みどり色です。
次回で最終話になる予定です。
更新まで今しばらくお待ちください。
以降も短編に関しては今の更新する予定なので気長にお待ちください。
「・・・・・」
インターセプターは着陸することはなく、パイロットは高高度から身を投げ出した。
その人物は漆黒のマントを翻しながら、音もなく草原へと降り立つ。
闇夜を優しく照らす月光は彼の登場を歓迎しているかのようにさえ感じる。
「マスター!」
アナキンとゼロの戦いを見守っていたティアは、かつての師との再会と無事を喜ぶ。
ティアの姿を捉えたヴェリウスは同じく彼女の無事を喜ぶように優しく微笑む。
しかし次の瞬間、ゼロと視線を合わせるとヴェリウスの表情に影が差す。
「自ら進んで死を迎えるか」
「この世に生を受けるということは死ぬ権利を得るということだよ、ゼロ」
まるで双子のように瓜二つの容姿を持つ二人であったが、その纏う雰囲気は全く異なるものだった。
しかし以前のような迷いを感じさせないヴェリウスを見て、ゼロの表情には不気味な笑みが浮かんでいた。
これから起きるだろうヴェリウスとの戦いを心から待ち望んでいるのだ。
「ならば貴様の言う“死ぬ権利”とやらを行使する時が来たようだ」
ゼロは鮮血のような色の光剣を起動し、自らのオリジナルへと駆け出す。
対するヴェリウスはいつの間にかその手に握られていたライトセーバーを起動する。
すると何ものにも染まっていないような、それでいて他を完全に拒絶するような純白の刀身が出現する。
「殺してやる・・・!」
双方の強力な斬撃が衝突すると、それぞれのセーバーが弾かれる。
大きく体勢を崩す二人だったがその反動を利用し、全く同じ軌道で斬撃を繰り出す。
再び大きく弾かれることで双方の間に距離が生まれる。
体勢を立て直し、互いの様子を観察する。
ヴェリウスは静かに呼吸を整えると、フォームⅡマカシの構えを取る。
「・・・面白い」
そう呟くと、ゼロもまたマカシの構えに移行する。
二人はライトセーバーを顔の前に掲げ、もう片方の手を身体の後ろに回す。
儀礼の所作だ。
洗練されたその動きは、まるで鏡に映る自分を見ているようだった。
先に動いたのはゼロだった。
素早い踏み込みでヴェリウスとの間に開いた距離を一気に詰めると同時に、精度の高い動きでライトセーバーを滑り込ませる。
それを受けてヴェリウスは洗練された足運びと手首のスナップを効かせた動きでゼロの攻撃をいなす。
二人の無駄のない攻防は優雅さを感じさせ、観客を魅了するための演舞のようにさえ見える。
本来マカシの使い手同士の戦いは、熟練度の高い使用者が一方的な戦いを展開し、技術に劣る者は惨敗を喫する。
しかし二人の間で繰り広げられる技術の応酬は彼らの決闘を集結させることはなかった。
一層激しい応酬をきっかけに、二人の間に距離が生まれる。
「ヴェリウス!」
「下がっていて、アナキン」
二人の決闘を見守っていたアナキンがヴェリウスに声を掛ける。
しかしヴェリウスは助けを望んではいなかった。
ライトセーバーを下段に構え、改めてフォームⅡマカシの構えを取る。
その姿にゼロの目には、“ある人物”が重なる。
ヴェリウスの装いの影響もあったかもしれない。
しかしそれだけではない事はゼロ自身がよく分かっていた。
ヴェリウスの剣には、“その人の影”が見えるのだ。
ゼロはその影を振り払うようにフォームⅣアタロに移行する。
優雅で洗練されたマカシと違い、フォースで身体能力を強化したアクロバティックな動きでヴェリウスに襲い掛かる。
それを受けてヴェリウスも戦いの中でフォームを切り替える。
彼が用いるのは友であるオビ=ワン・ケノービの得意としたフォームⅢソレスだ。
幾度となく訓練で剣を交えたオビ=ワンの剣術を、ヴェリウスは自らの技能として吸収していた。
ザ・マスターと呼ばれるほどソレスを極めていたオビ=ワンの剣筋、アナキンにはヴェリウスとかつての師の姿が重なった。
常人には決して真似できない目まぐるしく変則的な動きで攻撃を加えるゼロだったが、最小限の動きで攻撃を防ぎ、受け流すヴェリウスの護りを突破できない。
