東雲家の末っ子。   作:水が死んでる

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ちょっと冷えるとお腹が痛い


第11話

眩しい光が収まったとき、まず最初に私の顔面に固い何かがぶつかった。

 

「プギュ!?」

 

余りの顔面の痛さにその場でのた打ち回りながら、頭は状況を理解していく。

どうやら突然現実へと戻された私は、体勢のことを考慮されていない状態で戻されたらしく、彰人のスマホの傍に出されてそのまま顔面から地面に落ちたらしい。

 

「い、痛すぎる...けど、ここって」

 

見上げれば、『WEEKEND GARAGE』の前。

なるほど、彰人のスマホの傍で落ちたのがこの場所なら、まだ話は終わっていない可能性が大だ。

彰人が扉を開けて中に入ると同時に、私がセカイから出された、という感じで。

 

さっさと中に入ってしまおう、と扉を静かに開けて中に入ると、ちょうど彰人と冬弥が向かい合っているところだった。

 

「こそこそ...」

 

静かに中に入ると、彰人と冬弥の横で見守っている杏とこはねの姿が。

折角だし、2人の近くに行こう。

 

「2人とも」

 

「わ、瀬名ちゃん」

 

「瀬名も来たんだ」

 

「今どういう状況?」

 

2人に状況説明を頼むと、どうやら冬弥が『自分には覚悟がないから彰人と組むのはやめる』と言い出したようで、その最後の挨拶に謙さんに挨拶に来ていたのだそう。

なるほど、話の流れは理解できた。

 

冬弥がやめようが続けようが正直どうでもいいが、前者だと全体的に見て良くないだろう。

彰人は大きな影を抱えることになるだろうし、杏やこはねも気にする。

会話の最中に一々ワードに気を使って話さなければいけないというのは、多大なストレスを催すものだろう。

絵名で例えるとするなら...普段は甘々な私に対してすら第一声は『は?』ぐらいだろうか。

昔の荒れ具合はそれはもうすごくて...と、思考がそれた。

 

「最初のことなんてどうでもいい! クラシックから逃げ出したことも! 大事なのは、今、お前が本当はどうしたいのかってことだ!」

 

彰人は素直に、冬弥に気持ちをぶつけていく。

お前がいたからだ、と。お前がいるからこそ、こうしていられるのだ、と。

 

熱い男だ。少なくともサッカーをしていた頃の彰人では、見られなかった熱さだろう。

 

「彰人、だが俺は...」

 

「グダグダうるせぇ! わかれよ! 俺は、お前以外と組むつもりはねぇって!」

 

「...!」

 

「今の、お前の本当の想いはどうなんだよ! お前は本当に、もう俺と一緒にやりたくねぇのか!?」

 

こういっては失礼だが、一種の映画でも見てる気分だ。

体験型の映画、というか。

今はまだ夢のまた夢の話だが、フルダイブ型の映画とか発売されたらこんな感じなのだろうか。

 

「俺の隣に少しでも立ちたいって思ったんじゃねぇのかよ! だったら、お前も俺と同じ夢を...『RAD WEEKENDを超えたい』って、思ってるはずだろ!?」

 

「やりたいに決まってるだろう...!」

 

彰人の言葉に感化されたのか、冬弥の返答にも力が入っている。

握りしめられているその拳は、今にも限界が来そうだ。

 

「俺だって何度も思った! お前と純粋に夢を追いかけられればどれだけ...!」

 

「...やっと吐きやがったか」

 

冬弥のその返答を聞き、これまで鬼気迫る表情だった彰人の顔が緩んだ。

まるで、その言葉を聞きたかったかのようだ。

 

「だが...!」

 

「あーうるせえうるせえ。難しく考えてんじゃねぇよ。俺は冬弥とやりたくて、冬弥も俺とやりたいんだ」

 

元々、冬弥が何かしらに縛られてることは彰人も察していたのだろう。

それこそ、一緒に組み始めた頃からかも知れない。

それでも、冬弥から言い出さない限りはこちらからも聞かないという精神だったのか、今日まで延びてしまった。

 

そんな感じだろうか。

 

「あとは2人で夢を叶える。...それでいいだろ」

 

「彰人...いいのか、それで...」

 

「いい」

 

「こんな、中途半端な俺が...お前の隣に、立っていいのか?」

 

