かつて選ばれし者と呼ばれた騎士   作:みどり色

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皆さん、お疲れ様です。
みどり色です。

遅くなりましたが今年も宜しくお願い致します。
お待たせして大変申し訳ございません。
やっとの更新です。

執筆自体は合間、合間で続けていたのですが登場人物の心理描写や物語の展開など最後まで悩み続けました。

細かい誤字脱字は気付き次第、逐次訂正していきます。



第16話 最終話:前編 光と闇の狭間

「余はこの銀河を統べる者、ジェダイなどに・・・」

 

銀河皇帝は、ヴェリウスによるライトセーバーの一撃で身体を地面に横たえている。

怒りと憎しみに染まった黄色の瞳で彼を睨みつながら。

しかし、どんなに鋭い眼光で睨もうともこの状況を覆すことは難しい。

それは誰が見ても明らかだった。

 

果てしない時間と労力を費やし、あと少しで長年の計画が成就する筈だったシス卿は『どこで何を間違えたのか』それを頭の中で考える。

同時にこの状況を打開する方法も。

だが目の前で自身を見下ろしている若き騎士には、どんな手を使おうとも逃げおおせることは出来ないと本能が告げている。

 

・・・逃げる?

銀河皇帝であり、最強のシス卿である余が?

何故逃げる選択肢を頭に浮かべている?

あり得ない、何なのだこの男は?

 

 

 

青色の瞳。

地べたに倒れこむシスの暗黒卿ダース・シディアスを見下ろすその瞳からは、何の感情も感じさせない。

深海に吸い込まれるような、無限に広がる空のように深い青色の瞳からは怒りや憎しみ、喜びや悲しみ・・・

そう言った元来人間が持って然るべき感情を何一つ感じさせなかった。

 

 

その時、封鎖されていたこの議会場内に続く扉が突如爆発する。

各所で同時に起爆した状況から、訓練された者たちによる行為なのは明白だった。

そこから間髪入れずに流れ込んできたのは首都の警備、防衛など保安警察の役割を与えられているクローン・ショック・トルーパーだった。

赤色にペイントされたクローン・アーマーを身に纏ったショック・トルーパーの部隊は、議会内の惨状を目の当たりにして一瞬だけ動きが鈍る。

 

生きている者は殆どいない。

シディアスの強力なフォース・ライトニングによってリパルサー・ポッドは連鎖的に爆発し、2人の大きすぎるフォースの衝突によって議会内は原形を留めない程に破壊されていた。

崩壊していると言っても良い。

 

瓦礫の中を進み、ショック・トルーパーは議会場の中心にいる2人を包囲する形で部隊を展開する。

 

ヴェリウスはショック・トルーパーなどその場に存在しないとでも言うように意識を向けることは無かった。

 

対してパルパティーンは湧き上がる興奮を隠そうとすらしない。

この対照的な2人を包囲した部隊は、静かにブラスターの銃口を上げる。

 

「ふっ、ふふっ・・・ふはははははっ!! これがフォースの意思か!!」

 

絶望的な状況から一転し、銀河帝国の皇帝は勝利を確信する。

『この会議場に部隊が突入してきたという事は、建物の包囲も完了しているということ。鼠一匹逃れる隙間はないだろう』

その現実に皇帝は込み上げる笑いを止められなかった。

瓦礫の山と化し、多くの死者が横たわる会議場中に彼の高笑いが響き渡る。

 

「さあ殺せ! こ奴を殺すのだ!! 国家転覆を画策し、余の命を狙った大罪人を!!!」

 

響き渡る笑い声を続けながら、そう高らかに命令を下す。

しかしその言葉を受けても尚、クローン部隊は引き金を引くことは無かった。

 

「・・・? 何をしておる! 早く殺すのだ!!」

 

「閣下、そのご命令は遂行不能です」

 

「なん・・・だと?」

 

「我々は特別な指令を受けております。ヴェリウス伯爵を手に掛けることは出来ません」

 

特別な指令?