すると突然、ゼロは高機動的な動作から地に足を着け、身体を大きく広げるような構えを取ると強力な斬撃を繰り出す。
一見洗練されていないように見え、荒々しさを感じさせるそのフォームは全ての型を極めた者が制御し得ると言われるフォームⅦジュヨーだ。
ジュヨー特有の身のこなしと、予測困難な太刀筋、そして全てを破壊するが如く強力な斬撃はソレスにとっては相性が悪かった。
何度か剣を交えるとヴェリウスの体勢が崩される。
そして高位のフォース感応者同士の戦いでは致命的となる一瞬の隙を晒してしまう。
それを見逃すゼロでは無かった。
真紅のプラズマがヴェリウスの胴体に吸い込まれるようにしてその距離を縮めていく。
その光景は戦いを見守っていた者達にとって酷くゆっくりと感じられる。
だがその行為に干渉できるわけではない。
実際に時の流れが変わった訳では無いのだ。
残酷にも“その時”が着々と近づいてくる。
「マスター!!」
◇
ティアの悲鳴にも似た叫び声が辺りに響き渡る中、ヴェリウスはその強力なフォースを身体中に駆け巡らせるとその場から大きく跳躍してゼロの後方へと着地する。
ヴェリウスの命を刈り取る為に繰り出した攻撃は、本来よりも“力”が籠ったものであった。
力んだと言ってもいい。
自らの行動によってもたらされる筈の結果を思っての高揚感なのか、感情の昂りを利用するフォームの特性故なのか、確かな理由は分からない。
だが結果として必要以上に力が乗った攻撃はその剣速を鈍らせてしまった。
自らの命を刈り取ることになるだろうヴェリウスの攻撃を防ぐために、ゼロは無理な体制でライトセーバーを構える。
しかしヴェリウスは落下の運動エネルギーを加えた強力な攻撃を繰り出し、ゼロの光剣を叩きつける。
純白の光刃はそのままゼロの鎧を切り裂いた。
胸部に装着された漆黒の鎧は彼のヒルトと共に地面に落下する。
鎧の下に着ていたアンダースーツもプラズマによる高温で焼き切られ、胸から脇腹にかけて素肌の一部が露になる。
ゼロの痛々しい傷跡を目にし、複雑な表情を浮かべるヴェリウス。
それはこの場に居る他の者も同じだった。
彼の実年齢は十代前半、本来であればこれほどの傷を負うような環境に身を置くことは異常だ。
しかし、全身に及ぶだろう傷跡はそれを現実足らしめるのに十分だった。
「光ある所には必ず影ができ、その光が大きければそれだけ影も強大になる」
その場から立ち上がりながらゼロは口を開く。
「私は貴様の影・・・」
彼は地面から拾い上げたヒルトを握り直す。
「ゼロ、過去に縛られることはない。君にも未来がある」
「未来? 笑わせるな」
ゼロの瞳には焔が揺らめいていた。
憤怒の焔が。
「言ったはずだ、私は貴様の影だと。影には過去も未来もない。ただ闇が広がるだけだ」
そう言い放つと赤いプラズマが立ち昇り、周囲を鮮血の世界へと誘う。
赤い光に照らし出されたゼロの瞳は先程までの深い青色の瞳ではなく、黄色く、鈍く光を放っているようだった。
「闇だけじゃない。闇の中には必ず光がある。私はそれを知っているよ」
ヴェリウスは一年前、闇の中には光があると知った。
瞳を閉じると愛する妻の顔が浮かぶ。
“彼女”の存在が自身の心を繋ぎ止めてくれたのだ。
「君もそれを知っている筈だよ、ゼロ」
そう続けるとヴェリウスの瞳には強い光が宿っていた。
彼もまた、ヒルトを握り直しライトセーバーを起動する。
「・・・・・」
その言葉を受け、ゼロは心の中にとても小さな光の存在を感じる。
深い暗闇の中では、一筋の光はとても大きな存在となる。
到底無視できない存在へと。
しかし彼はその光を、自身の闇で覆って行く。
一筋の光は次第に小さくなり、闇の中に埋もれて行った。
「・・・その光もまた、闇に溶けるのだ」
ゼロの言葉はとても小さいものだったが、ヴェリウスの耳にははっきりと届く。
その言葉はまるで、自身に言い聞かせるようだった。
ゼロは身体にフォースを纏い、ヴェリウスとの間の距離を一気に埋めると激しい連撃を加える。
並みのジェダイでは反応すらできないほど苛烈な攻撃だったが、ヴェリウスもまた闇の騎士と同じ速度でライトセーバーを振るい、その斬撃を防ぎ切っている。
