乙女ゲーに転生したら本編前の主人公と仲良くなった。   作:4kibou

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59/晴れて賑やかな日々

 

 

 

 

 翌朝の通学路は春の陽気とはまた別で、人為的な熱が渦巻いていた。

 

 誰によるものかなんて言うまでもない。

 

 朝一番から手を繋ぎ合って、

 いつもよりずっと近くで肩をくっつけて、

 

 仲良しこよしな様子で歩いていく肇と渚である。

 

「……わざわざ迎えに来てくれなくても良かったのに……」

「俺がしたかったから良いの。一緒に学校行くとか、考えてみたらわりと貴重だし」

「そりゃ、まあ……たしかにそう、だけども」

「じゃあやっぱり良いんだよ。これで」

「………………もうっ」

 

 ふいっ、と照れくさくなってそっぽを向く渚。

 

 その顔は当然ながらちょっと赤い。

 熱は耳までのぼっているほどだ。

 

 いつも通りと言えばいつも通りな振り回されよう。

 

 がしかし、先日までの彼女を思えば完全に吹っ切れた証であるとも言えた。

 

 

「……昨日も思ったんだけど」

「え、なに……?」

「渚のお手々はちっちゃいね」

「……ばかにしてるでしょ」

「してないしてない」

「ちょっ、やめっ……にぎにぎしないで……!」

「そっちだってやってくるくせにー」

「ぐっ……この……!」

 

 〝――――図星だからなにも言い返せない……ッ!〟

 

 

 ぐぬぬぬ、と警戒する小型犬みたいな表情で肇を睨む渚だが、その程度で怯む彼でもない。

 

 左手にはぎゅっぎゅっと力を加えられるような独特の感触。

 肌の温度と混ざり合ってその刺激はなんとも気恥ずかしくなってくる。

 

 それと、付け加えるなら肇の感想はなにも間違っていなかった。

 

 実際に渚の手は彼よりも少し小さめ。

 すっぽりと手の内におさめてしまえるぐらいなものだ。

 

 それが良いのか悪いのかは、まあ、肇の顔を見れば分かるコトだろう。

 

 

「ところでまだ聞いてないんだけど」

「……なにを?」

「いや、()はどうなのかなって」

「っ……だ、だからなにがっ?」

「わかってるくせに」

「わ、わかっ、わから()()()()っ!」

 

「えっ、まってすごいかわいい」

「っ――――――!!」

 

 

 顔を真っ赤にしながら渚が「うにゃぁあぁぁああ――!!」なんて胸中で叫ぶ。

 

 平静を装えてるつもりでも動揺は隠せなかったらしい。

 その証拠にガッツリ噛んでしまったのだが、悲しいかなそれが決定打になっていた。

 

 というか完全に墓穴を掘っている。

 

 土木建設会社ユキノ、今日も元気に掘削作業に励む。

 なお将来的に統合して会社名は変わる模様。

 

「ナギサ語だね、ナギサ語」

「なっ――なに、それ……!」

「渚が焦ったときに出る謎言語」

「かっ、か、噛んだだけだしっ!」

「真相はどうあれかわいかったからよし。百点で」

「なんの採点……っ!」

 

 よーしよしよし、と渚の頭を撫でまくる肇。

 

 なんにせよカワイイ(オブ)正義(ジャスティス)

 

 羞恥に焦る恋人は甘やかすに限る、と()()()()()な笑顔で手を動かしている。

 

 対する渚は好き勝手されながらも睨みつけるだけで物理的な抵抗には出ない。

 好機を待っているかと思えばそうでもない。

 

 鞄を持つ手も空いている手もだらんと下げてされるがままの状態。

 

 なぜかと訊かれればもちろん彼なので。

 

 ()()()()()()なら()()()()()()

 思い通りになるのは癪だけれど満更でもなかった。

 

 

「で」

「…………で、ってなに」

「言ってくれないの?」

「………………言わなきゃ、ダメ……?」

「別にダメってワケじゃないけど」

「っ、じゃ、じゃあ……」

「俺は言って欲しいし言ってもらえたら嬉しい」

「……………………いぢわる」

「そうだねー意地悪だねー」

「っ…………」

 