パルパティーンには意味が分からなかった。

何故クローンが命令を聞かないのか?

そもそも、ジェダイ抹殺のプロトコルであるオーダー66によって逆賊である奴は抹殺対象の筈だ。

それに・・・

「“伯爵”だと?」

 

親どころか出生に関する情報が皆無のヴェリウスが、伯爵と呼ばれる意味が分からなかった。

いや、心当たりはある。

 

「・・・そうか。“彼”が」

 

それだけを言葉にするヴェリウスの表情には、先程までと違い人間らしい感情が宿っていた。

彼にとって唯一、父という存在を感じさせる人物。

ジェダイを、共和国を裏切ってまでヴェリウスを守ろうとしたドゥークー。

来たるジェダイ抹殺のプロトコルを防ぐことは出来ないが、愛する弟子だけでも守る為に秘密裏に行動抑制チップに特別な指令を組みこんでいたのだ。

 

死してなおも自身を守ってくれる師に対して、ヴェリウスは心に熱いものを感じた。

しかしそれも一瞬の出来事であり、次の瞬間には“無”が彼を包み込む。

 

「君たちは私の邪魔をしない、その事実だけで十分だ」

 

ヴェリウスはそう口にすると、パルパティーンに向き直る。

この場所で銀河帝国の樹立を高らかに宣言したシス卿は、もうどこにもいなかった。

その顔は絶望に染まっていた。

そしてヴェリウスがライトセーバーを静かに構えると、少しの躊躇もなくその体に刃を突き立てるのだった。

 

 

 

その光景を瓦礫の影から見守る人物がいた。

ローブに包まれた小さな人影は、ヴェリウスの行動を見届けるとその場から立ち去って行くのだった。

 

 

 

 

全ての元凶であるシス卿にとどめを刺したヴェリウスは純白に輝く光剣を収めると、その場から静かに立ち去ろうとする。

その後ろ姿にショック・トルーパーのキャプテンが声を掛ける。

 

「ヴェリウス伯爵、どちらへ?」

 

「・・・私のすべき事をするだけだ」

 

「ご一緒します」

 

「君たちが何をしようと私は介入しない。だから君たちも私の邪魔はするな」

 

背中越しにそれだけ口にすると、ヴェリウスは静かに歩みだす。

残されたクローン達は顔を見合わせた。

そして彼らは脳に埋め込まれている行動抑制チップの下す指令に従うのだった。

チップの影響で一種の催眠状態にあるクローン達は、裏切り者、国の逆賊であるジェダイをこの世から抹消するために行動を再開する。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

惑星ムスタファーに集まっていた分離主義者のリーダー達はダース・ベイダーの手によって葬られ、腐敗が蔓延していた銀河共和国の指導者である元老院議員も特別議会が招集されていた状況でヴェリウスとダース・シディアスの戦いの犠牲となった。

 

図らずも銀河の舵取りをしていた権力者たちはもうこの世に存在しなかった。

遥か昔、知的生命体が宇宙と言う名の大海原を航海し始めた宇宙の開拓期、その無秩序の再来ともいえる時代に突入しつつあった。

 

 

 

<ジェダイ聖堂 ジェダイ公文書館>

 

「皇帝は死んだ。其方の師の手によって」

 

ヴェリウスとシディアスの戦いを見届けたヨーダは、ジェダイ聖堂で情報収集に努めていたティア・アテミスに事の真相を簡潔に伝えた。

その報告を受けた彼女は膝から崩れ落ちる。

 

「マスターが!? 良かった、ご無事だったんですね。本当に良かった・・・」

 

その場に蹲り、涙を流すティア。

皇帝の生死などよりも、大切な想い人が無事だったという事実が何よりも嬉しかった。

すすり泣く彼女を複雑そうな表情で見守るヨーダ。

そんな彼の雰囲気を感じたティアは、涙に濡れた顔をゆっくりと上げる。

 

「・・・マスターは?」

 

ヨーダがヴェリウスとシス卿の戦いを見届けたというのに、彼がこの場に居ない事を不思議に思ったのだ。

何故ヨーダはヴェリウスと共に戻って来ないのかと。

 

「マスターはどこです? 何故ご一緒ではないのですか?」

 

「ヴェリウスは・・・もう其方の知っているマスターではない」

 

どういう事?