月は雲に隠れ、周囲は闇に覆われていく。
暗順応した瞳にはライトセーバーが放つ光は強すぎる。
二人の決闘を見守る者達はその光を受けて目を細める。
しかしその戦いから目を背ける者はいなかった。
再び剣を交える二人。
遺伝学上は全く同じ個体であるが身に纏う雰囲気は全く異なり、用いる剣技にも差異が見られる。
ヴェリウスのフォームはどこか優雅さと伝統を感じさせるものだったが、対するゼロの剣は荒々しく、相手を破壊することを目的にしたものだった。
どちらの方が戦術的優位性に富んでいるかは見方によって変わるかもしれないが、習得環境や、その背景などが決定的に異なっていることは確かだった。
ヴェリウスはゼロと剣を交える度に“その違い”を感じていた。
彼の育ってきた環境や、課せられる激しい訓練、身体の傷を見てもどんな日々を送って来たのか想像に難くない。
そして、ひと際強力な斬撃を振り合った二人の間に距離が生まれる。
「・・・なんだその目は」
「え?」
「憐れむようなその目はなんだと聞いている!」
ヴェリウスの心にはゼロに対する“後ろめたさ”が生まれていた。
誰かの勝手な思惑でクローンとしてこの世に生を受け、その身に与えられるのは拷問と紙一重の厳しい訓練の日々。
勿論、ヴェリウスに責は無い。
ゼロの境遇は彼の感知するところでは無く、寧ろヴェリウスも被害者の一人と言っていい。
しかし、ヴェリウスはそう簡単に割り切れるような人物では無かった。
ジェダイ・オーダーでの生活は普通の人間に比べれば不自由も制約も多く、課せられる訓練は厳しいものだった。
しかし聖堂での暮らしは安全だった。
多くの偉大な騎士に護られ、同世代の仲間と過ごした日々に、命の危険を感じることなど皆無だった。
本来、後ろめたさを感じることなどない。
しかし、どうしても考えてしまうのだった。
彼の苦しみの一端には自分に原因であると。
ある意味では恵まれた環境で育った自身の境遇と、痛みと苦しみに塗れたゼロの日々を比べてしまう。
「・・・すまない。君が受けた苦しみの原因は私にもある」
「なんだと?」
ヴェリウスは俯き、謝罪の言葉を口にする。
それを受けたゼロの表情が微妙に変化する。
「憐れんでいるのか? 貴様が、私を?」
「違う。そんなこと—————」
「何が違う? その感情は貴様がオリジナル故に抱くものだ。憐れみとは己よりも下位の者に抱く感情だ。誰も自分より優れている者を憐れんだりはしない。自分よりも不遇な者を嫉んだりはしない。貴様は自分自身が他者よりも優れていると自覚しているのだ」
私がゼロを憐れんでいる・・・?
言葉では否定したが、心から否定することができなかった。
彼よりも恵まれた環境で育ったことを自覚し、対照的なゼロに後ろめたさを感じたのは事実だ。
「貴様の“それ”が罪だというのなら、贖罪する方法が一つだけある」
そう口にすると、彼はヴェリウスに向かって歩き出す。
二人が手を伸ばし合えば触れ合えそうな距離。
月光が浮かび上がらせる騎士の姿は、まるで湖に映し出される自分自身を見ているようだった。
「最後には光も闇に溶けるのだ。常闇で眠るがいい」
そう言い放つとゼロは深紅のライトセーバーを構え、真っ直ぐに突き出す。
“その瞬間”が刻々と迫ってくる。
しかし、二人に向かって駆け出す三つの影があった。
「マスター!!」「ヴェリウス!!」「ゼロ様!!」
ティアはライトセーバーを起動し、二人の間に駆け出し—————
アナキンはゼロに向かって起動したライトセーバーを突き出し—————
ノアはゼロを止めるために走り出す。
俯いていたヴェリウスが顔を上げると、ティアの背中が目に入る。
ヴェリウスは長い時間を彼女と過ごしてきたが、その背中を見ることはあまりなかった。
いつも弟子の前に立ち、その身に危険が及ばないようにしてきたからだ。
しかし弟子離れできなかったのは自分の方だったのかもしれない。
いつの間にかこんなにも大きく、立派に育っていたのだ。
彼の目の前にいるのは立派な、偉大なジェダイの騎士だった。
◇
どうして・・・?
