文豪アウトサイダー   作:れいめい よる

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デッドエンド(OE)

 

 

江戸川、敦、国木田、ルーシーが軍警基地に向かうとほぼ同時に特務課から来着した綾辻と辻村と初対面を迎えた。 

 

「江戸川乱歩だな?」

「そういう君は綾辻行人でしょ。」

「ああ。」 

 

国木田と辻村が代表して軽く握手を交わすと、彼等は激戦後であろう荒廃した基地跡を見渡した。 

 

「どうやら一足遅かったようだな。」

「そうだね。」 

 

建物は粉微塵と表現していいほどに破壊され、砕け散った破片が広い敷地を敷き詰めるように転がっている。侵略者と応戦したと思われる部隊の隊員たちが血溜まりを作り横たわり...その中には所々四肢を欠損している者もいた。 

 

「無惨だ。」 

 

国木田が武装探偵社に入社して幾年もの年月が過ぎた。個人に留まらず警察や軍警、特務課の依頼を受け荒事を仕事にしていれば目を覆いたくなるような事件や事故に遭遇することも少なくない。 

 

ーーだがこれは、この有様は想像以上だ…。 

幾度となく面してきた惨たらしい現実、その中でも上位に食い入るであろう新たな悲劇を前にして国木田は知らず知らずのうちに口元を覆わずにはいられなかった。 

 

「こんな酷いことを…。」 

 

近くに横たわる片腕を失くした遺体を朧げに見つめて敦は憤然に身を震わせる。ルーシーは下唇を噛む敦を慰めるように肩に手を添えようとして、止める。行く先、彼等のように無惨な死体となるのは自分たちとて同じやもしれぬのだ。今でも離反を告げたときのグレイの顔がフラッシュバックして己の精神すら安定を保てていないというのに、自己ではなく他人の死を偲ぶ彼にどんな言葉を掛けてやれるのか。その傍らで江戸川と綾辻は注意深く周囲を観察していた。 

 

「この様子では生存者はいないだろう。それよりも何処に…」

「敵が潜んでいるかも断定できない以上一刻も早く兵器の有無を確認するべき…。」

「…その通りだ。」 

 

己の言葉に被せるように見事に意見を重ねた江戸川に綾辻は口端を緩和させた。そしてそれは江戸川も同じであった。常日頃から意固地で鼻っぱしの強い綾辻と江戸川という探偵をよく知る辻村、敦と国木田は二人の滅多に起こり得ない初対面での意気投合に腰を抜かす勢いで慄いた。 

 

ーー明日は隕石が降るかもしれない… 

なんやかんやで似たり寄ったりの苦労人である。  

 

 

「彼処ですね。」 

 

唯一敵の破壊を免れた留置施設と思しき建築物の地上の出入り口を指差す辻村に一同は先を辿る。

 

広大な基地の彼方此方で立ち昇っていた狼煙は今や芝生を焦がす程度に燻っているだけ。それは此処で繰り広げられた苛烈な戦闘が終結していることを証明していた。基地を襲った敵の正体はドストエフスキーとその部下イワンゴンチャロフであろうと彼等の推理は合致していた。

加え、電柱やら建物の骨組みやらが不自然に地面に突き刺さっている光景から、太宰の報告と敦の経験上もう一人の襲撃者がゴーゴリであることも彼等は予想がついていた。幸いにも殺戮を成したのはグレイではないと。しかしそれは主に江戸川と綾辻にとっては淡い期待であった。絶対に束になっても歯がたたないであろう怪物がどうか己の前に立ちはだからないようにと、六人は表には出さずとも心の底で切に願っていた。 

 

「乱歩さん、俺が入口を見張ります。」 

 

入口前に行き着くと、自発的に手を挙げた国木田に連なるように敦が声をあげる。 

 

「じゃあ僕も…」

「いや、お前たちは乱歩さんを守れ。先にどんな罠が仕掛けられているとも限らん。」

「なら辻村君、君も残れ。」

「えっ、私ですか?」 

 

忽焉と指名された辻村が目をぱちくりとさせると綾辻は江戸川と先に進みながら声を張り上げた。 

 

「見張りが一人では心許ないだろう、直ぐ終わらせて戻ってくる。」 

 

そう言うと返事を待たずに暗がりへと消えていった二人に着いていくルーシー、三人の姿が見えなくなってから慌てたように追いかける敦を見送ると辻村は誰にともなく呟いたのだった。 

 

「…え、え?......ご、ご武運を。」

「俺たちもな。」  

 

 

それから数分後のこと。 

 

 

ドッカァァン!

