みどり色です。
長らくお待たせ致しました。
IFの最終話になります。
作品開始時期の構想とは差異がありますが、あり得たかもしれない一つの可能性として投稿できてよかったかなと思っています。
少し長めですがお楽しみ頂けると幸いです。
<惑星コルサント 元老院議会場>
議会場の最下層、リパルサーポッドや元老院議長の演壇の残骸が散らばるその場所では二人の人物が相対していた。
一人は黒いローブを身に着け、フードを被ったシスの暗黒卿ダース・シディアス。
そしてもう一人はジェダイの装い、白のチュニックに灰色のローブを身に着け、シディアスと同じようにフードを被ったヴェリウスの姿だった。
ヴェリウスの周囲にはヨーダとシディアスのライトセーバーがまるで意思を持っているかのように浮遊している。
「ジェダイごときが!!」
ダース・シディアスは怒りの感情を爆発させ、フォース・ライトニングを繰り出す。
強力な雷撃が放たれるが、二振りの光剣は回転しながらヴェリウスの前に出る。
まるでヴェリウスが傷つくのを拒否しているかのようにその閃光を受け止めたのだ。
【私はジェダイではない】
シディアスは閃光を放出し続けるが、その攻撃はヴェリウスに触れることすら叶わない。
「ならば何故歯向かう? ジェダイでないというのなら余に付き従うが良い!」
シディアスは雷撃を収め、ヴェリウスへと言葉を投げかける。
この暗黒卿は遠い地に向かわせた新しい弟子が危機に陥っていることを感じていた。
しかし彼にとってそれはもはや問題ではなくなった。
目の前の若き青年はヴェイダーよりも、そして自分の力すら超えた最強の存在だと身をもって感じていた。
弟子と共に刃を交えても勝てる見込みは無いと感じる程の力だ。
それ程までに強力な存在を手中に収めることができれば、自らのシス帝国は安泰。
生物が必ず迎える死をも超越し、未来永劫シスがこの銀河を支配することになる。
しかしヴェリウスがシス卿の言葉に応えることはなかった。
彼の行動そのものが“答え”だった。
ヴェリウスは静かにゆっくりと暗黒卿に向かって歩み出す。
シディアスはこの時、本当の恐怖というものを感じていた。
目の前の存在の歩みを止められるのであれば、彼はどんなことでもするだろう。
周囲に散らばる無数の残骸を放り、フォース・ライトニングで攻撃し、フォース・スクリームを発生させる。
だがその全てが無意味だった。
彼の歩みは止まるどころか、速度を落とすことすらなかった。
ヴェリウスが目前まで迫るとシス卿はその場に倒れ込み、少しでも距離を取る為に地面を這いずり回る。
だが何をしても無駄だった。
彼が“そうする”と決めたのなら“そうなる”のだ。
「や、やめ、やめろおぉぉぉ!!」
議会場にシディアスの断末魔が響き渡る。
ヨーダの言葉通り、彼の暗黒帝国は一日で終わりを迎えるのだった。
◇
惑星ムスタファーでかつての弟子との決着を迎えたオビ=ワンはその足でコルサントに帰還していた。
本来であればコルサントに戻るという選択はあり得なかった。
だがヨーダと連絡が取れなくなったこと、そしてティアとヴェリウスの安否を確かめるためには危険を冒す必要があったのだ。
「なんだ・・・これは」
彼が目にしたのは変わり果てた議会場の姿だった。
警戒しながらこの場所に辿り着いたが、不思議なことにクローンの姿を見ることはなかった。
オビ=ワンは馴染みのある存在の気配を感じ取る。
彼女は一基のリパルサーポッドに座り込み、項垂れていた。
「ティア、ティア! これは一体どういう—————」
オビ=ワンは言葉を続けることができなかった。
彼女が抱えているのがヨーダだと気づいたからだ。
「マスター・・・ケノービ」
オビ=ワンを見上げるティアの顔は涙で濡れていた。
「マスターがシスと・・・しかしマスター・ヨーダをこのままには—————」
ティアは再び顔を落としてしまう。
オビ=ワンは膝を着き、彼女の肩に手を置く。
「辛いかもしれないがここは危険だ。今すぐ移動しないと」
「・・・はい」
ティアは力なくフラフラとその場に立ち上がる。
オビ=ワンはヨーダを抱き上げてその場を後にするのだった。
◇
「おかしい、クローンは一体どこへ?」
オビ=ワンは独り言のように言葉を発する。
聖堂を襲った501大隊もコルサントの警備を任されているショック・トルーパーもその姿を見ることは無かった。
「とにかく今は少しでも安全な場所に移動しないと」
「・・・パドメの所へ」
「パドメか、確かに彼女なら匿ってくれるはずだ」
『それに彼女ならヴェリウスの行方も知っているかもしれない』と心の中で呟く。
二人の密かな関係を察していたがオビ=ワンはその事実を心の中にしまっていた。
それはジェダイには許されない感情だったからだ。
