みどり色です。
お待たせして大変申し訳ございません。
今回は本当に若干の“男女の描写”があるので苦手な方はご注意いただけると幸いです。
彼女は夢の中にいた。
しかし、彼女は今見ているものを夢だとは認識していない。
動かしにくい身体と鈍化した思考、見た物や聞いたものが直接心に入ってくる。
裏や表などと言う概念は存在せず、今この時は目の前の物が真実であり真理。
それ以外の何ものでも無い。
靄が掛かったかのように視界が効かない。
水中で目を開けているかのようにぼやけた灰色の世界。
理由などはない。
しかし不安に囚われる。
幼い頃に市場で母と逸れた時のような感覚。
湧き上がる感情は自らではコントロールできない。
知識と忍耐は韻を踏む関係にある。
人間は理解できないものに恐怖し、知らないものには長く耐える事ができない。
今の彼女は無知であり、子供であり、無力だった。
ただ不安と恐怖に支配されていた。
その場に蹲(うずくま)り、膝を抱えて瞳を閉じる。
『見なければ存在しないと同じ。こうすれば安全だ』とでも言うように。
しかし視界を封じたが故に、彼女の想像力は掻き立てられる。
得体のしれない化け物が、恐怖の権化とも言えるものが周囲を取り囲んでいるような錯覚に陥る。
そのイメージは音と匂いを生じさせ、五感を刺激する。
「—————い———怖い・・・」
彼女は恐怖に支配されていた。
心が折れている者に、立ち向かうという選択はない。
しかし次の瞬間、周囲を取り囲んでいた恐怖が突然消えさる。
彼女は恐る恐る抱えていた膝から顔を起こし、周囲を見回す。
視界が効かず、ただ広いだけの空間。
そこにいるのは自分一人だった。
最初から自分は独りだったのだ。
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<惑星コルサント 銀河元老院議会場>
銀河元老院最高議長の要請により、広大な宇宙に点在する星々の代表らが集っていた。
同心円状にリパルサー・ポッドが設置されているこの場に居る者達は上質な生地で織られた衣服に身を包み、殆どの者はこれ見よがしに豪華な装飾品を身に着けている。
その中心で、この銀河の支配者のように君臨している人物が高らかに声を上げている。
平和の守護者であるジェダイの反乱、及びその鎮圧に当たったことを議会で説明しているのだ。
「—————こうしてジェダイの反乱は未然に阻止できたのだ。そして残ったジェダイも全て駆り立て、一人として生かしておいてはならぬ!」
その発言に議会場は拍手で包まれる。
元老院転覆と言うジェダイの陰謀を聞き、自らの支配と富、権益を脅かされた権力者たちは負の感情を露にしている。
汚職と腐敗に塗れた彼らにとって、それを失うことは死を意味していた。
アンダーワールドのような掃き溜めに群がる鼠(市民)のような生活は耐えられない。
その日、口に入れる物の為に地を這い、明日も食べられるか不安になりながら眠りにつく。
そんな市民がどうなろうと知ったことではない。
しかし自分自身の物は、たとえパン一切れでさえ失うことは許せなかった。
「ジェダイに襲われ、その時の傷と恐怖で顔も変わった。だが敢えて言うならば私の決意は以前にも増して強くなったのだ! 銀河の安全と安定を守り、恒久的平和を維持するために共和国は解体・再編され史上初の銀河帝国がここに誕生する! より安全で安定した共同体、社会の確立だ!!」
銀河元老院議長シーヴ・パルパティーンの宣言に、万雷の拍手喝さいが議会に鳴り響く。
宣言と共に高く上げた両腕と共に、パルパティーンはその拍手を身に受け身体を震わせていた。
長きに渡る計画が成就する。
その現実に表現し難い高揚感に包まれているのだ。
残された障害など取るに足らない。