彼は何を言っているの?

マスターが私の知っているマスターではない?

 

「うーむ、ジェダイでもシスでもない。そういった理(ことわり)から逸脱した存在になったのかもしれぬ」

 

ティアには彼の言っている事が分からなかった。

理解できなかった。

 

 

その時突然、アーマーに青色のペイントが施されたクローン部隊が公文書館に突入してくる。

かつてアナキン・スカイウォーカー将軍が率いていた第501大隊のトルーパー達だった。

彼らの誇る練度は、他部隊のクローン・トルーパーと比べても頭一つ抜けている。

突入と同時に放たれた正確な射撃が2人のジェダイを襲った。

 

ヨーダは瞬時に緑色のライトセーバーを起動しながら、強力なフォースを身体に流し込んで跳躍する。

ティアを守るように公文書館に設置されている長テーブルに着地すると、向かってくる青色の光弾を次々に弾き返す。

 

「ティア、逃げるのじゃ! お主なら或いはヴェリウスを・・・」

 

「マスター!」

 

「行くのじゃ!!」

 

ヨーダの言葉に弾かれたようにティアは走り出す。

クローンは逃走する彼女を追うように部隊を展開するが、ジェダイ最高評議会のグランドマスターであるヨーダに阻まれる。

その光景を横目にティアは全力で駆ける。

愛する師との再会を果たすために。

ヨーダが口にした師の真相を確かめるために。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

<惑星コルサント アミダラ議員のペントハウス>

 

ヴェリウスは妻であるパドメのペントハウスに居た。

束の間、彼女と愛を育んだ場所の一つだ。

彼の顔に浮かんでいる表情からは、その心情を読み取ることは難しい。

その青い瞳に映るコルサントの夜景は、彼の目には入っていない。

父と慕うドゥークーとの時間、選ばれし者として期待される日々、銀河の平和と均衡を保つ長い年月。

“彼女”と過ごした思い出や、物心ついた頃からの様々な記憶を頭の中で追体験していた。

 

 

そうしているヴェリウスの中で、最も大きい存在はやはり“彼女”だった。

しかし彼にとって、パドメは記憶の中だけの存在になってしまっていた。

彼女が存在しないこの世界は偽りだと、自らで決定付けた事実は不変のものだった。

そして彼女の存在しない世界は、ヴェリウスにとって不要のものだった。

 

彼女の存在しない世界はバランスの崩れた状態だ。

そんな世界にバランスをもたらすには—————この世界を壊し、作り直すことだった。

そうする事でパドメは目覚め、自身の下に帰ってくると信じていた。

 

 

パドメはフォースのバランスが崩れたこの世界の犠牲になった。

『フォースにバランスをもたらす』という予言は、彼の中でジェダイもシスも存在しない世界。

それがヴェリウスの辿り着いた答えだった。

それを成し遂げるのが自身の役割だと、彼は結論付けた。

 

 

一つの答えに辿り着いたヴェリウスは最早ジェダイと言う枠組みを超えた存在に至っていた。

光明面や暗黒面という理(ことわり)を超越した存在。

光でも闇でもない。

太陽が照らしだす光、その光によって生み出される影、そのどちらでもなかった。

陽が傾き、闇の訪れを感じさせる黄昏を体現したかのような存在。

まるで光と闇が均衡を保っているかのように、その中間に位置しているのが“ヴェリウス”という存在だった。

 

 

 

 

「やはりここでしたか、ヴェリウス」

 

