かつて選ばれし者と呼ばれた騎士   作:みどり色

19 / 35
第17話 最終話:後編 夜明け

その場には愛する人の名を叫び続けるパドメの声が響き渡っている。

しかしヴェリウスは反応を示さない。

彼の名を呼ぶ声は闇夜に溶けていくのみだ。

 

アナキンは青い光を照らし出す光剣を起動したまま、その場に座り込むパドメと彼女に抱きかかえられているヴェリウスをまるで他人事のように眺めている。

自身の行いを、彼は上手く認識していなかった。

 

僕は何をした?

この身体に纏わりつく、たくさんの糸はなんだ?

 

彼自身が切り裂いたヴェリウスの長髪は風に乗り、アナキンの周囲を舞っていた。

アナキンは現実感の薄い表情を浮かべ、宙を舞っている金色に輝く無数の髪を眺めている。

 

 

その時—————

 

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴にも似た叫び声を上げながら、スピーダーから飛び降りる人影があった。

ヴェリウスの弟子であるティア・アテミスだ。

彼女はフォースを身に纏い、高高度からの着地に成功すると翡翠のように輝く二振りのライトセーバーを起動する。

 

放心状態ともいえる状態のアナキンだったが無意識に身体が反応し、起動したままのライトセーバーでティアからの攻撃何とか受け止める。

だがティアの猛攻にアナキンは後退させられ、繰り出される激しい斬撃を防ぐのに手一杯だった。

その最中、彼女が乗って来たスピーダーは操縦する者がいなくなり隣接のビルに衝突する。

耳を劈くような爆発音と共にスピーダーは炎に包まれた。

 

宙を舞う無数の髪の毛はその炎に照らされる。

白金色の長髪は煌めき、周囲を幻想的な空間に昇華させていた。

 

「う・・・」

 

「ヴェリウス!?」

 

死んだように身体を動かすことのなかったヴェリウスが痛みに顔を歪めながら声を発した。

彼の様子に気づいたパドメは必死に声を掛ける。

そうしないと、彼がこのままいなくなってしまうかのように感じていた。

 

「ヴェリウス・・・ヴェリウス! 私はここにおります。もう決して貴方から————何があっても貴方と共に、片時も離れません!」

 

パドメが必死に声を掛ける中、ティアの一振りがアナキンの右腕に装着されている義手を斬り落とす。

肘から下を失い、ライトセーバーと共に地面へと転がる。

 

その衝撃にアナキンは堪らず膝を着く。

ティアは彼を見下ろし、ライトセーバーを突きつける。

 

「貴様の犯した愚行、その身をもって償え・・・!」

 

まさにティアがセーバーを振り下ろす瞬間、強い光がプラットフォームを照らし出す。

その光に目が眩みながらも、ティアはその元凶を確認する為に周囲に目を走らせる。

 

その正体は共和国軍のガンシップである低空強襲トランスポートLAAT/iであり、複数機が強力なライトを照射しながらペントハウスを取り囲んでいた。

 

『動くなジェダイ、少しでも動けば命は無いと思え』

 

スピーカーを通してクローン・トルーパーの声が響き渡る。

ティアの乗って来たスピーダーが爆発、炎上したことでトルーパーらはこの場所に急行したのだ。

 

彼らが引き金を引かないのはアナキンやヴェリウス、パドメがその場にいるからだった。

状況としては裏切り者のジェダイがヴェリウス伯爵を手に掛け、さらに皇帝の腹心ダース・ベイダーを亡き者にしようとしている場面に映っていた。

 

兵員輸送も兼ねるLAAT/iからは兵士たちが次々に降りて行き、プラットフォームはトルーパーらによって包囲される。

そのアーマーに施された青色のペイントから、彼らが第501大隊所属の兵士だと分かる。

 

「武器を捨てて投降しろ」

 

ブラスターを構えながら声を掛けて来たのは、ジェダイ聖堂襲撃を指揮したコマンダー・アポーだった。

彼は速やかに状況を判断し、衛生兵を手配する。

それと同時進行で他の兵士たちも裏切り者であるジェダイにブラスターを向けている。

 

その様子をどこか他人事のように眺めるアナキン。

彼の心はここには無かった。

自分が犯した過ちに、現実を見ることを心が拒否しているのだった。

 

