あれから1週間と少しが経った。
その間私は、特に悪魔2人組にイベントに呼ばれることもなく、いつもの気迫が無い彰人を横目に、絵名の抱き枕になる日々を過ごしていた。
絵名の体温は高くて、抱きしめられる強ささえ普通であれば眠くなる。
やはり人肌特有の何かがあるのだろうか。
それに、絵名は何となくいい匂いがする。香水...だとかとはまた違う匂いだ。
いや、決して他の人が臭いと思っているつもりはないのだが。
「うーん...」
「どうかしたの?」
リビングで堂々と私を後ろから抱きしめて座っている絵名が、唸っている私を見て不思議そうに首をかしげる。
それになんでもない、と返しながら、瞼を閉じる。
うーむ、眠くなる。
いやいや、彰人の事を考えなければ。
彰人にそれとなく聞いてみたところ、どうやらこの間イベントには出てきたらしい。
ただ冬弥とは会っておらず、ソロで出てきたようで、不満を隠さず顔に出して私の頭を乱雑に撫でていた。
私の頭はストレスを軽減するアイテムではないのだが...まぁいい。
彰人の様子がおかしいのは絵名も勘付いているようだが、あえて不干渉を貫くのだとか。
「だって、瀬名が何とかしてくれるでしょ? ダメそうだったら私に言ってよね」
と言うことらしい。
最初から手伝ってはくれまいか。
とはいえ、彰人のことは何とかせねばなるまい。
私は絵名の抱擁から何とか抜け出し、自分の部屋へと向かった。
そしてスマホを取り出し、セカイへと向かう。
誰にも邪魔されずに考え事をするなら、ここの他には考えられない。
〈♪〉
「今日も考え事~?」
「そう。だから少し静かにしてて」
「は~い。ちぇ、いっつも考え事ばっかり。たまには遊びたーい!」
「...」
セカイへとやってきた私は、仰向けに転がって、星を眺めながら思考の海に入り込む。
目に映る星たちは、変わらず4つだけ赤く光っている。
ただし、そのうち2つはひときわ強く光っている。
「...杏と、こはねかな」
セカイに触れ、困難を乗り越えた彼女たちだ。私のセカイと未だにどう関係しているかは不明だが、時期的にあの2人以外には考えられない。
と言うことは自動的に、残りの星は彰人と冬弥である確率が高くなるだろう。
だったら、あの2人もセカイに連れ込んでしまえばいい。
高確率で、彰人と冬弥の問題も解決してくれるだろう。
何なら、4人でグループでも組むんじゃなかろうか。
...それはないか。
手でもつないでいればセカイに連れ込むことが出来るだろうと考えた私は、スマホを取り出して曲の再生ボタンをタップした。
セカイから出る直前、初音ミクが恨めしそうに私を見ているのが目に入った。
...次来たときは遊んであげよう。
〈♪〉
目的が決まった私は、早速とばかりに出掛ける準備を済ませて、神山通りへと向かう。
彰人は家におらず、考えられる行き先と言えば、杏の店かどこかのライブハウスだ。
セカイで考えていた時間が長かったのか、空は紅く染まりだしている。
そんなに集中して考え込んでいたつもりはないが、人は集中した時は時間の流れが早く感じるものだし...そういうことだろう。
適当に歩いていると、1人で歩いている彰人を見つけた。
「いた」
何ともまぁ、寂しそうな背中で歩いていやがる。
いずれ冬弥と仲直りしてもらうつもりではあるが、しょうがない。ここは私が一肌脱ごうではないか。
「あきと~」
「『Untitled』? こんな曲入れた覚えは...おわ!?」
いっちょ元気づけてやろうと彰人に飛び掛かった瞬間、スマホを取りだしていた彰人が何かしらの曲を再生しようとしていたのを耳が拾った。
だが空中に浮かんだ体は止まれない。私の胸から姿勢制御のバーニアは出ない。
そのまま彰人にのしかかった私の視界は、見覚えのある眩しさに染まっていった。
「...まさか」
眩しさに目を細め、収まった頃に目を開けてみると、杏とこはねと共に入り込んだセカイに再び私はいた。
まさか2度も来るとは。
だがしかし、これは朗報だ。
杏とこはねに彰人と冬弥を連れてってもらおうと思っていたのだが、彰人が自力で来れるのであれば話は別だ。
...というか、私のセカイの星が十中八九彰人であると予想できるなら、彰人のスマホにも『Untitled』が入っている予想もできたな。
「ここは...どうなってるんだ? いつの間に知らない場所に...というか、なんで瀬名もいるんだ?」
「さぁ?」
いきなり見知らぬ場所に連れてこられ、困惑しきっている彰人に尋ねられるが、私はすっとぼけた。