ヴェリウスが自身に向けられた声に振り向くと、そこにはかつてアナキン・スカイウォーカーと呼ばれた存在が佇んでいた。

フードに覆われたその顔を視認する事はできないが、元々のアナキンを知っている者からすると、とても同一人物だとは思えない雰囲気を纏っている。

 

しかし彼の変化はヴェリウスにとって関係のないものだった。

アナキンがどう変わろうが、彼の目的に影響を及ぼすことなどないのだから。

 

「・・・オビ=ワンは僕が殺した」

 

何も言わないヴェリウスに、アナキンは痺れを切らしたように言葉を続ける。

 

「・・・・・」

 

「彼だけじゃない、他の名立たるマスターも僕がこの手で葬った! メイス・ウィンドゥ、シン・ドローリグ、全てこの僕が!!」

 

何も語らないヴェリウスに対して、アナキンは自身の成し遂げた功績を、勲章を振りかざすように口にする。

子が親にするように、弟子が師にするように、まるで自分を認めてもらいたい子供のようだった。

 

「分離主義者のリーダー達も! 長きに渡る戦争を終結させ、この僕が平和と自由、正義と安全をこの新しい帝国にもたらした! そしてこの僕が銀河を支配する!」

 

“彼女と共に!”とアナキンは最後に付け加える。

そのたった一つの言葉に、今まで彼の事を傍観していたヴェリウスが反応を示す。

 

「“彼女”?」

 

「パドメ・・・彼女は僕の物だ!」

 

「・・・・・」

 

「僕だけの天使なんだ! タトゥイーンで出会ったあの時から・・・それなのにアンタが突然割り込んできたんだ! きっと彼女も僕の下に来たいと思っている筈だ! だってそうだろ? 彼女は苦しんでいる僕を見て優しく抱きしめてくれた・・・『大丈夫』と言って包み込んでくれたんだ!!」

 

アナキンは興奮した様子でさらに言葉を続ける。

そう口にしているアナキンの様子は、とても正常な状態にあるとは言えないものだった。

 

「彼女はこの世界に存在しない」

 

ヴェリウスには分かっていた。

誰が愛する妻を傷つけたのか。

しかし、ヴェリウスには関係のないことだった。

彼女のいない世界では、それは意味のないことなのだ。

ヴェリウスに残されたもの、それは“フォースにバランスをもたらす”ことだけ。

ジェダイもシスも存在しない世界を創ることが、彼にとって自身が存在する理由なのだった。

そして、この目的を達成することが彼女の存在をこの世界に繋ぎ止めることなのだ。

 

「・・・アンタ、何を言っているんだ?」

 

「皇帝は死んだ、多くのジェダイも。終わらせようこの偽りの世界を・・・そして創るんだ。フォースのバランスがもたらされた世界を」

 

『きっとその世界にパドメは存在する』とヴェリウスは言葉を続ける。

しかしアナキンには、彼の言葉の意味が理解できなかった。

いや、“理解したくなかった”のだ。

 

「パドメが存在しない? 彼女は存在する・・・生きている! そして僕らは幸せになるんだ。初めからやり直す・・・何もかも! アンタは邪魔なんだヴェリウス!!  アンタさえいなければ!!!」

 

激高するアナキンはローブを地面に投げ捨て、黄色に光る瞳でヴェリウスを睨みつけながらライトセーバーを起動する。

そこにはタトゥイーンの優しく、純粋な少年はいなかった。

多くの者に慕われ、英雄と呼ばれたジェダイ騎士は存在しなかった。

 

かつてアナキンと呼ばれたシス卿は勢いよく青色のライトセーバーを振り上げると、身体とヒルトを回転させながらヴェリウスへと距離を詰める。

その力強い一撃をヴェリウスは後ろに下がる事で空振りさせた。

空振りによって生まれた一瞬の隙を狙い、純白のライトセーバーを起動したヴェリウスはセーバーを突き出すがその攻撃は防がれる。

2人の攻防は激しさを増し、ペントハウス内はまるで台風が直撃したかのように荒れていく。

 