目の前の偉大なジェダイの騎士が突然膝から崩れ落ちる。
ヴェリウスは彼女を受け止める為に腕を出し、抱きとめる。
「ティア・・・? ティア!!」
ヴェリウスは膝を突き、かつての弟子の名を叫ぶ。
ティアの腹部は強力なプラズマによって貫通し、人体が焼け焦げた独特な匂いが周囲に漂う。
「マ、スター・・・・ご無事・・・ですか?」
ヴェリウスは目の前に広がる光景が信じられなかった。
過度なストレスにより、視野が極端に狭くなる。
彼の目には、今にも命の光が消えそうな弟子の姿しか映っていなかった。
「ティア、どうして—————ティア・・・!」
ヴェリウスの瞳からは留めなく涙が零れ落ちる。
どうしてこんな事になった?
何故ティアが死にかけている?
ヴェリウスの頭の中は混乱の渦に陥っていた。
◇
何故?
「ゼロ・・・さ、ま」
何故ノアが倒れている?
彼女は明らかに死に掛けていた。
アナキンが繰り出した光刃はゼロを倒すことなかった。
彼を倒すために突き出された攻撃はノアによって防がれたのだ。
自身の身体を盾にすることで。
思いもよらぬ乱入者によって攻撃が防がれたアナキンはその場に立ち尽くす。
彼の脳裏ではある出来事がフラッシュバックしていた。
一年前、パドメをその手で突き刺した時のことを。
恐怖と絶望に染まったパドメの顔が思い出される。
アナキンは虚無に染まった表情で、ただゼロとノアを眺めていた。
「お逃げ・・・下さい」
「ノア、何故邪魔をした」
「お逃げ、下さい・・・生きていれば・・・きっと」
「・・・・・」
ゼロの心の奥底、無限の闇が広がる中で小さく、だが確かに存在する光が今にも消え去りそうになっていた。
ヴェリウスの言う通りだった。
ゼロの心の中にも光が存在した。
ノアという光が。
ノアは想い人の幸せを願っていた。
人並みの幸せや喜びを知らず、痛みや怒り、憎しみや絶望と言った感情しか知らない世界で生きてきたゼロの幸せを。
「お慕い、申しております・・・ずっと、ずっと」
ノアの瞳に涙が溜まり、一つの雫となって頬を伝う。
その涙のように、彼女の命もまたその場から零れ落ちるのだった。
◇
「マスター・・・?」
雲から月が顔を出し、ヴェリウスを探すかのように宙を彷徨うティアの手を照らし出す。
彼がその手を取ると、ティアはヴェリウスの頬に手を添える。
月明かりで照らし出される彼女の傷は明らかに致命傷だった。
ティアの体温は低下し、脈拍も小さくなっている。
「ティア、私はここにいるよ」
「はい、貴方を・・・感じます」
ティアはフォースを通してヴェリウスの存在をより強く感じていた。
同時にヴェリウスの混乱が渦巻く無秩序な感情が流入する。
「ずっと忌まわしく思っていたこの力も、悪い事ばかりでは・・・ないようですね」
ヴェリウスの感情を受け、ノアは微笑みを浮かべる。
彼がどれほど自分のことを想っているのか、それを感じ取れているからだ。
「ティア・・・?」
彼女の中で、ヴェリウスと出会ってからの出来事が走馬灯のように駆け巡る。
ヨーダに連れられ、初めてジェダイ評議会場で出会った時のこと。
ヴェリウスは無自覚だったが彼から受ける厳しい訓練。
恋敵であり、親友でもあるパドメとヴェリウスを取り合う時間。
戦時ではあったが、ヴェリウスと共に銀河を飛び回った日々。
黄昏時、遠くを見つめるヴェリウスの横顔に心が高鳴ると同時に、『何を想っているのか?』と気になって仕方がなかった。
初めて出会った時も彼は“遠く”を見つめていた。
寂しさを感じさせる表情が、その笑顔が、ジェダイ・コードで禁じられた感情を起こさせた。
この人の為に生きたいと思った。
「昔のように、マスターと・・・もっとご一緒したかった」
「ティア、これからだって一緒にいられるよ!」
「・・・はい」
彼女にはそれが無理だと分かっていた。
分かっていながら、ティアは笑顔を浮かべる。
それが現実にならないとしても、“そうなったこと”を想像するだけで心が温かくなるのだ。
「そうだ。今度は一緒に———昔のように旅をしよう」
「・・・はい」
ヴェリウスの瞳からは留めなく涙が零れ落ちている。
しかし彼は気丈にも笑みを浮かべる。
