短編1 二人の乙女
<惑星コルサント アミダラ議員のペントハウス>
ここは惑星ナブー選出の元老院議員であるパドメ・アミダラのペントハウスだ。
後に銀河の命運を左右する出来事が起きる場所であるが、それはまだ先の話。
◇
「はぁ・・・」
ジオノーシスでクローン戦争が勃発し、その戦火は瞬く間に銀河全域に広がっていった。
共和国はクローン・トルーパーを主軸に軍を設立し、ジェダイ騎士がその部隊を率いる事となった。
「はぁ・・・」
ジェダイ騎士は将軍に、弟子であるパダワンは師の補佐を務めながらコマンダーという階級を与えられた。
共和国からの脱退運動は様々な惑星や宙域政府、企業を巻き込んだ分離主義運動へと発展し、独立星系連合はその力を拡大している。
「はぁ・・・」
何が言いたいかというと、ジェダイは今めちゃくちゃ忙しいのだ。
いや、ジェダイだけではない。
共和国に属する全ての惑星、その代表である元老院議員も暇な訳はない。
しかし昔から恋は盲目と言う。
パドメ・アミダラはソファーに深く座り込み、故郷の湖水地方でのこと、そして先日のジオノーシスでの一件のことを思い出しては深いため息をついていた。
「はぁ・・・ヴェリウス」
確かに普通の恋人のように過ごせるとは考えていませんでした。
考えていませんでしたが、これでは余りにも・・・
彼が今どこで何をしているのか、全くわからず、いつここに戻るのか見当もつきません。
これではヴェリウスの顔を忘れても、誰も文句は言えないと思います・・・。
「・・・ヴェリウスぅぅぅ」
まるで風呂場で溺れるように、想い人の名を口にしながら徐々にソファーに崩れ落ちていき、彼女はとうとう横になってしまった。
共和国による通商ルートへの課税に抗議したトレード・フェデレーションがナブーに侵攻したのが10年前だ。
その10年間、ヴェリウスと再会する事がなくてもその顔を忘れたことは無かったのだ。
彼女が少しの間、彼に会えなかったとしてもその顔を忘れる訳がない。
これはただヴェリウスに会えないことに対する愚痴なのだが、そんな思いが出てくる程、彼に会えない時間が永遠に感じるようだ。
「・・・ねえ、ドーメ?」
彼女は傍に控えている侍女のドーメに声を掛ける。
ドーメはアミダラ議員暗殺未遂事件の際に、護衛に就いたヴェリウスとも面識があった。
実際に彼女は、ヴェリウスとパドメの間で愛が育まれていたのも知っていた。
「はい、議員」
「世間一般的な・・・そう、社会通念上の話と思って聞いて欲しいのだけれど、男性は想い人に会えなくても平気なものなのでしょうか?」
色恋に世間の常識や社会通念上という概念が存在するのか怪しい所だが、パドメは本気で聞いている。
『苦しんでいるのは自分だけなのでは?』と心配なのだろう。
「あくまで私の考えになりますが、殿方も決して平気な訳では無いと思います。それに男性は女性よりも・・・こう、元気ですから」
「 ? はい?」
「んっんん!! そ、それにヴェリウス様は真面目で誠実な方です。信じて待つのも淑女の立派な務めだと私は思います」
話の冒頭部分に、一瞬『?』が浮かぶパドメだったが、ドーメの言葉はその通りだと感じた。
彼は真面目で純粋だ。
自身のことよりも他者を優先する。
そんなヴェリウスが任務を放り出してまで、彼女に会いに来る訳は無かった。
そんなことをしてもらってもパドメは喜ばないと考えている筈だ。
しかし・・・
「彼がどんな人かは分かっているつもりです。それでも、この気持ちはどうしても治まってくれないのです」
そう呟き、俯く彼女が浮かべる表情は恋する乙女のそれだった。
その姿を見て、ドーメは心を痛めるが自分にはどうすることもできなかった。
ただ何故か彼女は堪らなく、苦くて黒い嗜好品を欲する衝動に駆られる。
