<惑星セレノー セレノー城地下>
【“ヴェリウス”とは何者だ?】
アナキンを宙に浮かばせたゼロは、マインド・プローブを使用して“ヴェリウス”という存在について聞き出そうとする。
それは皮肉にもアナキン自身が先刻、ノア・デラ=セールに用いた手段だった。
この技はマインド・トリックよりも強力な分、対象者に痛みや苦しみを与える。
しかし相手は当代最高クラスのジェダイ騎士だ。
彼の精神防壁を破るのはそう簡単じゃない。
加えてゼロは永い眠りから覚めたばかり、本領を発揮できるようなコンディションではなかった。
「・・・中々強情な奴だ」
「はあ、はあ、お前は誰だ? その姿は?」
防壁を破れず、ゼロに解放されたアナキンはその場に膝を着きながら彼を見上げる。
そこにはアナキンの良く知る顔があった。
しかしよく見れば彼の纏っている雰囲気はヴェリウスのものとは似ても似つかないほど冷たいものだった。
「質問しているのは私の方だ。言え、ヴェリウスとは何者だ?」
何故か分からないが、目の前の男はヴェリウスに固執しているようだった。
それは決して良いことではない。
ゼロと呼ばれる男からは暗黒面の力を感じる。
それはモールやドゥークーなどとは比べ物にならない程、強大なものだった。
アナキンはその場に立ち上がり、腰部にマウントしている銀色のヒルトを取り出す。
『奴を野放しにはできない。そうなれば銀河は再び暗黒の存在を迎えることになる』
アナキンがライトセーバーを起動すると、低い音と共に青色に輝く刀身が出現する。
彼はフォームⅤドジェム・ソの構えを取り、ゼロと呼ばれた謎の男との間合いを図る。
相手は丸腰でありジェダイの教えに反する行為だが、そうは言っていられない相手だった。
ジェダイの教えに従って奴に先制攻撃を許せばそれは自身の命の終わりを意味している。
『隙が無い・・・』
彼はゼロに隙を見出すことが出来なかった。
姿だけでなく、ゼロの実力もヴェリウスに近いものを持っているとしたらアナキンは自身に勝ち目はないと考えていた。
アナキンはヴェリウスに対して『敵わない』という意識が刷り込まれてしまっていた。
いや、自ら刷り込んでしまったというのが正しい。
度重なる対決を経験して、ヴェリウスに勝てるイメージを持つことが出来なくなっていたのだ。
瓜二つの容姿を持つゼロの姿は、アナキンに無意識に苦手意識を持たせていた。
それが必要以上にゼロを警戒してしまった要因だろう。
だがそれ以上に、目の前の男が本当にヴェリウスでは無いという確信を持てなかったのが、アナキンの剣と判断を鈍らせていた。
「それは飾りかジェダイ?」
ゼロはそう言いながら、いつまでも攻撃してこないアナキンに対してフォース・プッシュを繰り出す。
強力なフォースを受けたアナキンはライトセーバーを地面に突き立てることで耐え抜いた。
それがスイッチになったかのようにアナキンは大きく跳躍し、ゼロに回転を加えた斬撃を放つ。
斬撃を数回避けられたアナキンはフェイントを織り交ぜて、ゼロの横顔に向かってセーバーを振り切ろうとする。
しかしその攻撃が届くことはなかった。
ゼロはフォースを使って斬撃を受け止めたのだ。
そして反対側の手でフォース・チョークを繰り出し、アナキンの首を締め上げる。
堪らずセーバーを地面に落とすアナキンは、自身の首に手をあてがう。
そうする事で、この苦しみから解放されると言うかのように。
「安心しろ、貴様が口を割るまでは殺しはしない」
そう言うとゼロはアナキンを解放する。
その口ぶりは、『お前などいつでも殺せる』という意味が含まれているようだった。
「・・・では質問を変えよう。ティラナス卿はどこだ? あの方がお前の侵入を許すとは思えない」