「お前は中途半端じゃねぇ。中途半端って自分でも思ってるだけの、俺の最高の相棒だ」

 

「...彰人」

 

彰人の想いを受けて、冬弥の顔もどこか憑き物が落ちたかのような表情だ。

まだ何も解決していない、それでも、冬弥からしたら、彰人となら何とでもなる、という気持ちになったのだろうか。

 

何となく、羨ましく思う。

 

「そうか。それくらい、単純な事だったんだな...」

 

「...お前は勉強はできるくせに、妙なところでバカだよな。...ま、いいか。明日からブランク空いた分取り戻すぞ、相棒。で、『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやる。それでいいな?」

 

「...あぁ」

 

彰人のその問いかけに、冬弥は力強く答えた。

これで、一件落着、だろうか。

特に何もしていないし、これでまたコーヒーがタダで飲めると考えるとおつりが返ってくるレベルじゃないだろうか。

 

と、微笑みあっている2人に杏が腰に手を当てて聞く。

 

「で、お客さんご注文はどうします?」

 

「な...!?」

 

「あ、杏ちゃん...!」

 

杏に話しかけられた彰人は心底驚いたようで、杏の隣に立っているこはねも、口元に人差し指を立てていた。

もしかして、隠れて聞いていたのだろうか。

 

「お前らいつから...っていうか、立ち聞きしてたのかよ!」

 

「そっちがこっちのこと無視して話してただけじゃない。水差すのもなんだから今まで黙ってたのに」

 

彰人目線だと隠れて聞いてたように見えるが、杏たちからしてみれば、店に突然やってきてやり取りしだした、と言うような感じなのだろうか。

 

これは悪魔白石も微妙な表情か、と思い顔をのぞいてみると、その顔はどこか安心したような顔だった。

 

「で、でも、よかった...! 青柳くん、東雲くんとまた2人で歌えるんだね!」

 

こはねがまるで自分のことのように嬉しそうに話すその姿を見て、冬弥も嬉しそうに頬を緩ませた。

 

「小豆沢、白石。...心配をかけてすまなかったな。瀬名も」

 

まるでついでのように扱われたんだが。

...まぁ、よかったよ。これで修復不可能なほどに2人が離れていたら、面倒な事にはなっただろうから。

 

「せ、瀬名!? いたのか...!」

 

冬弥に名前を呼ばれたことで、彰人がようやく私の存在に気が付いたようで、目が飛び出るほどにこちらを見て驚いていた。

まぁ、確かに私がここにいるのは少し違和感を感じるかもしれないが、妹なのだからもう少し察して欲しいものだが。

 

これが絵名ならばいの一番に気付いて私を抱き上げて膝の上に乗せるというのに。

 

「俺はもう迷わない。彰人と2人で、『RAD WEEKEND』を超える。超えてみせる」

 

冬弥のその改めての宣誓に、杏とこはねは笑顔で顔を見合わせて、冬弥と彰人の方を向いた。

 

「ちょっとちょっと。『RAD WEEKEND』を超えるのは私たちなんだから。勝手に決めないでよね!」

 

「...ふふっ!」

 

これで今度こそ終わりだ、と息を吐いていると、隣から衝撃が襲ってきた。

 

「もちろん、瀬名も協力してくれるよね!」

 

「え」

 

「おい待てよ。瀬名は俺の妹なんだから、瀬名はこっちに協力すべきだろ」

 

「ダメダメ! 瀬名は女の子なんだし、そのうちメンバーとして出てもらうんだから、男2人のむさくるしいところには入れられないでしょ!」

 

衝撃の正体は杏が隣から抱き着いてきたからだった。

待って欲しい。その話は終わらなかっただろうか。

 

「やっぱなし!」

 

「なんで」

 

まだマネージャーみたいな立ち位置ならマシだが、流石にメンバーとなるのは勘弁願いたい。

私は基本的に家で寝ていたいのだ。

普段は学校に行っているフリをしているから仕方なく家から出ているが、そのあとはセカイで寝るだけだ。

たまに遊びに付き合わされるが...まぁ必要経費だ。

 

それに比べてこちらはどうだ。

 

「おい離せよ」

 

「今日こそは私たちの活動に加わってもらうもんね!」

 

彰人と杏はもう私を挟んでにらみ合いを始めている。

これを止められるのは冬弥とこはねぐらいのものだが...。

 