最強の弟子を迎え、後は“軽い掃除”が残っている程度だ。
万が一にも計画が狂う隙は無いのだ。
議会の中心で勝利を確信していたパルパティーンだったが、そこに一機のリパルサー・ポッドが接近する。
ポッドに乗っているのはフードを目深に被った長身の人物が一人。
その人物の出現に鳴り響く拍手は徐々に小さくなり、至る所で嘲笑が聞こえてくるようだった。
『この期に及んで議長の決定に反対の意を示す気でいるのか?』と。
しかし周りの議員らと異なり、パルパティーンの顔には不快だと言わんばかりの表情が浮かぶ。
この場で思わしくない状況に陥っていると感じているのは彼一人だった。
「議員、申し訳ありませんがこの場での発言はお控え頂くよう御願い—————」
パルパティーンの側近で元老院の副議長でもあるマス・アミダが謎の人物に注意を促す。
しかし、彼の言葉は途中で遮られた。
純白に光るプラズマの光剣と、その低く鳴り響く起動音によって。
その光景を見た議員らに動揺が広がる。
この場にジェダイがいて、その矛先が議長に向いている。
そしてその刃が『いずれ自分に向くかもしれない』と不安に陥る。
恐怖は瞬く間に伝染し、混乱が広がって行く。
生存本能から沸き上がる感情に従い、この場から立ち去ろうと踵を返す議員らだったが退出するための扉は固く閉じて開く気配はなかった。
「ヴェリウス・・・マスター・ヴェリウス—————歓迎しようではないか、新たな秩序。銀河帝国誕生の瞬間に!」
先程と同じように、パルパティーンは天に両腕を突き上げて高らかに声を上げる。
その声は混乱する議会内に響き渡り、全ての目が彼らに注がれる。
「新たな帝国? それもまた偽りの世界」
静かにそう口にすると、ヴェリウスは徐に手を胸の高さまで上げる。
するとパルパティーンやマス・アミダが立っている演壇は、強力な圧力によってみるみる圧縮されていく。
パルパティーンはヴェリウスのリパルサー・ポッドまで跳躍する事で回避するが、彼の側近であるマス・アミダに逃れる手段は無かった。
マス・アミダと共に球体になるまで圧縮された議長の演壇は、繋がっていた支柱から引きちぎられ30メートルもの高さから重力に従って落下する。
耳を劈く圧縮音と、演壇が地面と衝突した際のけたたましい金属音が収まると、周囲は不気味な静寂に包まれる。
「愚かなジェダイめ、新たな帝国の礎となるが良い!!」
そう口にすると、パルパティーンの手から強力なフォース・ライトニングが発生する。
暗黒卿が繰り出すエネルギーをライトセーバーを用いて至近距離で受け止めたヴェリウスは、無表情のままゆっくりと歩みを進める。
ジェダイ・オーダーでも最強の剣士と名高いメイス・ウィンドゥすら受ける際に苦悶の表情を浮かべていたパルパティーンのフォース・ライトニング。
その強力なエネルギーを、ヴェリウスは無表情のまま受け止める。
パルパティーンのすぐ目前まで迫った若き騎士。
彼の何も感じさせない表情は、暗黒卿の怒りを湧き上がらせるのに十分だった。
シス卿が発生させる力は徐々に大きくなっていき、その強力な閃光は周囲の議員らの視界を奪う。
常人では目も開けていられない程の強烈な光の中でも、ヴェリウスは平然としている。
そして彼は空いている左手から強烈なフォースによる波動を繰り出し、シディアスの身体を後方へと吹き飛ばす。
その先に設置されていたリパルサー・ポッド群は強烈な衝撃と、シディアスが発生させたままのフォース・ライトニングによって連鎖的に機能を停止していく。
そこから態勢を整えたシディアスが姿を現すが、彼の顔は怒りと憎しみに激しく歪んでいた。
「傲慢故に甘く見過ぎたようだ・・・だが今日でジェダイは死に絶えるのだ!」
「・・・・・私はジェダイではない」