しかし自分にも理解はできた。
“ある女性”のためにジェダイの道を捨てることを考えたことがある自分には。
◇
その後、元老院議員であるベイル・オーガナと合流したオビ=ワンとティアは彼の所有する赤い塗装が施されたXJ-2エア・スピーダーでパドメのペントハウスへと向かっていた。
偽登録されているこのスピーダーは怪しまれることなく闇が支配する街を進んでいる。
議会場で元老院議長であり、銀河帝国皇帝であるパルパティーンの死体が発見されたことで指揮系統が混乱していた。
ベイル・オーガナ自身は議会場に残り、事態の収拾に動くのだった。
「ティア、あの場所で何があったのだ?」
スピーダーの操縦桿を握りながらオビ=ワンが声を掛ける。
ティア自身は現在置かれている状況に加え、ヴェリウスのことを案じていた。
「・・・私が駆けつけた時、シス卿とマスター・ヨーダ、そしてマスターが剣を交えていました」
そしてシス卿の刃からヴェリウスを守る為にヨーダが身を挺したのだと語る。
それが原因でグランドマスターが命を落としたのだと。
「しかしヴェリウスはどこへ? シス卿は彼が倒したはず・・・何故君を置いて—————」
「・・・わかりません」
ティアは口にすることができなかった。
彼が、ヴェリウスが今までのヴェリウスとはどこか違っているように感じたことを。
「とにかく今はヴェリウスと合流することが最優先だ」
皇帝を倒したと言っても、クローンの脅威から身を守る為にはヴェリウスと合流して身を隠す必要があった。
◇
<パドメのペントハウス>
元老院議員であるパドメが所有するペントハウスに降り立った二人だったが、その周辺は破壊の跡が見て取れた。
周辺の建物のガラスは砕け散り、ペントハウスも損害を受けていた。
「これは・・・」
「っ、パドメ!」
二人はペントハウスの惨状に驚き、ティアは建物の中に駆け出す。
しかしいくら探しても人の気配はなかった。
建物中で唯一被害のない場所が寝室だった。
完全なプライベート空間に一瞬躊躇するが、ティアはゆっくりと足を踏み入れる。
この空間だけは不思議と時が止まっているように感じる。
そしてベッドに手を触れると、そこに残っている残滓がティアの中に流れ込んでくる。
—————死と悲しみ、そして後悔。
底が知れない負の感情が永遠と続いているようだった。
まるで永遠に堕ちていくような悲しみの海が広がっている。
その強大過ぎる感情にティアはその場に倒れ込んでしまうのだった。
「ティア、何を感じた?」
倒れ込むティアに駆け寄ってオビ=ワンが問いかける。
「・・・大きな暗黒面の力を」
________________________________________
ヨーダとパルパティーンは死んだ。
ジェダイ、シスどちらも指導者を失ったことになる。
クローンは命令に従い、今もなおジェダイ狩りを続けている。
しかし彼らだけでその全てを駆りつくすことは難しいだろう。
私はジェダイ聖堂に戻り、グレート・ツリーの下を訪れていた。
何もかもが変わってしまったが、母のような存在であるこの木は変わらずここに在り続けている。
パドメを亡くしたことで心は埋まることのない程の喪失感が支配していた。
マスター・ヨーダや他のジェダイ達が命を落としても私の感情は動くことはなかった。
まるで“感じる”という機能が消え去ってしまったかのようだった。
行き場のない喪失感。
いや、これは感情だ。
そして何かを伴っている。
——————怒りだ。
小さな、まるで火の粉のような怒りの感情が湧き上がるのを感じる。
そうか・・・まだ“感じる”ことができたのか。
大地が、大気が揺れていた。
ヴェリウスの強大過ぎるフォースは彼を中心に周囲へ影響を与えるている。
まるで惑星全体が震えていると錯覚するほどの力だった。
ヴェリウスが感情のまま力を使ったのは初めて———いや、二度目だった。
一度目は3年前にジオノーシスの地でドゥークーと対峙したとき。
しかし、あの時とは文字通り次元が違う力だ。
オーダーは感情のまま力を使うことを禁じていた。
だが今、彼を縛るものは何もなかった。
彼を止めるものも、止められるものも存在しない。
一度生まれた怒りの感情は留まることを知らず、まるで濁流のように溢れ出していく。
行き場のない怒りの感情は破壊衝動を駆り立てる。
彼を中心にフォースの波動が周囲に拡散する。
敷き詰められた石畳や庭園の装飾などが吹き飛ばされていく。
しかしグレート・ツリーだけは変わらず枯れ葉を散らし、枝を揺らしているだけだ。
先程と変わりない姿の筈だが、散る葉はまるでこの木が涙を流しているようだった。
ヴェリウスは徐に歩み出す。
その踏み出される一歩一歩で銀河の命運が左右される。
彼はまさに最強の存在と成ったのだ。
◇