「いつの話をしている? ドゥークーは—————」
「ダメです!」
アナキンの言葉を遮るように使用人のノア・デラ=セールが割り込んでくる。
そんな彼女の行為に、ゼロは良い顔はしなかった。
「・・・何の真似だ?」
「いえ、これは・・・ですが」
ノアはドゥークー本人から命令を受けていた。
約一年前、バクタ・タンクの前で受けた最後の指令。
主人であるドゥークーが死んだ暁には“ヴェリウス”と言う名の若者が新たな主人となること。
そして・・・・・
『私が命を落としたとの報せが届いたならば、彼を—————殺せ』
ドゥークーが命を落とした段階で、ゼロの息の根を止めること。
それがノアに与えられた最後の命令だった。
この事実を知ればゼロは間違いなく自害する。
ノアはそう考えていた。
彼女はこの命令を遂行しなかった。
この真実を知る者は自分しかいない。
命令を無視した段階で、この事実を墓まで持っていくつもりだった。
普通に考えれば知られようがない。
だがゼロには強力なフォースがある。
その為にはゼロに与える情報は少ない方が良い。
何がきっかけでこの事実が彼に知られるかは分からない。
そう考えたことによる突発的な行動だったが、寧ろゼロ自身に不信感を抱かせてしまった。
『何故このタイミングで間に入ってくるのか?』と。
「ノア、お前が何の意味もなくこのような行動を取るとは思えない。言え、理由は?」
「それは・・・・・」
ゼロの問い掛けに答える事ができないノアだったが、彼らの会話はこの場に近づく“ある存在”によって中断される。
ゼロの部屋と訓練場から、さらに地下に存在するこの部屋へと続く隠された道。
その階段を降りてくる何者かの足音が彼らの耳に届く。
それは非常にゆっくりとした足取りだったが、何故かこの場に居る者達には大きく、そして存在感のあるものとして認識される。
光の当たらない入り口に現れたのは長身の人物。
ゼロはその影が主人であるドゥークーだと考えた。
探していた人物の出現に安堵したと言ってもいいだろう。
しかし、次の瞬間にはそれが勘違いだと知る事になる。
暗い影からゆっくりとした足取りで現れたのは、濃い灰色のジェダイ・ローブに純白のマントを羽織った長身の若者だった。
その仕立ての良い服を身に着けている人物を目にした三人はそれぞれ異なった感情を抱く。
アナキンは驚きと喜び、安堵。
ノアは驚きと動揺。
そしてゼロは・・・無だった。
いや、放心状態に近いかもしれない。
突然現れたその人物の容姿が自分に酷似している。
ゼロにとって一瞬だとしても放心状態になるという体験は始めてだった。
長期間の眠りも影響していたのかもしれない。
だがその人物を目にした瞬間、彼の中で今までに無い“ある感情”が湧き上がっていく。
「アナキン、大丈夫かい?」
自身の下までアナキンを引き寄せた若者が口を開く。
彼の放つ存在感に対して、その声は非常に優しいものだった。
その声を聴くと、アナキンの心は安心感に包まれる。
「・・・ヴェリウス、お久しぶりです」
一年ぶりの再会だと言うのに、まるで昨日まで普通に会っていたかのような変わらない様子のヴェリウスにアナキンは若干の拍子抜けのような感覚に陥っていた。
まるで再会を心待ちにしていたのは自分だけのような気がしてくる。
だからなのか、アナキンは少し不貞腐れたような、不機嫌そうな雰囲気でヴェリウスの言葉に答える。
「うん、久しぶり。少し痩せたんじゃない?」
そう言いながら膝を着き、自身の顔を覗き込んでくるヴェリウスの顔は、前にも増して美しさに磨きがかかったように感じる。
そして彼の目を見れば、自分を本気で案じくれている事が分かった。
「そんな事はありませんよ。貴方こそ、しっかりと食事はなさっているのですか?」