剣を切り結び続け、ペントハウスの発着場に出ると冷たい夜風が吹き付ける。

闇夜に浮かぶ二振りの光剣は、まるで神話に登場する妖精がダンスをしているようにさえ見える。

激しい攻防の最中、鍔迫り合いの状態になるとアナキンは黄色い瞳で睨みつけながら口を開く。

 

「彼女をどこにやった!? 僕のパドメを!!」

 

彼はペントハウスにパドメが居ない理由はヴェリウスにあると考えた。

愛し合う自分たちの邪魔をするために彼女を隠したのだと。

沸き上がる怒りのままに、パドメをライトセーバーで突き刺したという事実はアナキンの中には存在しなかった。

いや、そう思い込もうとしたのだ。

そうすれば、自身の“行い”が無かった事になるかのように。

 

アナキンは鍔迫り合いの状態から力強くヴェリウスのセーバーを押しのけると、激しい連撃を叩きこむ。

暗黒面に足を踏み入れたアナキンの力は以前よりも遥かに増しており、彼自身もその事を自覚していた。

怒りと憎しみが渦巻く感情の中に、戦いに対する高揚感が沸き上がるのを感じる。

ジェダイとは無縁であるこの感情は、戦いにおけるアドバンテージとなり彼の剣はさらに鋭さと激しさを増していく。

緩急を付け、様々な角度から繰り出されるアナキンの斬撃は予測困難なものだった。

並みのジェダイではその攻撃に対応する事は難しいだろう。

 

恵まれた才能、若さ故の力強さと勢い、数えきれない戦いの経験。

そして身体を構成する細胞一つ一つに存在する“ある物質”がアナキンにとてつもない力を与えていた。

他に類を見ない程の数を誇るミディ=クロリアンだ。

 

フォースの潜在能力の高さを測る上で重要な指標になるこのミディ=クロリアンは、一般的な人間の細胞一つに存在する数は2000程度と言われている。

それに対してアナキン・スカイウォーカーの細胞一つに存在するミディ=クロリアンの数は2万を超えるという。

計測するためのチャートを大きく超える彼のミディ=クロリアン数は正確には計測されていないが、その値はどのジェダイよりも遥かに多いものだった。

この事実は、彼がミディ=クロリアンによって生まれた者だと信じられる要因の一つとなっていた。

彼が“真の選ばれし者”と呼ばれるようになった事と同じように。

 

このミディ=クロリアンからもたらされるフォースの潜在的な大きさ“だけ”を見れば、相手が誰であろうとアナキン・スカイウォーカーに勝てる筈はない。

 

しかし、どうだろう?

アナキンが休みなく繰り出す激しく正確な攻撃は、目の前の男の命を刈り取ることは無かった。

それどころか何の感情も感じさせない表情を崩す事すらなかった。

 

アナキンの心には微かな焦りが生じていた。

メイス・ウィンドゥを手に掛けてから、多くのジェダイの命を刈り取って来た。

名のあるマスターやナイトを切り伏せた。

その数は一人や二人ではない。

 

それだけ多くのジェダイをアナキンは苦労することなく倒してきた。

彼がセーバーを振り上げれば、ジェダイの瞳には恐怖の感情が浮かぶ。

彼が光剣を一振りすれば、その場にジェダイが倒れこむ。

 

無敵だった。

自身に敵うものなどいなかった。

 

それがどうだろうか?

目の前の男は恐怖の感情を抱くどころか、たった一滴の汗さえかいてはいなかった。

 

「本当に強くなった」

 

「・・・なんだと?」

 

何事にも無関心だったヴェリウスが唐突に口を開く。

その声は決して大きくは無く、浮かべる表情にも変化は無かったが、確かに彼が発した言葉だった。

 

その予想外の言葉はアナキンの心を動揺させた。

あれほど続いていた全てを破壊せんとする嵐のような猛攻がパタリと止む。

それはまるで台風の目に入ったかのようだった。

 

アナキンは自分自身とヴェリウスの様子を客観的に見比べた。

激しく感情を爆発させ、休むことなく攻撃を加え続けていたアナキンは多少なりともスタミナを減少させていた。

対するヴェリウスはどうだろう?

