東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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最近はよく冷えますね。

防寒はしっかりして過ごしてください。



第5話

「はぁ、はぁ、どこまで行くの...?」

 

勢い任せに手を掴み街を走っていると、メガネちゃんの弱々しい声が聞こえてきた。

体力の限界の様だ。

 

普段運動も何もしない私は全く息が切れていないが、メガネちゃんはもう限界の様子。

特に私は鍛えた覚えは無いが…絵名と彰人の2人と過ごしていると自然と鍛えられるのだろうか。

 

私は走っていた足を止めて、手を離した。

 

「つ、疲れた...」

 

たまたま止まった場所が公園だったため、彼女はベンチに座り、息を整える。

胸を押さえて息を整えているところを見ると、申し訳ない気持ちになりながら...なんだかえっちだな。

 

「何か飲む?」

 

おかしな思考を振り払い、私はメガネちゃんに声をかけた。

近くに自動販売機もあるし、財布も持っている。

最近使った記憶はないから幾ら入っているのかもわからないが...まぁ最悪1人分のお金ぐらいあるだろう。

 

「えっと、じゃあ...水を...」

 

「わかった」

 

ふむ。水とな。

 

私は自動販売機へと向かい、財布を取り出した。

中には500円玉が10枚...過去の私が何を思ってこんなに持っているのかは分からないが、まぁ助かった。お金は足りる。

 

私は2人分の水を買い、後ろを振り返ると、そこにはもう1人増えていた。

 

「やっと見つけた! こはね、あの人に変な事されてない!?」

 

「う、うん...すっごい疲れたけど...」

 

「そんなに疲れることをしたの...?」

 

『白石』さんに睨まれている。

何やら誤解されているようだが...その誤解は解けるだろうか。

 

私はもう一度自動販売機にお金を入れ、水を買った。

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

「ごめんね、誤解してたみたい」

 

「気にしないで」

 

最初誤解を解こうとしたら、メガネちゃんの前に立ちふさがって話ができない状況だった。

買った水を渡そうとしたら、『中に何か入れてるんでしょ』と言われる始末。

 

今目の前で買い、封も開いてないというのに、どうやって入れるつもりなのだろうか。

...意外とおませさんなのかもしれない。

 

どうしたものかと困っていると、メガネちゃん改めこはねちゃんが間に入ってくれたのだ。

助かった。

 

結果的に誤解は解けたものの、肝心なことは解決していない。

 

「...大丈夫?」

 

「...まだ、手が震えてる」

 

簡単な自己紹介を済ませた後、私がこはねちゃんにそう問いかけると、眉を八の字にして俯きそう言った。

 

「私、東雲くんの言う通りで、杏ちゃんとなら大丈夫だって、心のどこかで思ってたんだと思う」

 

走って喉が渇いていたのか、既に半分ほど飲まれたペットボトルを見ながら、こはねちゃんはそう言う。

要するに、原動力が他人にあった、と言う話だろう。

 

きっと、こうしてイベントに出るに至った経緯も、『白石』さん改め杏から誘われたからで、持ちかけられることも大体は杏からの、しよう、やろう、の一言なのだと思う。

 

それを聞いた杏は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

こはねちゃんが静かに涙を流していると、突然こはねちゃんのポケットが光りだした。

何の光!?

 

「あっ、スマホが....」

 

取り出したスマホには、『Untitled』という楽曲が表示されていた。

 

「こはね...」

 

「同じ」

 

「えっ?」

 

同じだなぁ、と考えているとつい口にしてしまっていたようで、杏が驚きの表情でこちらを見ていた。

口を滑らしたなぁ、と思いながらこはねちゃんを見ていると、こはねちゃんも驚きの表情でこちらを見ていた。

だが、その指は再生ボタンをタップしており。

 

私の視界は眩しい光に包まれた。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

「あら、いらっしゃい。今日は3人ね」

 

「ミ、ミクちゃん...」

 

「あら、こはねちゃんと...特異点も来たのね」

 

「特異点...?」

 

光が収まった先は、謎のカフェの中で、目の前にはミク達が立っていた。

だが、私の知っている初音ミクとは色が違い、こちらは緑っぽい。

その初音ミクの後ろに立っているのは、確か鏡音レンと、MEIKO、だったはず。

 

あのセカイで初音ミクと自己紹介された日に現実世界で調べたのだ。エッヘン。

 

しかし、『特異点』とは一体なんだというのだ。

私の知る限り特異点とは、数学で使われるものと、宇宙で使われるものの2つしか知らないのだが。

それも、どちらも聞いたこと、見たことのあるだけのもの。

私がそれだというのか。

 

...確か、ブラックホールでも使われていたな。特異点という言葉は。

 