「うん、ありがと。大丈夫、結構美味しいものを食べているよ」
そう言いながら微笑みを浮かべているヴェリウスの顔を見ていると、先程まで命の取り合いをしていたことを忘れてしまいそうになる。
アナキンは『相変わらずのお人だ』と心の中で呟くのだった。
「・・・アナキン、彼は?」
「ゼロと呼ばれるフォースの暗黒面の使い手です。理由は分かりませんが、あのバクタ・タンクで眠りについていたようです。口ぶりからすると少なくてもクローン戦争中には・・・」
ヴェリウスは静かにその場に立ち上がると、謎の戦士に向き直る。
二人はまるで、鏡に映った自分自身を見ているように錯覚するほど容姿が酷似していた。
ヴェリウスは静かにゼロを観察する。
漆黒のズボンとブーツしか着用していないゼロの上半身には隙間がない程、大小様々な傷跡が刻み込まれているのが確認できる。
そしてゼロの髪色は、ヴェリウスの白金色に比べてより金色に近いものだった。
一年前のアナキンとの戦いによって切断されたヴェリウスの髪は肩付近で切り揃えられていたが、ゼロの髪は以前のヴェリウスのように腰まで届く程の長髪だ。
細かい違いはあるが、顔や身長など、二人は生まれ持った特徴の殆どの点で一致していた。
「・・・貴様がヴェリウスか?」
「どうやら君は私のことを知っているようだね」
「ティラナス卿とはどういった関係だ?」
「ティラナス?」
その名を聞いたヴェリウスは今までと違った反応を示す。
彼が“ティラナス”という名を用いて活動しなければならなかった理由は自分にある。
自分を守る為に、彼はティラナスという仮面を被ったのだと。
その名はヴェリウスにとって自身の罪の一つだと考えていた。
「・・・彼は恩人であり、師であり—————」
ヴェリウスは静かに、だが確かな意思を持って口を開く。
その言葉を耳にしたゼロは心をかき乱されるような感覚に陥る。
長年の疑問が解決する・・・しかし彼は真実を知ることをこの瞬間だけ恐れてしまった。
知ってしまえば、受け入れるしかなくなる。
そうなれば、自分を保てないような気さえした。
だが流れる時間が止まる事はない。
自分自身が求めた答えだが、それは必ずしも“求めていたもの”であるとは限らない。
「—————私の父だ」
ドゥークーのことを思い出しているのだろうか、その瞬間ヴェリウスの表情は穏やかで温かいものだった。
それは図らずも、かつてドゥークーがヴェリウスのことを想い、浮かべていた表情と同じだった。
それを目撃していたゼロは二人の表情が重なり、彼の言葉が偽りでないと理解してしまった。
血が繋がっている訳では無い。
しかし、それ以上の“何か”で二人が繋がっているように思えてならなかった。
ゼロは俯きながら深い青色の瞳を閉じる——————
そして徐にバクタ・タンクに向けて腕を伸ばすとそこに格納されていた筒状の物体を引き寄せる。
顔を伏せたまま、その物体を手にしたゼロは数秒間その状態で止まっていた。
しかし次の瞬間、顔を上げ閉じていた瞳を開く。
その瞳は先程とは違っていた。
暗黒面に堕ちた者特有の黄色に輝く瞳、その鋭い視線をヴェリウスに向けていた。
ゼロはその手に持つライトセーバーを起動する。
そこから真紅に染まる刀身が出現し、辺りはその低い起動音が支配する。
「・・・殺してやる」
◇
「アナキン、彼女を連れてここから離れるんだ」
「しかし・・・」
「早く」
ヴェリウスはいつどんな時も余裕を感じさせていた。
それがどんなに絶望的な状況でも、何も問題など無いとでも言うかのようにいつもと変わらない様子を見せて来た。
そして事実、いつも問題など無く苦労など感じさせずに物事を解決してきた。
しかし今はどうだろうか?