想い人の感情を受けて、ティアもまた同じように涙を流しながら微笑みを浮かべている。
「っ、一緒に、ずっと・・・一緒に!」
「どうか私の分まで、生きて—————」
「ティア、ダメだよ! ティア!!」
「—————して、あい・・・います。マス、ター・・・・・」
ヴェリウスの頬に添えられていたティアの手が重力に従い草原に横たわる。
周囲は酷く静かだった。
耳に届くのは優しく吹く風の音だけだった。
今はこの穏やかな気候が嫌に腹立たしく感じる。
「・・・ティア?」
フォースと密接な繋がりを持つヴェリウスはティアの命が失われるのを感じる。
先の戦争で、嫌というほど経験して来たもの。
フォースが生命の消失を報せたのだ。
「ティア? ティア・・・!」
ヴェリウスは何度も彼女の名を呼ぶ。
しかし、ティアがその言葉に答えることはない。
微笑みを浮かべているようなその表情は、まるで眠りについているようだった。
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「死んだか」
ゼロはただ事実を述べる。
その言葉には何の感情も含まれていないようにさえ感じる。
いや、“そう聞こえる”ようにしているのかもしれない。
「・・・余計なことを」
彼の視線の先には長い間、世話係として仕えていたノア・デラセールが横たわっている。
一瞬、名残惜しさを感じさせるように彼女の姿を横目で捉えながらヴェリウスに向き直る。
ヴェリウスはかつてティアと呼ばれた骸を抱きながら涙を流している。
ゼロは振り返りノアの姿をもう一度その目に映す。
またも彼の表情に変化は無かった。
「どうして、どうしてこんなっ・・・!」
何故ティアが?
どうして?
命を落とすなら私の筈だった。
決して彼女じゃない。
ヴェリウスの頭にモールの最期の言葉が響く。
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『・・・貴様には理解できまい』
『その・・・ままでは“あの方”には勝てない————必ずや後悔することにな・・・る』
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モールは予言していた。
このままでは後悔する時が来ると。
その甘さが、優しさが、自分自身を苦しめることになると。
それは自分だけでなく、周囲も不幸にすることだった。
「ティア・・・」
ヴェリウスは自分の心に大きな穴が空いたような感覚に陥る。
身体には力が入らず、無気力感に陥る。
「その女も死んだか」
ヴェリウスはその言葉を受けて少しずつ顔を上げる。
その言葉の先にはゼロがいた。
「君も泣いているの?」
「なに・・・?」
ヴェリウスにはゼロが泣いているように見えた。
変化の無いゼロの表情だったが、ヴェリウスには彼が涙を流しているように見えたのだ。
「———立て、今度こそ息の根を止めてやる」
ゼロはライトセーバーをその手に握る。
しかし起動はしていなかった。
いや、“起動できなかった”のだ。
ティアは二人の間に入る際、起動していたライトセーバーを自身に向かう光刃にではなく、ゼロの持つライトセーバーを破壊する為に使ったのだ。
自身の命よりも、最後までヴェリウスに降りかかるだろう危険を排除することを選んだのだ。
「ティアが命を落としたのは私のせいだ。“君の言う通り”、私が弱かったから・・・」
ヴェリウスはその腕に抱いたティアに視線を落とす。
彼女の顔には苦しみの感情などは浮かんでおらず、微笑んでいるようにさえ見える。
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『マスター・・・貴方を失うくらいなら私は死を選びます』
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かつてコルサントに存在するグレート・ツリーの前でティアが放った言葉だ。
大切な人を守る事が出来るのなら、ティアは自分が命を落としてもよかったのだ。
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『あの方・・・いや、“ドゥークー”は弱かった。だから死んだのだ』
