二人の騎士の活躍により、湖水地方には元の静けさと穏やかさが戻っていた。
それは戦いの終わりを告げると同時に、死者を悼んでいるようだった。
「ヴェリウス、僕は—————」
「アナキン、君は自分の心に巣食う闇を克服できていないんだね」
ヴェリウスの言葉にアナキンは視線を落とす。
彼の言う通りだった。
アナキンは過去に犯した罪に加え、暗黒面を克服できてはいなかった。
「でも・・・」
ヴェリウスが言葉を続けたことでアナキンは顔を上げる。
どんな叱責だろうと、アナキンは受け入れるつもりだった。
しかし、ヴェリウスの顔には微笑みが浮かんでいた。
「君は一人じゃない。一緒に乗り越えよう? 私たちは生きている・・・その責任があるんだ」
『そうでしょ、ゼロ?』と続けながらヴェリウスは少し離れた場所で佇むゼロに向き直る。
彼は草原に横たわるノアとティアを静かに見つめていた。
「—————余計なことをして自ら命を捨てるとは」
「余計なこと? 余計なことだって・・・?」
そう口を開いたのはアナキンだった。
明らかに怒りの感情を抱いている。
彼はその感情を抑え込もうとも、隠そうともしていない。
「彼女が・・・彼女たちがどんな想いでその身を犠牲にしたと思っている!?」
アナキンは勢いよくゼロに向かって行くと、その胸倉を掴み上げる。
切り裂かれていたゼロの衣服がビリビリと音を立てさらに破れていく。
「アンタの為だ! 彼女にとって何よりもアンタの命が大事だったんだ!!」
「やめるんだ、アナキン」
ヴェリウスが間に入ろうとするが彼は止まらない。
アナキンには、ゼロとかつての自分が重なって見えていた。
1年前、多くのジェダイをその手に掛けた時のことだ。
あの時、マスターはパダワンを守り、パダワンはイニシエイトを、イニシエイトは自分よりも幼いイニシエイトを逃がすために自ら盾になっていた。
一人、また一人とその命を奪う度にアナキンの心は壊れて行った。
何故なら彼らがどんな気持ちで“自分の命を犠牲にしているか”、それが理解できたからだ。
アナキンは自らの心を守る為にはその行動を正当化し、ジェダイが邪悪の権化だと思い込むしかなかった。
まさにゼロの行動は、かつての自分の罪を見せつけられていると同時にその罪の大きさを再認識させられているようだった。
アナキンは自分が嫌いだった。
その行動も犯した罪も、到底償いきれるものでは無いと考えていた。
「・・・分からないのか? 本当に何も感じないのか!!」
その咆哮とも取れる問い掛けは、アナキンの心からの叫び声だった。
彼の叫び声が穏やかな風が吹き付ける草原に響き渡る。
「アナキン・・・」
ヴェリウスは静かに、だが確かな声でアナキンの名を呼び、その肩に手を置く。
アナキンがぎこちない動きで首を動かすとヴェリウスと目が合う。
ヴェリウスは瞳を閉じ、首を横に振っている。
再び視線をゼロに戻すとアナキンは驚いたような表情を浮かべ、その手を静かに降ろすのだった。
アナキンはそれ以上言葉を発することは無かった。
ゼロの瞳が全てを物語っていたからだ。
銀色に輝く月、その光を照らし出すのは一筋の雫だった。
まるで瞳の奥に宿す痛みを洗い流すかのように—————
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こうして共和国と銀河最大の犯罪者組織連合間で勃発した大規模な戦闘は終結した。
結果論ではあるが、銀河に蔓延る犯罪者組織の指導者の多くと独立星系連合の残党、その構成員を討ち取ることに成功したこの戦いは共和国にとって大きな益となるものであった。
しかし払った犠牲は決して小さいものでは無い。
戦いは、戦争は、いつも残された者達の心に傷を残すのだった。
<惑星ナブー 首都シード>
