めざせヒモマスター   作:himono

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2話

 

「母さんがさぁ、酷いんだぜ? 俺がこんなに嫌がってるってのによぉ、かわいいかわいい一人息子のことよりも、隣ん家のかわいくないかわいくない一人娘のことを優先しやがるんだ」

「…………」

「お前もそう思うよなぁ? こりゃあ立派な家庭内暴力……ドメスティックでバイオレンスだって、俺は思うね。まあ、俺には母さんを訴える気なんてもちろん無いぜ? 俺をこの年まで独り身ながらに立派に育ててくれた、すげぇ人なんだからさ」

「…………」

「でもよぉ、ほんと酷いぜ。少しは庇ってくれたっていいよな。俺はジムチャレンジなんか、二度と行きたくなかったってのに。ユウリに付いて行かされるってんなら尚更……」

「…………」

「あっ、どこへ行くんだ! 戻って来いよガントル! さてはお前も裏切りモンか!」

 

俺の懇願届かず、ガントルはドスドス足音を踏み鳴らし部屋から出て行ってしまった。多分日課の日光浴に行ったんだろうな。

忙しい野郎だぜ、ご主人様の愚痴を静かに聞くことも出来んのかアイツは。

しょうがないので一人孤独に寂しく荷物を詰め込む。

 

「アキラー、まだ荷造り終わらないの? ユウリちゃんいつまで待たせるつもりよ?」

「……今やってるってば。あと2日ぐらいあれば荷造り終わるって、ユウリに言っといてよ」

 

俺が今やっているのはジムチャレンジのための荷造りだ。不満をタラタラ零しながら、きのみやきずぐすりなど、旅の必需品をリュックに無理矢理ぶち込んでいく。

モンスターボールは……いらないか。俺がポケモンを捕まえる必要は無いんだし、もし必要になったとしてもユウリに貰えばいいや。

 

「馬鹿ねぇ、それじゃジムチャレンジの受付が終わっちゃうじゃない。あんたもさっさと諦めて、ユウリちゃんとジムチャレンジに行ってきなさい」

 

『諦めて』って母さんは言うけど、俺だって内心ではとっくに諦めている。あのユウリにメッソンまで合わさってしまっているんだ。ドア一枚だけではとても引きこもりきれそうにない。

……約束を破るってのも、心優しく誠実な俺には無理な話なのだ。

だからこうして仕方なく、全く行きたくない旅の準備をしている。

 

「はい、これ。アキラが昔使ってたキャンプセット」

「うわ、捨ててなかったのかよ、それ」

「捨てるワケないでしょー? いい値段したんだからね、これ」

 

母さんがどすん、と床に落としたのは俺が昔使っていたキャンプセット。

碌な思い出が無いから捨てておいてほしかったが、どこか物置にでも大事に仕舞っておいてくれていたんだろう。結構使ったはずのキャンプセットは、買ったばかりの新品みたいに清潔な状態で保たれていた。

 

「ユウリちゃんに持たせるんじゃなくて、ちゃんとあんたが持つのよ? 男の子なんだから、重いものは進んで持つこと」

「俺みたいな引きこもりよか、ユウリのが筋肉あると思うけどな」

「屁理屈言わない。ほら、私も手伝うから、早く荷造り済ませる!」

 

母さんが加わった結果、『一人でダラダラ荷造りtoジムチャレンジの受付時間切れちゃった大作戦』は実行不可能に。

母さんの監視の目を欺きつつ、サボれる技量は俺には無いのでまじめに荷造りに励む。

 

「ユウリちゃんと、ユウリちゃんのポケモンが体調崩したりしないよう、あんたがちゃんと見てあげること」

「わかってるよ」

「怪しい場所に近づいたり、怪しい人に近づかないこと」

「……わかってるって。近づきやしねーよ、ガキじゃあるまいし」

 

母さんは俺とユウリをなんにでも近寄るガキか、ジグザグマだとでも思ってんのかよ。

 

最後に動画作成用のノートパソコンと手回し充電器をリュックに押し込み、このリュックに入れる荷物はこれで全部。……やべぇ、リュックが閉まんねぇぞ。適当に突っ込みすぎたか?

 

「何言ってんの。体ばっかり大きくなっただけで、まだまだ子供よあんたは。」

「……母さんがそう言ってもな、法律さんは、そうは言ってくれねーんだよっ」

「あーもう、なにやってんのよ。ほら貸しなさい、そんな無理してリュック壊れたらどうするの」

 

無理矢理にでも押し込んでやろうと体重をかけていたら、母さんにリュックをどろぼうされる。

手品でも使ったのか、俺があれだけ苦戦していたってのに母さんの手にかかればノートパソコンはすぐにリュックに収まってしまった。

 

「はい、これで全部? 忘れ物ない?」

「あとは、おやつだけかな」

「はいはい。ふざけてないで、とっととユウリちゃん迎えに行く!」

 

 

 

 

 

「あっ、アキラさん。荷造り終わりましたか?」

 