「・・・ヴェリウス様はお優しい方ですわ。きっと時間を作って会いに来て下さいます」
彼女の言葉にパドメは「そうね」と呟く。
ドーメは主人に対する慰めの言葉を掛ける事しかできなかった。
だが口にしている言葉は全て本心だ。
それほどドーメも彼の事を信頼しているのだ。
「・・・というか何故ヴェリウスの名が出てくるのです!? 私はあくまで社会通念上の話をしているだけで—————」
「ええ、分かっておりますわ議員」
『もう、ドーメったら』とパドメは頬を桜色に染めながら少し怒ったような表情を浮かべている。
何故も何も先程から深いため息をつきながら特定の人物の名を口にしているのだ。
誰の事を指しているのかは、壊れかけのピット・ドロイドが聞いても分かるだろう。
しかし主人の名誉の為にも、彼女が口走っていた事は秘密にする。
ただ暇を見つけて、必ず、何があっても黒くて苦い嗜好品を口にしようと心に決める。
というかパドメは気が抜ける空間にいると最近はいつもあのような感じなのだ。
今更、というヤツである。
それでも公的な場所に居る際は隙など見せないのだから、さすがは一国を治め、元老院議員まで上り詰めた人物だと言える。
「・・・はぁ、ヴェリウス」
本当に大丈夫なのだろうか?
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<惑星コルサント 連邦地区>
ここはコルサントの中心部ともいえる連邦地区。
銀河元老院議会場を擁する元老院ビルや元老院オフィスビル、ジェダイ聖堂などもこの地区に存在する。
「ティア、評議会への報告も終わったことだし次の任務までゆっくりと過ごすと良いよ」
ジェダイナイトのヴェリウスは、自らの弟子になって日の浅いティア・アテミスに休養を取るように告げる。
しかしティアは、師であるヴェリウスから離れようとしない。
「 ? どうしたの、ティア?」
「ま、マスターはこれからどうされるのですか?」
彼女は休養の時間を与えられること自体は非常に嬉しいのだが、それよりもヴェリウスと離れることが嫌だった。
その瞳はまさに恋する乙女、三度の飯より想い人、まさに恋焦がれる十代のそれだった。
まあ実際に16歳なのだから十代なのは間違いないのだが、ジェダイという身分であることからもその感情が許されないものだと言うのは明らかだった。
「どうするって言われても・・・」
ヴェリウスにとっても久しぶりのコルサントへの帰還だ。
勿論パドメの下へ急ぎ向かおうとしていたのだが、そんな事を正直にいう訳にもいかずに困り果てる。
「も、もしよろしければお食事でもいかがですか!? まだ昼食も取られておりませんし!」
そんなヴェリウスの内心を知る由もないティアは、鼻息荒く自らの師に詰め寄る。
その勢いに若干引きながら後ずさるヴェリウス。
眉目秀麗なルックスと絹のような白金の長髪を蓄えた長身の男性に、まだ幼さを残しているが明らかに他の追随を許さない程の美貌とプロポーションを誇る美少女が詰め寄るという天然記念物もビックリの希少現象が発生している。
そんな現場をコルサントの中心部で繰り広げれば、人が立ち止まってしまうのも仕方のない事かもしれない。
いつの間にか二人の周りに絶妙な距離感を保った人集りが形成されている。
不幸なことに(?)、この現場に事態をさらにややこしくする人物が現れる。
「ヴェリウス!?」
元老院議会場での会議を終えたパドメ・アミダラが、人集りの中心にいるヴェリウスを見つけたのだ。
パドメの突然の声に、集団を形成していた人々はこれ以上ないほど息の合った連係プレーを見せ、彼らまでの道筋を作る。
その中には元老院議員の姿もあった。