「撃つか? お前たちの主人が死ぬことになるぞ?」

 

ティアはアナキンにライトセーバーを向けたまま口を開く。

死ぬことなど怖くはない、とでも言うような様子だ。

人質を取られたような状況に、トルーパー達も簡単に動く訳にも行かず様子を伺うような状態に陥る。

 

 

 

「やめ・・・るんだ」

 

双方に流れる不気味な静寂を破ったのは重傷を負ったヴェリウスだった。

小さくも確かな声に、その場にいる者達の視線が一点に集中する。

 

「マスター!!!」

 

先程まで身に纏っていた冷たい雰囲気は一瞬のうちに消え去り、ティアは自らの師の下へと走り出す。

 

その様子をただ見守るしかないトルーパー達。

一種の洗脳状態にあるトルーパーらにはヴェリウスの制止の言葉に対して抗うことなど出来なかった。

 

ヴェリウスの下に駆け寄ったティアだったが、寸の所で立ち止まってしまう。

彼女には分かってしまったのだ。

彼が既に手遅れだということに。

ヴェリウスの先程発した言葉は文字通り最後の力を振り絞ったものだった。

彼の呼吸は徐々に浅くなり、身体に血液を送っている心臓の鼓動は弱くなっている。

 

「マスター・・・」

 

消えるようなか細い声がティアの口から発せられる。

その瞳からは留めなく涙が溢れており、火傷をすると錯覚するほどの熱を帯びた雫が頬を伝う。

 

そんなティアの様子を見て、パドメは彼女が心の内に秘める想いを察する。

『彼女も私と同じなのだ』と。

 

「・・・ティア、貴女もこちらへ」

 

パドメは彼女と同じように涙を流しながらも、必死に冷静さを保ちながら声を掛ける。

彼女の纏う雰囲気は、まるで母のような優しさと聖女のような慈悲深さを感じさせた。

その声に導かれるようにティアは二人の下へと歩みを進める。

 

「貴女も傍に居てあげて、その方が彼も喜ぶわ」

 

両膝を着き、隣に座り込むティアに声を掛ける。

パドメも辛いはずだが、同じ想いを持つ彼女の気持ちが痛いほど分かってしまうのだ。

『彼は意外と寂しがり屋ですから』と独り言のように付け加えながらティアの手を取り、ヴェリウスの手に重ねる。

その瞬間、突然ティアの中にパドメの“想い”が流れ込んでくる。

これは人や物の持つ記憶や想いを感じるというティアが先天的に持つ能力の一つだった。

 

ティアは俯いていた顔を上げパドメへと視線を向ける。

その瞳は驚き故に大きく見開かれていた。

 

「・・・ティア?」

 

彼女の様子に異変を感じたパドメは声を掛けるが、ティアは反応を示さない。

しかし、ティアはすぐに理解した。

パドメがヴェリウスへ向ける想いを。

そして同じようにヴェリウスがパドメに向ける愛を。

二人は同じ想いを共有し、愛し合っていた。

 

彼女は気付いていた。

師が自身に向ける感情は、家族に向ける・・・そう、妹に向けるようなものだと。

大切にさせているのは実感できた。

しかしそれは自身が望む形のものではなかった。

 

いつか・・・

そう、いつかは振り向いて欲しかった。

だがティアの欲しかったものは、既に“彼女”が・・・

 

 

 

少しの間、俯いていたティアが顔を上げる。

その瞳は先程までのように絶望の色に染まってはいなかった。

その瞳は決意を固めた強いものだった。

 

唐突にティアはヴェリウスの胸に手を置く。

すると淡い光が生まれ、ヴェリウスを包み込んでいく。

その光は優しく、温かいものだった。

 

「な、なにを?」

 

「フォースを通して治療を行います」

 

額に汗を滲ませながらパドメの質問に答えるティアだったが明らかに余裕がなかった。

『今は集中させて欲しい』と最後に付け加える。

 

 

“フォース・ヒーリング”

 

 

フォースを通して外傷の治療などを行う技だ。

ティアは先天的にフォースを通して相手にストレス軽減や癒し、鎮静効果などを相手に与える体質を備えており、この能力を感覚的に用いることができた。

 

