文豪アウトサイダー   作:れいめい よる

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ブラックマーケット(ワンピースIF)

 

 

グレイの案内でオークション会場へと入場した一同は舞台に近い前方の特等席についていた。

 

「えー、お次はエントリーナンバー十六…」

「胸糞悪ィヤツらだ。」 

 

人間の踊り子、手長族、懸賞金の掛かった海賊…絶望に染まる商品を高値で落札する人を人とも思わぬ客達にサンジが吐き捨てる。 

 

「此処では犯罪者や世界政府非加盟国の社会的地位の弱い奴らが売られている。もはや名物と化してるんだよ。」

「どうして海軍は止めないんだ!?」

「経済を動かしてるのは何も真っ当な仕事だけじゃない。一年で何兆もの金が動く地下経済を抜きにしてこの島は成り立たねぇのさ。」

「甘い蜜を吸わせてもらう代わりに黙認してるってわけか。」

「そういうこった。」 

 

サンジの言葉にグレイは淡々と肯定すると煙草の煙を吐き出す。

 

舞台で悲鳴が上がった。視線を向けて見れば、口から血を流し倒れる男を係員が舞台裏へと引き摺っていた。奴隷として変われるよりも死を選ぶ者は少なくない、度々起こるトラブルに直ぐに取り繕う司会に一同は腹の底から憤りが込み上げてくるのを感じた。 

 

「ようこそブラックマーケットへ。」 

 

グレイの皮肉の篭った言葉に不愉快とばかりに舌打ちを零すフランキー。 

 

「おっさんも此処で商売をしてんのか。」

「まさか、俺はグレーゾーンに片足突っ込んだだけの便利屋さ。こういう類にはつくづく嫌気が差すよ。」 

 

そう言うとグレイは一際豪華な特等席へと視線を向ける。その先には、派手な装飾の成された腰掛けに凭れ居丈高に構える三人の天竜人が無遠慮にも大声で雑談をしていた。

 

 

「ごほんっ、えー大変長らくお待たせ致しました。続いては魚人島からやって来た人魚のケイミー!」 

 

舞台裏から戻ってきた司会者のディスコは巨大な金魚鉢に入れられたケイミーを指差し声高に叫ぶ。 

 

「あの子か?」

「ああっ、彼女がケイミーだ!」

「よーし、絶対買い取ってやるわよ!」 

 

滅多にオークションに出ない希少種の人魚の登場に歓声を上げる会場、鎖で拘束されてはいるが五体満足なケイミーにパッパグは安堵の息を漏らす。そして競り勝とうと息巻く麦わらの一味は酷く苦々しい顔つきをするグレイに気づかなかった。 

 

「五億ベリーで買うえ!」 

 

てんでんに名乗りが挙げられるなか、特等席から放たれた鶴の一声に会場は水を打ったように静まり返る。 

 

「…すまない、どうやら相手が悪すぎたようだ。()()()()()()()()()()()()()()此処に案内はしなかった。」 

 

グレイの小さな呟きは呆然とする一味の耳に届くことはなかった。 

 

「そんなっ、」

「五、五億ベリー以上の方はいらっしゃいますか?なければこれにて打ち止めにさせていただきますが…」

「不味いな、これは予想だにしてなかった。」 

 

天竜人は個人資産でも最低七百億は保有していると云われている。対して麦わらの一味が出せる最高額は二億ベリー。強奪を収入源とする駆け出しの海賊にはなから勝算などなかったのだ。

オークションに参加している王族貴族も太刀打ちできない相手に断念、席を立ち去ろうとする者もいるなかで麦わらの一味は愕然と立ち尽くす。 

 

そんな時だった。 

 

 

「ぎゃああああ!」 

 

突然後方の壁が突き破られ、重々しい響きと共に何かが突入してきた。

 

 

「いっててて、」

「お前もっと上手く着陸しろよ!」

「できるかァ!」

「何だアイツらは!」 

 

立ち込める砂埃が引いてきた頃、瓦礫を掻き分け姿を現した三人の男達に会場のそこかしこで騒めきが起こる。一方でグレイと共に会場に居た麦わらの一味は男達にあっとたまげた。 