上空から出し抜けに飛来してきた物体に二人は爆風で横殴りに吹き飛ぶ。 

 

「くっ、」 

 

八方から飛び散ってきた鋭利な破片を避けながら体勢を整えると、横から心を掻き立てる疾呼が届いた。 

 

「危ないッ!」

「っ!?」 

 

辻村の叫び声に国木田は咄嗟に飛び退く。直後、地球が真っ二つに割れたかのように彼の立っていた場所が縦に斬り込みを刻んでいた。

斬撃だ…!事もあろうにこの太刀筋は…

 

ザッと土を擦る音がやけに恐ろしく国木田の鼓膜を震わせた。瞼の裏に忘れもしない、あの日の悪夢が蘇る。あの悪魔の声調が。 

 

「これはこれは、誰かと思えば見窄らしく両掌を失くした国木田さんではありませんか。女医に治してもらったので?」

「私を忘れないでください!」 

 

パァン! 

風塵に紛れて後方に回った辻村が正確に条野の胴体を捉えた…はずだった。 

 

「なっ!?」 

 

胸下目掛けて弾道を描いた弾丸は、軍刀の一薙によって容易く弾き払われた。

想定外の実力に事前に猟犬部隊を調査していた辻村も、身を以て彼の脅威を体感していた国木田も顔を強張らせる。しかし次に条野の口から放たれた言葉に辻村は、最大級の緊張に冷却しかけていた全身の血液が沸々と熱気を帯びやがて腸を煮え繰り返すのを感じた。 

 

「勿論忘れてませんよ。異能も碌に操れない出来損ないの捜査官さん。」

「…なんですって?」

「嗚呼、これではあまりに手応えがない。せめてルーシーがいれば少しは楽しめたというのに。」

「————!!」

「煽られるな、相手の思う壺だ。」 

 

天然の煽り文句にわなわなと猛り狂う辻村。そんな彼女の傍まで駆け寄り叱咤で慰撫を試みる国木田は条野から目線を離さずに超高速で頭を働かせていた。

 

軍警基地に訪れる前、彼等がオンライン作戦会議を開いていた際に江戸川が国木田に思い設けさせた危機が、今彼等の目の前に人型を模って降臨している。されど、せめてこれは最悪の一歩手前であってくれ…そう祈る国木田の胸裏とは裏腹に条野は更なる爆弾を投下させた。 

 

「さて、あの方がうっかり鏖殺してしまう前に私が止めなければ。なんせ彼は今かなりブチ切れ…失礼、苛ついているので目を離した隙に何をなさるか…。」

「あの方、だと?」 

 

声を震わす国木田に、条野は片頬に笑みを浮かべる。人の不幸を嘲笑う笑みだ。 

 

ーー瓜坊の傍には親がいるものだ。物陰に潜んで攻撃の瞬間を待っている。 

江戸川の警告が蘇る。この男があの方と呼ぶ人物などこの世に一人しかおるまい…またもや予測が的中してしまったことに国木田は咄嗟に親猪を探そうとして、はたと間違いに気付く。

条野は何と言った? 

 

一つの解に行き着いて国木田と辻村はさっと色を失わせた。

いつまで経っても現れることのないラスボスの姿、攻撃をせずに時間稼ぎでもするかのように淡々と無情な毒を吐き散らす条野。 

グレイは何処にいる? 