しかしこの治療は危険を伴うものだった。

 

かつてモーティスと呼ばれる聖域において命を落としたアソーカ・タノを、師であるアナキンはフォース・ヒーリングを用いて彼女の蘇生に成功した事があった。

あるフォース・ウィルダー(ドーター)の命を代償に。

 

ヴェリウスの命は風前の灯火と言えるような状態だった。

そんな彼の治療がどれだけ危険な行為かと言うのは、この力を知っている者からすると自明であった。

 

「マスター・・・!」

 

彼女は決めていた。

自身の命と引き換えに、愛する人を救う覚悟を。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

□後刻

 

<ヴェネター級スターデストロイヤー:艦橋>

 

「将軍、準備完了です」

 

一人のクローン・トルーパーが姿勢を正し、上官に報告する。

その報告を受けた人物は腕を組み、広大な宇宙へと視線を向けていた。

 

「将軍?」

 

「・・・ああ、すまない。それでは行こうか」

 

反応が無いことから、再び声を掛けられた人物は振り向いて艦の出発を命じる。

艦はハイパースペースへとジャンプし、宇宙という名の広大な大海原に飛び出して行った。

 

 

 

 

ハイパースペースを進むヴェネター級スターデストロイヤーの艦橋から、星々が平行線のように映る独特な景色に目を向ける者がいた。

先程クローン・トルーパーに将軍と呼ばれていた人物だ。

腕を後ろで組むその姿は非常に絵になっており、この所作を何百、何千回と繰り返してきたことが伺える。

 

「マスター」

 

その後ろ姿に声を掛けるのは、腰まで伸びたブルネットカラーの長髪を揺らす女性だ。

ハイパースペース空間に目を向けていた人物と似た雰囲気を持ち、それは二人の装束からも伺える。

 

「ティア、艦の様子は?」

 

「異常ありません」

 

「・・・君が僕と共に来たのは意外だった」

 

「見張りは必要ですから」

 

ティア・アテミスからの言葉を受けて、『そうだな』と返すのはアナキン・スカイウォーカーだ。

彼らは共和国の要請により、クローン・トルーパーに加えて銀河の治安維持を担当する志願兵らの視察に向かう所だった。

先の事件により共和国、分離主義者双方の指導者が不在という異例の事態を鑑み、各惑星は選挙によりそれぞれの代表を選出した。

急遽臨時の議会を立ち上げ、人々は国の舵取りに奔走する事になった。

 

「あなたがした事は決して許されない・・・それに私は許すつもりもありません。ですがその能力がこの時代に必要なものだという事は理解できます。私はあなたが再び裏切らない為の・・・いえ、裏切った時の為の保険です」

 

ティアの瞳には、アナキンに対する負の感情が見て取れた。

しかし個人的な感情よりも、彼女は大義を優先したのだ。

 

「信用されない立場なのはよく分かっているつもりだ。それでも僕は自分の犯した罪と向き合う。それが彼の・・・“彼ら”の想いに報いる唯一の方法だと思っている」

 

アナキンの瞳を見ればその覚悟の強さが嫌でも伝わってくる。

それでも、ティアには彼を完全に信じることは出来なかった。

『アナキンだから』という訳ではなかった。

 

完璧だと思っていたヴェリウスですら、たった一つの出来事がきっかけで変わってしまった。

フォースと強い繋がりを持つという事は、それだけ一つの強い感情に影響を受けるのだと目の当たりにしたのだ。

 

「・・・それが“真”であることを願います」

 

「君にも本当に申し訳ないことをした」

 

「私に謝罪の言葉は不要です」

 

「ああ、許してもらえるとは思っていない」

 

アナキンは再び頭を下げて謝意を示す。

 

「私のこの命も・・・本来であれば既に存在しないものです」

 

そう言葉を口にしながら、ティアは首から下げているカイバー・クリスタルの欠片を愛おしそうに両手で包み込む。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

□時間を遡り———

 

「どうして・・・どうして!」

 

その場で悲痛な声を上げているのは、重体のヴェリウスを治療するティアだ。

 