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“彼女”が立っていた場所は、惑星コルサントの発着場だった。
多種多様な船が飛び交う様は、いつ見ても変化を感じさせない。
『陛下、再びお仕えできて光栄です』
『またお世話になります。パルパティーン議員は私が殺されぬかと恐れています』
『我々に加えて、“彼”が護衛の任に就きます』
そう話すのはクワイ=ガン・ジンとナブーの女王だ。
“彼女”は一人取り残されたかのように、その光景を眺めている。
『随分と若いようですが?』
『彼の名前は———。まだ年若いですが非常に優秀です。ご安心を』
クワイ=ガンと女王の話題に上がっている少年に目を向けるが、その顔に霧がかかったようにぼやけていて見る事は叶わない。
彼女はその少年の事が気になって仕方が無かった。
しかし姿を見ることも、思い出すことも出来ない。
ただ心がざわつき、締め付けられるような感覚に陥る。
◇
場面が移り変わり、そこはナブーのメイン・ハンガーだった。
多数のB-1バトル・ドロイドがブラスターを発砲する中、パイロット達は次々に黄色に塗装されたN-1スターファイターに搭乗していく。
そして長く掛からずにハンガーを制圧した一行だったが、その前に立ちはだかったのはフードを目深に被った人物だった。
『お任せください』
『頼みます。皆はこちらへ』
クワイ=ガン・ジンはその刺客を引き受けると発言し、“かつての自分”は回り道を選択する。
通商連合のヌート・ガンレイらを捕えるためには、少しの時間も無駄にはできないのだ。
『———、お前は陛下の護衛を』
『ですが・・・!』
『私とオビ=ワンで十分だ。今は陛下の安全が最優先だ』
『・・・はい、マスター・クワイ=ガン』
女王の護衛を任される少年。
まだ幼さを残す雰囲気を感じるが、彼女には“彼”が分からない。
名前を聞くことさえも。
名前も顔も分からない少年は、突然出現した2体のデストロイヤー・ドロイドに一人で立ち向かっていく。
彼が持つ青い光剣と白金の長髪は陽に照らされ光り輝いている。
彼女はその少年の姿を見て美しいと思った。
そして当時も、女王と言う立場であるのにも関わらず危険な戦場に身を置きながらそんな場違いな感情が湧き上がっていたことを思い出す。
その後ろ姿を自分は知っていた。
知っている筈なのに、何故か思い出せない。
その姿を目にすると、切ない感情が溢れる。
心が締め付けられ、目が離せない。
“彼”のことを考えるだけで、自分が自分でいられない。
「貴方は・・・誰なのです?」
◇
あの事件から10年もの間、彼と再会することは叶わなかった。
女王を務め、任期を満了するとナブー選出の元老院議員となった。
政治家として送る生活は忙しかったが、向いていたのか辞めようとは思わなかった。
そして、その忙しさがかえって良かったのかもしれない。
“彼”のことを考える時間が少なくて済む。
しかし、どんなに忙しくてもベッドで目を覚ます時や、眠りに就く際には必ず彼のことを考えていた。
そして忘れもしない想い人との再開は、思いもよらぬ形で実現した。
ドゥークー伯爵が中心となった共和国からの分離主義運動、それに伴い銀河系の各地で内乱や紛争などの小競り合いが続いていた。
不安定な情勢に伴い、共和国では自国の軍隊を設立する議題が持ち上がっていた。
それに反対するために、軍創設の反対派リーダーとしてコルサントへ赴いた際に彼と再開したのだ。
『議員、発着場でのことは聞いた、恐ろしい。だが無事のお姿を見てほっとしておるよ』
最高議長のオフィスに入室してきたのは、先ほど暗殺されかけたとは思えない程落ち着いた人物だった。
いつも通り整えられた身なりで、議長をはじめジェダイ評議会のメンバーに出迎えられている。