長い間、彼を見て来たアナキンだったがここまで余裕のないヴェリウスを始めて目にしていた。
アナキンはそれ以上ヴェリウスに反論することはなかった。
ノアの下に歩み寄り、抵抗する彼女を強引に連れ出す。
上階に続く階段へと足を踏み入れる直前、ヴェリウスと目が合う。
彼からは『大丈夫、何も心配はいらない』という意思が伝わってくるようだった。
アナキンはヴェリウスを信じてその場を後にするのだった。
アナキンを見送ったヴェリウスは静かな動きで腰部からライトセーバーを取り出す。
彼がこの剣を手にするのは実に一年ぶりだった。
アナキンと戦った時を最後に、ヴェリウスはセーバーを使うことはなかった。
いや、セーバーを使わなければならない状況に陥った事が無かった。
海賊を制圧する際も凶暴なクリーチャーと出くわした際も、彼にとっては“何でもない”ことだった。
しかし今は—————
◇
ヴェリウスがライトセーバーを起動すると、そこから独特の起動音と共に純白の光剣が出現する。
それを確認するとゼロはフォースを身に纏い、一気にヴェリウスの下まで距離を詰める。
常人の目には瞬間移動したかのように見える程の高速移動だ。
その勢いのまま、ゼロは強力な斬撃を繰り出す。
ゼロは流れるような連撃を留めなく放ち続ける。
彼は最初、アクロバティックなフォームⅣアタロに近い奇襲性に富んだフォームを用いていたが、次の瞬間にはフォームⅤシエンへと流れるように戦術を変えてきた。
アタロによる連撃を防御特化のフォームⅢソレスで受け流していたヴェリウスは、突然戦いの流れを変えられたことでシエンの強力な一振りでライトセーバーを弾かれる。
しかしヴェリウスは弾かれた勢いに逆らうことをせず、その勢いを逆に利用することでゼロと同じようにフォームを転換する。
さも当たり前かのように戦いの中でフォームを変えている二人だが、これは各フォームに対する深い理解と熟達、非常に高い戦闘センスが必要になる。
能力のない者が真似をしようものなら、フォームが崩れ、大きな隙を晒すことになるだろう。
そうなればフォース=センシティブ者同士の戦いでは命取りになるのは言うまでもない。
ヴェリウスはゼロと同じシエンへと切り替え、二人の強力な斬撃が衝突する。
鏡写しのように瓜二つである二人の剣技は、まるで最初から約束していたかのように同じ軌道から攻撃を加えている。
ひと際強い斬撃を繰り出したゼロの攻撃が、ヴェリウスの持つ純白のセーバーを大きく弾くことで二人の間に距離が開く。
『・・・強い』
ヴェリウスは心の中で呟く。
間違いなくヴェリウスが今まで戦った中で一番の実力者だった。
だがそう感じているのは彼だけでは無かった。
ゼロもヴェリウスに対して同様の評価をしていたのだ。
「君は確かに強い。けれど、“それだけ”ではダメだ」
「戯言を・・・!」
ゼロの黄色い瞳がひと際強く煌めいたかと思うと、さらに力強い攻撃を繰り出す。
彼は暗黒面に身を浸し、その力に逆らうことなく湧き上がる感情を剣に乗せていた。
ゼロから溢れ出す暗黒面の力は、耐性のない者が受ければ萎縮し、力を上手く引き出すことが出来なくなるのだろう。
これはかつてダース・シディアスが用いたフォース・スクリームによく似た効果を持っていた。
しかしヴェリウスには効果がなかった。
先の戦争で様々な経験をしたヴェリウスは光と闇、決して交わる事のない・・・・・言うなればその“狭間の力”を体得していた。
戦争終結後、ヴェリウスは自身を光でも闇でもない『まるで黄昏のようだ』と評価していた。
光と闇が混在し、目前まで迫った闇の支配は決して回避することはできない。