その整った顔には汗一つ浮かんでおらず、まるで先程まで読書でもしていたかのように静かだった。

 

確かにミディ=クロリアンの値は、その人物の潜在的なフォースの大きさを表している。

強大なフォースを持つ者は総じて高いミディ=クロリアン数を誇るのだ。

しかし、フォースの大きさと言うのは単純にミディ=クロリアンの数だけで決定するものではない。

遺伝的要因やフォースとの繋がりなども影響を与える。

ミディ=クロリアンの数がフォースの大きさの上限を示す値ではないという事は否定しようがない事実なのだ。

 

ある一人のジェダイは、より大きなミディ=クロリアン数を誇るジェダイと同等レベルのフォースとの繋がりを持つことができるようになる。

より多くのミディ=クロリアン数を誇るアナキンよりも、ヴェリウスの方が実力で勝っている事がこれらを裏付けているようだった。

 

「どうしてそんな事を! 僕はアンタを・・・!」

 

アナキンは感情を昂らせる。

彼の心は揺れていた。

ヴェリウスの発した、たった一つの言葉で。

 

「私の中で君は君だ、アナキン。それは何があっても変わらない」

 

無表情のままそう答えるヴェリウス。

先刻、これまでの様々な思い出を振り返っていた様子からも分かる通り、今この世界が偽りだったとしても彼の中の“今まで”が嘘になる訳では無かった。

 

ヴェリウスは自分でも気付いていないそんな矛盾を抱えているのだった。

この世界が偽りならば、“今”を形成している過去も偽りだということになる。

しかし彼にとって、過去は“真”だった。

本来心優しく純粋なヴェリウスには、過去を偽りにすることなど出来なかった。

いや、“偽りにする”という選択肢すら頭に浮かんではいないのだ。

 

「何を・・・」

 

アナキンの中で激しく燃え上がっていた負の感情は、まるで最初から存在しなかったかのように鳴りを潜めていた。

 

「何なんだ・・・アンタは何なんだ!!」

 

アナキンはやり場のない感情をヴェリウスにぶつける。

彼が憎かった。

彼を目の前にすると、やり場のない惨めさを感じる。

ヴェリウスに対する負の感情は確かに本物だった。

 

しかし、こうしてみると思い出されるのは彼から向けられる“愛”だ。

母から向けられるものと同じだった。

それを受けて、いつも心が温まるのを感じていた。

孤独で辛く厳しい修行の日々、そんな中で彼の存在は心の拠り所になっていた。

 

それがいつしか彼に対して劣等感を抱くようになった。

ヴェリウスが変わったのではない。

アナキン自身が変わったのだ。

 

「アンタに無い新しい力を手に入れれば、アンタを超え、全てを手に入れられると思った!だけど・・・何も変わらない、虚しいままだ!!」

 

アナキンは感情を爆発させる。

彼に対する劣等感。

全てはそこから始まったのだ。

 

想い人であるパドメを振り向かせたい。

唯一自分よりも優れるヴェリウスを超えたい。

この感情が全てを変えたのだ。

 

アナキンは自分に出来ないことなどない、最強の存在に至ったと思っていた。

いや、“思い込もう”としていた。

そうでなければ、彼は自分自身を保てなかったのだ。

 

彼は泣いていた。

光剣を起動するとき、それを振り上げるとき、相手の身体を切り裂くとき・・・

知人も多くいた。

幼い子供も手に掛けた。

雫が流れ落ちるだけではない。

彼の心そのものが涙を流し、疲弊していった。

 

 