帽子も脱がずウチのソファーに座り、スマホを触っているユウリ。俺が荷造りに精を出している間、出された菓子にも手を伸ばし、まるで自分の家のように寛いでいやがった。

 

「よう、ユウリ。まだ終わりそうにないから今日のところは帰ってくれていいぜ」

「嘘言わないの。ユウリちゃん、もう荷造りは終わったから、逃げ出さないうちに早くこの子連れて行っちゃってね」

「はい! それじゃあ、行きましょうアキラさん!」

 

本当に逃げ出すと思っているのか、ユウリが俺の手を取り玄関まで歩く。まるで気分は散歩に連れて行かれるこいぬポケモン。これだけの大荷物抱えて、足がプルプルプルリルな俺が逃げられるワケが無いのに。

 

「ああ、ごめん。ちょっと待って、アキラ、ユウリちゃん」

 

すると母さんから待った、の声がかかる。年下の少女にしょっぴかれる息子の痛々しい姿を見て、ついに気が変わってユウリの凶行を止め、俺を救ってくれる気になったのかと、少し希望を抱いて振り向いた。

 

「なにさ?」

「いってらっしゃい。怪我しないようにね」

 

 

 

『いってらっしゃい。怪我しないようにね』

 

ふと、過去の情景が脳裏に浮かぶ。

 

5年前と同じなんだ。

俺が最初に旅に出たとき、こうして玄関口に立つ俺に、同じことを母さんは言っていた。でも、俺が旅立ちにワクワクしてないってのは5年前と全然違うな。

母さんの願い通り俺はちゃんと怪我一つせずに帰ってきたわけだから、これは母さんなりの願掛けなんだろうか?

 

 

 

「……いってきます」

 

 

 

少し気恥ずかしくなってしまったので、外を向いて言う。小さな声で呟くように言ったそれは、もしかしたらユウリの元気一杯で喧しい返事にかき消されてしまったのかもしれない。

 

俺もまた、5年前と同じことを言った。

 

 

 

 

 

「お前はユノさんに挨拶してかなくていいのか」

「お母さんにはもう言ってるから、大丈夫ですよー」

 

まだ庭でのんきに日光浴していたガントルをボールに戻しながら、ユウリに問いかけた。

そうか、ユウリはもう親には言っていたのか。俺もユノさんに『お宅の娘さんと長い旅に出ます。』と一言言っておいた方がいいんだろうけど、ずっと引きこもってたから気まずくて話しかけにくいんだよな。

……今度電話とかで言っとけばいいか。

 

「ふんふんふーん。ふふんふーん」

「……ヤケに楽しそうだな。面白いモンでもあんのかよ」

「だって、こうして二人だけで一緒に歩くの久しぶりじゃないですか」

 

それの何がそんなに楽しいのか。ユウリってのはずいぶんハッピーなヤツなんだな。

ユウリと二人で一緒に歩いた……。確かに、考えてみればかなり久しぶりな気もする。最近ではユウリと会うにしたって、屋内ばかりでだったし、昔ユウリと遊んでいるときは大体ホップも一緒だったし……って。

 

「そういや、ホップのヤツはどうしたんだ? お前ら一緒に行かなかったのか?」

「ホップですか? 途中までは一緒でしたよ。でも、ブラッシータウンの駅で別れました」

「そりゃまたどうして」

「当然! アキラさんに約束を守ってもらうためにです!」

「……あ、そう」

 

別に、俺のことなんて放っておいてくれてもよかったのにな。一人で電車に乗ったホップの心境を考えると少しもの悲しくなった。アイツ切符の買い方とか知ってんのかね。

丁度右手にホップとダンデの実家があり、彼らが今どうしているのか気になった。

 

「ダンデとホップ、アイツら元気してんの?」

「二人とも元気すぎる位ですよ」

「ふぅん……。一生元気だよな、アイツら」

 

話しながら歩いているうちにすぐ、狭い狭いハロンタウンを抜けて、1番道路に差し掛かった。

 

振り返って、ユウリのジムチャレンジが終わるか、諦めるかするまで、帰って来られないことになるハロンタウンを見やる。

俺の家、ユウリの家、牧場、ダンデとホップの家、牧場、牧場、牧場、森、牧場……。うーむ、素晴らしきかな我が故郷。

ユウリは俺みたいに途中でギブアップなんかしてくれないだろうし、このハロンタウンとも、母さんとも暫しのお別れか。

 

……やめやめ、これ以上見てたら、旅に出る前からホームシックになりそうだぜ。

未練がましく見るのはこれで終わり。

 

「よし、行くか、ユウリ」

「はい! 行きましょう、アキラさん!」

 

静かに待ってくれていたユウリに声を掛け、2人同時に1番道路へ踏み出す。

 

俺達の新たな旅の門出を祝っているのか、空ではにほんばれ状態かと思えるほどに燦燦と陽光が降り注いでいる。久しぶりに会った太陽は、うざったいぐらいに俺のことを歓迎してくれていた。

 

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