光と闇が調和しているような、しかしある意味で光にも闇にもなれない中途半端な存在のようだと。
だがパドメは言った。
夜明けだと。
光の訪れを感じさせる夜明けのような存在、冷たい夜を終わらせ希望をもたらす存在だと。
ヴェリウスはその言葉で救われた気がした。
一度は世界を創り直そうと考えた自分に、まるで暗闇に差し込む一筋の光が見えたのだ。
それはまさに夜明けへの道だった。
光でも闇でもない。
その調和が、この世界のあるべき姿。
“フォースの意思”はそこにあるとヴェリウスは信じていた。
「ダメなんだ、闇だけでは・・・君にも分かる筈、その怒りは悲しみだ」
ゼロから感じられる闇の感情は悲しみからくる嫉妬心や妬み、絶望という感情だった。
ヴェリウスは彼を救いたかった。
手遅れだという事などないと。
「私には闇(これ)しかない」
ヴェリウスは彼の闇を自分の事のように・・・
ゼロの根底にある悲しみをまるで自分のことのように感じていた。
不思議だった。
こんなにも相手の感情が自分の中に入ってくることが。
その時、ヴェリウスは多くの生命体の接近を感じる。
それはゼロも同じだったようだ。
「待って。戦う必要はない、戦争は終わったんだ」
「私の戦争は終わらない」
再びゼロの激しく、精密な斬撃がヴェリウスを襲う。
永い眠りによって本調子で無かったゼロの肉体が、時間経過と共に少しずつ覚醒してきたようだった。
その刃は鋭さを増している。
しかしその戦いも長くは続かなかった。
突如、クローン・トルーパーの部隊が突入してきたのだ。
『ゴーゴーゴー!!』
『回り込め!!』
クローン達はその洗練された動きで、瞬く間に包囲を完了させる。
トルーパーらのアーマーには第501軍団所属の者達と分かるペイントが施されていた。
「将軍、お下がりください」
部隊を指揮しているクローン・キャプテンのジェシーが口を開く。
そのヘルメットには共和国の紋章のペイントが施されており、彼が熱心な愛国者であることが伺える。
先の大戦で中尉だったジェシーは、今ではキャプテンに昇進していた。
ARCトルーパーでもある彼が部隊を率いて、ヴェリウスの救援に駆けつけたのだった。
「待ってジェシー、ここは私が—————」
ヴェリウスが彼らを止めるために口を開くが、ゼロの判断は早かった。
包囲される間、暗黒面の力を集約していたゼロは再びフォース・スクリームを発動する。
先刻戦いの中で無意識に用いたものとは異なり、その威力は先程の比ではなかった。
その力はゼロを中心に衝撃波となって部屋の中を駆け巡った。
精神のみならず、物理的な破壊力を帯びた衝撃波によってクローン達が吹き飛ばされる。
その強力な衝撃波にヴェリウスは吹き飛ばされずに耐えきるが、ローブやマントはズタズタに引き裂かれてしまう。
「ま、待つんだ!」
ゼロはその隙に深紅の光剣を地面に突き立てると、下水道に降りるための穴を作り逃亡を図る。
その際に彼は強力なフォースを用いて、下水道の一部を崩壊させた。
「瓦礫に爆薬を仕掛けろ。すぐに追跡する」
立ち上がったジェシーがすぐに状況を把握し、部下に命令を下す。
「待ってジェシー、追わなくていいから怪我人の手当を」
「しかし・・・」
「頼むよ」
「・・・イエッサー。」
ヴェリウスの命令に異議を唱えるジェシーだったが、彼の様子を見て発言を控える。
『将軍の言う事だ。何か考えがあるのだろう』と察する。
ゼロが逃走した下水道に続く穴は瓦礫で塞がれている。
その瓦礫を複雑な表情で見つめるヴェリウス。
彼は少しの間そうしていると、マントを翻しながら地上へと続く道に向かうのだった。