ヴェリウスはクローン・トルーパーをコルサントの共和国軍基地に集結させた。
“父”の策略により、クローンは彼の命令を聞く。
ヴェリウスは“個”としてだけでなく、今この銀河で最も力のある存在だった。
そして彼は軍に命じた。
全ての武力をこの銀河から消し去る命令を。
独立星系連合、警察、私兵、賞金稼ぎ、犯罪シンジケート、ジェダイであっても関係ない。
文字通り、全ての武力を掌握するつもりだった。
彼が否定する“力”そのもので。
クローン以外の軍属の者からの反発は当然大きいものだった。
しかしヴェリウスに反抗する者はクローンが自ら率先してその対処に当たった。
共和国軍は当然だがクローンが主体の組織だ。
彼らが味方に付かなければ組織としては機能しない。
パルパティーンと繋がっていた軍の高官達はその場で拘束されるか、逃亡してもジェダイ同様に抹殺の対象となった。
軍内部の混乱は一時的なものですぐに鎮静化した。
寧ろ意思決定の役割を担っていたクローン以外の軍人が減ったことで、トップの意向が末端まで迅速、的確に浸透するようになった。
“一組織”として考えればこれ以上ないほど理想的な状態だった。
コルサントに集結したクローン達は、新たな命令に従い次々と銀河各地へと侵攻していく。
アナキン—————ダース・ベイダーの働きにより、分離主義者達のドロイド軍が停止された今、“彼”の武力に対抗できる軍は存在しなかった。
ジェダイ聖堂の最高評議会フロアからヴェネター級やアクラメイター級が飛び立つのを確認できる。
オーダー66、ナイト・フォール作戦が実効されてからまだたったの一日しか経っていない。
しかしそのたったの一日で、共和国は、銀河の在り方は大きく変わってしまった。
「パドメ—————」
彼は以前と変わらない、深い青色の瞳を艦隊へと向けている。
その顔は無表情だったが、どこか悲しげだった。
ヴェリウスは徐に振り返ると、目的もなくただ歩み出す。
現実感が薄く、まるで夢の中にいるようだった。
議会場から退出し、廊下に出るとその場所はパダワン時代が思い出される。
ジェダイ評議会に所属していたドゥークーをここでよく待っていたのだ。
その後、瞑想室や図書室、食堂など、まるで思い出の地を巡るように様々な場所に足を運んだ。
同じ場所である筈が、あの時とは何も違っていた。
数万人もいたジェダイは数える程に減り、長い歴史を誇り、よく整備された聖堂は先の戦いで大きく傷ついていた。
そしてヴェリウスが最終的に辿り着いたのはライトセーバーの訓練場だった。
パダワン時代はドゥークーやオビ=ワンと、騎士になってからはアナキンやティアと多くの時間を過ごした場所だ。
聖堂内はどこも不気味な静寂に包まれていた。
そしてここも同じだった。
しかし耳を澄ますと微かにスピーダーや船の音が耳に届く。
「ヴェリウス・・・!」
突然の来訪者—————オビ=ワン・ケノービが彼の名を呼ぶ。
訓練場の中心で佇んでいたヴェリウスは、まるでオビ=ワンの訪れを知っていたかのような様子だった。
「今まで何をしていた!? あのクローン達は?」
「・・・・・」
普段であれば冷静なオビ=ワンだが、この時だけは湧き上がる感情を抑えきれていない。
ムスタファーでかつての最愛の弟子と剣を交えた時と同じだった。
「どうして何も言わないんだ・・・・・」
オビ=ワンは俯きながら顔を歪ませている。
悲しみや動揺など、様々な感情が渦巻いているようだった。
「パドメの下へ行った。一体何があったんだ?」
顔を上げたオビ=ワンは、一向に口を開かないヴェリウスの代わりとばかりに言葉を続ける。
しかしその問いかけに意味は無かった。
オビ=ワンは気付いていたからだ。
ヴェリウスとパドメの関係も、アナキンの秘めたる想いも。
そして彼らに何があったのかも想像がついた。
ムスタファーでアナキンが発した言葉で。
『お前の教育を誤った・・・私のミスだ』
『ジェダイの陰謀に早く気付くべきだった!』
『アナキン聞け! パルパティーンは悪魔だ!!』
『いや、ジェダイこそ邪悪の権化だ! 皆して僕を騙して!!』
『・・・何を言っている?』
『信じていたのに———ヴェリウスもパドメも僕を裏切り、騙していたんだ! 影で僕を笑っていたんだ・・・アンタもそうなんだろう!!』
アナキンはまるで何かに憑りつかれたかのようだった。
オビ=ワンには彼を止めることも、光明面に呼び戻すこともできなかった。
だが彼なら、『あの場にいたのがヴェリウスなら結果は違ったのでは?』と悩み続けていた。
しかしどうだろう?
目の前にいるヴェリウスは?
オビ=ワンが知っている人物とはとても思えなかった。
優しく純粋で、少し抜けている所がありながら頼りになる青年はどこに行ってしまったというのだろうか?