彼女は自分の命を犠牲にしてでもヴェリウスを救うつもりだった。

しかし、フォース・ヒーリングを用いた治療は思うようには進まない。

治療を施しているにも関わらず、ヴェリウスの呼吸は次第に浅くなっていく。

 

「・・・ティア」

 

そう彼女に声を掛けるのはパドメだった。

パドメはティアの肩に手を置き、首を振っている。

その瞳からは大粒の雫が絶え間なく流れ続けている。

 

「このままでは貴女まで・・・そんなことをヴェリウスは望んでいません」

 

ティアの肩に触れている事で、パドメの想いがフォースを通して流れ込んでくる。

彼女の心は張り裂けるほど深い悲しみに満ちていた。

 

自身の命を救う為に他者の命を犠牲にすることなど、あのヴェリウスが望まないことは分かりきった事だった。

パドメは己の心を殺し、ヴェリウスの事を一番に考えた。

大切な弟子の命を犠牲にしてまで、ヴェリウスは生きることを望まない。

 

「・・・もう良いのです」

 

本心では無かった。

本当にそう思っている訳ではない。

彼女の心は悲痛な叫びを上げていた。

 

『やめないで・・・お願い、彼を助けて・・・お願いだから—————』

 

しかしパドメはその想いを押し殺している。

彼女の感情、想いが流れ込んでくる事に影響され、ティアの心も張り裂けるようだった。

 

 

そしてヴェリウスを包み込んでいた光が徐々に弱くなり・・・収束する。

 

 

ティアは俯き、声を押し殺しながら涙を流す。

しかし、どんなに耐えようとしても喉の奥から漏れ出す声を抑えることはできない。

 

既にヴェリウスのフォースを感じ取ることは出来なくなっていた。

しかしティアはふと違和感を覚える。

何か・・・覚えのある気配を感じるのだ。

 

顔を上げ、パドメを見ると彼女から小さいながらも強い力を感じる。

それは彼女の胸元で小さいながらも力強い輝きを放つカイバー・クリスタルだった。

 

ティアは驚きのあまり目を見開く。

そして直観的に理解した。

このクリスタルはかつてヴェリウスが所有していた物だと。

それはパドメから流入してくる断片的な記憶とも合致するものだった。

 

 

 

 

『え? カイバー・クリスタルを?』

 

『うん、そうなんだ』

 

『マスター程のお方が、ライトセーバーをどうされたのですが?』

 

『えーと、色々あったんだ。 だから出来るだけ早く新しいクリスタルを手に入れないと』

 

(参照:第10話 暗躍)

 

 

 

 

ティアはかつて師と交わした会話を思い出す。

ヴェリウスはカイバー・クリスタルを失ってなどいなかった。

彼は自身の一部ともいえるクリスタルを最愛の人へ贈ったのだ。

想い人の安全を願い、自身の代わりにクリスタルが守ってくれるよう願いを込めて。

そしてこの贈り物は永遠の愛を誓うものでもあった。

 

「・・・パドメ、それはマスターの?」

 

ティアは少しの間、瞳を閉じていたが徐に口を開く。

 

「・・・」

 

パドメは驚きながらも無言で頷き、肯定の意思を伝える。

 

「貸して・・・頂けますか?」

 

パドメは少し驚いたような表情を浮かべたがティアの言葉に頷くと、首から下げていたネックレスを手渡す。

 

「・・・温かい」

 

このカイバー・クリスタルを手にしていると、まるでヴェリウスの温かさが伝わってくるようだった。

そしてこのクリスタルからは、まるで“ある想い”が伝わってくるようだった。

錯覚なのかもしれない。

しかしこの時のティアは確かに感じていた。

 

『あなたも力を貸してくれるのね?』

 

心の中での呟きは、ティアの手に握られていたカイバー・クリスタルに向けたものだった。

その問いに対する答えかのように、青色のクリスタルは力強く煌めいたように見えた。

 

「大丈夫、私の想いも同じだから・・・」

 

独り言のように呟くと、ティアはフォース・ヒーリングを用いた治療を再開する。

するとティアが一人で治療していた時とは比較にならない程の光が発生する。

その光は温かく、傍に居る者までその影響を受けるようだった。

 

 