 

「そんなっ、」

「独歩吟客!防弾盾!」

「まだ行かせませんよ。」

 

一目散に地下へと走り去らんとした辻村に襲いかかる斬撃を、すんでのところで国木田が具現化して投げ飛ばした防弾盾が防いだ。一度、軍需企業を見学した際に記憶していた手帳サイズの折り畳み式の防弾盾を。 

 

ぱっくりと二つに斬り落とされた盾ががらんと地面に転がる。 

 

「安心なさい、殺す直前に私が止めに行ってあげますから。まあ頭と首さえ繋がっていれば僥倖だと思ってください。」 

 

いつの間にか入口にいたはずの自分達が条野に挑む側になっていたことに気づいて二人は切歯扼腕する。

苦虫を噛み潰したような顔をする国木田と辻村に、条野は極上の悦に浸っていたのだった。  

 

 

 

 

一方その頃、地下へと潜った敦、江戸川、綾辻、ルーシーは。 

 

「まったく、この世界には京極が何人いるんだか。」

「ドストエフスキー、本当に嫌になる…。」 

 

半ば予想していたような綾辻の諦観の籠った一言に江戸川が附言する。

地中から突き出たままの透明なケース、空っぽの中身とガラクタと成り果てた小さな立方体を前に四人はなす術なく凝然と立ち尽くしていた。 

 

「呵呵!早死にしたのが惜しまれる。」 

 

次々と現れる悪徳を煮詰めた策略家に早々に妖怪へと昇華した己を嘆く京極。

「貴様のような狡獪を一人でも葬れたことをに俺は今心から己を称揚している。」綾辻はいつものように抗弁しようとして事情を知らぬ探偵社一行がいるのを思い出し口を噤んだ。 

 

その方で、不運にも危険な兵器を先取りされた絶望的状況に悲観する敦とルーシーであったが、綾辻と江戸川はケースへの興味などとうに消え失せ周辺に探偵の観察眼を走らせていた。それもそのはず、二人からすれば敵による兵器の略奪は見込み通りであり、天人五衰の次なる作戦の目的地を示す手掛かりがないかを探すために態々足を運んだのであった。だが残念ながら肝心のヒントらしきものも見当たらず彼等は完全に行き詰まっていた。 

 

「地上でヘリの停留跡があったのを覚えているか。」

「えっ、」 

 

ポツリと溢された問いに、質問を受けた江戸川ではなく敦とルーシーが反応をみせた。江戸川は困惑する二人を他所に頷くことで同意を示す。 

 

「うん。恐らく襲撃はドストエフスキー、その後…」

「第三者が基地に舞い降りたことになるな。」

「正しくは第三勢力だろうけど、心当たりは?」

「いくらでもある。」

「僕もだよ。」 

 

自身らを差し置いて次から次へと交差する電撃的な推理に敦とルーシーは目を丸くする。常人が見抜けぬ物事の本質を容易く見極めてしまう俊敏な思考と判断力、二人が眼差す世界はさぞ無限の色で溢れているのだろうと敦はひっそりと羨望を抱いた。その隣でルーシーは一を見て百を悟るグレイを思い起こしていた。…実際には真実は百を前に一しか見ていない、である。 

 

「綾辻君、これを見たまえ。」 

 

ふいと、大人しく辺りを散策していた京極の手招きに綾辻はケースの側面を確認してみる。そして、 

 

「…江戸川。」

「ちょっと待って、今考えて…」

「これを見ろ。」 

 

重々しい調子に訝しんだ江戸川が綾辻の視線の先を追って… 

 

「……ッ!」 

 

江戸川もまた、表情を険しくさせた。 

突然二人の探偵が態度を豹変させたことに敦とルーシーは顔を見合わせ、ケースの側面を覗いてみる。

 

地中に埋められていたために湿気た砂礫が疎にへばり付いたそこには一つの小さなランプが付いていた。

赤、黒、赤、黒…交互に点滅を繰り返すランプに何の意味が込められているのか敦には分からなかったがルーシーは事態を察したようだった。グレイがホテル滞在等でも使用する最新型の警報器の一種、侵入者の察知を装置と連携した携帯に速やかに送信し赤と黒に点滅する。同種の警報器をルーシーも何度か使用したことがあった。それのみか、警告の色の種類には秘密裏に込められた意味があった。昔、条野が密かに彼女に教えたランプの点滅色の意味。それは—— 

 

「…死刑宣告。」

「ぇ」 

 

