東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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第7話

絶対に歌わないことを条件に、次のイベントに一緒に行くことを約束させられた私。

ぐったりしている私を置いて、2人は先ほどのやり取りでドキドキしたなどと言い合っている。

 

やはりこの2人は悪魔だ、と思っていると、後ろから頭に手を置かれた。

 

「まったく、賑やかだな、お前たちは」

 

「あ、父さん。 今の聞いてたの?」

 

「あれだけやりあってりゃ、奥にも聞こえるに決まってるだろう」

 

おっしゃる通りです。

 

というか、このオールバックにサングラスをかけたいけおじが、杏のお父さんなのか。

我が東雲家の父よりも、なんというか...活力に満ちていそうだ。

昔の同級生とたまに集まってスポーツなんかして、普段運動してないのに活躍して注目を浴びるタイプだと予想。

 

ああ、この人が謙さんなのだな。

 

「おう、似合ってるなその髪」

 

「あ、ありがとうございます」

 

謙さんに髪をほめられたこはねは、若干頬を赤くしてペコリと礼をした。

ふむ、こはねの髪をほめるのは結構なのだが、それは私の頭をなでるのをやめてからにしてもらおうか。

 

その私の意志が通じたのか、謙さんは私の頭から手を放して、コップを3つ取り出した。

 

「それに、いい目になってるな。ちょっとばかし、杏や彰人と似てきたか」

 

「ちょっと、私はともかく、彰人と似てるってどういうこと?」

 

それは私にもよくわからん。

そんなことより、そのコップ3つ。もしかして、ジュースとか出そうとしてくれてます?

無料です?

 

「そうピリピリするな。まぁ言うなら、譲れないものがあるやつの目だ」

 

謙さんはそういいながら、瓶に入っているタイプのりんごジュースを取り出し、コップに注いだ。

それぞれカウンター先に出されたので、いの一番に席に座ってジュースを飲み始める私。

 

仕方がない。喉が渇いていたのだから。

 

「譲れないもの? あんなやつにそんなものあるのかな...」

 

ひどい言われ方だが、まぁここまでの行いを考えると妥当かもしれない。

 

「さて、夜の支度をしないとな」

 

謙さんはそういうと、私たち3人に背を向けて奥へと入っていった。

ふむ、これ以上この場にいるのは邪魔になるな。お金も持ってないし。

 

「じゃあ、帰る」

 

「そうだね、練習はまた明日にしよう」

 

「それじゃあ、私から練習場所と時間、メッセージで送るからよろしくね!」

 

ああ、そういえばそうだった...。

 

りんごジュースのおいしさでは到底カバーしきれない憂鬱が、私を襲ったのだった。

おのれ悪魔白石。

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

時は過ぎ、イベント当日。

神山通りのイベント会場の前にて、5人が一か所に集まっていた。

 

「あれだけの啖呵きったんだ。見せてもらおうじゃねえか」

 

「上等。私たちの最高の歌見せてあげるから、ビビんないでよ?」

 

今度は卑怯な手は使わない、というのは、こうして顔を合わせて対峙している4人全員がわかっていることだろう。

まぁ、その点に関してはどうでもいいことなのだが。

 

「今日は俺たちが先だ。今度こそ見せつけてやるぞ、冬弥...おい、冬弥?」

 

彰人が隣にいる冬弥に声をかけるも、その冬弥は何かを考えているようで、彰人の呼びかけには反応しなかった。

 

「...まぶしいな」

 

「まぶしい? 何がだよ」

 

目の前の2人を見て、冬弥は何を思っていたのだろうか。

だが、彰人に聞かれた冬弥ははぐらかして、中へと入っていった。

 

今日の夜、決着がつく。

それを予感している私は、斜め後ろでこちらを見ている例の男の存在を、確かに感じ取っていた。

 

何せ、短い練習期間中に毎日のように客役をやらされていたのだ。

鬱憤晴らしぐらいはしてもいいだろう。

 

 

 

 

<♪>

 

 

 

 

先ほど彰人が言っていた通り、先に『BAD DOGS』のステージが先だった。

2人の気合にはすさまじいものがあり、会場もテンションアゲアゲ状態だ。

 

まぁ私が気になるのは、ステージでパフォーマンス中にちらちらと決め顔でこちらを見てくる彰人なのだが。

この会場の中で何人気づけるだろうか。

...私だけか。

 

まぁそれを含めても乗れる時間だった、というのは嘘偽りのない事実だ。

 

これを見て尻込みしていなければいいけれど、と思うのは、おせっかいだろうか。

 

「...私もそろそろ」

 

動き出すとしよう。

 

ステージから、聞きなれた曲が聞こえてくる。

ここ最近毎日聞いてきた曲だ。『Vivids』の番が来たんだろう。

 

しっかり声も聞こえてくる。

トラウマは乗り越えたらしい。

 

「~♪」

 