オビ=ワンは同じ過ちを繰り返したくはなかった。
無理やりでもヴェリウスの目を覚まさせるつもりなのだ。
「私は、私にできることをする。お前の目を覚まさせる」
覚悟を決めた顔で、オビ=ワンは腰部に携えたライトセーバーを手に取る。
そのヒルトはまるで吸い付くように感じる程、よく手に馴染んだ。
彼はこのセーバーで数々の強敵たちと戦ってきた。
モールやオプレス、ヴェントレス、グリーヴァス、ドゥークー・・・・・
数えきれない程の戦いでその命を救ってきた。
今までと同じように、そして彼の期待に応えるようにその美しいヒルトから青いプラズマが立ち昇る。
オビ=ワンは、ヴェリウスがクローンを従えていることを———軍部を掌握したことを知っていた。
パルパティーンも分離主義者も存在しない今、共和国軍の実権を握る人物がこの銀河を支配すると言って差し支えない。
そしてオビ=ワンには知る由もなかったが、ヴェリウスはドゥークーから正式に伯爵の地位と全ての遺産を継承している。
その潤沢な資金は彼の目的達成に大きく貢献することになるだろう。
それは—————
【全ての“力”をこの銀河から消す】
「ヴェリウス・・・!」
心の底から震えるような声だった。
かつての優しい青年の面影はどこにもなかった。
ヴェリウスがセーバーを起動すると、純白の光剣が発生する。
その美しい刀身はまるで全てを否定する意思が込められているように感じる。
【恐れているな、この私を】
ヴェリウスが一歩、たったの一歩足を踏み出すだけでオビ=ワンの額に汗が滲む。
先程まで手に馴染んでいたライトセーバーは、手から汗が吹き出し、握っているのもやっとのように感じる。
当代最高クラスの実力を持っていたアナキンとの決闘でも、ここまでのプレッシャーを感じることは無かった。
ヴェリウスが歩みを進める度に、自身の死が迫っているかのようだった。
オビ=ワンは耐えきれず、守りの型を解いてその場から大きく跳躍する。
彼の師であるクワイ=ガン・ジンが得意としたフォームⅣアタロだ。
このフォームを用いてヴェリウスと対峙するのはお互いにまだパダワンだった頃以来だ。
『ん? “ヴェリウス”じゃないか。君もマスターが来るのを待っているのか?』
『オビ=ワン。ええ、マスターが来られる筈なのですが・・・“少し遅れている”ようです。貴方もマスターをお待ちで?』
『ああ、私もクワイ=ガンを待っているのだが・・・こちらも遅れているようだ』
『そうですね、まだマスター方は“いらっしゃらない”ようですし、私もナイト昇格が近い先輩の実力が知れる良い機会です』
『おいおい、誰がそんな事を言ったんだ?』
『いえ、忘れて下さい』
『相変わらず読めない奴だ』
10年以上も前の会話だが、何故か思い出されるのは古い思い出ばかりだ。
オビ=ワンは飛び掛かりざまに回転と捻りを加えた斬撃を繰り出す。
対するヴェリウスはフォームⅡマカシの構えだ。
彼はマカシの正確な足運びでオビ=ワンの斬撃を空振りさせる。
オビ=ワンは空振りした勢いのまま大きく跳躍し、ヴェリウスの背後に着地する。
その瞬間に斬撃を加えるオビ=ワンだったが、ヴェリウスは背を向けたままお辞儀をする形で再び彼のセーバーを空振りさせる。
「どうして、どうしてなんだ!!」
オビ=ワンは感情のまま声を荒げる。
ここまでの立ち合いは、かつて剣を交えた時と全く同じだった。
しかし、今は何もかもが変わってしまっていた。
その現実にオビ=ワンは胸が締め付けられる思いだった。
自分とは対照的なヴェリウスの態度にオビ=ワンは再び剣を振るうことしかできなかった。
アタロの本領発揮と言わんばかりの激しい攻撃を加える。
しかしヴェリウスはマカシのスタイルを貫き、務めて冷静に、落ち着き、力任せに振るう事はせずに、最小限の動きで攻撃をいなしていく。
そしてある瞬間にヴェリウスは手首のスナップを効かせてをオビ=ワンのセーバーを絡め取る。
あの時と何もかも同じだった。
分かっていながらオビ=ワンは過去の再現から脱することができなかった。
まるで予め示し合っていた演舞のような立ち合いは、ヴェリウスの動きにオビ=ワンが取れる選択肢が制限されたことに起因する。
この事実は二人の実力に大きな開きがあることを意味していた。
【こうなると分かっていたはず】
ヴェリウスの発する言葉は変わらず心に直接響くようなものだったが、どこか憂いを帯びており、その表情も若干の変化があるようだった。
しかしヴェリウスは純白の光剣を構えながらかつての友へと向かって行く。
彼の携えるプラズマがオビ=ワンの命を刈り取る瞬間、別の乱入者によってヴェリウスは動きを止める。
「マスター!!」
ヴェリウスの愛弟子であるティア・アテミスだった。
彼女はオビ=ワンの命令で身を隠していたのだ。
「ティア、来るな!」
オビ=ワンの顔には焦りの表情が浮かんでいた。
自身に死の影が迫っても浮かぶことのなったものだ。
【・・・ティア】
ヴェリウスはゆっくりと振り返り、ティアの姿を捉えると無意識に彼女の名を口にする。
「———っ!」
姿かたち、その発する声もヴェリウスそのものだった。
だがティアには自分の知っている師とはどうしても結びつかなかった。
彼の纏う雰囲気がそうさせるのだろうか?
まるで別人だった。
「マス・・・ター」
ティアの瞳から一滴の涙が零れ落ちると、まるで瓦解したダムのようにが雫が流れ続ける。
「ティア、逃げるんだ!!」
オビ=ワンの必死の呼びかけも彼女には届かず、ティアはその場に崩れ落ちる。
どこまでも優しく、それでいて誰よりも強い師はどこへ行ってしまったというのだろうか?
美しく、どこか憂いを帯びたあの横顔を見ることはもう叶わないというのだろうか?