その光景を“彼女”はただ眺めているしかなかった。
この時、この瞬間には干渉できない。
何故ならこれは彼女の記憶、思い出、夢の中なのだから。
徐にオフィス内を見回すと、信じられない人物が目に入った。
10年もの間、思い焦がれていた人物だ。
彼の姿を目にしたとたん、彼女は自身の思考が鈍くなるように感じる。
しかし、彼の顔には変わらず靄が掛かっている。
『マスター・—————が警備に付いてくれるなら心強い。旧知の仲だ、アミダラ議員も彼らなら納得してくれると思うが?』
コルサント到着の際に暗殺されかけたこともあり、パルパティーン議長の提案でジェダイによる護衛の案が出された。
その護衛の任に“彼”が就くことになった。
あの時の衝撃は忘れもしない。
・・・その筈なのに、彼女には彼が見えなかった。
それが堪らなく苦しい。
◇
次の瞬間、再び場面が変わる。
辺りは暗くなりそこは彼女の良く知る場所、コルサントで過ごすペントハウスだ。
『—————、あ・・・っ』
突然の声に視線を向けると、部屋の奥に設置されているベッドルームでは2人の男女が愛し合っているのが目に入った。
相手の顔は見えないが、その月下に輝く白金の長髪は見間違えようがない。
まさかそんな場面に遭遇するとは思わず、彼女は反射的に顔を逸らす。
しかしそれを“見なかった”としても、“聞こえ”はする。
会えなかった時間を埋めるように2人の男女は感情を昂らせており、それは肉体にも反映される。
普段聞くことのない艶のある息遣い、苦しんでいるように聞こえる声は身体に押し寄せる快楽を体現している。
絶え間なく響き渡る“自身”の声に、彼女は顔が熱くなり体温の上昇を感じる。
彼が誰なのかは分からないが、自分にとって大切な人だという事は分かる。
その顔も、名前も認識できないが最も大切な存在なのだと心が理解している。
『んっ・・・』
突然喜悦の声が途切れた為、視線を向けると男女が激しく口づけを交わす姿が目に入る。
その姿に嫉妬心が湧き上がる。
『—————、愛しています』
目の前にいるのは自分自身の筈だが、そんなものは関係のない事だった。
“自分がそこにいない”
その現実が彼女の心の中を掻きまわす。
“彼女”が幸福な表情を浮かべる度に、自身への当てつけのように感じた。
「やめて!!」
そう声を上げ、彼女は2人の間に入って行こうとする。
しかしそこに辿り着くことは無かった。
見えない壁に遮られ、彼女は歩みを進めることが出来なかった。
そんな彼女の前で、2人はさらに激しく愛し合う。
見せつけるかのように。
そうする事が、自分たちの愛を現す唯一の方法かのように。
◇
彼女は耳を塞ぎ、再びその場に蹲る。
再び周囲は何もない空間へと移り変わった。
数秒か、数時間か、数日だったかもしれない。
その体勢から徐に顔を上げると、目の前には3人の女性が立っていた。
<彼は貴女にとってどのような存在?>
まだ幼さを残した少女が口を開く。
<昔からの友人?想い人?>
<恋人?それとも夫?>
少女よりも成長した2人の女性が言葉を続ける。
目の前で並んで立つのはかつての自分だった。
彼に出会った自分(EP1)、彼と再会した自分(EP2)、彼と一緒になった自分(EP3)。
「分からない・・・“彼”が分からないのです!」
彼女は苦しんでいた。
自分が置かれている状況よりも、最も大切な人のことを思い出せないことが何よりも辛かった。
心では感じる。
だが思い出そうとすればするほど、その記憶の断片は忘却の彼方へ消え去って行くようだった。
◇
【—————】
彼の事だけではなく、自分のことすら分からなくなるほどの時間が経過したように感じた。
しかし突然、彼女は何かが聞こえたような気がした。
気のせいだったのか?
孤独故に、幻聴が聞こえたのだろうか?