このセカイを説明するのには、適した人物がいる。
彰人が頭をかきながら周囲を見渡していると、少年のような声が聞こえてきた。
「あー! やっと『Untitled』に気づいてくれたんだね!」
声の方を向けば、そこには黄色い髪の毛の男の子が立っていた。
鏡音レンだ。
...よかった、まだ覚えていた。
「あ、それとこの前杏たちと一緒に来た子もいるね」
「どうも」
「か、鏡音レン...!? バーチャル・シンガーの...!?」
へぇ。バーチャル・シンガーというのか、彼らは。
ボーカロイド、という名前はよく耳のするのだが...あぁいや、調べた時にそんなことも書いてあったような。
初音ミクは『電子の歌姫』の二つ名で呼ばれると書いてあったことを覚えている。
なんて厨二心をくすぐるんだ...。
それに比べて、私のセカイにいる初音ミクは、なぜ真っ黒なのだろう。
「その子は置いといて、もう1人はいないのかな。まぁ、まずは3人目だね! ミクとメイコにも教えてあげなくちゃ!」
そういったレンは彰人の手を取ると、引っ張ってどっかへと歩き出した。
このまま見送ってもいいのだが、いかんせん出方が分からない。前回連れてこられたときは、どうだったか。
ああそうだ思い出した。自分の『Untitled』も再生されており、それを止めることで出られるのだった。
自分の意志で再生していないと、止めるという発想になりずらいのは私だけだろうか。
「お、おい! なんなんだよここ! 引っ張るな!」
まぁひとまずは、彰人とレンについていく方がよさそうだ。
〈♪〉
見たことのある店の中まで彰人を引っ張ってきたレンは、彰人の手を離すと店の奥に向かって声を張った。
「ミク、メイコ! 彰人を連れてきたよ!」
「俺の名前、なんで知ってんだ...?」
ここで私が教えた、とからかってもいいだろうが、すぐに初音ミクたちに訂正されるのがオチだろうなぁ、と予想。
不真面目な事を考えていると、奥から初音ミクとメイコが姿を現した。
「いらっしゃい、2人とも。彰人は気づいてくれたんだね」
「あら、ようやく来てくれたのね」
2人の言い方からして、最初から彰人がここに来るだろうことは知っていた、という風な感じだ。
杏、こはね、彰人ときたら最後の1人は決まっている。冬弥だ。
...一瞬紫色のパーカー男が浮かんだが、忘れることにしよう。
「初音ミクまで...。疲れてるのか、俺。変な幻覚が見えて...」
液晶の中に存在していたバーチャル・シンガーたちが続々と目の前に現れたことで、現実逃避をしだす彰人。
こんな弱気な彰人も珍しいが、それも仕方の無いことか。
幻覚扱いされたことを不満に思ったのか、頬を膨らませながらレンが彰人の方を軽く睨みながら言う。
「もー、幻覚なんかじゃないってば。『BAD DOGS』の彰人、でしょ? それで冬弥っていう相棒がいて...」
レンがそう続けた瞬間、彰人は声を荒げてそれを否定した。
「あいつは相棒じゃねえ! あ...わ、悪い...」
突然大声を上げたことでレンはびっくりしてしまい、私の方に半歩寄ってきた。
今の大声でビビったのだろうか。
その彰人の様子に、何かあったのだろうと察した初音ミクたちは、目を合わせて首を傾げた。
「ねえミク。どういうことかな?」
「冬弥と何かあった、みたいだね」
うーんと考えている2人をほっといて、メイコは着席を促した。
「なんだか疲れてるみたいだし、とりあえず座ったら? コーヒーぐらいなら出せるけれど」
「誰がこんなわけわかんねえところで...」
「美味しいチーズケーキもあるわよ」
「たまには、休養も必要だよな」
メイコにチーズケーキを出された瞬間、心なしか柔らかな表情で席に座る彰人。
簡単に物につられおったぞ、あやつ。
私がそう彰人に呆れていると、メイコがこちらを振り返ってウィンクをした。
「美味しいコーヒーもあるわよ」
「ゆっくりしてこう」
走ってばかりではいられないのだ、人間と言うものは。
たまに休むことで、効率よく活動できる。
だからこれは、別に釣られたわけじゃないのだ。
彰人は釣られたかもしれないが、私は違う。この後の事を考えて、話が長丁場になると予想しての着席なのだ。
微笑ましい目をしているメイコから努めて目をそらして、私は頬杖をついた。
お気に入り登録や評価など、ありがとうございます。
前回の話で、被っている文章がありまして、そちらを削除したらかなり短くなってしまいました。
今後数話はその分長く書こうと思っています。
うえーん。