……」
「私のエゴで始めた物語が、大切な仲間の夢を壊そうとしている。なら私が耐えればそれで済む話……そう思ってたのに」
アイの目に涙が浮かんでいる。
相当心に傷が入っているらしい。
「自分らしく生きる人達を見ていたら羨ましくなって。憧れて。私もそうなりたいって気持ちが溢れてくるのよ」
「……それで、迷っているのか」
小さく頷くアイ。
偶像を演じる者のジレンマとでも言うべきか。
俺には想像もつかない重荷が、アイを潰そうしているらしい。
「アイは、何が一番大事なんだ?」
「大事な、こと?」
「あぁ。何か道に迷った時は、とりあえず一番大事なことは何か考えるんだ。そうすれば最善の道が見えてきやすい」
これは俺の持論。
そしてサモンをする上でも大切にしている事だ。
アイはしばし考え込む。
「……大事なことは、いくつもあるわ」
「一番は?」
「わからないわ。どれか一つだけを選ぶと、他が全部壊れてしまいそうなの」
アイは鞄からデッキケースを取り出す。
あれはきっと、アイの【樹精】デッキだ。
「これはね、今は亡くなってしまったお婆様から貰ったデッキなのよ」
「そうだったのか」
「私が初めてサモンに触れるきっかけで、私がサモンを好きになった理由のデッキ。それが【樹精】のカード達」
「それが一番大事なものじゃ、ダメなのか?」
「そう、答えたい気持ちはあるわ。でもね……」
悲しそうな目と声で、アイは俺の方を見てくる。
「仲間を犠牲にしてまで、一番を決めて良いのか……私には分からないわ」
「……」
背負うものが違い過ぎる。
それでも何か言葉をかけてあげたい。
だけど俺は、安易に言葉を紡げないでいた。
「ツルギ達はJMSカップに出るのでしょ」
「あぁ、出るよ」
「私もよ……だから、本気を出せなくても恨まないでね」
どこまでも申し訳なさそうに、どこまでも悲しそうに、アイが呟く。
これはきっと信頼の表れ。
俺達を好いていてくれるからこその、謝罪なのだろう。
「ふぅ。吐き出したらなんだかスッキリしたわ。ありがとうねツルギ」
「アイは……今のままで良いのか?」
「……変わらなきゃいけないとは思ってるわ。だけど、それで誰かを傷つけるなら、私は私を許せないかもしれない」
アイはオレンジジュースを一気に飲み干すと、缶をゴミ箱に投げ捨てる。
「さぁツルギ、ファイトしましょ。そのために来てるんでしょ」
「あぁ……そうだな」
俺はアイに連れられてフリーファイトスペースに戻る。
その日はアイと夕方になるまでファイトを続けた。
アイも【樹精】デッキ使えて、ストレス発散できたのか、楽しそうにファイトしていた。
だけど俺は……ここまで悲しいサモンファイト、経験した事なかった。