辺りを見回しても何の変化もない。
ただ広く靄が掛かったかのような灰色の空間。
再び瞳を閉じ、膝を抱える。
【———メ】
違う。
気のせいだ。
希望を抱いてしまって、それが自分の勘違いだったとしたら・・・
今度こそ自分は壊れてしまう。
彼女の取った行動は、一種の防衛本能だった。
希望に縋る段階はとうに過ぎていた。
【パ———】
やめて・・・
これ以上傷つきたくない・・・
独りなら傷つくことはない。
考えたくない。
何も知りたくない。
しかし、何かの気配を感じた彼女はゆっくりと顔を上げる。
それは無意識的な行動で、物音や気配に対して人間が反射的に取る行動に近かった。
彼女の向けた視線の先に、決して強くはないが確固たる意志を持って光るものがあった。
その光に導かれるように、彼女は徐に立ち上がりゆっくりと歩き出す。
それは青く輝く石があしらわれたペンダントだった。
彼女はこのペンダントを知っていた。
それが放つ青い輝きは、誰かの瞳を思い出させる。
「ヴ・・・ス」
長い時間言葉を発する事の無かった彼女の口は、錆びついた機械のようにぎこちない動きだった。
そして、その口から出た言葉は彼女の意思としたものではなかった。
無意識に発せられた言葉は、彼女の意識を徐々に覚醒させていく。
【パ———メ】
今まで聞こえなかった・・・いや、聞こうとしなかった声が彼女の耳に届く。
その声は温かく、心に沁みわるようだった。
「ヴェ・・・ス」
彼女は必死にその言葉を発しようとする。
彼女の瞳には涙が溜まっていき、やがてそれは雫となって頬を伝った。
頬を伝う雫は焼けるように熱く、それは彼女が生きている証だった。
「ヴェ・・・ウス」
呼ばなければいけない。
その名を呼ぶことが、彼女にとって生きる証だった。
その名を呼ぶことが、自身の想いを示すことのできる唯一の方法だった。
「ヴェリウス・・・!」
そして彼女の瞳に光が戻る。
その瞳は涙で溢れており、頬を伝う雫は留まることを知らない。
【パドメ、良かった】
「ヴェリウス! ああ、ヴェリウス! 貴方なのですか?」
【いや、私は本当の“彼”ではない。彼の想いがこのクリスタルに留まった・・・思念のようなものだよ】
「留まった思念?」
【うん、それよりも時間がない。“彼”はこの世界の全てを壊そうとしている。それは彼自身の心を壊す行為だ】
「世界を壊す? とても信じられません。どうしてヴェリウスはそんなことを・・・?」
パドメにとって、その言葉は到底信じられるものではなかった。
優しく純粋で、自分のことよりも世界のことを考えているような人だ。
世界を壊す姿と、どうしても重ならなかった。
【君を・・・失った。君がいない世界は偽りで、その世界を壊すことがフォースにバランスをもたらす行為だと思い込んでいる。それ程までに君の存在は彼の中で大きくなった。この銀河よりも、君の存在の方が大きく重かったんだ】
「全て・・・私のせい?私が彼を・・・変えてしまった?」
【このままでは世界も、自分自身さえも彼によって壊されてしまう】
その言葉を聞いてパドメは俯く。
クリスタルに宿っていたヴェリウスの思念は、彼女を静かに見守った。
「彼は・・・泣いていました」
【・・・】
「そして今も、彼は泣いています」
【・・・】
「泣き虫なんです、昔から。ヴェリウスはよく泣いていました。身体ばかり大きくなっても心は昔のまま。彼自身も気が付いていませんが、傍で支える人が必要なのです」
彼女の言葉を、ヴェリウスの思念は静かに耳を傾けている。
その顔は微笑んでいるようにさえ見える。
「『私たちの夢を見て』そう言って彼は去って行きました。ですが夢を見るのはもう終わりにします」
【それは何故?】
「彼を救えるのは私だけです・・・私は彼の妻ですから」
そう口にする彼女の顔には迷いなど無かった。
彼女を支配していた恐怖は、最初からそこに無かったかのように見る影もない。
【君が居てくれて良かった】
それだけ言うと、ヴェリウスの思念は光の粒子となって消えて行った。
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<惑星コルサント 銀河元老院議会場>