太陽が沈み掛ける時間、シードに存在する葬儀用の寺院に人々が集まっていた。
かつてジェダイマスターのクワイ=ガン・ジンの葬儀が執り行われた場所だ。
そこにはナブー王室を始め、グンガン、軍属、ジェダイの騎士など様々な人種が集まっている。
太陽が沈み、闇の訪れと共にティアとノアの葬儀が執り行われる。
ナブーでは故人を火葬することで惑星にその生命力が回帰すると信じられていた。
人々は静かに焔を見つめる。
焔は揺らめき、その場の者達を優しく照らしている。
まるで—————
◇
「—————ティア」
葬儀が終わり、ヴェリウスはヴァリキーノ島の屋敷に身を寄せていた。
テラスから穏やかに揺れる湖に向きながらかつての弟子のことを考えていた。
先の襲撃のこともあり、ヴェリウスはパドメの護衛という形でナブーに一人残ったのだ。
「ヴェリウス?」
その後ろから優しく声を掛けるのはパドメだった。
溺れそうなほどの悲しみに包まれている夫の傍に歩み寄り、その腕に触れる。
暫しの時間、その空間は静寂に包まれるのだった。
◇
「私は・・・・・」
ヴェリウスは徐に口を開く。
先程、アナキンを諭すような言葉を口にしていたヴェリウスだったが、“弟”の前でただ無理をしていただけだった。
その顔は深い悲しみの色に染まっている。
「ティアを守ることができなかった。かつて、彼女に命を救われたのに—————」
一年前、アナキンのライトセーバーによって受けた傷でヴェリウスは生死の境を彷徨った。
今もこうして命があるのは間違いなくティアの存在があったからだ。
彼女の想いが、彼女の愛が、ヴェリウスの命を救ったのだ。
あの時だけじゃない。
先の戦いでもそれは同じだった。
「—————たった一人の弟子さえ救うことができない」
「・・・・」
「ジェダイの教えでは“死はなくフォースがある”と、悲しみや執着は暗黒面に繋がると・・・でも私にはできない。彼女を喜んで送ることなど」
「ヴェリウス・・・」
愛する妻の前で気が緩んでいるのだろうか。
ヴェリウスの口から心の悲鳴が漏れ出す。
その感情を受け、パドメは夫を抱きしめる。
それがきっかけとなったのか、ヴェリウスの瞳から涙が零れ落ちる。
「私にはフォースについては分かりません。ですが、貴方はジェダイである前に一人の人間です。大切な人を亡くして、悲しまないということがどうして出来ましょうか?」
「彼女が命を落とすことなんて無かったんだ。倒れるのは私の筈だった・・・!」
ヴェリウスは酷く後悔していた。
あの時、戦意を無くさなければ、本気で戦っていればティアが犠牲になることはなかったと。
ヴェリウスはゼロを恨んでなどいなかった。
ティアもノアも、命を落としたのは自分の責任だと考えていた。
「・・・彼女は貴方のことを大切に想っていました」
パドメは初め、ティアがヴェリウスを兄のように慕っているのかと思っていた。
しかしある時、彼女の想いは自分と同じだと気づいた。
それはティアも同じだった。
ある時、パドメがヴェリウスを想っていると知ったのだ。
しかし、ヴェリウスの気持ちがパドメに向いていることを知り、ティアはその想いを心の奥深くにしまい込んだ。
ティアは決めたのだ。
ヴェリウスへの想いを秘めながら、彼を支えようと。
想い人の幸せを心から願って。
「私も彼女のことを大切に想っていた。師弟という関係を越えて、ティアを本当の妹のように・・・でも」
「・・・・」
「私は何一つ、彼女に応えることができていなかった。本当にダメなマスターだね。最期になるまでティアの気持ちに気がつくことすらなかった。彼女はずっと、私を想い・・・支えてくれて・・・いたのに」
ヴェリウスは膝から崩れ落ちる。
その姿はまるで、パドメに縋り、許しを請う姿のようだった。
しかしパドメもその場に膝を着き、ヴェリウスをしっかりと抱きしめる。