今のティアは喪失感に支配されていた。
彼女はウータパウで嫌な予感がしていたのだ。
そして後悔していた。
単独ウータパウを去ろうとしていた師を止められなかったことを。
「・・・・・」
ヴェリウスはティアを一瞥し、彼女に背を向けてオビ=ワンに向き直る。
あの時と同じだ。
また何もせずに後悔する。
「ティア、逃げるんだ!」
オビ=ワンはヴェリウスに対してフォース・プッシュを繰り出す。
しかしヴェリウスの強力なフォースの前にほとんど効果がなかった。
ヴェリウスは静かに歩み出す。
酷くゆっくりとした足取りだったが、迷いのないその歩みは“終わり”の時を確実に刻むものだった。
「ダメ・・・待って———」
ティアは力なくヴェリウスの背に向かって言葉を発する。
このままでは後悔する。
わかっていた。
わかってはいるが身体に力が入らない。
彼女の縋るように伸ばされた手がヴェリウスに届くことはなかった。
【武を持たぬ弱き者、力無き者よ。この場から去れ】
背を向けていてもわかる。
これはティアへと向けた言葉だった。
好意でも悪意でもない。
完全な無関心故の言葉だ。
ティアは憎悪の感情を向けられる方がまだマシだと思った。
これ以上、広がり様がないほど大きく空いた心の穴にまるで冷水を流し込まれたようだった。
胸が詰まり、上手く息が吸えない。
それと同時に、いや徐々にティアは自分の中に熱い何かを感じていた。
ヴェリウスに師事し、訓練を積んできた自身の無力さに対する負の感情だった。
そして、他の誰でもないヴェリウスからの言葉だったが、自身の師を否定されたように感じた。
この負の感情は図らずも彼女の身体に血を通わせた。
ティアはその場から立ち上がりヴェリウスを後ろから抱きしめる。
するとフォースを通じてティアの中に様々なイメージや感情が流れ込んでくる。
無限に広がる闇—————
ドゥークーの真実やパドメの死、アナキンの裏切り、ヨーダやシス卿との戦い・・・・・
様々なイメージが闇の中でパズルのピースのように繋がっていた。
そしてナブーの孤島のイメージが大きく流れ込んでくる。
「マスタ―・・・!」
ティアはヴェリウスの感情を受けて再び涙を流した。
変わり果てた師の姿を目にした先程の涙とは違う。
ヴェリウスを想っての涙だった。
【・・・去れ】
しかしヴェリウスは止まらない。
ティアを振りほどくように歩みを進める。
「ヴェリウス、お前なら分かる筈だ。彼女がどんな思いなのか」
オビ=ワンもヴェリウスに語り掛ける。
彼ならまだ戻れると信じているのだ。
今こうしてティアの命があることが何よりの証拠だと考えた。
「貴方にはわからない」
「ヴェリウス?」
刹那、本当に一瞬だったがヴェリウスの纏う雰囲気が変わった。
しかし次の瞬間には再び闇が包み込む。
闇に抱かれたヴェリウスは光刃をオビ=ワンに向けて突き立てようとする。
しかし、彼のライトセーバーがオビ=ワンに届くことはなかった。
深緑の光刃に防がれ、プラズマの激しい衝突音と火花が散っている。
「マスターはいつも民の為に、そして大切な存在、信じる道の為に剣を振るっていました。これがマスターの道・・・正義なのですか?」
【———これが私の道だ】
ティアの浮かべる表情は覚悟を決めたものに変化する。
彼女は自身の全てを賭けてでもヴェリウスを止めるつもりなのだ。
先程までの弱気な少女はもうどこにもいなかった。
「なら私がマスターを止めます。マスターを救ってみせます」
力強い眼光を宿したティアは、長短二振りのライトセーバーを構える。
二刀流はフォームⅥニマーンから派生したジャーカイと呼ばれる型だ。
ダブル=ブレード・ライトセーバーや二刀流の際に用いられるこのフォームは、それぞれに攻撃と防御に役割分担をさせることや、二振りのブレードで激しい攻撃を加えることもできる。
フォームⅢソレスを土台にジャーカイの特徴を取り入れた独自のフォーム。
ティア独自のこの型は、ヴェリウスの下で修業を積んだ末に辿り着いた彼女の答えだった。
ティアはヴェリウスに対して激しい連撃を叩きこむ。
さらにオビ=ワンも絡め取られた自らのライトセーバーを引き寄せて光剣を起動する。
挟まれる形となったヴェリウスだったが、冷静に無駄の無い動きで二人の斬撃を防ぎ、受け流していく。
この十数年、直接手合わせをする機会の無かったオビ=ワンは改めてヴェリウスの実力に驚きを隠せない。
『ここまで極められるものなのか』
剣を切り結びながらも、どこか他人事のように彼の技術の高さを評価する。
ザ・マスター(ソレスを極めし者)と呼ばれる自分が恥ずかしくなるほど、ヴェリウスとの間に壁があることを実感する。
アナキンとの決闘でも、ここまでの差は感じなかった。
まさに当代最強・・・いや、ジェダイの歴史で彼に勝る騎士はいないと断言できる程の実力だった。
『こんなことを考えている自分は、戦う前から負けているのかもしれない』
そう思うオビ=ワンだったが、ティアは違っていた。
どんなに実力差があろうと、どんなに勝ち目が無かろうと彼女は剣を振り続けた。
決して自分の為ではない。
彼女は他でもない、目の前の師の為に。
二振りのライトセーバーで激しい攻撃を続けるティア、彼女の隙を補うかのように繊細なコントロールをするオビ=ワン。
即席のペアだったが、そもそものスタイルが似ている二人は上手く連携が取れていた。
だが、どうだろう?