アナキンは湧き上がる感情のまま、メイス・ウィンドゥを手に掛けたことを後悔していた。

しかし過ぎた時間は戻らない。

シス卿ダース・シディアスに縋るしかなかった。

彼には選択肢が残されていなかった・・・いや、そのように誘導されたのだ。

自身の選択が正しいものだと思い込むしかなかった。

後戻りはできなかった・・・・・

 

 

 

様々な感情が渦巻く中、突然一機のファイターが2人の下へと接近してくる。

その銀色に輝く機体をヴェリウスが最後に目にしたのは惑星ウータパウだ。

 

「・・・R2?」

 

それはまさしく彼自身の機体だった。

R2-D2がどうしてこの場に来たのかヴェリウスには理解できなかった。

・・・いや、彼は微かな違和感を抱いていた。

 

ファイターが着陸しコックピットが開くと、その違和感が確証に変わる。

この状況を作り出す最大の要因となった人物が、ふらつきながらも確かな足取りで近づいてくる。

 

「ヴェリウス!!」

 

 

 

________________________________________

 

 

 

少し時間を遡り—————

 

<タナヴィーⅣ(オルデラン・クルーザー)船内>

 

公文書館でクローン部隊の襲撃に遭ったティア・アテミスは、元老院議員のベイル・オーガナ所有のタナヴィーⅣに身を隠していた。

クローン・トルーパーがジェダイ狩りをしていると言っても、特定の元老院議員所有のクルーザーを臨検するというのは考えにくい。

加えてベイル・オーガナが治めるオルデランの人間はジェダイの味方だった。

先刻ベイル・オーガナがティア、オビ=ワン、ヨーダを賞金稼ぎのジャンゴ・フェットからその身を引き受けたのをタナヴィーⅣの乗組員は把握しており、彼らは可能な限りジェダイを支援する。

仮に追手が迫ったとしてもすぐさまクルーザーで脱出する事も可能だ。

現状、コルサントでティアが身を隠すとするとこれ以上の場所はないだろう。

 

「失礼します、マスター・アテミス」

 

タナヴィーⅣ船内の客室で瞑想しているティアに、クルーザーの船員が声を掛ける。

その内容は、『クルーザーのセンサーがジェダイ・ファイターらしき機体を探知した』というものだった。

 

「しかし、少し妙なのです」

 

「妙・・・とは?」

 

この船のセンサーがファイターを探知しているという事は、クローン達も当然気づいている筈だが、何故か軍に動きがないという。

 

「調べる必要がありそうですね」

 

そう口にするとティアは立ち上がるが、船員に止められる。

今動くのは危険すぎると。

 

「大丈夫・・・とは言い切れませんが、私は行かねばなりません。それが唯一の手掛かりなのです」

 

『ありがとうございます』と情報に対する礼を述べると、ティアは立ち上がりクルーザーを後にする。

フードを目深に被り人工的な光が支配する街に繰り出すと、そこには普段と変わらない日常があった。

コルサントの中心部である連邦地区にそびえ立つジェダイ・テンプルからは、未だに煙が確認できる。

ジェダイの反乱、銀河帝国の樹立の宣言があったことなど一般市民からすると『関係のないこと』でも言うような様子だった。

 

『私たちは何のために戦っていたのか?』

そんな疑問が浮かび、ティアの頭から離れなくなる。

 

巡回するクローン・ショック・トルーパーや保安部隊の目を掻い潜り、手近なスピーダーを見つけると彼女は申し訳なさそうな様子で乗り込む。

 

「ごめんなさい、緊急事態なの・・・」

 

持ち主は近くにいない様だが、人の良いティアは謝罪の言葉を口にしながらスピーダーを拝借する。

 