私らしくない。鼻歌をするほど、テンションが上がっている。

ああ、今なら何でもできそうだ。

 

そうして私は扉を1つ開けて、目的地へとたどり着いた。

 

「くそっ、なんなんだよあれっ! こうなったら、もう一度引っこ抜いて...!」

 

予想通り、視界の先には紫の彼が。

今の私は気分がいい。珍しく他人のために動いている。

もう何年振りかはわからないが、たまにはこういうのもいいかも、と思えているんだ。

邪魔するなら容赦はいらない。

 

私は右腕を振りかぶって、男の脳天へと拳を振り下ろした。

 

「そうはさせるか『滅殺☆パーンチ』」

 

「ぐあぁぁぁ!?」

 

『ゴン!』と鈍い音が響き、男は気絶したようでその場に倒れ伏した。

 

...これで悪は滅んだ。

 

「ぶい」

 

今日の私はテンションアゲアゲだ。

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

私が悪を成敗して会場に戻ってきた時には、彰人たちと杏たちの雰囲気は、柔らかいものになっていた。

一言二言交わした後、杏たち2人は背を向けて歩き出した。

あの方向は控室だ。

 

「彰人」

 

仲直りしたのか、と聞こうとしたタイミングで、私は冬弥とかぶってしまった。

しかもそれは最悪の内容で。

 

「俺はもう、お前と一緒にはやらない」

 

「....もうやらない? 何言ってんだ?」

 

これは1回本格的に除霊でもしに行った方がいいかもしれない。

どうしてこうタイミングが悪いんだ私は。

 

冬弥の突然のやめる宣言に、彰人も混乱しているようだった。

 

冗談だろう、と確認をとるが、冬弥も強くそれを否定した。

 

「冗談じゃない」

 

その様子を見て、彰人は本気で言っていることを理解して、眉尻を下げた。

 

「...何があった? お前の親父が、またなんか言ったのか?」

 

また、と彰人が言うように、過去にも何かあったのだろう。

それこそ、こはねの覚悟を目のあたりにして驚き、『Vivids』として歌う2人を見て眩しく思うほどには。

 

だが、それを冬弥はまたも否定する。

 

「これは、俺の意思だ。俺たちの音楽には何の意味もない。ただの子供遊びだ」

 

「...おい、本気で言ってんのか」

 

「冗談を言えるほど、俺は器用じゃないんだろう?」

 

彰人の発言を使いまわせるほどには器用だと感じるのは、私だけだろうか。

 

いや、そんなことを考えている場合じゃない。

これはまた厄ネタの気配がする。

 

「いい加減にしろよ。俺たちの音楽に意味がないなんて、それ以上ふざけたこと言うならお前でも許さねえぞ!」

 

今にも胸倉をつかみそうな手を抑えて、あくまでも理性的に言葉を投げかける彰人。

 

...やはりこれも、当人同士でのみ解決できることなのだろう。

 

「つーか、やめてどうする気だ。あれだけ嫌ってた親父の言いなりになるのか? それこそお前にとって何の意味があるんだよ!」

 

親が出てきたのだ。

これこそ、他人の家族に侵食できるのは親友ぐらいのものだろう。

 

今度こそ私には何もできない事案だ。

帰ってコーヒー飲みたい。

 

彰人が必死に問いかけるものの、冬弥は何も言わずに背を向ける。

まだ話は終わっていないとばかりに腕をつかむが、冬弥に振り払われてしまった。

 

「おい、待てよ! 冬弥!!」

 

それでも諦めずに手を伸ばすと、今度はその手を冬弥に弾かれた。

そうして、冬弥は振り返って腕を組んで言う。

 

「お前もそろそろ大人になったらどうだ。たかだかこの街だけ有名な、小さなイベントなんて追いかけていないでな」

 

随分と冷たいことを言うものだな、と私は思う。

自分を棚に上げていうのもあれだが、客観的に見て、非情と言えるだろう。

具体的な日数はわからないが、今日までこうして彰人と一緒に活動してきたはずなのに。

 

そう思うのは彰人も同じだったのか、ついに我慢の限界とばかりに手が動く。

 

...暴力沙汰は嫌いなんだ、私は。

 

彰人の拳が冬弥に触れる直前で、私はその手を掴むことに成功した。

 

「瀬名!?」

 

「ッ!?」

 

「せ、セーフ...」

 

危なかった。

2人の身長がもう少し高かった場合は、私の手が届かないところだった。

 

私に拳を止められた彰人は少し冷静になったのか、拳を下ろして、彰人に背を向けた。

 

「その顔、二度と見せんな!!」

 

「...ああ」

 

そうして背を向けて歩き出した冬弥は、その言葉通りに階段を下りて行った。

その背中は、嫌に寂しそうな背をしていたと思うのは、私だけだろうか。

 




トンデモワンダーズのfullが公開されましたね。

みんな笑顔になる演出大好きです。
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