彼はたった一本の剣でこの戦いを制している。
そう、制しているのだ。
どんなに超人的な反射神経を備えていても、極近い未来を先読みしてもヴェリウスに勝つための流れが組み立たなかった。
そして彼が動く。
僅かな綻び、二人の連携の隙を突く形でオビ=ワンの防御を崩し、ティアの光剣を弾く。
一瞬の“溜め”の動作、そして次の瞬間には強力な波動がヴェリウスを中心に死角なく発生する。
二人はそれぞれ別方向に吹き飛ばされ、オビ=ワンは運悪く壁に叩きつけられる。
彼の肺から空気が強制的に排出され、呼吸ができない。
ヴェリウスは正面にいたオビ=ワンに狙いを定め歩み出す。
彼の足取りは酷くゆっくりとしたものだった。
しかし、ヴェリウスはまるで瞬間移動でもしているかのように瞬きの度にその位置を変えている。
ヴェリウスはオビ=ワンが呼吸を整える前にその目前まで迫っていた。
「くっ、あっ、は・・・ぁぁぁ—————」
必死に呼吸を取り戻そうとするオビ=ワンだったが、その焦りは逆効果だった。
必死になればなるほど、生命活動に必要な酸素は遠のいていくようだった。
膝と手を着き、蹲るように苦しむオビ=ワンの姿を見下ろすヴェリウス。
そんな彼の顔を見上げるオビ=ワン。
なぜ、こうなってしまったのだろか?
________________________________________
□18年前
銀河の中心である惑星コルサント、そしてジェダイの総本山であるジェダイ聖堂もこの惑星に置かれていた。
長きに渡り、共和国の正義と安念をもたらしてきたジェダイ。
平和の守護者である彼らの聖堂では、この日も穏やかな時が流れていた。
一人の幼いイニシエイトに注目が集まっていることを除いて。
この日、ジェダイ聖堂のホールに複数のイニシエイト達が集合していた。
パダワン候補の少年、少女達だ。
例年12~15歳のイニシエイトが大半を占める中、一際幼い少年が紛れている。
ホールにいる子供たちが例外なく“不安”という感情を秘めている中、この少年だけは違った。
少年は臆することなく、堂々とした佇まいで好奇心旺盛な瞳を輝かせている。
少年少女たちにとって文字通り人生を左右する非常に重要な日だった。
彼らはパダワン候補であり、同じくホールに集まっているマスター階級の騎士に見いだされることで正式にパダワンの位が与えられ、そのマスターに師事することになる。
儀式はすぐに始まり、候補生たちの心情とは裏腹に次々に彼らの進路が決定していく。
ある者はマスターに指名され、ある者はサービス部門への配属が決まり、ある者は保留———つまり後程、評議会がナイト階級の騎士に割り振るなど呆気ないほどスムーズに事は進んで行った。
しかし最後の少年、ヴェリウスに順番が回ってくると話が変わる。
複数人のマスターがこの幼き少年を指名したのだ。
特にサービス部門の配置が決まったイニシエイトはその場に崩れ落ちそうなほど落胆している。
そもそも後方配置が決まったと言っても全てのフォース感応者にはその者に相応しい役割がありジェダイ同様の名誉が与えられる。
しかしイニシエイト達は、そうは考えていなかった。
“パダワンに選ばれないことは、実質的な脱落”という根強い風潮があるのだ。
「あの齢でパダワンに? それも複数のマスターが指名? 異例ですね」
「前例がない訳ではないだろう。“異例”なのは確かだがな」
オビ=ワン・ケノービは師であるクワイ=ガン・ジンに連れられ、イニシエイト達が集められたホールに足を運んでいた。
禁じられている訳ではないが、関係のないパダワンが本来は居て良い場ではなかった。
規則破りではないにしろ、オビ=ワンは師の“こういう所”には慣れていなかった。
そしてクワイ=ガンが口にした“異例”という言葉はオビ=ワンの発したものとは少し意味合いが異なっていた。
オビ=ワンはそのことに気づかず、自分よりも明らかに年若いヴェリウスのパダワン昇格に面白くない様子だった。
そのことにクワイ=ガンは『ふっ』と口角を上げるのだった。
そして程なくして、皆よりも遅れてホールに姿を現した長身の人物がマスターとして名乗りを挙げた。
クワイ=ガンはまるでこうなることが分かっていたかのようだった。
その場にいる全員の視線が長身の人物—————マスター・ドゥークーに注がれる。
その中でも特に目を輝かせているのが渦中のヴェリウスだった。
「マスター・ドゥークー、遅かったの」
「其方は評議会の一員だ」
そう口を開くのはヨーダとメイス・ウィンドゥだ。
ヨーダは少し面白がっているように見えるが、対照的にまるで咎めるような態度なのはメイスだった。
「友よ、まさか評議員が弟子を取ることまで禁止した訳ではあるまい」
ドゥークーは自らの師であるヨーダに礼を示し、メイスに言葉を返す。
ジェダイ評議会のメンバーが弟子を取ること自体は禁止されていないが、古くから『評議員は原則、個人的な弟子を持たない』という不文律があるのだ。