彼女の瞳からも、ヴェリウスと同じように涙が溢れている。
「今はただ、彼女を想いましょう。悲しんでも良いのです。それが・・・人なのですから」
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先の戦いで犯罪者組織の連合体、ゼロ・ドーンが壊滅した。
パイク・シンジケートやハット・クラン、ハクシオン・ブルード、クリムゾン・ドーンなど、これらの犯罪者組織は協力こそしないものの、それぞれが縄張りを持ち、今まではある意味バランスの取れた状況が続いていた。
しかし各勢力が大きな打撃を受け、指導者を失ったことでまさに混沌の時代が訪れた。
古い体制が破壊されたことで、
『誰もが新時代の頂点に君臨できる』
そう考えた犯罪者たちは欲望の赴くままに行動した。
各地で略奪や殺し、誘拐や破壊などの犯罪行為が拡大した。
共和国も対応に追われたが、クローンだけで銀河全域をカバーすることは不可能だった。
しかしある時から、ギャングや犯罪グループよる犯罪行為が減少していった。
◇
<アウター・リム・テリトリー 宇宙ステーション>
ここは銀河外縁部に数多く存在する宇宙ステーションの一つだった。
燃料の補給や簡単な整備が受けられるが、このようなステーションを訪れる者達の目的は別にあった。
各ギルドの構成員や仲介人が、賞金稼ぎやならず者に仕事の斡旋をしているのだ。
銀河に蔓延る犯罪行為、所謂“仕事”を請け負う為の場所が銀河のあちこちに存在していた。
しかし、この宇宙ステーションはいつもと様子が異なっている。
ピット・ドロイドが忙しなく整備する音も、酒場から流れる音楽や酔っ払いによる騒音が聞こえなかった。
そればかりか離着陸パッドには船の残骸が散らばり、火を上げている。
通路の壁にはブラスターによる弾痕が刻まれ、酒場には犯罪者たちの死体が横たわっていた。
「や、やめろ・・・やめてくれ!」
黒いローブに身を包んだ長身の人物が生き残った犯罪者に歩み寄る。
その人物の顔はフードに隠れて、確認することができない。
犯罪者は恐怖に支配されていた。
目の前の人物の歩みは、まるで自らの死の訪れを目の当たりにしているようだった。
生き残りの犯罪者はその震える手でブラスターを構え、謎の人物に向かって発砲する。
ブラスターからは赤い光弾が次々発射されるが、狙いの定まらないその攻撃が命中する事はなかった。
謎の人物が軽く手を動かすと目には見えない力で犯罪者は武装解除され、そのまま宙吊りになる。
苦しみながら自らの手で首を抑えるが意味の無い行動だった。
犯罪者が苦しみから解放されたのはその命が消えた時だった。
何かが折れるような音がしたかと思うと犯罪者は沈黙し、糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちる。
謎の人物は徐に振り返ると出口に向かって歩み出す。
その姿を数名の人間が息を潜めて見つめている。
謎の人物は彼らの存在に気づいていたが、あえて命を奪うということはしなかった。
その人物が殺めたのは犯罪者組織の構成員や、ならず者達だけだった。
このように銀河外縁部を中心に、犯罪者組織の残党やならず者たちが襲撃される事件が頻発していた。
目撃者も少なくなかったこともあり、単独で行動する神出鬼没の殺し屋の噂はすぐに広まった。
この謎の殺し屋は比較的規模のある場所を狙うケースが多いこともあり、犯罪者組織も罠を張って待ち構える行動を取ることもあったが全て失敗に終わったという。
犯罪に手を染める者達が、いつ現れるかも分からない殺し屋の影におびえる日々を送ることになったのは言うまでもないだろう。