しかしカイバー・クリスタルの助けがあったとしても、彼女のフォースを用いていることに変わりはない。

時間が経つにつれ、ティアは自らの身体が限界を迎えつつある事を感じ取っていた。

だが彼女にとってヴェリウスの命を救うことが何よりも重要だった。

彼を救えるならば、喜んでその身を捧げる覚悟だった。

 

ティアは最後の力を振り絞る。

その間、彼女の中で今までの記憶が走馬灯のように思い出される。

その思い出にはヴェリウスがいた。

彼が優しく微笑んでいた。

ティアにとってヴェリウスの存在がすべてだった。

ジェダイという枠組みで見るならば、この想いは決して許されないものだろう。

だがこの想いを消し去ることなどできなかった。

彼と同じ想いを共有し、幸せになりたいと願った。

 

しかしこの想いは叶わない。

彼の幸せは“彼女”と共にある。

 

嫉妬心が無いと言えば嘘になる。

だが彼女のヴェリウスに対する想いは本物だった。

身勝手で、一方通行な想いとは違う。

自らの幸せよりも、彼の幸せを願っているのだ。

それはパドメの想いと同じだった。

 

 

『マスターの幸せが彼女と共に在ることなら、私にできることは・・・』

 

その瞬間、目を開けていられない程の強烈な光が発生し、辺りはその光に包まれるのだった。

 

 

 

 

人工的な光と長い闇夜が支配していたコルサントだったが、辺りは少しずつ自然が持つ光が満ち始めている。

長かったのか、短かったのか・・・

時間の感覚を忘れさせるティアによる治療を、この場にいる人間は静かに見守っていた。

 

しかしその時間も唐突に終わりを迎える。

 

天を突き抜けるような多くの高層ビルが立ち昇り、惑星全体が一つの大都市になっているコルサント。

そのビル群の間から、太陽の光が差し込む。

その光はプラットフォームを照らし出し、その柔らかく、優しい光がその場にいる者達を包み込んだ。

 

 

 

「・・・・・君が見える」

 

夜明けの訪れだ。

永く閉じられていたように感じる瞼が開き、天井に広がる青空よりも深い青色の瞳が愛する想い人を捉える。

 

「ヴェリウス・・・私にも貴方が見えます」

 

パドメの頬を一筋の雫が伝う。

しかしそれは、先程まで流していた物とは異なる想いによるものだった。

 

 

—————温かい。

それにパドメが見える。

ここはどこなのだろう?

 

・・・・・どこでも良い。

彼女がいて、こんなにも心地良いのだから。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

□現在

 

<ヴェネター級スターデストロイヤー:艦橋>

 

瞳を閉じ、両手でカイバー・クリスタルを包み込んでいたティアは徐に顔を上げる。

その顔は穏やかで、微笑みを浮かべているがどこか寂しさを感じさせるものだった。

 

「命が尽きかけた時、マスターが・・・いえ、このカイバー・クリスタルが助けてくれたのだと思います」

 

ヴェリウスの治療を行ったティアは、力の多くを消費したことで身体の限界が近かった。

しかし彼女の力が尽きかける直前に、カイバー・クリスタルが強い光を放ち砕け散ったのだ。

 

勿論、カイバー・クリスタルに意思が宿っている訳でも、何かしらのエネルギーを発生させる訳でもない。

カイバー・クリスタルはフォースとの強い繋がりを持つ物質ではあるが、それ自体はエネルギーを増幅する機能しか備えていないのだ。

 

ティアが感じたカイバー・クリスタルの“想い”というのは、現実にはあり得ないものだった。

それが『特定の人物の命を救う』ことなど、突拍子もない発言だ。

 

しかし、アナキンには彼女の言葉を否定することなど出来なかった。

それがどんなにあり得ない事だとしても、彼自身もそれを“感じた”のだ。

 

「・・・僕も同じだ」

 

アナキンは徐に口を開く。

ティアは静かに、彼が続きを話すのを静かに待つのだった。

 

「僕は決して許されない事をした。あの場で君に斬られるべきだったのではと今でも思っている」

 

「それを誰かが望んだ事だとでも?」

 

「ああ、誰も望まないだろう。そんな事をしても失った人達は戻らない」

 