そこはまさに地獄だった。
同心円状に設置されている無数のリパルサー・ポッドからは煙が立ち上り、血と人が焼けた時の独特な匂いが広い議会場に充満していた。
ある者はライトセーバーによって切断され、ある者はシスの暗黒卿が放つフォース・ライトニングによって焼かれ、ある者はリパルサー・ポッドの下敷きとなった。
銀河の中心であるコルサントの中心、銀河共和国の意思決定機関ともいえる銀河元老院は既に機能していなかった。
そもそも既に共和国は存在しない。
パルパティーンが銀河帝国の設立を宣言し、民主主義は死んだのだ。
いや、それよりも遥か以前から民主主義などという幻想は存在していなかった。
銀河元老院の腐敗と、一人のシス卿の手によって。
無数のリパルサー・ポッドの残骸が議会場の中心に落下し、集まっている様はまるでスクラップの廃棄場のようだった。
その障害物を利用し、一人の暗黒卿が機敏に宙を飛び回っている。
深紅に染まる光剣を手に、目の前に立ちはだかる若き騎士の息の根を止めんとしている。
「ア“ア”ア“ア”ア“ア”!!」
ダース・シディアスは古代のシスの秘儀であるフォース・スクリーム(フォースの叫び)を用い、若き騎士の弱体化を図る。
フォースの暗黒面の力を相手に流し込むこの秘儀は、ジェダイにとっては致命的な技だと言って差支えのないものだ。
実際、ジェダイ最高評議会のメンバーであるキット・フィストー、サシー・ティン、エージェン・コーラーはこの秘儀を受けたことで本来の実力を発揮することなく瞬殺されている。
しかし、その秘儀を受けてもヴェリウスは弱体化するどころか表情一つ変えない。
その姿に暗黒卿の怒りが増大する。
留まることを知らない負の感情は、シディアスにパワーを与え続ける。
ヴェリウスにライトセーバーを突き立てる為に、縦横無尽に飛び回るシスの暗黒卿。
一見隙だらけにも見えるフォームⅣアタロは、より複雑で高等なテクニックにより恐ろしい程の動きを見せていた。
まるで暴風雨のように全方位から仕掛けられる攻撃は、優れたジェダイ騎士でも対応する事は難しいだろう。
しかし、その攻撃をヴェリウスは息も切らさず無表情のまま受け流している。
リパルサー・ポッドを足場に強力な回転を加えた攻撃を放ち、すぐさま移動して空いた隙間にライトセーバーを捻じ込むが純白に輝く光剣は“最初からそこにあった”かのように深紅のプラズマを受け止め、受け流す。
再び宙に舞ったシディアスはライトセーバーによる連撃を繰り出すが、ヴェリウスはその全てを完璧に防ぐ。
それを確認するとシス卿は思いもよらぬ角度からもう一振りのライトセーバーを袖から取り出して斬撃を繰り出した。
無意識的にその斬撃をスウェーで躱すヴェリウスだったが、宙を舞う白金の長髪に深紅のプラズマが触れる。
ほんの数本だったがヴェリウスの髪がこの世から完全に消えさる。
ライトセーバーから立ち上る高出力のプラズマの刃は一撃必殺の威力を備えている。
本来は少しの油断も驕りも、決して許されない戦いなのだ。
「流石は“彼”を指導しただけの事はある」
「・・・なんだと?」
ヴェリウスの突然の発言にシディアスは顔を歪める。
暗黒卿は気に入らなかった。
まるで“自分の方が上”かのようなヴェリウスの発言を。
「ティラナス卿のことか? 奴は所詮捨て駒に過ぎない。だが年老いた駒でも使いようによっては優位に働くこともある」
シディアスは怒りに滲ませた表情から、不敵な笑みを浮かべる顔に切り替える。
そしてドゥークーが如何に愚かで傲慢だったかを語り出す。
それがヴェリウスを惑わせることのできる方法だと悟ったかのように。
「そう、奴は貴様を見限っていた。選ばれし者でない貴様を・・・信頼していた師に捨てられた気分はどうだ?」
シディアスは『はっはっはっはっはっ!!』と笑い声を上げる。
その声は議会場内に響き渡り、反響している。
「愚かだな」
「・・・なんだと?」
まるで勝利を確信したかのように笑い声を上げていたシスの暗黒卿は、ヴェリウスの言葉を受けて表情を変える。
対してヴェリウスはこの偽りばかりの世界に絶望する。