 〝おのれ水桶肇(くそぼけ)ぇ…………っ!!〟

 

 

 少し前から薄々と感じていた渚だったが、ここに来て予想は確信へと変わった。

 

 過去(ぜんせ)では自分のほうが歳も立場も力の強さも上で。

 

 彼は病弱だったし弟というコトでもっぱら大事にされる立ち位置だったけれど。

 それが同年代というステージに移ったコトでひとつ発見したコトがある。

 

 ――いまさらな話かもしれないが。

 

 もしかしなくてもこの男、責めるの大好きか? と。

 

「…………はっ」

「は……?」

「ちょっとやめて繰り返さないで」

「えー」

「〝えー〟じゃない……!」

「おー」

「〝おー〟でもないっ……、いつからそんな風になったの……!」

「君が可愛いから仕方ないんだよ」

 

 〝はうあ――――――――ッ!?〟

 

 

 ずどぉっ! と深く入った一撃に乙女心が容易く吹き飛ばされていく。

 

 不意打ちも不意打ち。

 

 突発的な殺し文句は未だ彼女の苦手とするものだ。

 これが現実的なダメージなら足がガクガクと震えて立てなくなっている。

 

 精神的なモノなのでもちろん代わりに心臓がドクドクと震えていたりするけれど。

 

「かっ、か、かわっ、なにっ、はぁ!? なにっ!?」

「どうどう。落ち着いて、渚」

「そんな簡単に落ち着けたら苦労しないよっ!」

「怒ってる表情も素敵だよ」

「ふ、ふざけないでっ……もー……! もー!!」

「あはは。痛い痛い」

 

 ぽかぽかと胸を殴る女子と、それを臆さずに受け止める男子。

 

 お互いにとってはなんでもない日常のやり取り。

 けれど傍から見ればそれは紛うことなきバカップルの行為(ソレ)だった。

 

 入学初日……いや、もっと言うならついこの前まで。

 

 異様な雰囲気(オーラ)を放つ渚の周囲には人が立ち寄らずに空間が出来ていた。

 

 その原因となったモノはそこにないが、いまはまた別の理由でふたりを避けるよう謎の空間が生まれつつある。

 

 あまりの()()に耐えきれなくなった学生たちの傷痕だ。

 

 

「なんだアレ……なんだアレ……!」

「朝からあんなもん見せつけられるこっちの身にもなれちくしょー……!」

「一年の優希之と水桶だろ。平常運転だ平常運転」

「いや待って、それにしてはちょっと距離近すぎない?」

「とても距離が近いと思う。だからこそ、とても距離が近いと思う」

「美術部ー、なんとかしてくれー」

「やべ、なんかえづいてきた……これは……幸せの味……?」

「他人の不幸が蜜なら他人の幸福は酸かぁ……」

 

 

 無論、気にしない人間もいる。

 なんとも思わず通り過ぎる生徒だって少なくはない。

 

 が、コトこれに関しては今までの人生勉強三昧で甘い時間の足りなかったガリ勉諸君や、スポーツ芸術分野の部活に励んだ秀才諸君に酷く刺さるものだった。

 

 校門前に高級(たか)そうな車を停めて降りている特別推薦組に比べると心的余裕の大事さが分かるかもしれないだろう。

 

「おっ、なんだなんだ。今日も変わらずやってんのかおまえら」

 

 と、そんなところへ遠慮せず入り込んでいく猛者がひとり。

 

 

「三葉くん」

「おっす肇。優希之も。その様子だとすっきりしたのか?」

「っ…………」

「まあそんな感じ」

「ていうか手ぇ繋いで相変わらず仲良いな。しかもちゃっかり恋人繋ぎ」

「あ、うん。俺たち付き合うコトになったから」

「へぇー、そうだったか。おめでとう! …………ん?」

 

 

 ぱちぱちぱち、と自然(ナチュラル)に手を叩きだしたところで三葉は停止した。

 

 ピタッと拍手をやめて、ギギギ、と固い動作で視線を渚へ映す。

 

 一秒、二秒、三秒。

 

 反論する様子はない。

 どころか顔を赤くして黙り込むように俯いている。

 