目の前で行われた連係プレーを見て、『会議でもこれほどの一体感があればより良いものになるのに』と思うパドメだったが、ヴェリウスに詰め寄るティアを目にするとそんな考えは一瞬で頭から吹き飛んでしまう。
「パド・・・アミダラ議員!?」
師の慌てようを見たティアは、面白くなさそうな表情を浮かべる。
ヴェリウスが名を呼んだ人物が美しい女性だと分かると、その表情は険しさを増すのだった。
いや正確には笑顔のまま相手に恐怖の感情を与えると言う、高度な技術を披露していた。
「「・・・この方(人)は?」」
「え、ええと・・・こちらはパドメ・アミダラ、ナブー選出の元老院議員。そしてこの子はティア・アテミス、私のパダワンです」
ヴェリウスは二人の女性からとてつもないプレッシャーを感じつつも、何とか場を繋ぐ(?)ことに成功する。
「元老院議員? “女性の”元老院議員とどのようなご関係なのですか?」
「パダワンですって? 弟子を取ったとは聞いていたけれど“女性”の弟子だとは聞いていませんよ?」
二人は“女性”という単語を語気を強めることなく相手に強く認識させるという特殊能力を発揮し、ヴェリウスに説明を求める。
どう考えてもヴェリウスに落ち度は無いのだが、パドメとティアの本能は相手を天敵だと認定したようだ。
「パ・・・アミダラ議員とは10年前からの付き合いだよ。惑星ナブー封鎖事件の一件からのね。議員は当時の女王だったんだ。そして私は最近まで議員の護衛に就いていたんだよ」
最後に『ジェダイ評議会の命令でね』と付け加える。
その言葉にティアは衝撃を隠せない。
少なくても10年、彼女はティアよりも早くヴェリウスを知っているという事だ。
パドメが15歳のヴェリウスを知っているという事実に嫉妬心が湧き上がる。
それに目の前の女性は自分には無い妖艶な雰囲気を放っている。
彼女の備える魅惑的なオーラに抗える男性はそう多くはないだろう。
美しい装いに、一体どれだけの時間を費やしたのか想像もできない髪型はまるで芸術の様だ。
頭から足の先まで手入れが行き届いていることに上流階級の者だと分かる。
それに彼女の立ち振る舞いは一朝一夕に身に付けられるものではない。
自分とは住む世界が違う人種だ。
そんな彼女の護衛にヴェリウスが就いていたという。
護衛と言うことは常に彼女と行動を共にしていたという事だ。
ティアの頭の中では、次々現れる暗殺者から彼女を守るヴェリウスのイメージが生まれる。
その姿はまるでおとぎ話に出てくる騎士のようだ。
まあ実際にジェダイ騎士なので間違ってはいないのだが、そう言うことでは無いのだろう。
そしてヴェリウスの美しい姿にパドメは見惚れている。
その後場面は移り変わり、ヴェリウスとパドメが素晴らしい夜景が見えるホテルの一室でワインを片手に大人な雰囲気の中、楽しく談笑しているイメージが生まれる。
そして一瞬、二人の中で沈黙が流れる。
沈黙の中二人は見つめ合い、その距離が少しずつ近づいて行く—————
「ティアはマスター・ヨーダの命令で弟子に取る事になったのです。マスタークラスのジェダイは自分で弟子を選ぶことができますが、ナイト階級のジェダイは殆どが評議会からの命令で弟子を取る事になります。それに弟子が男の子か女の子かと言うのは重要なことでは無いでしょう?」
ティアだけならまだしも、コルサントの上級国民と言える人物が周囲を固めている。
ただのジェダイが特定の元老院議員と仲良くしているように見えては彼女に悪影響が出ると考え、ヴェリウスはあくまで知り合い程度の関係に見えるように言葉を選んだ。
しかしその態度が、かえってパドメは面白くなかった。
それにヴェリウスの弟子が、目の前にいる人物だという事実もパドメの影をさらに暗くした。
男か女か、そんなのは関係ない?