「まぁ、その話は後でね。それより、今日はどうしたの?」

 

「その、わ、私...」

 

こはねちゃんが初音ミク達に説明をしようとしたタイミングで、腕を引かれる感触。

なんだと振り返ってみれば、真剣な表情の杏が。

 

「なに?」

 

「ん...ちょっと、話できない?」

 

そういう杏の目線はチラチラとこはねの方を向いている。

なるほど。彼女に聞かれたくない話だろうか。

 

なんとなく彼女がいると不都合なのだと察した私は、取り敢えず店の外を指した。

 

「じゃあ、外で」

 

コク、と静かに頷く杏を見て、初音ミクたちに今日あったことを説明しているこはねを尻目に私たちは外へと出た。

その途中。やけに初音ミクに見られていることだけが気になった。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

「それで、話って?」

 

「彰人とのこと、なんだけど」

 

外に出た私は、中にいるこはねとミクたちの声が聞こえないことを確認して、単刀直入に尋ねた。

そうして帰ってきたのは、『彰人とのこと』。

 

ふむ、それは今日あった彰人との出来事を指しているのか、それとも他の事なのか。

断定はできない。回りくどいのは好きではないのだ、聞いてみるとしよう。

 

「つまり?」

 

「うーん、なんて言ったらいいのかなぁ...そもそも、瀬名って彰人と本当に兄妹なの?」

 

結局聞きたいことは私たちの血縁関係だった。

まぁ、それに関しては仕方の無いことだろう。

この世に初めて生まれた絵名と彰人が、同じ家で自我を形成していくのだ。

夢だとかは変わるだろうけれど、性格は似たようなものになる可能性は極めて高い。

 

ただ、私は最初から自我が確立されているのだ。記憶喪失にでもなっていれば話は別だったかもしれないが、一度作られた自分を変えるのはそれ相応の努力が必要だと思う。

 

ここまで長く考えたものの、返答は1つだけなのだが。

 

「当たり前」

 

「そ、そうなんだ…」

 

なんだその反応は。言外に似てないと滲ませるのはいいが、そこまで分かりやすい顔をするんじゃない。

 

「聞きたいことはそれだけ?」

 

「ううん、それだけじゃない。彰人のあれ。あの場では頭に血が上って深く考えてなかったけど、よく考えたらおかしい。何か知ってるんじゃないの?」

 

それが聞きたかったことか。

とはいえ、事実を述べるのは容易い。

この場で『実は彰人じゃなくて、やったのは紫の彼』と言うのはそれはそれは簡単だ。

だが、それを彰人の妹である私が言って信用してもらえるだろうか。

 

...いや、自分で違和感には気づいているのだから、今度は私の言うことを信じてしまう可能性もあるのか。

 

なんにせよ、私が危惧していることはただ1つ。『私が介入することは正しいことなのか』というものだ。

 

今回の事件、私はその場にいて大体のことは察しているとはいえ、本来なら当人同士で解決するべきものだろう。

それほどに『小さい出来事』だ。

 

「直接聞いたらいいと思う。その方がいい」

 

「...それもそうよね。ありがと、私が間違ってた」

 

まぁ8割の理由はめんどくさいなのだが、それも知らずに杏はとてもいい笑顔でスマホを取り出した。

 

ふむ、現実世界に帰るつもりだな。

 

「そうだ、いい機会だしさ。連絡先交換しようよ。瀬名のこと、もっと知りたいかも」

 

「...うん」

 

つい頷いてしまったが、これはめんどくさいことになったぞ。

今目の前にいるのは陽キャの塊(?)みたいな女だぞ。

夜中に行動している絵名と会ったら絵名が灰になるぐらいには眩しい女だ。

 

だがしかし。

ここで断れるわけもない。

断れば断ったでまためんどくさいことになりそうだ。

 

それこそ彰人と仲直りして同じグループでも組むものなら目も当てられないことになるだろう。

その時は絵名に何とかして...私の味方をしてくれる可能性は五分五分な気がする。

私が友達が少ないのを懸念していたからな...それは絵名も同じだろうに。

 

『ピロン♪』と軽快な音を立てて、メッセージアプリの連絡先を交換した私と杏。

家族以外では、これが初めてだ。

 

「じゃ、またね!」

 

「うん」

 

連絡先を交換して満足したのか、いい笑顔で杏はセカイから出て行った。

問題自体がまだ何も解決していないことを忘れているのだろうか。

それとも、こはねをそれだけ信用しているのだろうか。

彼女であれば、立ち上がって話をしてくれる、と。

 

「相棒、ね」

 

私はそう呟いて、スマホの流れ続けている楽曲を止めて、セカイから出て行った。

 

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