『ヴェリウス、貴様も同じだ。弱さ故に守れない・・・何も成し遂げられはしない』
『私は貴様と同じ過ちは犯さない。そして全てを手に入れる』
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ゼロも同じように、かつてヴェリウスに向けて放った自らの言葉を思い出していた。
自身の傍らに横たわるノアに視線を向けながら口を開く。
「・・・私も貴様のことは言えないようだ」
とても小さい声だった。
しかし確かにゼロの口から発せられた言葉だった。
「ゼロ、君は—————」
ヴェリウスの言葉は突然月明かりを遮るほどの巨大な物体の出現によって遮られる。
それは黒い船体に金色のラインが施されたナゥーア級ヨットだった。
ファースト・ライトと呼ばれるこのヨットは、クリムゾン・ドーン所属のものだ。
◇
戦場にはとても似つかわしくない豪華絢爛なそのヨットから、知覚種族のハイロボン種族で構成された保安部隊、“ハイロボン・エンフォーサー”が出現する。
保安部隊が逆傘型に展開すると、部隊に遅れてヨットから一人の男性が現れる。
「・・・やはり貴様の差し金か」
ゼロの言葉の先に現れたのは近人間種族のドライデン・ヴォスと呼ばれる旧クリムゾン・ドーンの表向きの首領だった。
「貴方には十分に役に立ってもらいました。モール卿亡き今、もう充分なのです」
クリムゾン・ドーンを影で支配していたモールだったが、ドライデン・ヴォスはその地位を長い間狙っていた。
“漆黒の騎士”の出現と、それによるモールの失脚はヴォスの内なる野心を掻き立てることになった。
ゼロとモールの影響力により、クリムゾン・ドーンのライバルに成り得る犯罪者組織を取り込んでゼロ・ドーンが発足した。
これにより、ドライデン・ヴォスの想い描いたシナリオは大きく前進することとなる。
現在共和国軍と大規模な戦闘を繰り広げているのは主に独立星系連合の残党と、クリムゾン・ドーン以外の犯罪者組織だった。
この戦争でビジネスの障害になるだろう犯罪者組織や共和国は大きく弱体化する事になる。
強さやカリスマ性を兼ね備えていたゼロだったが、政(まつりごと)、謀略の類に関してはさほど脅威に足り得ないと判断したヴォスはこの機会を逃すことはなかった。
ドライデン・ヴォスは最終的に自身がゼロ・ドーンの首領となり、裏の世界を掌握することを画策したのだ。
先の大戦で疲弊している共和国に打撃を与え、独立星系連合の残党と他の犯罪者組織を弱体化させればゼロ・ドーン内部のパワー・バランスは一気に崩壊する。
旧クリムゾン・ドーンの勢力が組織の中核となることは言うまでもないだろう。
全てドライデン・ヴォスの画策した通りに進んでいた。
それに加えて“モールの排除”という障害がこんなにも早く取り除かれるとは彼にとって嬉しい誤算だった。
これ以上、共和国との戦争に関わる必要は無かった。
彼は残っている最大の障害、最後の仕事をこうして片付けにやって来たのだった。
「・・・利用していたつもりが、逆に利用されていたという訳か」
「ご安心を。あとは私が全て引き継ぎます」
全てを悟ったゼロが言葉を続ける。
対するドライデン・ヴォスの顔には終始笑みが浮かんでいた。
全て自身の想い描いたとおりに物事が進んでいることに喜びが隠せないようだった。
無表情の漆黒の騎士はその場から静かに歩み出る。
「ゼロ、一人では無理だ」
中隊規模の保安部隊に加え、ナゥーア級ヨットには四連のレーザー砲が2門装備されている。
いくらゼロでも一人で対処できるレベルを超えているとヴェリウスは考えた。
「・・・安心しろ。奴らを葬った暁には今度こそ貴様の息の根を止めてやる」
「待っ—————」
「殺れ!」
ヴェリウスの声をかき消すようにヴォスは部隊に攻撃を開始させる。
数えきれない程の光弾が一斉にゼロに向かって飛来する。
ゼロはその強大なフォースを用いて、フォース・フィールドを形成する。
そのフィールド内に侵入した光弾は時が止まったかのようにその場で停止する。
かつてジオノーシスの戦いでヴェリウスが用いた技と同じものだった。
眩しい程の無数の光弾がフィールド内に留まると、ゼロはフィールドを解放する。