アナキンは自らの犯した罪に顔を歪め、俯いている。

彼は後悔していた。

自身の心の弱さに付けこまれ、間違った事だと頭のどこかで理解していても選択肢がないと思い込んだ。

そうする以外に道は残っておらず、いつしか自身の行いは正しい物だと思い込むようになった。

ジェダイ・オーダーは共和国の敵であり、邪悪の権化だと。

 

「僕が剣を抜いた時の、絶望に染まった仲間たちの顔が頭から離れない。幼い子供たちの—————」

 

彼は言葉が続かなかった。

いや、続けることが出来なかった。

 

「マスター・・・」

 

俯くアナキンに対して、ティアは複雑な表情を浮かべながら彼の背中を擦る。

その瞬間、ティアの中にアナキンの想いが流れ込んでくる。

 

それは一人の人間が到底背負いきれるものでは無かった。

この先、彼は永遠に苦しみ続けるだろう。

 

「しかし、あなたは決めたのでしょう?」

 

「・・・ああ、これは僕の背負うべきものだ」

 

アナキンは辛い表情を隠すように、気丈に振舞う。

しかしティアは首を左右に振りながら、その言葉を否定する。

 

「いいえ、それは違います。“それ”は私たちが背負うものです」

 

そう口にしながら、彼女は首から下げているカイバー・クリスタルを愛おしそうに両手で包み込む。

それを見て、アナキンも同じように自らの首から下げたカイバー・クリスタルの欠片に触れるのだった。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

<惑星ナブー 湖水地方:ヴァリキーノ島>

 

ナブーの辺境に存在する美しい自然。

それらが広がる峡谷、山に囲まれ無数の湖が点在する湖水地方にヴァリキーノと呼ばれる島があり、パドメ・アミダラが生を受けたネイベリー家所有の屋敷もここにあった。

かつてアミダラ議員暗殺未遂事件の際に、ヴェリウスが護衛の為に彼女と過ごした場所だ。

そしてヴェリウスが自らのカイバー・クリスタルを贈り、パドメと密かに結婚式を挙げたのもこの屋敷だった。

 

 

この場所には変わらず穏やかな風が吹き、暖かい太陽光が人々や動植物を優しく照らしている。

そんな穏やかな時間が流れる屋敷のテラスから、長身の人物が静かに揺れる湖を眺めている。

その人物の顔に浮かぶ表情からは、抱えている感情を読み取ることは難しい。

 

 

そこに長い髪を綺麗にまとめ上げ、ゆったりとしたドレスに身を包んだ女性が声を掛けた。

長身の人物は肩の高さで揃えられた絹のような白金の髪を揺らしながら、ゆっくりと振り返る。

 

「パドメ、おはよう」

 

前髪の奥から覗く青い瞳がパドメの姿を捉えると微笑みを浮かべるが、その表情に微かな影が差している事を彼女は見逃さなかった。

 

「また考え事ですか?」

 

「・・・うん、少しね」

 

ヴェリウスの隣までやってきたパドメは愛する夫に寄りかかり、彼はその華奢な肩を抱く。

二人は共に美しい景色へと視線を向け、穏やかな時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

どれくらい時間が経ったのか・・・

人や動物たちを温かく照らしていた陽は傾き、辺りは燃えるような色に染められ始める。

その時、唐突にヴェリウスが口を開く。

 

「私は・・・行くよ」

 

「ヴェリウス?」

 

ずっと考えていた事だ。

彼女を失ったと思った私は、この世界を壊し、作り直そうと考えた。

しかしそう考えたのは、決して彼女の存在だけが原因ではない。

 

共和国の腐敗、ジェダイ・オーダーの形骸化した教えや凝り固まった考え方にずっと違和感を抱えていた。

今回の出来事が無かったとしても、遅かれ早かれ共和国とジェダイ・オーダーは崩れ去っていた。

その考えは今でも変わらない。

事実、国のトップである元老院議長がシスの暗黒卿であり、その手は国の深い部分まで伸びていた。

ジェダイ評議会はその事実に気づかず、『自分たちの力は万能である』という自負心が強い風潮が根付いていた。

マスター・ドゥークーも既に手遅れだと感じていたのだ。

 

その中で“フォースにバランスをもたらす”という予言の意味に悩み続けた私は、彼女のいない世界がフォースのバランスが崩れた状態なのだと思い込もうとしたのかもしれない。