隣にいた敦の虎の聴力でしか聞き取れぬほどにか細い声だった。 

 

「嫌な予感がする、」

「早くここを離れるぞ。」 

 

ルーシーが口にするまでもなく直感で警告を受け取った江戸川と綾辻が神経を張り詰めさせる。だが… 

 

「そんなに急いで何処へ行く。」

「っ!?」 

 

前兆もなく背後から放たれた声に一度は仰天に体を翻した…。 

 

「グレイさん!」 

 

狭小な空間で、一切の気配もなしに現れた男に度肝を抜かれた敦が短く叫んだ。が普段であれば敦の呼び掛けには必ず答えるグレイが、彼には目もくれず拳銃をくるりくるりと回しながら綾辻と江戸川に注目している。

 

瞬間、敦の全身をぞくりと寒気が襲った。心臓の中心から細胞の一つ一つが凍りついていくような、氷山に閉じ込められたかのような感覚が。明瞭な意識に反して蛇に睨まれた蛙のように微動だにしなくなった体に敦は戦慄する。 

 

ーー虎が、怯えている…? 

孤児院の頃から敵と見做した相手が如何ほどの強者であろうと牙を剥いてきた勇猛果敢な白虎が動けなくなるほどの相手…それは現状において寸毫の疑いもなく一人しかいなかった——。 

 

 

「グレイ、そこを退いて。」

「ここに来たってことそれなりに覚悟はできてんだろうなァ?」 

 

グレイが惜しげもなく垂れ流す殺気を初めて体験する敦が金縛りに遭う隣で、既に何度か経験したことのあるルーシーは舌を噛むことで行動不能になるのを堪えた。

 

闇夜に奈落の底から現れた修羅の如く、地下の薄暗ささえブラックホールのように吸収してしまいそうな邪悪さを放つグレイに気を抜けば恐怖に蹲ってしまいそうだった。それでもこの中で唯一、一パーセントでも男の戦い方を知る人間として三人を守り抜かなければならないという責任感が彼女にはあった。

ルーシーはグレイが綾辻と江戸川と言葉を交わすのを聞き流しながら隙がないことを悟り絶望する。敦、続いてルーシー、綾辻、それから江戸川と…グレイが敢えて攻撃の優先順位を定める態度を彼女にわかり易く示していると当然ルーシはその意を汲み取った。 

 

ーー先制はお前に譲ろう 

グレイは暗にそう告げていた。先方の攻撃対象の第一に敦が選択されてしまった以上、罠だと分かっていても引っ掛からずにはいられなかった。 

 

「グレイ、君の悪事もここまでだ。」

「小僧、悪事かどうかは俺が判断することだ。」 

 

ルーシーはアンの部屋からナイフを取り出すと順手持ちする。チャンスは一度だけ、それを逃せば全滅する。進路を演算すると、グリップをぐっと握り込んだ。

三、二、一…。 

 

バンッ! 

 

いくつかの銃声が重なった。

目にも止まらぬ速さで地面を蹴りグレイの首を狙ってナイフを振りかぶった…つもりだった。 

 

「ぅっ…」 

 

気付いたときには地面に落ちたナイフが亀裂を走らせながら割れていた。間をおかずして脇腹に感じたのはどうしようもない熱さ。

 

「ルーシーっ!」

「大丈夫だからっ、」 

 

二本足で立っていることができなくなったルーシーを、ようやっと金縛りから解放された敦が駆け寄ろうとするのをルーシーは必死に止める。敦が前に出れば今度は彼が標的となるのは目に見えていた。 

 

異能力者用の弾丸の一発分が体内に留まったせいで新たな武器すら顕現できないルーシー。それでも壊れたナイフを使ってもう一度反撃を試みようとして…膝を付いて目線を合わせてきたグレイにルーシーは体を硬直させた。 

 

「ルーシー、悪ィ。痛かったか?」

「ッ…」 

 

たった一言で彼女を奮い立たせていたありとあらゆる緊張の糸が強制的に断ち切られてしまった。

怖い。その感情だけが無数の棘となって心臓に突き刺さる。 

 

「上で条野が待ってる。治療してもらえ。」 

 

続いてかけられた人情味のある言葉にルーシーは息を呑んだ。裏切りに対する免罪符、熾烈な鞭の直後に甘美な飴を差し出され恐怖から逃れたい一心で自身に伸ばされる手を取りそうになって… 

 

「っ巫山戯ないで!」 

 

すんでのところでグレイの思惑から逃れたルーシーは彼の手を叩き落とした。自身が与えた関係修復の機会を棒に振った彼女に、男の瞳孔が急激に小さくなってゆく。 

 

ーー不味い…! 

