乙女ゲーに転生したら本編前の主人公と仲良くなった。   作:4kibou

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Ex10/プロローグみたいなエピローグ

 

 

 

 

 それは遠い光の彼方。

 

 宇宙(ソラ)に生まれた未来(キセキ)物語(ゆくえ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がその人のコトを知ったのは高校生のときだった。

 

 知る人ぞ知る有名人。

 

 今をときめくスーパースター……とまではいかないけれど、

 芸術(コチラ)の界隈では知ってて当然ぐらいの著名人だ。

 

 切欠は友達が渡してくれた展示会のパンフレットで、不思議と私はその絵に酷く深い想いを抱いたのである。

 

 それがたとえ、ほんの表層をなぞらえただけの写真だったとしても。

 

 ……言葉にすると難しい感覚。

 

 言ってしまえばコレが良い、というような子供じみたわがままの延長線。

 

 思えばきっとその瞬間、私はその有り様に惚れたのだろう。

 

 色鮮やかさに憧れた。

 美しさに胸を打たれた。

 

 下手の横好きとはいえ美術部の端くれ。

 

 いつかそんなものが描けたならと、その人を目指して頑張ったコトもあったけれど――それもまあ、青い春の淡い夢。

 

 結局私自身に才能なんてこれっぽっちもなくて、高校卒業後はそこそこの大学を出て、絵画とは縁もゆかりもない場所でそれとなく働いている。

 

 諦めと妥協。

 歩くコトを主軸に置いた生き方。

 

 そんなのは別に悲観するようなモノじゃない。

 きっと多くの人間が同じように辿る道。

 

 なら、たぶん私の人生はそれでいいのだ。

 

 大体、娯楽がないワケではないし。

 

 週末に飲むお酒は美味しいし、

 たまの友達との長電話は楽しいし、

 休日にショッピングやミュージアム巡りをする日々は控えめに言って満足だ。

 

 いまは楽しく。

 未来は薔薇色とまではいかずとも希望があって。

 

 なにより退屈な毎日を味わって「物足りない」なんて、ちょっと贅沢がすぎる。

 

 ……うん、なんだかんだ言ったけれど。

 

 私はやっぱり、こういう人生だって悪くないと思う。

 

 

「――――――」

 

 

 仕事帰り、夜の町を歩いて往く。

 

 雑踏に紛れる影は溶けこむように。

 広く大きな都市のなかではひとりの人間の価値など薄い。

 

 人波に混ざって帰路へつく。

 

 今日は色々と大変な一日だった。

 明日もまたあれこれと奔走する羽目になるだろう。

 

 しんどいけれど充実している。

 キツいけど折れるほどではない。

 

 若い頃、胸に抱いた淡い夢はもう風化して()()けれど――――生きていくのに苦労はしない。

 

 だから、まあ。

 

 客観的に見て、いまの私はわりと()せなんだと思う。

 

 

「…………、」

 

 

 ごくごく普通の家庭で産まれて。

 

 優しい両親と周囲の人に恵まれて、元気に育って二十四年。

 

 これまでのコトを思って満たされるのなら。

 これからの話は蛇足にすぎない道程なのかどうか。

 

 雨のように降る足音。

 絶えず響き続ける喧噪。

 

 都会の町はうるさく賑やかだ。

 

 見上げた夜空は明るくぼやけている。

 

 それがなんだか、急に悲しいコトのように思えてきて――――

 

 

「きゃっ」

「あっ、と! ごめんなさい!」

 

 

 ふと、道行く誰かとぶつかった。

 

 見れば物静かそうな男の人である。

 落ち着いた低い声は大人びたものだ。

 

 事実、彼の格好はラフでありながらどこか紳士的で()()()

 

 

「い、いえ。私もそのっ、余所見してたので!」

「や、俺もちょっと周り見えてなかったので……うわ、鞄ごちゃごちゃだ……」

「あっ、拾うの手伝います!」

「いいですよ、全然! 気にしないでください!」

「で、でもっ――――」

 

 

 と、そんな彼を手伝おうとしたときだった。

 

 道に散らばった鞄の中身――遠目に見ても分かる画材道具――と一緒に。

 

 偶然、たしかめるまでもなく。

 目の前の人の写真と一緒に名前が載った、身分証明書(そういうもの)が目に入った。

 

 

「――――――え」

「? あの、なにか……?」

「い、いや、その……えっと……」

 

 

 ――信じられない。

 

 偶々にしては出来すぎで、

 奇跡というには遅すぎる。

 

 そんな感触をどこかで覚えたのはなぜか。

 

 

「――――あ、の。もしかして、貴方は――――」

「ん? ……えと、俺のコト知ってたりします?」

「っ、はい! えっと、あのっ、ずっと前からその、良いなって思ってて!」

「そうなんですかー……あはは、面と向かって言われると照れますね」

「もっ、もちろん絵のコトですよ!?」

「? それ以外になにが……?」

「イエナニモ!」

 

 

 墓穴を掘った、と気付いたがいまはスルーする。

 

 とにかくこれ以上自分の勝手で引き留めるワケにもいかない。

 こんなしがないOLと違って相手は大層立派な本職だ。

 

 ささっと手伝って、ぱぱっと片付けて、しゅばっと立ち去る。

 

 憧れているからこそ、余計な真似はしたくないので。

 

 

「その、応援してます! それじゃあこれで――」

「あ、ごめんなさい。ちょっと良いですか?」

「ひゃいっ!?」

 

 

 手首をつかまれてびくぅん! と跳ねる。

 

 びっくりした。

 ほんとにびっくりした。

 

 思わず彼のほうを振り向く。

 

 いきなり引き留めてきた相手は――あろうことか、なんの罪悪感も持たないような笑顔をつくってくれていやがる。

 

 

「……折角なんで、その、お名前でも……あ、いや。こういうのは訊ねるほうから言うものですよね。すいません」

「えっ!? あ、いえいえ! その、私もう知ってますし!?」

「……それでもです」

 

 

 くすりと彼が微笑む。

 

 瞬間。

 

 なんだか。

 

 とても――――とても、懐かしい。

 

 いまはもう無いはずの、なにかの名残を覚えて。

 

 

 

「俺の名前は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命は続く。

 

 いつまでも。

 どこまでも。

 

 密やかに、静やかに。

 

 なればこそ、生ある限り()せとなるだろう――――

 

 その()と居ればこそ得られる思いがけない()

 

 まだまだ彼らの行く末には、明るい未来が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……And they lived happily ever after.

 

 

The End.

 

 

 















最後までご愛読いただきありがとうございました。

これにて本作「乙女ゲーに転生したら本編前の主人公と仲良くなった。」の全エピソード投稿終了とさせていただきます。

長らくお付き合いいただき誠に感謝申し上げます。


以下あとがき




……で書くコトもあまりないんですが、とりあえず私自身としても満足です。なんだかんだ書いててめちゃめちゃ楽しい本作でした。こう、頭空っぽにしてイチャつくだけの男女からでしか得られない栄養があるんやなって…

前作ギャルゲーでは主人公を苛めに苛め抜いて苛め倒したのもあって今作は「とりあえず余計なコトはいいから幸せなら良いんだよッ!」て感じをメインに押し出したつもりです。

いやほんと前世の因果とか色々とか良いコト悪いコトは置いておいてハッピーが一番。そんな拙作でした。疲れたけど気分は最高です! 物書くのはこれだからやめられねえんだ!


そんなこんなで繰り返しになりますが、読者の皆様には盛大な感謝を。

ありがとうございました。また次回、お暇なときにお付き合いいただけましたら幸いです。


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