大ありだった。
それも美しい女だともなれば、今後の進退(?)に影響があると言えるだろう。
その少女はまだ幼さを残してはいるが、見た目からして殆ど大人の女性と言って良い年齢だろう。
ブルネットカラーの前髪の隙間からはクリっとした丸い大きな瞳が覗いている。
その顔は男性であれば誰でも振り向くほど美しいものだ。
そして一番、何よりも彼女の頭に警報を鳴らしているのがティアと呼ばれる少女の胸部にあった。
ジェダイローブをもってしても隠し切れない程の大きさを誇る“ソレ”はまさに凶器と言って差し支えないものだった。
パドメは自身の胸元に目を落とし、ティアの胸に目を走らせるという行動を何度か繰り返す。
そして彼女の脳内でも空想の世界が広がって行く。
バトル・ドロイドの大軍に一人勇敢に立ち向かうヴェリウス。
彼は傍に控えるティアに危害が加わらないように、その魅惑的な白金の長髪を優雅に揺らしながらライトセーバーを振るう。
その光景に目を奪われるティア。
そして激しい戦いが集結し、ヴェネター級スターデストロイヤーの一室に場面は移る。
ヴェリウスは手傷を負うことは無かったが、砂埃による多少の汚れが見て取れる。
ティアは彼に服を脱ぐように告げ、その鍛え抜かれた身体の汚れを取る為に布を走らせる。
そんなティアもジェダイローブを脱いでおり、美しい身体の曲線がこれでもかと強調されたタイトな服を着ている。
勿論その巨大な双山も。
そして彼女はしなやかな指でヴェリウスの身体に直接触れる。
そんなティアの行動にヴェリウスは顔を上げる。
見つめ合った二人の距離は徐々に近づいてき—————
「「破廉恥です!!」」
パドメとティアの声が重なる。
二人の頬は蒸気しており、その興奮具合が見て取れる。
だがヴェリウスには彼女たちの様子が理解できなかった。
ど、どうして彼女たちは怒っているんだ?
自分が何かしたようだが、それが何なのか全く見当がつかない。
理由が分からなければ、対策しようがない。
一番確実なのは彼女たちに直接『ねえ、どうして怒っているの?』と聞くことだが、それが悪手だと言うことは何となく分かる。
以前、ヴェリウスがパドメの護衛に就いた時の経験が生きていた。
彼女と再開し、共に過ごす時間の中で彼は幾度となく地雷を踏み抜いてきた。
痛みは人を強くし、失敗の経験によって人は過ちを繰り返さないで済むのだ。
『だけど、このままでは話が進まない。どうすれば良いのだろうか?』とヴェリウスが頭を悩ませていると、コルサントの治安維持を任されているクローン・ショック・トルーパーが近づいてくる。
「これは何の騒ぎです? ・・・ヴェリウス?」
集団を掻き分けて姿を現したのは、ジェダイマスターのオビ=ワン・ケノービだった。
散るどころかどんどん大きくなる集団に、何かあったのかと駆けつけたのだろう。
「オビ=ワン! ちょうど良いところに!」
今日一の安心した表情を浮かべ、ヴェリウスはオビ=ワンに駆け寄る。
オビ=ワンは輪の中心に三人が居たことに驚き、ヴェリウスに説明を求める。
「そ、それは後ほど・・・それよりも昼食はまだですか? 以前仰っていたダイナーに行きましょう!?」
ヴェリウスが言っているのは、アミダラ議員暗殺未遂事件の際にオビ=ワンが情報収集の為に訪れたデックス・ダイナーのことだった。
ベサリスクのデクスター・ジェットスターが営むこのダイナーで、クローン製造に長けたカミーノアンの情報がもたらされたのだ。
「なに? 食事なら先程・・・おいヴェリウス、聞いているのか!」
「さあ行きましょうオビ=ワン、“古い友とは積もる話がある”と言うではありませんか!」
誰も聞いたことのない格言(?)を瞬時に作り出したヴェリウスは、オビ=ワンの腕を引いて去って行く。
その姿を見て、集団の中のあるご婦人が『殿方が二人というのも・・・』と頬を赤らめていたとか、いなかったとか。
はい、お疲れさまでした。
短編集の投稿をすると言った手前、時間を空けると執筆しなくなりそうだったので取り敢えず一つ書いてみました。
短編集に関しては今回のように、のほほんとした味付けの物を投稿していく予定です。
それでは引き続き、よろしくお願いします。
それではまた近いうちに・・・・・