 すなわちハッキリと否定しておらず、ならばこそこういう反応は嘘や冗談ではない証拠だと同時に彼は理解していた。

 

 視線は繋ぎ合う手のほうへ。

 

 そこからゆっくり上がっていって、身長差のある顔を交互に覗いて。

 

 ――どこか深く頷いたあと、ぐっと親指をたててはにかんだ。

 

 

「とりあえずクラスの連中に報告してくるな!!」

「っ!?」

「あー、うん。別に良いけども」

 

「おーいおまえら! 今日から優希之が名字変えるってよー!!」

 

「ちょっと待てぇ!?」

「えっ、優希之めっちゃ元気じゃん。こわ。テキトーに言ったけどマジだったか……すまん、悪いコトしたな……」

「マジじゃないけど?!」

 

 

 そそそ、と下がっていく男子に吼える銀髪美少女はたしかに調子が良い。

 

 顔色も良い。

 むしろ良すぎて赤く見えるぐらいだ。

 

 それを異変と感じるかいつものコトと捉えるかは見た人次第。

 

 ほとんど関わり合いがなければ前者。

 おおよそ普段の彼らを知っていれば後者になる。

 

 もはや基本(デフォ)になりかけている渚の赤面は珍しくもなかった。

 

 

「って言ってるけどどうなんだ肇」

(そっち)に訊かないでよっ!?」

「お嫁に来てもらいたいから変えてもらう方向で!」

()()()も乗らないでっ!!」

「――()()()?」

 

 

 びくん、と渚の肩がちいさく跳ねる。

 

 特にコレといってなんでもない呼び方。

 学園に入ってからやっと進展した下の名前での呼び名だ。

 

 けれどもそれは昨日までの話だったら。

 

 いまは更にもう少し進んでしまっている。

 

 その事実を決定付けるように肇からはもうただ〝渚〟とだけ。

 

 ……ごくり、と生唾を呑んだ音を目前の彼に聞こえたかどうか。

 

 

「…………は、……は……っ」

「…………、」

 

 

 彼は静かに彼女を見詰めた。

 今度は茶化さずにしっかり見守る。

 

 その視線は穏やかさと暖かさに溢れている。

 

 焦らなくていい、慌てなくて構わない。

 一度だけだとしてもそれは聞き逃さなのだから。

 

 

「――――はじめ……っ」

「うん。なに、渚?」

「よ、呼んだだけっ!」

「凄い元気なやり取りだ……」

「っ――――」

 

 

 瞬間だった。

 

 渚が恥ずかしさに耐えきれなくなった直後。

 ちょうど逃げるように顔を背けた先で、真っ白な光と邂逅する。

 

 ぱしゃり、と。

 

 なにやら携帯(スマホ)を構える無名の写真家は絶好のチャンスを逃がさなかった。

 

 無論、正体は彼らの直ぐ傍まで近付いていた第三者。

 カメラマン海座貴三葉である。

 

 

「――とりあえず視聴覚室からプロジェクターとくそでかスクリーン持ってきとくな」

「待って!?」

「あ、肇おまえちょっと映っちゃったけど大丈夫か? 修正(モザイク)入れるか?」

「いや別にぜんぜん大丈夫だけど」

「そっか! じゃ、お先に失礼しとく」

 

「私は!?」

「馬鹿おまえ、優希之を隠したらなんのための写真か分かんねえだろ」

 

「――しっ!」

「がっ!」

 

 

 音を越える早業だった。

 

 一瞬の加速。

 

 右足から左足にかけての体重移動。

 奇跡的なまでの重心の運び。

 

 絶大な威力を乗せた拳は三葉の腹筋から背骨を貫き通っていく。

 

 どしゃあッ! と崩れる男子の姿はさながら燃え尽きた灰のようだ。

 

 

「こ……こいつキレが増してやがる……!」

「いますぐ消して……!」

「はっ……残念だったな優希之。オレは写真なんぞ撮ってないぜ……」

「じゃあいまのなに」

「――――動画だ」

 

「っ!」

「ぐっ!!」

 

 

 倒れる人影。

 数えられる数字(カウント)

 

 どこからともなく甲高い音が鳴り響く。

 