「...」

 

「仲が良いんだな」

 

止める気はない、と。

くそぅ。2人して笑顔でこちらを見やがって。

 

この場をどう収めたものかと内心頭を抱えていると、突然声が響いた。

 

「『やっと見つけられたね』」

 

「...? 今、誰かの声がしなかった?」

 

私の腕を話しながら、辺りを見渡す杏。

だが、店内には私たち5人しかいないし、聞こえてきた声は女性の様だった。謙さんではないだろう。

 

と、こはねが異変に気が付いたように声をあげた。

 

「あれ、『Untitled』が光ってる...」

 

「え!? 本当だ!」

 

こはねが取り出したスマホは、スマホの画面が光っている、と言うよりは、音楽アプリの中に入っている『Untitled』という楽曲が光っている様だった。

 

女子2人が困惑している中、彰人がその画面をのぞいて首を傾げた。

 

「『Untitled』って、お前らもそれ知ってるのか?」

 

「も、ってことは彰人...きゃっ!?」

 

まるで自分も知っているかのような言い方に引っ掛かった杏が聞き返そうとした瞬間、私たちの視界が白色に染まった。

 

 

 

 

 

 

〈♪〉

 

 

 

 

 

目を開ければ、そこはセカイの中のカフェだった。

確か私が最初にここに来たのは、こはねと杏と一緒に来たんだったか。

そのあとは彰人に飛びついたらそのまま来て...そう考えると、まだこれで3回目、か。

 

「...ここは?」

 

周りを見渡して困惑している冬弥の様子から、冬弥はセカイに来るのは初めてなのだろう。

 

「いらっしゃい」

 

「ミクちゃん...!」

 

そう私たちが困惑している中で、そう時間をおかずに、奥から初音ミクが顔を出した。

 

その顔はこうなることを予測していたかのように落ち着いた顔で、なんだか私のセカイの初音ミクを思い出す。

 

初音ミクの後ろについてきていたのか、レンが顔を出して、冬弥の顔を見て歓喜の声をあげた。

 

「あー! 冬弥がいる! よかった、仲直りできたんだね!」

 

レンと一緒に来ていたMEIKOも安心したような表情を浮かべており、彰人は2人に声を掛けた。

 

「ありがとな、2人とも」

 

「いいのよ。私たちは君たちに、本当の想いを見つけてほしかったんだから」

 

「じゃあ私たちの本当の想いって、やっぱり『最高のイベントをやりたい』ってことだったんだね」

 

恐らくだけど、その『私たち』の中には、東雲瀬名という存在は入っていないのだろう。

予想するまでもない。私は別に最高のイベントをやりたいなんて想いはない。

せいぜい想いと言えば、一日の半分は寝ていたいぐらいだ。

 

こはねのその言葉に、初音ミクは深くうなずいた。

 

「うん。それが君たち4人の、本当の想い」

 

初音ミクはそういうと、店の外へと歩き出して、振り返って言った。

 

「さあみんな、私たちと一緒に歌おう。そうすれば、想いが歌になるよ」

 

しかし、杏は不思議そうに首をかしげる。

 

「みんなって...BAD DOGSも一緒に歌うの?」

 

「なんだ? 俺たちのパフォーマンスにビビってんのか? 歌うってことなら負ける気がしねぇぞ」

 

「へ~、面白いこと言ってくれるじゃん。Vividsの出番ばっかりにならないように気を付けてよね?」

 

まさに売り言葉に買い言葉。

だが、雰囲気はとてもいいものだ。

まさに切磋琢磨しあう最高のライバル、という所だろうか。

 

そんな2人を見て、冬弥は笑みを浮かべていた。

 

「青柳くん?」

 

「いや、ずっとつっかえてたものが消えると、こんなに清々しいものなんだな」

 

喉に刺さっていた小骨が取れたぐらいの感覚だろうか。

...きっと違うだろうな。

 

「彰人。Vividsに負けないようにやるぞ」

 

「ハッ、当たり前だ。...冬弥、腕が落ちてたら承知しねぇからな」

 

この場の全員が乗り気なのを見て、こはねが初音ミクを期待の眼差しで見る。

 

「ミクちゃん!」

 

「うん。一緒に歌おう!」

 

どこからか曲が流れ始める。

 