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共和国とゼロ・ドーンの間に起きた戦いが集結し、早くも一か月が経とうとしていた。
先の戦いが幻であったかのようにナブーでは穏やかな時間が流れている。
しかし、それは決して幻などでは無く現実に起きたことなのだ。
パドメ・アミダラ暗殺の危険が過ぎ去った訳では無いが、今の共和国にはヴェリウスをいつまでもナブーに留まらせておけるほどの余力は残されていなかった。
<惑星ナブー ヴァリキーノ島の屋敷>
「パドメ」
二人は朝食を食べ終え、穏やかな時を過ごしていた。
ヴェリウスは向かいの位置からパドメの隣までソファーを移動する。
ずっと考えていたことを伝えるために彼女の手を握り、その目を見てしっかりと伝えようとする。
「私は君を愛している。嘘偽りなく、心からの気持ちだよ」
「・・・き、急にどうしたのです?」
ヴェリウスの改まった姿にパドメは慌てた様子だ。
いや、動揺しているようにさえ見える。
何か嫌な予感がしたのか、彼女はソファーから立ち上がり目的もなく歩み出す。
「待って、パドメ」
「やめて!」
ヴェリウスも立ち上がり、この場を去ろうとするパドメの腕を掴む。
しかし彼女はその腕を振りほどく。
「・・・パドメ」
「やめ・・・て」
背中を向けたままのパドメ。
その肩は小刻みに震えていた。
ヴェリウスはその小さな背中を優しく包み込む。
「不安なのです。また貴方がいなくなってしまうと考えたら・・・ティアのように貴方が・・・私は—————」
静かに口を開いたパドメだったが、その心は不安に支配されていた。
彼女はヴェリウスと離れている間、ずっと不安と孤独を感じていたのだ。
さらにティアという大切な友人を失ったことで最悪の事態が、“その時”が迫ってくるようさえに感じてしまう。
『ヴェリウスを離してしまえば、もう二度と彼と会えなくなる』そんな考えが頭から離れない。
「ヴェリウス、行ってはなりません・・・行かないで」
パドメはむせび泣き、ヴェリウスに懇願する。
それがわがままだと理性では理解していた。
だが感情では、心は受け入れることができなかった。
「パドメ・・・」
ヴェリウスはパドメの正面に回り、優しく、だがしっかりと抱きしめる。
それがきっかけとなり、パドメは声を出して泣き出してしまう。
まるで子供のように、自分自身が十代の学生にでも戻ったかのようだった。
◇
いつまでそうしていただろうか?
パドメが落ち着くまでずっとそうしていた。
私がパドメに告げようとしていたことは、“また”彼女を傷つけるだろう。
これ以上大切なものを失いたくない。
失わない為にどうすれば良いか、ずっとそれを考えていた。
待っているだけじゃダメだ。
誰かが変えてくれる、そんな甘い考えではダメなんだ。
私にはその責任がある。
「パドメ、私はこの銀河をもっと良いものにしたい」
「———っ、ヴェリウス?」
「初めは君と静かに、隠れて生きていくことも考えた。でもそれではダメなんだ」
「どうしてダメなのです!? 貴方はずっと大変な思いをしてきました。国の為、民の為にその身を犠牲にしてきました! もう・・・幸せになって良いはずです」
パドメが胸の内にしまっていた思いを曝け出す。
ダメだと頭では理解している。
だが感情と正論は結び付かない。
どちらが正しいということは無いのだ。
それが人間だ。
「私は・・・私の命は様々な犠牲の上に成り立っている。その責任があるんだ」
ヴェリウスの頭にはティアが、オーダーの仲間たちが、フォースの冥界に旅立っていった人々の姿が次々に浮かんでくる。
救えなかった人達が。
「この一年、フォースの意思を知りたいと私は銀河中を旅していたけど、それはただ自らの責任から逃げていただけだったのかもしれない。また何もしないで隠れていたら、ティアやオビ=ワンに叱られてしまう」