これはジェダイ評議会が銀河系全体の外交や任務調整、場合によっては戦略面の役割を担っているためであり、日々の評議やジェダイ・オーダー全体の監督が多いことも理由として挙げられる。
「ほっほっほっ、それでは本人に聞いてみるのが一番じゃろう。あの子だけ置いてけぼりじゃ」
ヨーダは変わらず愉快な様子だった。
グランドマスターの言葉を受け、メイスはヴェリウスへと問いかける。
「イニシエイト・ヴェリウス、其方の意見は?」
無意識なのか、意識的にそうしているのか、メイス・ウィンドゥには有無を言わさなぬ強さがあった。
彼ほどの年齢であれば萎縮し、上手く言葉が出ないことだろう。
しかしヴェリウスは臆することなく、心のままに、フォースの導くままに答える。
「私はマスターに、マスター・ドゥークーに師事することを望みます」
少年ヴェリウスは、真っすぐな曇りなき眼で答える。
幼きイニシエイトを指名した多くの騎士たちは特に落胆する様子は見せなかった。
ただメイス・ウィンドゥの半ば諦めたような小さな溜息が嫌に大きく耳に届く。
「ふぉっふぉっふぉっ、決まりじゃな」
グランドマスターであるヨーダの一声でパダワン選出の儀式は幕を閉じた。
ヴェリウスは屈託のない純粋な笑顔を師に向ける。
ドゥークーも新たな弟子に微笑みかけながら、少年の頭に手を乗せている。
二人はまるで本当の親子のようだった。
儀式の最中、オビ=ワンはずっと面白くないような表情を浮かべていた。
そんな弟子の様子にクワイ=ガンは再び『ふっ』と口角を上げるのだった。
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□現在
周囲に人体が焼かれた際に発生する独特な匂いが漂い、プラズマの低い起動音が嫌に大きく耳に届く。
「—————なさい。ごめ・・・さい・・・・・」
ティアはその手に握られたライトセーバーを手放すと、発生していたプラズマはヒルトに吸収されるように消え去る。
それが引き金になったかのようにヴェリウスはその場に崩れ落ちる。
ティアは自らの師にセーバーを突き立てたのだった。
まるで糸の切れた人形のように倒れ込むヴェリウスをティアはその場に座り込みながら抱きかかえる。
「泣か・・・ないで、ティア」
「マスター!!」
自身の死期を悟りながら、彼は微笑みを浮かべていた。
まるでこの結末を望んでいたかのように。
「今治療を—————」
ティアがフォースを用いようとするが、オビ=ワンが彼女の肩に手を置き、首を横に振る。
まるで、『もう楽にしてやろう』と言っているかのようだった。
ティアは自らの行いを激しく後悔した。
彼は、目の前にいるヴェリウスは以前と全く変わらないではないか。
まるで今までのことが悪い冗談だったかのように、ヴェリウスは以前のヴェリウスだった。
今まで感じていたジェダイ・オーダーへの不信感、元老院の腐敗、苦しむ民、繰り返される戦いの連鎖—————
ヴェリウスはこれまで感じて来た違和感を心の隅に追いやって来た。
それが最愛の人の死によって全てが崩れ去った。
時代に、組織に翻弄されたヴェリウスは、身の内に巣食う闇の育みを阻止できなかった。
しかし“フォースにバランスをもたらす”という予言は図らずも二人の若者、アナキン・スカイウォーカーとヴェリウスによって成し遂げられたと言えるのかもしれない。
ジェダイもシスもない。
今この銀河にはただ“人”が在るだけだ。
ダース・シディアスやヨーダ、アナキンやヴェリウスといった強大な力を持つ者がいれば、光と闇の均衡は崩れ去る。
まさに今この瞬間、銀河にフォースのバランスがもたらされたのだった。
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□後刻
<惑星ナブー 湖水地方>
ティア・アテミスはナブー湖水地方の“ある小島”を訪れていた。
まるで人の目から隠されるよう存在するこの場所には、不自然に感じる程の強いフォースが流れている。
一歩踏み入れると広く開けたこの場所には立派なモニュメントが建てられていた。
それは慰霊碑だった。
“たった二人”を埋葬するには大袈裟過ぎると言う者もいるだろう。
そして『ここに眠るのはどこかの王族か?』と疑問を口にするだろう。
しかしその疑問もあながち間違ってはいなかった。
一人は一時期、一国を治めた女王であり、国を代表する元老院議員。
もう一人は直接的な血の繋がりはないものの、ある国を治めた伯爵家の正当な後継者だった。
ティアが地面にはめ込まれるように広がる巨大な岩に触れると、まるでかつての師の温もりが自身の身体を包み込むような気がした。
「マスター、パドメ」
ティアは膝を地面に突けたまま、今は亡き師と友の名を口にする。
“あの出来事”の後、ティアとオビ=ワンはパドメとフォースの冥界に旅立ったヴェリウスを火葬し、この地に埋葬した。
かつてのクワイ=ガンがそうだったように、ナブーでは火葬された故人は惑星のエネルギーとして回帰すると信じられていた。
ティアはまるで時間という概念を忘れたように、その場に留まり続けた。
いつまでそうしていただろうか?
