文豪アウトサイダー   作:れいめい よる

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大椅子取り時代が始まるまで(ワンピースIF)

 

 

「んん…」

「お父上様っ、」 

 

麦わらの一味が去って暫く、狙撃手のウソップによる不意打ちの攻撃に意識を失っていたロズワードが目を覚ました。

後頭部を押さえながら体を起こすロズワードに駆け寄るシャルリア。 

 

「おのれ下々民…息子だけでなく私にまで手を出すとは!シャルリア、海軍など生温いCP-0を呼べ!」

「お、お父上様。その…今回は大目に見ては如何アマス?」

「何を言うシャルリア!不浄な者どもに神の鉄槌を下すのだえ!」 

 

こめかみに血管を浮き上がらせ癇癪を起こすロズワードを落ち着かせようと抱きしめるシャルリアに見るに見かねた俺は最前席から立ち上がると二人に近寄った。 

 

「ロズワード。」 

 

俺の呼びかけにピタリと動作を止めるロズワード、ぎこちない動きでこちらに体を向けるとシャルリアと同じく何故か顔面を蒼白にさせた。 

 

「グ、グレイ…来ていたんですえ?」

「ジャルマックから聞いたぞ、貴族会議をすっぽかして何処に行ったのかと思えば…また人間屋か。」 

 

両手を交差させ慌てふためきながら言い訳を探すロズワードに俺は長嘆息を吐く。 

 

「シャルリアには俺の顔に免じてあの海賊達を許すようにと頼んだんだ。お前も今回は引き下がってくれないか。」

「しかし..」

「そもそもチャルロスが下手に魚人に手を出さなければこんな事態にはならなかった、違うか?」

「それは…」 

 

尚も食い下がるロズワードにやはり難しいかと駄目押しにもう一度名を呼んでみると、渋々といった様子でロズワードは黙り込んだ。 

 

「ありがとさん。んじゃ、護衛達に俺の顔を見られる前に帰ろうか。」 

 

そう言うと俺は衣装と装飾品のおかげで二倍は体重を増したチャルロスをおぶり、二人に触れるとその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

俺の名前は森田豊。

 

前の世界では還暦を迎えたばかりのサラリーマン。息子と娘も遥か昔に社会へと旅立ち、俺は大企業の社員として働きながら妻と二人の家で暮らすありふれた生活を送っていた。 

 

ある日のことだった。

いつも通り会社で仕事に勤しんで家に帰宅、妻の愛情籠った飯を食い風呂に入って就寝…そして目を覚ますと見知らぬ場所にいた。 

石造りの家々、布を巻いた格好の人々、街の中心に聳える巨大な城。まるで紀元前のローマ帝国にでもタイムスリップしたようだった。寝ている間にハリウッドまで来てしまったのかと思ったが、夢遊病で国境を跨ぐだなんて聞いたことがない。

未だ夢の中であることも疑い頬を抓ってみたが普通に痛覚はあり、試しに地面に落ちていた果物を食べてみても味覚があったことから紛れもない現実だと気づいた。因みに果物は死ぬほど不味かった。兎も角、五感が働いているのでこの世界が夢などではないことに気づいた俺。 

 

タイムトラベルの線を念頭に置きつつ自身の置かれた状況を正確に把握するために情報を集めることにした。 

 

先ず、俺のいた国は世界を縦横する赤い土の大陸レッドラインと呼ばれる大陸の上に存在する国であること。少し前までは神の国と称される国が栄えていたが、今は世界政府という創設されたばかりの行政機構が今の大陸の大半を支配していること。この世界ではレッドラインに対し垂直方向に偉大なる航路という海路が地球を分断し、海域が東の海、西の海、北の海、南の海の四つに大別されていることを知った。

ここまでくれば流石に俺が単純にタイムトラベルしたわけではないことは判っていた。じゃあ何時の何処かと問われれば答えに窮するわけだが…。 

 

衣食住を求め国の隅々を歩くうちに俺は次第に動乱の世に迷い込んでしまったことを悟った。時代の急激な変遷により政情が不安定なためか、国の彼方此方で暴動が起き路頭に迷う人々で溢れていた。十歩歩けば追い剥ぎに遭う治安の悪さに、俺も最低限の護身として銃やナイフを握ることを余儀なくされた。この頃、俺が初めて手にした拳銃がワルサーP38…別名グレイゴーストであったことから俺は自身をグレイと名乗ることにした。本名だと悪用されそうだし、場所が場所なだけに日本語の名前が通じるかどうか不安だったからだ。 