そう言いながらヴェリウスが微笑みを浮かべる。
その笑顔には悲しみの感情が含まれていた。
しかしそれ以上に、ヴェリウスの決意が固いこともパドメには理解できた。
『ならば』と彼女も決意する。
一年前、元老院議会が実質壊滅した時も彼女は国の為に尽くす選択をしなかった。
夫を失う恐怖、自身も命を落としかけたトラウマが彼女の一歩を妨げた。
だが時が経つにつれ、その一歩を踏み出す勇気を出さなかったことを後悔したのだ。
『今更遅い』『あの時に戻れれば』
そう考えるばかりだった。
だが何かを始めるのに遅いということは無いのだ。
「私も参ります」
「え?」
「この混沌とした時代に、私だけ何もしない訳にはいかないでしょう?」
パドメの決意もまた固いものだった。
こうなってしまったら誰も彼女を止められない。
だからこそ彼女を信じ、付いていく人が後を絶たないのだろう。
“今を生きる”
それが二人の出した答えだった。
◇
【後刻】
夕暮れ時、日の傾きが夜の訪れを予感させる。
全てが夕焼け色に染まっており、太陽は最後の輝きを放つが如く、目も明けていられない程の光を注いでいる。
まるで世界が燃えているようだった。
私たちは出立の準備をしていた。
と言っても私自身は特に用意するものはない。
ジェダイは持ち物が少ないのだ。
スターファイターに設けられた小さなスペースさえあれば長期の任務も問題にはならない。
大体のことは何とかなるものだ。
パドメの準備が終わればいつでも出発できるけど、“女性の準備”というのは大変なものなのだ。
男性とは比べ物にならないほど荷物の量が多い。
特にパドメの場合は侍女の一団の準備もあるから『思い立ってすぐ出発』とはいかない。
こうして時間を持て余している私は、お気に入りの場所であるテラスから外の景色を眺めているという訳だ。
その時、フォースを通じて何者かの訪れを感じる。
これでも護衛中だ。
常に警戒はしている。
「・・・ヴェリウス?」
忙しなく準備を進めていたパドメが足を止め、声を掛けてくる。
私の微妙な雰囲気の変化を感じたのかもしれない。
「お客さんみたい」
「それでは出迎えの準備を」
「大丈夫、私が。それに長居するような人でもないし」
「分かりました」
パドメは心底信頼している様子で全てを私に任せて、出立の為の準備へと戻る。
本来であれば全て侍女らが準備をするけど、パドメは自分も進んで作業に参加している。
何かしていないと落ち着かないのかもしれないね。
私はそんなパドメの背中を微笑みながら見送ると、テラスで“彼”の訪れを待つのだった。
◇
「君の方から訪ねてくれるなんて意外だったよ」
「・・・・」
燃えるような黄昏時、強烈な光が降り注ぐテラスに漆黒のローブに身を包んだ人物が姿を現す。
漆黒の訪れ人はゆっくりとフードを取り去る。
夕焼けに照らされた二人の顔は、まるで鏡を見ているのではと錯覚するほど似通っていた。
「外縁部を中心に起きている騒ぎ、あれは君が?」
ヴェリウスは問いかけるように口を開いたが、相手からの答えを聞くまでも無く確信がある様子だった。
彼が口にする“騒ぎ”というのは犯罪者組織やならず者の拠点が襲われていることについてだ。
尋ね人—————ゼロはその問いに答えることはなかった。
「我々はコインの裏表、光と影だ」
「今更君の言葉を否定するつもりはないよ。私たちにはそれぞれ“役割”がある。もう決めたんだ」
ゼロはヴェリウスの言葉を受けて少し意外そうな表情をする。
「・・・ならば多くは語るまい。貴様は貴様の役割を全うしろ」
「うん、分かっている」
交わす言葉は多く無かったが、彼らは互いの考えが理解できた。
ゼロは裏の世界で生きると決めたのだ。
不必要に表舞台に介入することはないと。
ゼロは“自らの居場所”を支配する。