 

「ルフィ!?」

「アイツら、また派手な登場の仕方を…。」

「…………。」 

 

頭や腰を摩りながら体を起こす麦わらの一味の船長、モンキー・D・ルフィ、副船長のゾロ、そして人生バラ色ライダーズの頭デュバル。

会場中の注目を浴びているにもかかわらず言い合いを始めるルフィ、ゾロ、デュバルにナミ達は思わず頭を抱える。グレイはそんな一同を無言で観察していた。 

 

「あ、ケイミー!探したんだぞ!」 

 

くだらない口論を繰り広げる三人であったが、不意にルフィは舞台を見やると水槽に閉じ込められるケイミーに顔を明らめさせ......そして形振り構わず前方へと駆け出した。それを見てハチが即座に通路へと飛び出す。 

 

「待て麦わら!何をする気だよ!」

「何ってケイミーを助けるに決まってんだろ。」

「駄目だ!ケイミーには首輪が付けられてるし、天竜人もいるんだ!」

「そんなもん関係ねェ!」

「き、きゃあああ!魚人よ気持ち悪い!」 

 

ずんずんと勢いよく足を進めるルフィを留めようとその体に必死にしがみつくハチ。騒然とする会場に悲鳴が入り混じる。 

そこで漸くハチは自身の蛸足が露になっていることに気づいた。 

 

未だ海洋種族への差別が根強いシャボンディ島において、ハチのような魚人が変装なしに人目につくのはリスクの大きい行いであった。だが一度正体がバレてしまえば手遅れ。

 

「ハチ、早く逃げろ!今はケイミーよりもお前の命の方が危ない!」

「ニュー、俺は善いんだ。」 

 

穢らわしいものでも見るかのような視線が突き刺さり、石打のように物を投げつけられるハチ。パッパグが駆け寄り引き下がるように言うがハチはそれを拒否して舞台手前で警備員に抑えつけられんとするルフィを追おうとする。が、 

 

パァン! 

 

突として響いた一発の銃声に麦わらの一味のみならず会場にいた全員の時が止まった。

次いでばたりと地面に倒れ伏したのは… 

 

「むふふふ、むふふーん!当たったえ、魚人を仕留めたえ!」 

 

ピストルを手に小躍りする天竜人、チャルロス。その足元で血塗れとなり力なくうつ伏せになるハチ。ナミが目に涙を溜め叫声を上げた。 

 

「ああ、怖かったわ。変な病気を移されるかと思った。」

「流石はチャルロス聖!」

「俺も一度魚人を撃ってみたかったのに、残念…。」 

 

一人の命が散らされようとしているというのに、ハチに同情する者はいない。非情にも異口同音にハチを謗る人々にチョッパーは狂ってると苦悶の唸り声を上げた。一方、ケイミーの元へと行かんとしていたルフィは踵を巡らし天竜人へと近づく。

ハチを通り過ぎ、その先へ真っ直ぐに進もうとするルフィの腕をハチは咄嗟に掴んだ。 

 

「麦わらぁ、待っでぐれ…っ例え目の前で誰かが撃たれてもっ、天竜人には逆らわねぇって約束、じだ、だろ…!」

「...............。」

「ご、ごめんなぁ…俺、少しは役に立ちたくで…結局ドジ踏んじまっで!!」

「魚の分際でまだ喋りおって...ムカつくえ!」 

 

涙ながらに謝罪を繰り返すハチに唇を噛み締め静かに耳を傾けるルフィ。しかし、ハチを遮るように間に入ったチャルロスに堪忍袋の緒を切らしたルフィはハチの手を振り払い足を大きく踏み出した。 

 

「本気か?」 

 

ルフィがせんとする行いを察して成り行きを静観していたグレイは呟く。その音色はそこはかとなく愉しげだった。

チャルロスの目前で足を止めるルフィ、チャルロスは再びピストルを掲げルフィへと向ける。 

 

「な、何だえお前無礼だえ!」 

 

ルフィは片足を半歩後ろに下げると、重心を傾け拳を一層強く握り込み。

そして、 

 

「ガァアアッ!!」 

 

チャルロスが引き金を引くよりも早く、その頬目掛けて力強く腕を振り上げた。

 

 

 

ガッシャアアン! 