 そうして彼女の傍に立った水桶肇(レフェリー)は勢いよく片手を掴んで天へと持ち上げた。

 

 スリーカウントKO。

 

 勝者、優希之――――

 

 

「ちなみにほんとに写真じゃないの、三葉くん?」

「ふふっ……驚くな肇。実はどっちも撮ってる。――すでにクラスのグループには送っておいたぜっ! 感謝しろよな優希之!」

 

「――――――」

 

 

 その日、音楽系イケメンは空を飛んだという。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 当初、一年一組の教室はちょっとした騒ぎになっていた。

 

 理由はもちろん朝方に海座貴某から伝えられた情報によるもの。

 

 入学してからおよそ一か月。

 

 すでに彼らの中で半ば名物と化していた肇と渚だったが、その関係が進展したというのは大なり小なり驚くべきコトである。

 実情を知って直に見ていたクラスメートなら特に。

 

 なにせ無自覚天然ボケ純朴火力特化型の少年と、

 激弱受け身悲鳴三昧小動物系心臓の少女だ。

 

 そうそう上手く噛み合うはずもなし。

 あれは二年三年とかかるだろうな、なんて彼らの予想を裏切る結果。

 

 当然良くも悪くも賑やかにはなる。

 

 

『――え、あれまじなの?』 

『おめでとー優希之さん! 良かったねー!』

『水桶やるなあいつ。なんだ、偶々冴えてたのか?』

『くそっ……大穴で三か月までに賭けとくんだった……っ』

『よぉーしッ! 今日はなんでも奢ってやるぜ!』

『うわぁあぁあぁあああ――――――アッ!!』

『ま、摩弓! しっかり! しっかりしてっ! ――誰か! 誰かAEDー!!』

 

 

 ――だが。

 

 だがしかし。

 

 彼らはまだなにも知らなかった。

 

 想いが通じ合う前ですら色々と近かったふたりである。

 それが晴れて付き合うとなればどうなるか。

 

 想像はしても当たるかどうかはまた別。

 

 なにより現実は小説より奇なりとはよく言ったもので。

 

 さらにさらに言えばふたりの関係は昨日から数えてもまだ一日経ってないというほやほや加減であるので。

 

 

 

 ――――例えば授業がはじまる前。

 

 

「………………っ」

「どうしたの渚。大人しいね」

「っ……だっ、だ、だって、こんな格好……っ」

「一回やってみたかったんだー、膝に乗せるの。……ん、やっぱりカワイイ」

「ぴっ!!」

 

 

 例えば合間合間の短い休み時間。

 

 

「渚ー、お菓子いる?」

「あ、うん……もらう、かも」

「じゃあはい、ポッキー。あーん」

「えー……」

「良いから良いから」

「…………ぁ」

「どうぞっ」

「……ん……」

…………、(無言で逆の端を)……はむ(かじりだす)

「ふぃっ!??!」

 

 

 例えば昼休みの食事時。

 

 

「ほ、ほら、肇……っ、あ、あーん……!」

「あー」

「っ、な、なんで躊躇なくできるワケ……!?」

らっへはへへるひ(だって慣れてるし)

「っ――ど、どこでっ!?」

過去(むかし)食べさせてくれたひと?」

「………………………………あっ」

 

 

 それはもはや幸せのお裾分けとも言えない暴力的なナニカだった。

 

 視覚的、聴覚的、嗅覚的――五感全てを駄目にする純粋にして最悪のパワー。

 

 撒き散らされるバカップルオーラほどキツいものはない。

 間近で体感せざるを得ないとなれば尚更だ。

 

 道端でふらっと出会すならまだしもこの場は教室。

 言わば一年一組諸君にとってのホームグラウンド。

 

 絶対に足を運ぶ、ともすればそこで過ごす環境でコレはもうテロだ。

 

 バイオハザードだ。

 

 

「――二階の自販機はッ!?」

「駄目だカフェオレしかねえ!」

 

「こちら教室本部! 図書館方面の捜索如何ですかどーぞー!」

『図書館組、渡り廊下でブラック三つ確保です!』

 