◇
地上に戻って来たヴェリウスはセレノー城の大広間にいた。
海賊によって荒らされた城だったが、かつて誇っていただろう栄光の影を感じさせた。
そこからはセレノーの上空に数機のヴェネター級スターデストロイヤーが確認できる。
「それで・・・君の名は?」
大きなガラス窓から外を眺めていたヴェリウスは徐に振り返るとその口を開く。
その視線の先にはセレノー家の使用人の姿があった。
「ノア・デラ=セールと申します。セレノー伯爵家に代々仕える使用人の家の者です」
ノアは教育の行き届いた所作で自己紹介を行う。
そして彼女は『まずはお召し物を』と言葉を残し少し姿を消すと、すぐに着替えをもって現れた。
勿論、クローンの監視付きだった。
「ここは私だけで良い」
ヴェリウスがそう言うと、ノアの監視に就いていたクローン・トルーパーを下がらせる。
それを見ていたノアは意外そうな顔をしていたが、わざわざその事について触れる事はなかった。
そしてノアは自然な動作でヴェリウスの衣服に手を掛ける。
先の戦闘でボロボロになったジェダイ・ローブだったが、ヴェリウスは自分で着替えるつもりだった。
しかし、ノアの流れるような動作に断りを入れる前に脱がされ始めてしまう。
そして少しずつ脱がされた衣服の下から、ヴェリウスのしなやかな筋肉が付いた上半身が露になる。
ゼロとは対照的に、傷などない綺麗な身体だった。
しかしその背中に右肩から左脇腹に掛けて大きな傷跡が刻まれているのに、ノアはすぐに気付くことになる。
明らかに致命傷に成り得る程の傷であり、彼が穏やかで平和な生活を送ってきた訳ではない事を示していた。
「この傷は・・・いえ、失礼致しました」
彫刻のように美しい身体に刻まれたたった一つの、そして巨大な傷跡につい口を開いてしまうノアだったが出過ぎた事をしたと気づいたのか、すぐに謝罪の言葉を述べる。
「ううん、良いんだ。寧ろ嫌なものを見せてしまったね」
『自分では見えない位置だから、つい忘れてしまうんだ』と相手を気遣う微笑みを浮かべながら口にする。
ヴェリウスのその態度に意外そうな、そして驚いたような表情を浮かべるノア。
そんな彼女の様子を見てヴェリウスは首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ、“あの方”は・・・そのようなお顔をされないもので」
そう口にするノアの顔には暗い影が落ちる。
彼が心配なのだろう、とヴェリウスは察する。
「よければ教えてくれない? “彼”のことを」
「・・・少し長くなります」
ヴェリウスが頷くと、彼女は静かに口を開く。
“ゼロ”という存在について—————
◇
「“あの方”は約十四年前にこの城にやって来たと聞いております。そしてその五年後、当時使用人見習いだった私がゼロ様の世話係に任命されました」
ヴェリウスの着替えを続けながら、ノアがゼロについて話を始める。
「ゼロ様はシス卿の命令によって、“選ばれし者”の代わりになるべく幼い頃より戦闘訓練を受けておりました。それは過酷な・・・過酷なものでした」
当時のことを思い出したのか、ノアは辛そうな表情を浮かべている。
しかし、話を途切れさせるようなことはしなかった。
「暗黒面の力を増幅させる目的の為に傷の十分な治療を受ける事も叶わず、傷の痛みと高熱により満足に睡眠を取る事も難しく、心身ともにボロボロでした。しかしそんな状態でも、ご主人様に認めてもらいたいという一心で日々の訓練に・・・」
『彼女の言う“ご主人様”とはマスター(ドゥークー伯爵)のことだろう』とヴェリウスは察した。
しかし他にも聞きたいことは山ほどある。
