東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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お久しぶりです。
体調を崩していました。
また今日から更新していきます。


第10話

「はい。コーヒーとチーズケーキよ。特異点ちゃんはコーヒーだけでいいのかしら?」

 

「私の分は彰人に」

 

「わかったわ。ちなみにミルクと砂糖は?」

 

「いらない」

 

彰人がチーズケーキの魅惑にまんまと乗せられた後。

席に座って少し待っていると、メイコ...MEIKO? メイコ? どっちなんだ。

...MEIKOにしよう。彼女がケーキとコーヒーを持ってきた。

 

目の前に置かれたコーヒーの匂いを嗅ぐ。

ふむ。わからん。

 

そもそも、別にコーヒーに特段詳しいわけでもないのだ。

ただ何となく落ち着くから嗅いでいるだけだし、何となく冴えわたるから飲んでいるだけだ。

特に銘柄を気にせず飲んでいるせいか、東雲家にはいろんな種類のコーヒーがリビングにあるし、私の部屋は若干コーヒーくさいらしい。

 

絵名に部屋に入られたときはそれは嫌そうな顔をしていたのを覚えているし、鼻をつまんで変な声になった絵名の言ったことも覚えている。

 

『瀬名自身の匂いは普通なのに、なんで部屋はこんなコーヒーなの...?』

 

私に聞かれても分からん。

 

おっと、昔の事を思い出していないで、今は目の前のことに集中せねば。

 

私はコーヒーを一口飲む。

おいしい。なるほど、『美味しいコーヒーもある』と言うだけはあるようだ。

 

内心MEIKOに賛辞を送りつつ彰人を見ると、何かを考えているようだった。

 

「...」

 

なんというか、変な顔だ。若干外用の顔になりつつあるけど、それもほんの少しだけ混ざっているだけ。

...やっぱり、変な顔。彰人らしくない、と言えれば楽だけれど、彰人も考えているのだと私は思う。

 

そんな難しい顔をしている彰人の奥では、レンと初音ミクがやり取りしていた。

 

「レンはミルクと砂糖いるよね?」

 

「...今はいるけど、そのうちなくても飲めるようになるんだし、子供あつかいはやめろよー」

 

何とも微笑ましいやり取りだ。

 

その様子を見ていたのを、MEIKOも見ていたらしく、私たちに向かって微笑んだ。

 

「にぎやかね。...ここだと、少し話しづらいかしら」

 

「ねえ彰人、冬弥とケンカしちゃったの?」

 

レンの直球な問いかけに、彰人は一瞬私の方を見ると、口を開いた。

 

「ちげぇよ。...ただあいつが、俺を仲間だって思ってなかったって。それだけの話だ」

 

そういう彰人の顔は、とても悲しそうで、私どころか、初対面の他人でもすぐにわかるほどに顔に出ていた。

悲しさと一緒に、悔しさにじんでいるような。そんな顔。

 

「ふーん。よくわからないけど、彰人、悲しそうだね」

 

「...」

 

「俺にも大事な相棒がいるけどさ。いつも一緒で、2人で歌ってると楽しいんだ。それで、たまにケンカもする。だから、ちょっとはわかるよ」

 

レンの相棒と言われると、もう1人しかいないだろう。

鏡音リンだ。

とはいえまぁ。リンとレンが仲が良いのは何となくわかるし、しょっちゅうケンカしてそうなのも、何となくわかる。

絵名と彰人もよく言い合ってるけど、結構仲が良いのを知っているから、想像もしやすい。

 

「一番仲良いやつとケンカすると、寂しいよね」

 

そう続けたレンの表情も、悲しさが浮かんでいた。

どうやら彼も現在進行形でケンカ中のようだ。

 

しかし、私は知っているのだ。

こういう相棒とのケンカというのは、基本的には二択。

正面からのぶつかり合いか、些細なすれ違いから起こる勘違いのどちらかだ。

 

今回は何となく、後者のような気がする。

1週間ほどたった今でも、彰人に姿を見せるなと言われ背を向けた冬弥の姿が、嫌に焼き付いている。

 

「...そうだな...」

 

レンの話を聞いて、自分の話をする気になったのか、彰人はコーヒーカップを強く握りしめながら口を開いた。

 

「わかんねえよ。...急に『俺たちの音楽には、何の意味もない』なんて。...そんなの、わかるわけねえだろ」

 

彰人のその真剣な表情に、初音ミクたちも真剣な表情で話を聞いている。

恐らくこの中で私だけが、真面目に話を聞いていないかもしれない。

 

コーヒーカップが気になる。

 

小さくみしみし言ってないだろうか。

 

「俺はあいつとなら、『RAD WEEKEND』だって...」

 

「...大切な仲間なのね。...ねえ、ちょっと気晴らしに『とっておき』でもどう?」

 

彰人の話を聞いたMEIKOは、思いついたように、そんな事を言い出した。

その前に、コーヒーカップから力を抜くように言わないのだろうか。

それとも、金銭的な問題はセカイには存在しない?