すると、まるで映像の逆再生のように撃ち出された光弾が保安部隊目掛けて飛来する。
ゼロのカウンターによって少なくない数の敵が倒れるが元々の人数が多い事もあり、保安部隊の勢いは衰えない。
ゼロはその場から大きく跳躍すると、保安部隊まで距離を一気に詰める。
ライトセーバーを失っている為、彼はフォースを用いて戦うしかなかった。
しかしそんな状態でも、ゼロは鬼神の如く強さを見せる。
“盾代わり”と言わんばかりに兵士の一人を引き寄せると即座にその首をへし折り、保安部隊へと距離を詰めていく。
向かってくる光弾は盾代わりの兵士に受けさせ、保安部隊にある程度接近すると強力なフォース・プッシュで“盾”ごと数人を吹き飛ばす。
その後もフォースによる超人的な反射神経とごく近い未来を先読みし、自身に向かってくる光弾を寸の所で回避する。
とても人間の成せるものではなかった。
ドライデン・ヴォスは実際にゼロ強さを目の当たりすることで、その異常性を肌で感じたようだ。
踵を返すように自らが所有する優雅なヨットへ歩み出す。
その間にもゼロの強力なフォースに晒された保安部隊の兵士たちは命を落としていくのだった。
しかし如何にゼロといえども全くの無傷とはいかなかった。
光弾を避けるのにも人体の物理的な活動限界というものは存在する。
跳躍し、着地をすれば次の動きに掛かる時間を無にはできず、関節を限界以上に可動させることも不可能だ。
どれほど強力なフォースを用いることができるフォース・センシティブといっても、それを扱うのは人間なのだ。
生物である限り、種族の限界というものは必ず存在する。
ティアやアナキン、ヴェリウスとの連戦で少なからず疲弊していたのかもしれない。
少しずつ、擦る程度だがブラスターによる被弾が増えてくる。
だが、ゼロが止まることはなかった。
数人の兵士たちを宙に浮かべたかと思うと、強力な圧を掛けて地面に衝突させる。
一人の兵士がブラスターを発砲すると、手を突き出して光弾を反射させる。
遠距離からの包囲射撃があれば、自身を覆うように周囲の兵士たちを引き寄せてドーム型の“盾”を形成する。
ゼロの背中目掛けて飛び掛かる者は目に見えない力によって首を締め上げられ、事切れるのだった。
気付けば残りの保安部隊も数えるほどになっていた。
しかし次の瞬間、ゼロは強い衝撃と共に地面に衝突する。
地面に倒れていることで、初めて自身が宙に吹き飛ばされたことを認識するのだった。
幼い頃から受けた長く、激しい訓練の影響で“痛みの感覚”に鈍くなっているゼロはすぐにその場に立ち上がろうとするが、よろめき膝を突く。
それは身体へのダメージが決して小さくないことを告げていた。
痛みを感じ難いといっても、それ自体が無くなる訳ではない。
身体へのダメージと疲労は確実に蓄積する。
『さすが、と言うべきでしょうね。だがここまで。私の忍耐力も限界だ』
それはヨットから発せられるドライデン・ヴォスの声だった。
彼は自らレーザー砲を操作しているのだった。
ゼロと保安部隊が戦いを繰り広げている隙に上空に浮かび上がっていた。
膝を突くゼロは荒くなっている呼吸を整える。
その場から立ち上がるが、その身体はふらついている。
「ちゃんと立つんだ」
ゼロのふらつく身体を支える人物。
それは先程まで命の取り合いをしていたヴェリウスだった。
「ごめんね、彼女たちを・・・移動させていたから遅くなってしまった」
ヴェリウスは戦意を喪失しているアナキンに加え、ティア、ノアの身体を被害の及ばない場所まで移動させていたのだ。
「貴様・・・」
「彼女たちはアナキンが守ってくれる。今はこちらを何とかしよう」
ヴェリウスの心はまだ悲しみで満ちていた。
だがそれよりも、これ以上ティアたちが傷つくことを許すことができなかった。
身体が接触していることでより強くヴェリウスの感情がフォースを通じてゼロの中に流れ込む。
ゼロが感じたということは、ヴェリウスも“それ”を感じ取っているということだった。
心の奥底、闇で覆っている筈の“それ”を・・・。
「・・・私の邪魔をすれば先に貴様を排除する」
光と闇の騎士はナゥーア級ヨットへと向き直る。