まるで石像にでもなったかのように彼女は動かなかった。
見方によってはフォースと深く繋がる為に瞑想しているジェダイのようだった。
そして、図らずも彼女の状態はフォースとより深く繋がる瞑想と同じ効果をもたらした。
すると、どうだろうか。
どこか不思議な感覚に陥る。
懐かしく、それでいて—————
造り物のように動かなかったティアは、まるで条件反射のように勢い良く顔を上げる。
すると慰霊碑の前に、自分の目の前に想い人の姿があるではないか。
見上げる程の長身、自ら光を放っているように錯覚する白金色の長髪、気を抜けば吸い込まれてしまいそうになる程の深い青色の瞳、どこか寂しげで、それでいて優しい微笑みを浮かべている。
「マス、ター・・・?」
そこには以前と変わらないヴェリウスの姿があった。
その姿に太陽が注がれ、まるで幻想のようだったが確かにヴェリウスだった。
「マスター!!」
その場から立ち上がり師の下へ駆け出そうとするティアだったが、ヴェリウスが目を瞑り、俯きながら首を振ったことでその動きを止める。
彼は霊体だった。
フォースの冥界から意識のみが帰還した状態だ。
特別な訓練を受けていないヴェリウスが霊体としてこの世に出現できた理由は誰にも分からない。
強大なミディ=クロリアン数によるものなのか、フォースによる意思なのか、本能で肉体を昇華させ、自然に霊体化したのか、それは誰にも分からない。
しかし確かなことは、彼が意識を保ったまま現世を訪れたといういことだった。
「申し訳ありませんマスター、何もかも・・・本当に、ほんとうに」
ヴェリウスの死後、彼女の瞳から涙が流れ続けた。
一度流れ落ちた涙は留まることを知らなかった。
彼女の瞳から涙が枯れるその時まで・・・・・。
もう枯れてしまった涙は二度と流れることはないと思っていた。
存在しなければ、流れる筈がないのだから。
しかし彼女は生きていた。
その身体には血が流れ、心臓は強く脈打っている。
枯れたと思い込んでいた涙が再び瞳を濡らし、頬を伝う雫はまるで燃え滾る溶岩のようだった。
ヴェリウスは困った様子で、あたふたしながらも何とかティアをなだめようとしている。
その姿が可笑しく、ティアは涙を流しながらもつい笑ってしまう。
悲しいのか、嬉しいのか、自身の感情が理解できなかった。
しかし霊体になってまで自分を安心させようとするヴェリウスのことが堪らず愛おしかった。
彼女の笑みを見たことでヴェリウスは少し安心したようだった。
そして申し訳なさそうな表情を浮かべながら口を動かしている。
だが、その口からは声が発せられていない。
しかしティアは師が何を言いたいのかが理解できた。
彼の言葉は聞こえなくても、その想いはしっかりと心に届いていた。
涙で顔を濡らしながらも笑顔で頷くティア。
その様子を見て、ヴェリウスも笑みを浮かべる。
すると太陽光の影響なのか、ヴェリウスの姿が少しずつ薄れているように見える。
「 ! マスター!?」
その変化に気づいたティアはすぐに駆け寄ろうとする。
しかしそれよりも早く、ヴェリウスの身体が透過していく。
ティアがヴェリウスの下に辿り着いた瞬間には、彼の身体は完全に消えてしまった。
「・・・・・貴方はそうやって、いつも私の前からいなくなってしまう」
そう口にするティアだったが、彼女の表情はどこか晴れやかなものだった。
このヴェリウスの姿が幻だったのか、フォースに起因する奇跡だったのか、それは誰にも分からない。
しかしティアが彼の姿を見るのはこれが最後だった。
予言に、時代に、組織に翻弄された“かつて選ばれし者”と呼ばれた青年ヴェリウスの生涯はこうして幕を閉じた。
しかし彼の名は数々の伝説と共に語り継がれていくことになるだろう。
はい、お疲れ様でした。
書き進めていくと、当初の構想から離れてしまうのは反省点ですね・・・
ネタバレ?裏話?になりますが、IF云々以前に執筆開始前の正史の構想段階ではアナキンの代わりにヴェリウスが闇堕ち、アナキンやオビ=ワン、パドメがヴェリウスを止める・・・的な案でした。
しかしヴェリウスとパドメの結婚、弟子であるティアが登場など様々な要因により、大幅な路線変更となりました。
こんな背景があり、ヴェリウス闇堕ちパターンであるこのIFを投稿し始めたのですが、そもそも僕が投稿したかった内容とは違ったものになってしまいました。(は?)
正史との関係性や、読者の皆様が混乱してしまうことも懸念しており、投稿を最後まで迷いましたが一部の方だけでも楽しんでもらえるなら良いかなと執筆を決めました。
この物語をIFルートⅠとして、ルートⅡを本来僕が描きたかったものにしようと考えていたのですが、投稿するかはまだ決めていません。
今の所、前からご要望のあったEP1の執筆を考えていますが、いつになるか分かりません。
賛否の多い作品&評価の別れるIFということで様々なご意見があるかと思うますが、とりあえず完結できたのでとりあえずホッとしています。
また近いうちにお会いできることを楽しみにしています。
それでは、フォースと共にあらんことを。