そしてその望みは完全に果たされるだろう。
その代わりに、ゼロはヴェリウスに対しては表舞台での役割を望んでいた。
決して口には出さない、そして意識的には認めたくはない。
だが心の奥底では理解していた。
最悪の敵だったが、それ故に信じられるのだ。
任せるなら彼以外にはいないと。
しかし—————
「私がかつて貴様を討つ理由があったように、今の貴様には私を討つ理由がある」
ゼロの言う役割には、“復讐”という言葉が含まれていた。
そしてヴェリウスがその選択をするのであれば、ゼロは受け入れるつもりなのだ。
ゼロも変わっていた。
“あの時”、ノアを失った時に流した涙は偽りでは無かった。
ゼロの“討たれる覚悟”
その覚悟を受けたヴェリウスはすぐに口を開くことはなかった。
ただゼロの瞳をじっと見つめている。
「確かに・・・私には君を討つ理由があるのかもしれない」
徐に口を開いたヴェリウスは腰部に携えたヒルトをその手に持つ。
ヴェリウスの用いるヒルトは伝統と先進さを感じさせると同時に実用的な造形をしている。
起動させると低い起動音と共に純白に染まった光刃が発生する。
その純白の刀身は何ものにも染まっていない純真さを感じさせつつ、それでいて全てを否定するかのような眩しい程の輝きを放っている。
「これは“あの人”の物だ」
そのライトセーバーの核にはドゥークーが用いたカイバークリスタルが収められている。
かつてヴェリウスは深紅に染まったドゥークーのカイバークリスタルを浄化したのだ。
ドゥークーが如何にしてその剣を赤く染め、命を犠牲にしたのか、その事実をヴェリウスが忘れることは無いだろう。
そのクリスタルがヴェリウスと共に在るように、ドゥークーという存在はヴェリウスと共に在るのだ。
ゼロはヴェリウスの言葉を受け、先程の考えを改めた。
ヴェリウスの純白の刀身は闇を否定したものではなかった。
光と闇、そのどちらもヴェリウスが受け入れた結果なのだ。
かつてドゥークーが如何にして命を落としたか知った時、ゼロは彼が弱いが故に失敗したのだと考えた。
いや、そう思い込もうとしたのかもしれない。
しかし、今なら分かる気がした。
ドゥークーは失敗などしてはいなかったと。
「ティアは—————」
「・・・・・」
「—————ティアは最期まで君を“討て”とは言わなかった。ノアも君に“生きろ”と言った」
ゼロは静かにヴェリウスの言葉に耳を傾ける。
その瞳には僅かな揺らぎが生じたようだった。
「私たちが犯した“罪”は消えない。けれど、それが全てじゃないんだ。ノアを失って流した君の涙は本物だった。少なくても私はそう思っている」
『それだけで・・・十分だ』とヴェリウスは続ける。
ティアとノアが、この二人の殺し合いを望んでいないことは想像に難くない。
だからこそ、ヴェリウスは未来に想いを紡ぐことを決めたのだ。
「・・・貴様は甘い」
「昔、誰かにも同じことを言われた気がするよ」
そう言いながらヴェリウスは微笑みを浮かべていた。
ゼロも『甘い』と言いながら、いつもの鋭さが無くなっているように感じる。
「君が裏の世界で秩序を保つのなら、私は表の世界で希望を紡ぐ。フォースの意思やそのバランスが何を指すかは分からない。だけど、どちらかだけでは均衡は保てないんだ。私たちは“共に在る”べきなんだと思う」
ゼロは言葉を返すことは無かった。
その代わりに、ライトセーバーを取り出して起動する。
するとゼロの要求に応え、ヒルトから真紅に輝く光刃が発生する。
二人はあらかじめ取り決めていたかのように、その光刃を額の前にまっすぐと掲げる。
言葉を発する訳では無かったが、その様子は騎士の誓いのようだった。
二人が剣を収めると、ゼロは踵を返す。
かつてその背中は全てを切り捨てるような冷たさに満ちていた。
しかし今はどうだろう?