そう決めつければ楽だったのかもしれない。

 

それに元老院議員全てが腐敗に手を染めていたわけではない。

ベイル・オーガナ議員や、モン・モスマ議員など民を一番に考える人格者もいた。

善悪などという抽象的で曖昧な概念を私が判断できるわけではないが、結果的に私の行動はこの銀河の舵取りをしていた元老院議員たちを—————

 

「—————償えるとは思っていない。でも・・・」

 

ヴェリウスは言葉に詰まる。

彼は自分自身を許せないのだ。

自身の行いは罪で、それは決して償えるものではないと考えた。

 

彼が直接手を下した訳ではないが、自身が議会場へ赴かなければ、剣を抜かなければ少なくても罪もない者達を死なせることなかったと。

 

国の指導者である元老院議員、平和の守護者であるジェダイも殆ど残っていない。

まさに混沌の時代の訪れだと言えた。

 

「・・・私も行きます」

 

「え?」

 

「貴方の居る場所が、私の居場所です」

 

一瞬驚いたような表情になったヴェリウスだったが、すぐにその整った顔に微笑みを浮かべる。

 

「ありがとうパドメ、君の存在が私をこの世界に繋ぎ止めてくれる」

 

「それでは—————」

 

「でもこれは贖罪の旅でもある・・・私は知りたいんだ。フォースの意思が何なのかを」

 

「・・・・・」

 

「自分勝手なのは分かっている。でも・・・君の居る所が、私の帰る場所なんだ」

 

夕陽に照らされたヴェリウスの髪は煌めき、その瞳は燃えるような光を反射している。

パドメはその姿を見て、13年間ずっと変わらない想いを再認識する。

ヴェリウスを見ていると、いつもの自分ではいられない。

この込み上げる想いは心を締め付け、切ない感情に支配される。

それでも・・・・・

 

「—————分かりました。それが貴方の望みなら、私はいつまでも待ち続けます。“ここ”が貴方の帰る場所なのだから」

 

「ありがとう」

 

ヴェリウスはパドメに対して礼の言葉を述べ、再び湖へと目を向ける。

沈み掛ける太陽は、この世界への未練が残っているかのように光を放っている。

 

「・・・まるで私のようだ」

 

“黄昏”

 

光と闇が混在し、目前まで迫った闇の支配は決して回避することはできない。

ある意味で光と闇が調和しているような、そんな景色を見てヴェリウスは己を見ているような気分に陥る。

それはある意味で、光にも闇にもなれない中途半端な存在のようだと。

 

「・・・夜明けです」

 

「え?」

 

少しの時間を空け、パドメが口を開く。

その言葉をヴェリウスは理解できず、彼女へと視線を移す。

 

「貴方は光の訪れを感じさせる夜明けのような存在です。冷たい夜を終わらせ、希望をもたらす・・・」

 

パドメは夕陽から視線を逸らさずにそう語る。

その言葉を受け、ヴェリウスもまた沈み掛ける夕陽へと視線を向ける。

陽が完全に沈む瞬間、今までで一番強い光を放つとヴェリウスの頬を伝う雫を照らすのだった。

二人の胸で光を反射するカイバー・クリスタルの欠片と共に。

 




お疲れ様でした。
このお話で物語としては完結になります。

戦闘描写と言うよりも、“人”へフォーカスした物語だったので好みが分かれる作品だったと思いますが、ここまで続けられたのはひとえに皆様の応援があったからです。
この場をお借りして、お礼をさせて頂きます。
長い間、お付き合い頂き本当にありがとうございました。


さて、ここでお知らせです。
物語としては完結しましたが、今後は1話完結型の短編を投稿しようかなと思っています。
どの程度の数かは分かりませんが、引き続き不定期で投稿するつもりです。

そして短編ですが、EPⅡからEPⅢの空白の時間について、主にヴェリウスとパドメのラブコメ?で合っているか分かりませんが、そんなイメージの物を考えているので気軽にお読み頂けると思います。

ifとして『もしもこうなっていたらどう完結するか?』の話も考えていたのですが、投稿するかは少し考え中です。

それではまた近いうちに短編集でお会いしましょう。
フォースと共にありますように。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。