「おい二組の込溜(こめだ)がサイフォン持参してきてるってよ!」

「僕のコーヒーが飲みたいって本当っすか……? いや、普通に照れるんすけど……」

 

「でかしたッ!」

「あぁ……神はここに居た……ッ!」

「ありがとう……ありがとう込溜くん……っ」

 

「なんか思ってた一組の雰囲気と違う……えぇ……これが成績上位者……?」

 

 

 彼の疑問はもっともだったがこの際割愛する。

 

 どえらい家系の人間や学校指定の真面目でピシッとした推薦者が多い三組。

 勉学に自信を持って受けたものの繰り下がりとなって若干一組に対抗意識を燃やしている二組。

 精神的余裕とクラス委員の人選によって色々方向性が決定してしまった一組。

 

 同じ普通科と言えど三つの学級における隔たりは大きかった。

 

 

「……一体なんなのこの騒ぎは」

 

「あ、馨」

「肇。今日はお昼どうかと思ったんだけど」

「ごめん先約がいて」

 

「…………君か、優希之渚」

「…………なに、潮槻くん」

 

 

 ばちん、と突発的に火花が散る。

 

 お昼時に顔を出した馨と渚は互いに蛇蝎へ向けるがごとく容赦ない嫌悪の視線で睨み合った。

 

 肝心要の肇を間に挟んで。

 

 

「噂に聞くと君たち恋人になったみたいだね。おめでとう。素直に喜ばしいよ」

「その割にはぜんぜん笑わないんだね。表情筋が死んでるのかな、潮槻くんは」

 

「嫌味かい? 人の表情にとやかく言うなんて狭量な子だね君は」

「自覚しておきながら他人に八つ当たりするような人に言われたくないな」

 

「驚いたよ、とても口が回るんだ。普段はぴーぴー鳴いてるらしいのに」

「そっちこそ氷の貴公子とか言われてるわりに熱くなって恥ずかしくないの」

 

「酷い人間だ」

「どっちが?」

 

「………………、」

「………………、」

 

 

 ばちばち、ばちばちと。

 

 闘争心は収まらない。

 むしろ言葉を交わすたびにより一層肥大化していく。

 

 悲しいかな、本来はどうであれ彼と彼女の相性は最悪の一言だ。

 

 とてもじゃないが唐突に出会って親しくなるワケもなかった。

 

 ――が、当人たち以外の第三者にとっては少し変わって見えたようで。

 

 

「馨も渚も息ぴったりだね、妬けちゃうなー」

 

「「どこがッ!!」」

 

「ほらいまだってそうじゃない?」

 

「「っ…………!!」」

 

(なんだかんだで似てるところあるよねー……このふたり)

 

 

 仲良くなれると良いな、なんて微笑みながら箸を動かす肇である。

 

 両者の口から嫌いだと聞いているのでアレだが、とはいえどちらも彼自身としては親しい間柄の相手に違いない。

 

 そりゃあもちろん、出来れば仲は良い方が嬉しくもあった。

 

 

「――あ、でも渚さんは俺の彼女だからね、馨」

「……っ!」

 

「肇。僕を牽制しているつもりなら見当違いだからやめてほしい。あとそんな些細なところで喜ぶなよ優希之渚、君そんなんで大丈夫か」

「うっさいよ潮槻くん。別に大丈夫だし」

 

「…………まぁ、口で負けないだけ心配は要らないか……」

 

 

 ぼそっと呟く馨を渚はジト目で睨む。 

 

 

「……なに」

「……なんでも」

 

 

 関係は最低。

 相性は最悪。

 

 通ずるところなんて傍目には見つからない。

 

 それでも共通のものがあったからかどうからか。

 

 少なくとも表面上はどうであれ、彼女はどこか察したようにそっぽを向いて、彼もまた安堵のような息を吐いたのだった。

 

 

「――――ちなみに僕は一か月で破局に缶コーヒー五本かけてる」

 

「いやなにしてるの馨?」

 

「しねっ!」

 

「渚もなんてこというの!」

 

 

 ……察したのだろう、たぶん。

 

 

 

 

 







………………。
(次回でメインの話は最後となります、と書かれた粘土板を土下寝しながら掲げている)

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