 

賊徒が跋扈する殺らなければ殺られるのご時世、命の尊さを説く奴なんているはずもなく…次第に感覚が麻痺した俺も引き金を躊躇なく引くようになった。不幸中の幸いか、何故かこの世界に来た時から俺の見た目は二十代にまで若返っていたため戦闘時の体の負担が少ないことは助かった。 

 

 

窃盗、傷害、殺人、悪業が蔓延るこの世界から元の世界へと戻る方法を模索する毎日のなかで、俺は自身に特殊な能力があることを知った。

 

悪魔の実…カナヅチになるのを代償に人智を超えた超能力を手に入れることができる魔法の果実。驚くことに、この世界には一定数悪魔の実を食べたことにより超人的な力を獲得した存在がいたのだ。 

 

心当たりはある。

俺がこの世界にきた直後に食べたくっそ不味いドラゴンフルーツみたいなやつ、あれが悪魔の実だと知っていれば絶対に食べなかっただろう。しかし今となっては後の祭り、自身の能力と向き合いながら悪戦苦闘の末、俺が食べた実が瞬間移動を司るものであることを突き止めた。

 

便利なことに世界の何処であろうと瞬間移動が可能で、三百六十度視野に入る範囲内であれば物だろうと人間だろうと触れずに動かすことができる。補足すると、それ以上の場所に飛ばしたいならば対象に触れなければならない。

まさしくチートな超能力だがここで問題が発生。俺の想像力が乏しいせいか、コントロールが上手くいかず高確率で望んでない場所へと転移してしまうのだ。まあそれだけなら未だ良かった。なんとこの力は俺が念じてない時でも発動されてしまう粗悪品だったのだ。多分俺は悪魔の実に嫌われている。 

 

しかし食べてしまった以上死ぬか元の世界に戻るか以外に力を手放す方法はないだろう。だから俺はできるだけ力を使うまいと心に誓った。 

だがそんな俺の決意とは裏腹に、悪魔の実は俺に次々と試練を与えてきやがったのだ。 

 

 

 

ある日トイレに行こうと近場の店の扉を開けた時のことだった。

何故か扉を開いた先には無駄に背もたれの高い椅子と、そこに偉そうに腰を下ろす男がいた。いや、男というには人間とは似ても似つかない姿形をした奇妙な存在だった。元々この世界には当たり前のように人外の種族がいるのも知っていたし、勝手に転移が発動されるのも茶飯事だったので俺は特に驚かなかったが相手方は違った。まあ当然といえば当然だな、突然目の前に変な男が現れたものだからソイツは即攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

これだけは云わせてもらうが俺の運動能力は一般人の中でも精々上の下程度だ。他の悪魔の実を食べたやつの足元にも及ばないし、そもこの世界の人間を含めた全ての種族は多分俺と体の造りが違う。対戦すれば悪魔の実の力を使わざるを得ないほどに異次元の運動能力を持っている。 

それまでにもヤバい奴らと刃を交わし間一髪のラインで運よく生き残ってきた俺はこの時も悪魔の実の力を駆使して我武者羅に全身を動かして応戦し……気づけば二人揃って仲良く地面に転がっていた。

満身創痍ながらも最後の力を振り絞りそのときは撤退したのだが…別の日にまた俺は同じ場所へと飛んでいた。そして再びバトって揃って地に伏せて…そんな出来事を繰り返していくうちに俺達は自然と打ち解けていった。 

 

 

暫くして知ったのが俺が飛んでいた場所が国の中心部にあるパンゲア城、その地下にある虚の玉座という秘密の広間で、イムはそこを守る王様であったこと。そりゃ部外者の人間が突然来れば怒って当然だよな、どうやら常識がなってないのは俺の方だったらしい。

そんなわけで紆余曲折を経て俺とイムは気の置けない親友のような仲になった。後にイムに彼の部下の五老星って奴らを紹介してもらったんだが、アイツら王様ガチ勢なのか俺に会った途端に飛びかかってきやがったから死を覚悟したのは今となっては良い思い出だ。未だにぎすぎすしている感じはあるが、最終的には俺をイムの友人と一応は認めてくれて、俺は高頻度で虚の玉座へ通い詰めるようになった。 

 

 

 