かすかな迷いの消失と、ある意味の静けさが宿っているようだった。
そこに突然、ヴェリウスの様子を見に来たパドメが現れる。
「ヴェリウス?」
パドメはその場にゼロがいることを知り、身体を震わせ一瞬硬直する。
しかし二人の間に流れる雰囲気を感じ取り、騒ぐことはしなかった。
背を向けていたゼロは静かに振り返るとパドメを視界に捉える。
その瞳にどんな感情が含まれていたかは分からない。
ゼロは徐に視線を外すと燃えるような夕焼けに染まる景色に溶けて消えて行った。
「・・・ヴェリウス?」
もう一度パドメは夫の名を口にする。
彼女の不安そうな様子を受けて、『大丈夫だよ』と言いながら微笑みを浮かべる。
屋敷のテラスからは黄昏時の燃えるような太陽が一杯に広がっている。
ヴェリウスはパドメの肩を抱き、彼女はヴェリウスに身体を預け寄り添っている。
「—————共に行こう」
「はい、私たちは生きているのですから」
二人は沈みゆく太陽に目を向けている。
全てを燃やし尽くすが如く強い光は、生じさせる影も大きくさせる。
しかしその光景はある意味で調和し、自然の本来のあるべき姿だった。
はい、お疲れさまでした。
スピンオフも完結まで時間が掛かってしまいました。
長い間、お付き合いいただきありがとうございました。
正直、賛否ある内容だったことは自覚しています。
実は投稿を始めるに当たり、EPⅢの際にヴェリウスが暗黒面に堕ちるという流れを決めていました。
しかし皆様が既にご存知の通り、物語が進んでいく中でシナリオは大きく変更されました。
if作品という形でその流れの作品を投稿することも考えたのですが、結果的にゼロという存在を作り、スピンオフという形で進めることに決めました。
ゼロの世話係であるノアを深堀出来なかったのは反省点です。
彼女はゼロの特殊な出生とその特異体質、ドゥークーから受ける訓練などを知っている数少ない人物です。
ゼロの身の回りの世話や、その状況を知って行く中で初めは年の離れた弟という認識から、彼の成長に伴い、特別な感情が生まれていきました。
そして彼の過ごしてきた日々を知っているからこそ、戦いや与えられる使命などとは関係のない世界で過ごして欲しいと考えていました。
ドゥークーの城であるセレノー城でゼロが封印され、その後ドゥークーが命を落とし、戦争が終結した際はこれ以上ゼロが傷つくことは無いと胸をなでおろしました。
ノアはセレノー家に仕える使用人という立場ではありましたが、ゼロの平穏を一番願っている人物でした。
ヴェリウスの弟子であるティアという存在も当初は作るつもりは全くなかったのですが、登場させてみたらティアとヴェリウスがくっついて欲しいと思うようになったのは秘密です。
彼女の献身的ところや、いつまでも、そして何があってもヴェリウスを想う気持ちなどを考えると幸せになって欲しかったと心から思っています。
これこそifですかね・・・?
うーん、下手に触れない方が良い気もするし・・・
もう少し考えます()
とにかく、スピンオフ完結まで来ることができたのは皆様のお陰です。
お付き合いいただき、本当にありがとうございます。
今後についてですが、短編は投稿するつもりです。
EPⅠの深堀が見たい、短編も読みたいとご意見いただいているのでできる限り応えて行ければと思います。
もしかしたらヴェリウス×ティアのifも書くかもしれません。
今後ともよろしくお願いいたします。