だが彼の中で、シディアスの放った言葉が偽りだろうが真実であろうが関係のない事だった。
“彼女”がいない世界自体が偽り。
その偽りの中で真実などという概念は存在しないのだ。
「終わりにしよう、この偽りの世界を」
それだけ言うとヴェリウスはゆっくりとシス卿に向かって歩き出す。
携える純白の光剣を振り上げると、静かに振り下ろすのだった。
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<惑星コルサント ジェダイ聖堂>
辺りに漂うのはブラスターに内包されているティバナガスによる硝煙と、人が焦げたような匂い。
そして肉体を高温で焼き切った時に発生する独特な匂いだ。
それらが充満する広い空間に一人佇むのは、フードを目深に被った長身の人影。
手に握られているのは芸術的な造形をした銀色の筒で、不気味なほど静まり返っている周囲を、低く鳴り響く起動音が満たしている。
人影が一歩、また一歩と足を踏み出す。
そのゆっくりとした足取りは歩みを進めるたびにその光景を目に、心に刻み込むように踏みしめるのだった。
その人影は歩き続けた。
ゆっくりと—————そして辿り着く。
人影の目的地からは数えきれない程のスピーダーが行き交い、高層ビルが立ち並ぶ光景が見渡せる。
人影は待った。
長い時間、待ち続けた。
遠くから、この場所に向かってくる者がいることをフォースを通して感じる。
「アナキン、どうしてなんだ!? 何故お前がこんな事を・・・」
「こんな事? この僕が平和と自由、正義を新しい帝国にもたらした・・・ジェダイの嘘にはもう騙されない。僕はもう暗黒面を恐れない」
「新しい帝国だと・・・? 本来倒すべきはシスの筈だ!」
オビ=ワンは、怒りと力への渇望が暗黒卿の付け入る隙を与えたと続ける。
本来倒すべき人間になり果てたと。
「説教なら聞き飽きた。だがアンタを殺したくはない・・・皇帝にも慈悲の心はある」
「私は共和国に忠誠を誓った、民主主義に!」
「・・・仲間にならないなら、敵とみるしかない」
そう口にすると、アナキンは手に持つライトセーバーを起動させる。
オビ=ワンはその光景を心が締め付けられる思いで見つめる。
目の前にいるのはかつての弟子でも、弟でもなかった。
共和国を崩壊させ、多くのジェダイの命を奪ったシス卿だった。
◇
永遠に続いたような、一瞬の出来事だったような時間が唐突に終わり、その場を支配していたのは先程と同じく、低く響き渡る光剣の起動音だった。
この場所は、2人が幾度となく訓練を重ねた場所だった。
2人がまだ師弟の関係だった時、アナキンはその傲慢さ故に苦汁を嘗める結果となった。
だが今回はどうだろう?
以前の失敗を、敗北の経験を活かしてその場に立っているのはダース・ベイダーだった。
かつての師にライトセーバーを突き刺した感覚が手に残っている。
彼と共に過ごした13年間が走馬灯のように頭を駆け巡る。
ベイダーは静かに上を向いていた。
いつまでそうしていたのだろうか?
徐に動き出した彼はライトセーバーをしまう。
室内を燃えるように照らしていた太陽は沈みかけていた。
そして、ベイダーがたった一言だけ言葉を発する。
“私が選ばれし者だ”
その言葉と共に太陽が完全に沈む。
沈む一瞬に差し込んだ光は、ベイダーの頬を伝う雫を照らしたのだった。
今後の展開について、読者の皆様のご意見を頂ければと思いアンケートを実施させて頂きます。宜しければワンクリックをお願い致します!
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ヴェリウス×パドメ幸せエンド
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バッドエンド
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複雑エンド
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全て作者に任せるエンド