 

「とっておき?」

 

MEIKOに言われた『とっておき』が気になるのか、彰人はコーヒーカップから手を放してMEIKOの顔を見た。

その隙を見て、素早くカップを回収したMEIKO。

 

...もしかしたら、顔に出てないだけでかなり心配だったのかもしれない。

 

そしてMEIKOが出してきたのは、ウィスキー用のグラスだった。

 

おっと。これはまた。

 

「えーと、メイコ。それってウィスキー用のグラスじゃ...?」

 

「どう見ても未成年が飲んでいいもんじゃ...おい瀬名、手を出してんじゃねえ」

 

ちっ、ばれたか。

とはいえ、確かに私たちはまだ未成年だ。セカイの住人たるレンや初音ミクがどうなのかは知らないが、私たちは飲んではいけない。

 

...いや、セカイの中でなら警察の目はないし、いくらでも飲み放題なのでは。

今度自分のセカイで試してみよう。

私の父はそれなりに私に甘い。多分買ってくれるはず。

 

彰人とレンが微妙な顔をしている中、MEIKOはまぁまぁと言い、彰人の前に進めた。

 

「ささ、グイっといってみて!」

 

「グイっとって...ん? この匂い、ウーロン茶か? ご丁寧に酒用のグラスと氷まで使って...」

 

一瞬でも彰人のことが羨ましいと思ったのがバカみたいだ。

私たち2人はMEIKOの手のひらの上で踊らされたのだ。それはもうコロコロと。

 

「こんな紛らわしいもん、なんのつもりで...」

 

彰人がそう言いながらMEIKOの方を見ると、MEIKOは嫌に優しい表情でこちらを見ていた。

その目は、見たことがある。

 

「不思議よね。自分の目の前にあるものだって、いつも見たままが本当ってわけじゃないなんて」

 

「は? それどういう...」

 

彰人は未だにピンと来ていないようだが...なるほど、私は理解したぞ。

要するに、本当にそうなのか、ってことを伝えたいのだろう。

そう見えているだけで、実はそうじゃない。世の中には多いものだ。

世の中にあまり出ないから例は出せないけど。

 

「あなたの大切な仲間も、本当の事を言っていたかどうかはまだわからないんじゃない?」

 

良い例があった。

冬弥だ。あいつは最高のサンプルだ。人間サンプル。ツートンサンプル。

 

MEIKOにそう言われた彰人は、一瞬目を見開いて、すぐに考え始めた。

 

「冬弥は冗談なんか言わねえ。だからつい、あいつの言葉をそのままの意味で考えてた。けど...もし、本心じゃなかったら...」

 

じゃなかったら、どうするのだろう。

続きが気になるところで止めた彰人は、少しの間黙ったと思ったら、勢いよく椅子から立ち上がった。

おい、まさか殴りに行くとでも言うのか。もう止めるのは無理だぞ多分。

 

私が内心焦っていると、彰人のスマホから音楽が鳴り響いた。

スマホの画面を見た彰人の顔から察するに...杏とか。

 

「謙さんから電話?」

 

ヘイファザー! ワッツアップ!

 

いや、白石父はそんな感じでもないか。あれでサングラス付けてたらぽいんだけど。

 

「はい、彰人です。どうしたんですか、謙さんが俺に電話なんて...」

 

確かに、彰人からかける用事はあるかもしれないが、その逆は珍しい。

今日は臨時休業になったとかだろうか。

 

そんな悠長なことを考えていると、一瞬で彰人の顔が険しくなった。

 

「冬弥が店に来てる?」

 

おや。

 

「今から行きます! 電話このまま、繋いでおいてください!」

 

久しぶりの2人の対面。思い出すのは殴りかけた彰人の姿だが、もうあのようなことは起きないとわかる。

何となくだけれど、わかる物なのだ。

それを察しているのか、初音ミクもMEIKOも微笑み、レンは力強く拳を握った。

 

「彰人、頑張ってね!」

 

「ああ。....あと、あれだ。ありがとな、3人とも!」

 

それだけ言い残し、彰人はセカイから出て行った。

随分さわやかな彰人だったな、とコーヒーを飲んでいると、隣に初音ミクが座った。

 

「キミはいかないの?」

 

「...私は必要ない」

 

初音ミクに尋ねられるものの、私の答えはこれだけだ。

そもそも、私はあの黒い初音ミクの言う通りならば、後押しする存在。

今回は後押しというより、殴ることで決定的な溝を作らせないようにするストッパーのような立ち位置だった気がするが、それも役割なのだろう。

 

ここから先は、今回の話の中心だ。

その中心に私がいちゃまずいだろうに。

 

「ふーん、そ。じゃあ、コーヒーおかわりいる?」

 

「いる」

 

「じゃあ、行って来たらあげる」

 

「!??!??!?!?!」

 

流れ変わったぞ。

この緑の悪魔、あろうことか、私の好物を人質に取っている...?

そんな所業、どちらかと言うと私のセカイの真っ黒初音ミクの方がやりそうだと言うのに。

 

信じられない、という目で初音ミクを見ていると、彼女は口の端を釣り上げた。

 

「...!!」

 

この女、わかってやってやがる。

私がコーヒーが好物なのを見抜き、大体のことを優先してしまうぐらいにはコーヒーホリックなのを知っていやがる。

とはいえ、今セカイから出たとしてだ。

出る場所が彰人に飛び掛かったあの場所なら、あそこから杏の店まで走ってもそこそこかかるだろう。

ついた時には全てが終わっている頃で、今更顔出せないなみたいな空気になっているはず。

 

「...ちょっと、むり...」

 

「今ならおかわり無料」

 

「行きます」

 

なぁに。今私はコーヒーを補充したばかりじゃないか。

私の原動力はチャージされた。それに、私の運動能力は他の学生と比べても飛びぬけている。

彰人を追い抜かすことなど容易だろう。したことないけど。

 

ヤル気に満ちて椅子から立ち上がった私を見た初音ミクは、満面の笑みで手を振った。

 

「いってらっしゃい。出口は彰人のスマホの近くにするからね」

 

「は?」

 

私が曲の再生を止めていないのにも関わらず、私の視界は光に染まった。




体温は40℃近くまで上がり、全身の倦怠感、頭痛、腹痛。
絶対にコロナだと確信して検査したら陰性でした。

皆さんも気を付けてくださいね。
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