咄嗟に逃げようとして上手く足に力が込められないルーシーを敦が即座に引き戻した。 

 

敦にはわからなかった。その原因が己が未熟だからか、将又世間を知らないからすらもわからなかった。 

 

「どうして…なんでそうまでして…!」 

 

何故グレイは探偵社と敵対するのか、何故既存の秩序を破壊しようとするのか…何故。

疑問は山ほどあったが、心優しき青年が今この場において最も許せないのは部下であったはずのルーシーをいとも簡単に殺そうとしたことだった。敦は空港で彼女に激励された後、アンの部屋で簡潔に彼女と啓道の軌跡についてを聞かされた。それ故に彼は二人がどれ程グレイを慕い、己の命すらも惜しまず付き従ってきたかを知っていた。そんな彼等が情故に初めて表にした懇願を、好意を、グレイは四発の凶弾で返したのだ。だからこそ敦はグレイの真意を追及した。けれども、 

 

「お前らにはまだ理解できんだろうがな、敦。大人になると何を犠牲にしてでも葬り去りたいものができちまうもんだ。」 

 

敦の好意すらも冷然とした態度であしらったグレイに、始終土壺から抜け出す打開策に思考を巡らせていた江戸川と綾辻が我慢の限界を迎えた。 

 

「理解してやるもんか。罪のない人間を犠牲にすることが人の道理か…!?」

「罪なき人間など存在しない。」

「うむ、正邪の区別は劃然とできぬものだ。」 

 

綾辻の斜め上空で別な罪人が強弁した。 

 

「知っているぞ。魂を失くした犯罪者どもは皆そういった屁理屈で利己を貫く。」

「京極らしいな。」

「俺は貴様らに言ったんだ。」 

 

残る三人を庇うように一歩を踏み出すと綾辻は尻目に後方を確認する。

 

当たりどころが悪かったのか腹を抑えるルーシーの色白な顔が土気色に変わりゆくのを敦が焦燥を滲ませ止血を試みている。そしてグレイを警戒しながらも江戸川は心細い敦に止血の指示を下していた。少なくともグレイに一秒でも立ち向かえる戦闘員はおらず、これを絶体絶命というのだろうと綾辻は思考の端で呑気にも思った。がすぐに気持ちを切り替え彼等を守るようにグレイの前に構える。 

 

「どうした?俺を殺してみろ。」 

 

幸か不幸か、綾辻と江戸川は敦が陥った金縛りに遭うことはなかった。数えきれないほどに命の危機に瀕してきて、一度として生半可な覚悟で京極をはじめとした凶悪犯罪者たちに挑んだことはなかった。何より、腐っても彼は特一級危険異能者なのである。 

 

この瞬間にも突破口を見出さんと頭を捻らせる江戸川に託して綾辻はグレイの意識を己に向けさせる。 

 

「…あまり煽ってくれるな、これでも抑えてる方なんだ。」 

 

一つ、綾辻が忘れている事実があった。 

 

おどろおどろしい殺意…否、殺意を超越した圧が地下全体を包むと、流石の綾辻も動きを止めた。額に汗を滲ませながら、綾辻の脳内に数日前に発覚した男についての重大な情報が呼び起こされる。 

 

「どうしてもここを通りてェってんなら…」 

ー嗚呼、そういえば貴様は超越者だったな。 

 

構えた銃の引き金に指を掛けるグレイは人間を逸脱した厄災らしい無機的な面相で四人を見据えて、 

 

「この俺を超えていけ。」 

 

 

死刑宣告ともとれる宣戦布告をしたのだった。

 

 

 

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