悪いと思う気持ちはあったが案外切り替えの早い彼女は、例のジェダイ・ファイターのことに意識が向く。

スピーダーを起動すると一気にアクセルを開き、勢いよく夜空へと舞い上がる。

一瞬、持ち主と思われる叫び声が聞こえたような気もするが今は一刻も争う。

このまま素直に戻る訳にはいなかった。

『ごめんなさい』と再び謝罪の言葉を口にし、ジェダイ・ファイターの追跡に入るのだった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

<アミダラ議員のペントハウス 発着場>

 

「ヴェリウス!!」

 

銀色に輝くイーター2アクティス級軽インターセプターから降りて来たのは、愛する夫の名を呼ぶパドメだった。

 

その姿は明らかに本調子ではなく、足元はふらつき、何とか身体を支えている状態だった。

しかし彼女の目は力強くヴェリウスを捉えており、彼女が内面に秘める強さを感じさせた。

 

「パド・・・メ?」

 

ヴェリウスは自身の目に映る光景が信じられない様子だ。

腕は脱力し、ゆっくりと近づいてくる妻に視線が固定される。

 

「ヴェリウス・・・!」

 

パドメはしっかりとその目で夫を捉えた事で安心した様子だ。

整った顔に浮かべる表情からは安堵と、嬉しさが伺える。

 

「パドメ・・・!」

 

ヴェリウスの発した言葉には感情がこもっていた。

白黒でガラスを通してみていたような世界に色が戻り、視界がクリアになっていく。

心に熱い感情が湧き上がり、視界が歪むほどの雫が瞳に溜まっては流れ落ちる。

 

ヴェリウスが身に着ける灰色のローブには彼自身の雫が流れ落ち、黒い点を形成する。

その黒い点は繋がり、徐々に広がって行く。

 

 

まるでその場にいるもう一人の感情を表しているようだった。

 

 

パドメは、ヴェリウスとアナキンが重なるように見える位置にいた。

ヴェリウスが自分に向き直る為に身体を動かすと、その奥にはとても人間が纏うものではない雰囲気を感じさせるアナキンがいた。

その瞳は全てを凍らせる絶対零度の冷たさを秘めていると同時に、全てを燃やし尽くす地獄の業火のようだった。

 

愛する夫との再会に嬉しさを湧き上がらせていたのは一瞬の出来事だった。

次の瞬間にはパドメの視界に映る世界は酷くゆっくりと流れ始める。

 

パドメは痛む身体を無視して必死に腕を伸ばし、脚を動かす。

1秒でも早く夫の下へ辿り着くために。

 

しかし残酷にも、もう一つの影が動き出す。

その影は徐に腕を上げたかと思うと、ヴェリウスの背中目掛けて青色に輝く光剣を振り下ろす。

 

次の瞬間、純白の光剣が銀色に輝くヒルトに吸収され、闇夜と人工的な光が支配するプラットフォームに衝突する。

その衝突音と振動が嫌に大きく感じる。

 

 

 

ヴェリウスはその背に蓄えた豊かな白金の長髪を散らしながらその場に崩れ落ちる。

その身体を何とか受け止めたパドメだったが、ヴェリウスの体重を支え切れずに座り込む。

 

「・・・リウス、ヴェリウス!!」

 

目の前で起きたことが信じられず、受け止めることができない。

彼女の心が拒否していた。

それでもパドメは必死に口を動かし、愛する夫の名を呼んだ。

 

何度も、何度も、何度も。

 

その声は木霊し、無慈悲にも切り裂かれた絹のような白金の髪と共に闇夜に消えて行くのだった。

 




長丁場お付き合い頂きありがとうございました。

パルパの退場はかなり呆気ないですが、あまり彼にフォーカスすると物語進行や他への影響が出るのでお許しください。

最終話の前編ということで、次回で完結させるつもりです。
ですが・・・
今のところ完全に企画段階で実現するか分かりませんが、IFルートの投稿も考えています。


それではまた近いうちに・・・・・

今後の展開について、読者の皆様のご意見を頂ければと思いアンケートを実施させて頂きます。宜しければワンクリックをお願い致します!

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