 

鈍い音を立て会場の外へと吹き飛ばされたチャルロス。再び時が止まったかのように静まり返る会場。 

 

 

「悪いお前ら。コイツ殴ったら海軍の大将が軍艦引っ張って来んだって。」

「っく、ははははは!ははっ…、」 

 

耳に痛いほどの静寂の中、グレイの哄笑が木霊した。それを皮切りに会場全体が絶叫で溢れ返る。 

 

「や、やった…天竜人に手をかけやがった!」

「早く逃げないと私達まで粛清されてしまうわ…!」 

 

天竜人が殴り飛ばされるという前代未聞の事態に反応の大小はあれど一斉に慌てふためく人々。

蜘蛛の子を散らすように、倒けつ転びつ逃げ惑いあっという間に外へと走り去っていく。

 

いつの間にか会場には麦わらの一味にグレイ、天竜人と駆け付けた衛兵、高みの見物にその場に留まる偏物だけが残っていた。 

 

 

 

海賊を捕らえるべく突入したヒューマンショップの警備隊、天竜人の護衛と交戦する麦わらの一味。場は大混乱に陥っていた。

耳を劈く銃声や剣戟の声、兵士達の怒声が絶え間なく響き渡る。 

 

「下々民の分際でよくも息子を……グェエ!?」

「ぎゃあああ!」

「お父上様ぁ!!」

 

ルフィたちを射殺そうと天竜人のロズワードが衛兵達に指示を出すなか、天井を突き破った何かがロズワード目掛けて悲鳴とともに高速に落下していく。ロズワードを巻き込んで巨大なクレーターが出来上がると傍で一部始終を目撃していたロズワードと同じく天竜人のシャルリアが絶叫した。

 

「クラッチ。」

「ヨホホホホ!」

「ウソップ、ロビン、ブルック!」 

 

幸運にも天竜人を犠牲にして着地に成功したウソップに続き、ロビンとブルックも飛魚から飛び降り会場に着陸すると戦闘に加勢をする。

 

勢揃いした麦わらの一味を取り囲む武装兵たち。偶然オークション会場に居合わせ顛末を傍観していた海賊ユースタス・キッドやトラファルガー・ローは演劇を鑑賞するかのように激励を送っていた。

そんな中、シャルリアが兄の拳銃を手に一味の狙いであるケイミーを滅しようと近寄った。 

 

「お、お待ちくださいシャルリア宮…まだお支払いが…!」 

 

慌てて引き留めようとするディスコの耳を鉛玉が掠める。 シャルリアは顳顬に血管を浮き上がらせケイミーを射殺さんばかりの眼光で睨みつけていた。

 

「五月蝿いアマス下々民!」

「しまった、ケイミーが!」 

 

水槽を傾け銃口を向けるシャルリア。

ウソップはパチンコを構え、ゾロが刀を両手に駆け出し、ロビンは悪魔の実の力を使おうとしてーー

 

 

パァンと空気を劈いた乾いた音に一同は最悪の事態を想像するが、彼等の予想に反しケイミーは無事であった。どさりと崩れ落たシャルリアは片手を押えながら激痛に顔を引き攣らせる。 

 

「誰だえ!私を撃った無礼も、の……は、」 

 

目を吊り上げ般若の如き形相で襲撃者を振り返ったシャルリアは視界に映った人物に驚きの色を示し、瞬時に顔を曇らせた。 

 

「誰だアイツ?」

「グレイさん!」       

 

一歩、また一歩と緩やかな足取りで舞台への階段を上るグレイ。未だ言葉を交わしたことのないルフィたちは不思議そうに首を傾げ、ナミたちは口元を欣喜に緩めた。しかしグレイを前にした途端に先程までの剣幕を忽ち収め後退するシャルリアに一同は疑問を抱く。

 