彼は口を挟まず、静かにノアの言葉に耳を傾けた。
「ゼロ様にとって身体に受ける傷よりも、日々の過酷な訓練よりも、ご主人様から向けられる、突き放すような態度を何よりも苦痛に感じておりました。当時は、どうしてここまでご主人様がゼロ様を冷たく、酷く扱うのかが分かりませんでした。ご主人様は思慮深く、他者を思いやる心をお持ちでしたから。しかし—————」
一呼吸置いた彼女は、ヴェリウスを見つめる。
ノアの瞳には様々な感情が渦巻いているように感じる。
「ヴェリウス様、今日貴方にお会いしてその理由が分かりました」
そう口にするタイミングで、ヴェリウスの着替えが終わる。
仕立ての良い黒い礼服に濃いブラウンのマント、そのマントを繋ぐチェーンがアクセントになっており非常に格式の高い装いだった。
「良くお似合いです」
「これは—————」
彼が身に纏っているものは、かつてドゥークーが伯爵の地位を継いでから身に着けていた物だ。
正式に伯爵の地位を継いだヴェリウスにとって、このセレノー城に存在するものは全て彼のものとなっていた。
ノアはかつて、『ヴェリウスという若者が跡を継ぐ』とドゥークーから聞いており、先代の伯爵の意を汲んだ形となった。
そしてヴェリウスはノアの正式な主人でもある。
「—————ありがとう、大切にするよ」
胸に手を置き、瞳を閉じるヴェリウスはドゥークーの存在を感じるような気がした。
彼はヴェリウスの中でいつまでも大きく、師であり、父を感じさせる存在だ。
そしてドゥークーにとってもヴェリウスは我が子のような存在だった。
自分の命よりも、この銀河の命運よりも、ヴェリウスのことを何より大切に想っていた。
「・・・・」
ノアはヴェリウスに視線を送るだけで、口を閉ざしたままだ。
彼女の中でも整理が出来ていないのかもしれない。
ゼロとヴェリウスの存在・・・その関係性を。
「・・・マスターは、“彼”が私と同じだからそんな態度を取った?」
言い難い部分だと察し、ヴェリウスは自ら口を開く。
他人の空似などでは片付けられない程、二人は多くの共通点を備えていた。
「双子?」
「いえ、そうでは・・・ありません」
「?」
どうして彼女がそう言い切るのか分からなかった。
だが、彼女の含みのある言い方に引っ掛かりを覚える。
「失礼ですがヴェリウス様は今おいくつですか?」
「? 29になるよ」
思いもよらない質問に、首を傾げるヴェリウスだったがその問いに素直に答える。
そして『いつの間にか自分も年を取ったものだ』と感じるのだった。
「そうですか・・・先代の伯爵様の対応と言い、やはりヴェリウス様が“オリジナル”なのですね」
その言葉に彼は一瞬で血の気が引く。
瓜二つの容姿、問い掛けられた年齢、そしてオリジナルという言葉。
「それは・・・」
「この城にやって来た時、ゼロ様は生まれたばかりの赤子だったと聞いております。そしてお傍に仕え出した時点で、あの方の見た目は10歳程でした」
先刻ヴェリウスが彼と剣を交えた時の容姿は、どう見てもヴェリウスと同程度の年齢だった。
だからヴェリウスは双子なのではないかと疑ったのだ。
実年齢が14歳で、肉体が現在のヴェリウスと同程度という事は答えが出たようなものだった。
「成長加速・・・・・彼は—————」
はい、お疲れさまでした。
ゼロは一年にも及ぶ眠りから覚めたばかりで、実力を発揮できない状態でした。
それでも並みのジェダイ相手ではセーバーを抜くまでもない実力を備えています。
明日の朝に、スピンオフの登場人物紹介を上げさせて頂きます。
併せてよろしくお願いします!
それではまた近いうち・・・・・