若くして王位に就いたイムには悩みが多かった。政権が交代したばかりで混沌に染まる世界をどう統治すれば良いか分からない、そう打ち明けるイムに息子を思い出した俺は前の世界の歴史の知識を用い統治についてのノウハウを教えてやった。その甲斐もあってか、会うたびにイムの顔つきは明るくなっていった。 

 

さて、ここで新たな問題が発生した。

ごく稀になんだが、イムに会った後に街へと戻ると何故か景観が大きく変わっていることがあるのだ。いや、景観なんてレベルじゃない。俺の元居た家も村も無くなっていて…そう、まるで違う国に飛んでしまったかのように。

だが直ぐに原因は判明した。俺の隣の家に住んでいたはずの若者が爺さんの姿で現れたことにより俺は自身が時空をも超えていたことに気づいてしまったのだ。どこのSF浦島太郎だよと全力で自分にツッコミを入れたものだ。 

 

いつ時空を超えているのかが全く分からないので俺はイムの元から超能力で去るときは必ず日付を確認するようにした。イムとの出会いから既に百年以上の年月が経っていたが俺にとっては僅か一年未満。ふとイムと五老星が老けないことに疑問を抱いたが、まあそれも種族の違いだろうと勝手に結論づけた。イム達は世界貴族という神の末裔らしいから寿命が長いのかもしれない。 

 

イムを毛嫌いするジョイボーイという男に仲良くしてやってくれと直談判しに行ったり、空島で大規模な戦争に巻き込まれたり、北の海にある国フレバンスの珀鉛産業を視察しに行ったり、ゴール・D・ロジャーという大男に会ったり…基本はパンゲア城に居候し、偶に観光気分で外の世界へ旅行する…そんな波瀾万丈ながらも充実した日々を送ること三十年。世界では………七百年以上が経過していた。 

 

いやおかしいだろ!?なんでそんなに時間が経ってるんだよ!俺普通の人間なんですけどっ!? 

 

…どうやら俺の性悪な悪魔の実は想像以上に質が悪かったらしい。もう完全に俺一人だけ時空間から隔絶されていた。突然異世界に連れ出された平凡なサラリーマンには余りにも酷い仕打ちだった。だが元の世界に帰ることもできず俺はパンゲア城に引き籠った。俺の荒ぶり具合に哀れがましく思ったのかイムも五老星も暫くの間俺に近寄ってこなかった。その心配りが逆に胸に突き刺さった。 

 

そうして更に幾ばくかの年月が経ったあるとき、イムが俺に泣きついてきた。話を聞くに、何やら海上保安が不安定化し対応に苦慮しているとのこと。あのロジャーが処刑前に厄介な宣言をしたせいで反社会的勢力がまるで都会のコンビニ並に急増したらしい。 

 

夜中に叩き起こされたためにちゃんと聞いてなかったのだが…要するにイムの玉座を狙って人々が海賊に転職し大海原へと旅に出たようだ。なんでもワンピースというひとつなぎの大秘宝を手に入れたものが海賊王になり、海賊王が玉座を奪うだの云々…なんだっけか、もう少し真面目に聞いとくんだった。 

 

俺は正直耳を疑った。

確かにあの玉座は豪華絢爛で一度目にすれば誰だって座ってみたいと思うだろう。だが反社会人になってまで座りたいかと言われれば否だ。だというのに造形美と歴史的価値しか魅力がない椅子は、どうもこの世界の人間にとっては垂涎ものの代物らしい。世界政府に追われることになろうとも構わないと海賊達は今日も元気よく大海原を航海しているそうだ。

……なんという恐るべき野心、恐るべき行動力。これが世界を超えた価値観の違いか…。というか何がひとつなぎの大秘宝だ、俺にとっては大悲報でしかないわ。 

 

一先ず俺は一度座らせてやれば気が済むんじゃないかと提案したのだがイムは見捨てるなだの共に世界を作り上げただの支離滅裂なことを言いながら懇願してきたもので俺は早々に説得を諦めた。こいつもこいつで独占欲が強すぎるヤバいヤツだった。 

 

兎も角、急増した海賊の影響で大陸中の治安が悪化し、経済が低迷しているのは不味い。音を上げるイムに俺は壮大な椅子取りゲームで玉座が壊れないよう共に守ってやると約したことで一旦はその場を収めた。 

 

 

斯くして、大海賊時代改め世界規模の大椅子取り時代は幕を開けたのだった。 

 

 

 

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