水槽にぶつかりそれ以上退くことができないシャルリアに、手を伸ばせば触れられそうな距離まで近づいたグレイはシャルリアの耳元に顔を寄せると何かを呟いた。 

 

ーシャルリア、 

 

最後まで聞き取れないほどに小さな囁き声だったが、近くに居たゾロはグレイがシャルリアの名を呼び捨てにしたのを聞き逃さなかった。 

一切の感情も篭らない冷ややかな声に得体の知らない何かがぞくりとゾロの背筋を這い上がる。 

ふと、グレイと目があった。 

 

深黒晦冥な瞳が心の奥底を覗き込む。ぐわんぐわんと脳みそが揺れ平衡感覚が失われてゆく。

鷹の目を前にしたとき以上の強大な…脅威にも似た感覚がゾロの生存本能を刺激する。目前の男が人間でないものに思えてならない。

ゾロは無意識のうちに刀の柄を握る手に力を込めた。何だコイツは、本当に生きているのか… 

 

「お前は、」

「ゾロ!」

「っ!?」 

 

ー一体なんだ。 

 

そう尋ねようとして思考を遮るように与えられた肩への衝撃にゾロの意識は現実に引き戻される。

 

 

ハッとして振り返ってみれば、ゾロの肩に手を置き顔を覗き見るナミがいた。

ぱちりと瞬きをし辺りを見渡してみれば自身らを取り囲んでいた衛兵達が総じて意識を失っているのに気づきゾロは慌ててナミに詰め寄る。 

 

「いい加減にしなさいよ、何度も呼ばせて..」

「何があった!?アイツがやったのか!?」

「何って…あそこのお爺さんが妖術みたいなの使ったの見てなかったわけ?」

「……爺さん?」 

 

奇妙な物言いにゾロは顔を舞台の方へと向ける。するとそこには、不思議なことに先程自身を戦慄させたような名状し難いあの面影はなく、凡庸で無害そうな男が立っていた。グレイから数メートル離れた場所でハチを背負い、見窄らしいマントを羽織った白髪の老人と向き合っている。

 

老人からは幾多もの死戦を潜り抜けてきた猛者のオーラがひしひしと伝わってくるが、妙な緊迫感の中老人に向き合うグレイからはやはり一抹の強さも感じ取ることができなかった。先程視線が合わさった時のあの思考が引き摺られるような感覚は思い過ごしかとゾロは頭を掻く。

そこに入り口の方で誰が海兵を先に蹴散らすかとキッド、ローと啀み合っていたルフィが呼びかける。

 

「おーい、ゾロー!早く来いよー!」 

 

自身が物思いに耽っている間に随分と事が進んでいたらしいと、ゾロはルフィ達の後を追おうとするナミを追いかけ横並びに歩きだす。 

 

「なあナミ、ケイミーはどうなった。アイツらは何処に向かってる。」

「…アンタ、昼寝のしすぎで脳みそ腐ってきてるんじゃないの?」

 

状況を聞き出すゾロにナミは呆れ半分に辛辣な言葉を浴びせるも、溜息の後に説明をはじめる。 

 

「ケイミーはグレイさんが不思議な力...多分悪魔の実の能力を使って首輪を外してくれて、あのお爺さんがハチの知り合いだから治療の為に十三番グローブで集合しようって話になったじゃない。それで、グレイさんは用事があるからこの場に残るって。」

「そうか。」 

 

いつの間にかサンジやロビン、他の船員達も会場の表へと姿を消していた。一人唸り声を上げる様子のおかしいゾロをナミは訝しむように見る。 

 

「ちょっとあんた、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「あー、多分寝過ぎた。」

「はぁ…だと思ったわ。」 

 

それ以上ナミはゾロを責め立てることはせず先を急いだ。ゾロは入り口まで行くと一度立ち止まりもう一度背後を振り向く。舞台の上には既に老人は居らず、グレイだけが天竜人を見下ろして立っていた。 

 

「ゾロー!」 

 

再度自身の名を呼ぶ声に、ゾロは今度こそ外へと駆け出した。 

 

 

 

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