たった二人の人間が挑むには巨大すぎる敵だった。
しかし—————
ヨットのレーザー砲が標的に照準する為に稼働する。
彼らはただの人間ではなかった—————
ドライデン・ヴォスがレーザー砲のトリガーを操作する。
その二人は当代・・・いや、長きに渡るジェダイとシスの歴史を見ても歴代で最高の騎士なのだ。
ナゥーア級ヨットからレーザーが発射される瞬間、ヴェリウスはフォースを用いてフィールドを形成する。
先程ゼロが用いたものと同じ技術だ。
対人用のブラスターとは文字通り比較にならないほど強力なエネルギーが発射される。
直撃すれば人体など一瞬で破壊される。
しかしフィールド内に侵入したエネルギーはヴェリウスに傷を付けることはできなかった。
その隙にゼロはフォースを身に纏うことでヨットへと跳躍する。
ヴェリウスはゼロに被害が及ばないようタイミングを見計らいレーザーを反射させることでヨットの装甲にダメージを与える。
フォース=センシティブの中でもトップクラスのミディ=クロリアン数を誇るゼロはダメージを負った装甲に狙いをつけ、その強大なフォースで船体の装甲を歪めていき、滞空している間にヨットのハッチを強引に引きちぎる。
そうなればゼロを阻む壁は無くなった。
彼は着地と同時に船内へと侵入を果たした。
◇
<ナゥーア級ヨット ファースト・ライト ドライデン・ヴォスの書斎>
船内に残っていた最低限の保安部隊は既に制圧され、自らの書斎に逃げ込んだヴォスに逃げ道は残されていなかった。
クリムゾン・ドーンの表向きの指導者であるドライデン・ヴォスのオフィスであるこの書斎は、ファースト・ライトの最上階付近に位置していた。
戦利品と称して古代の遺物や芸術品の類が多く飾られている。
まるで博物館のような室内はこれ見よがしな富の象徴と言えた。
そんなヴォス自慢の書斎は、ゼロの瞳にはまるでごみの掃き溜めのように映っていた。
「い、一時休戦と行きませんか? 私と組めば全てが手に入ります! ご覧ください! この富を、この優雅さを!」
ヴォスはゼロの瞳に宿る感情に気づいておらず、いかにこの戦利品が素晴らしいか、どれほどの富が手に入るか、まるで演説のように語り続けている。
しかしゼロの表情は変わらず、無言でその距離を詰めていく。
恐怖に支配されたヴォスは突然駆け出し、展示されていた両刃の近接武器をその手に持つ。
芸術的な彫刻の入ったナックルのような形状のその武器は、ブロンジウムとカーボン・エッジによって構成された特注品だった。
その状態でも十分な切断力を備えていたが、独自のパワー・セルが収容されていることで単分子エネルギー・コードが刃に流れることでその威力を増大させることが可能だった。
キューゾ・ペターと呼ばれるその近接武器のパワー・セルを起動すると刃が赤く発光する。
言葉にならない声を上げながらドライデン・ヴォスはゼロに向かって駆け出し、キューゾ・ペターを突き立てる。
“討ち取った”
そう考えたのだろう。
刃がゼロの左脇腹に深々と突き刺さり、ヴォスは大量の汗を流すその顔に笑みを浮かべる。
しかしゼロが微動だにしないことを不審に思い顔を上げる。
「な、なぜ・・・」
「痛みなど、私には一番縁遠い感覚だ」
闇の騎士の姿に変化は無かった。
ゼロという強大過ぎる存在に、その威圧感にヴォスは耐えることができなかった。
ゼロが一歩進めば、ヴォスは二歩下がり、最終的にはつまずき、地面に倒れ込む。
「“これ”が貴様の言う芸術とやらか」
自らの脇腹に突き刺さったキューゾ・ペターを無造作に引き抜き、眺めながら口を開く。
その刃には赤い血が伝っている。
「や、やめろ・・・」
「私には理解できんな」
ゼロは素早くキューゾ・ペターを持ち直すと、目にも留まらぬ速度で投擲する。
吸い込まれるように真っすぐ飛来すると、持ち主の命を刈り取るのだった。
はい、お疲れさまでした。
ティアとノアの扱いは正直最後まで悩みました。
更新が遅れていた理由の9割9分9厘はここです。
彼女たちの生存ルートも頭にはありますし、その方が良かったじゃんと思っている自分もいます。
ただ、優しく(甘い?)、どこか抜けているヴェリウスが成長するには重要な出来事だったと思っています。