さて私はどうしたものかと考えていると、後ろから肩に手を置かれた。

 

「特異点ちゃん、約束のコーヒー。飲むでしょ?」

 

「いただきます」

 

4人の歌とパフォーマンスを見ながらコーヒーを飲むなんて、これ以上の贅沢はないだろう。

MEIKOからコーヒーを受けとり、適当な場所に座って外を見る。

 

4人とも、とても楽しそうだ。

この間まではとても苦しそうな顔をしていたのが嘘みたいで、なんだか私まで嬉しく思う。

というか、初音ミクはあそこまでダンスが出来る物なんだな。

いや、動画投稿サイトを見たらよく歌いながら踊っているのを目にするけれども。

 

見た目は確かに踊れそうだし、もしかしたらこのセカイの初音ミクは踊れる初音ミクというだけで、私のセカイの方は踊れないかもしれない。

今度試してみよう。

 

そうしてしばらく5人の歌を聴きながらコーヒーを嗜んでいると、終わりが来たようで音が途切れ、5人とも中に戻ってきた。

 

「あー、さいっこう!」

 

「すごい、ドキドキした...!」

 

戻ってきたVividsの2人はとても笑顔だ。

余程楽しかったのだろう。

それに比べて、冬弥も笑顔だが、彰人は考え事をしているようで、顎に手を当てて考えていた。

 

「今の曲...初めてやったのに、なんだか最初から知ってたみたいに歌えた...?」

 

「その歌は、『最高のイベントをやりたい』っていう君たちの想いから生まれたものだからね。最初から君たちの中にあったんだよ」

 

こはねの疑問に、当たり前とでも言うような顔でそう答える初音ミク。

その理論を私のセカイに当てはめると、私の中にも想いがあって、そこから曲が生まれるかもしれない、ということなんだろうか。

 

と、そこで彰人がスマホの異変に気が付いた。

 

「ん? 『Untitled』の名前が...変わってる?」

 

「ほんとだ! えっと...『Ready Steady』?」

 

惜しい。

そのあとに『Go!』が続けば『位置について、よーい、ドン!』だったのに。

いや、もしかしたらそれに近い意味かも知れないけれど。

 

彰人と杏が首をかしげていると、初音ミクが答えた。

 

「君たちの想いが、歌になったんだね」

 

「これが...私たちの...」

 

なるほど、想いがまだ形に、歌になっていないからこその『Untitled』。

こうして歌として生まれたから、名前も変わったのか。

 

そうなると、私の『Untitled』もいつか曲名になるのだろうか。

私が歌っている姿はあまり想像できないが、いつかそうなる未来もあるのだろう。

本当に想像できないけれど。

 

「今日はとっても楽しかった。またこのセカイに遊びにきてよ。私たちはいつもここにいるから。君たちの想いがここにある限り、ね」

 

「うん、絶対また来てよ! 今度は俺とも歌って欲しいな!」

 

「美味しいコーヒーと紅茶を淹れて待ってるわ」

 

初音ミクに続いて、レンとMEIKOも歓迎の言葉をかけていく。

今日はこれでお開きらしい。

 

「また、一緒に歌おうね!」

 

初音ミクがそう言うと、4人は笑顔で頷いて、一斉に楽曲を止めていく。

おっと、この流れに乗らなければいつ帰ると言うのか。

 

そう思い私もスマホを取り出してロックを解除しようとすると、その手を真っ白な手が伸びてきて止めた。

 

「!?」

 

「特異点はまだ。ちょっと話があるから」

 

顔を上げると、そこには超至近距離で初音ミクの顔が。

 

顔が整っている人って離れてれば綺麗とかかわいいで済むけど、ここまで近いとただ恐怖しか感じないのはなんでだろう。

 

「話って...?」

 

「おかしいと思わない? なんで関係ないのに、あの子たち4人のセカイに入れるのか」

 

初音ミクはそれだけ言うと私から離れて、カウンター席に座った。

それを見たMEIKOは何も言わずにコーヒーの準備を始め、レンはうきうき顔で私の手を引っ張ってカウンター席に誘導する。

 

「少し長くなるから、まぁ座ってよ。彰人には私から説明しておくから」

 

初音ミクにウィンクされ、私は素直に頷いて椅子に座った。

 

確かに、私があの4人のセカイであるはずのこのセカイに干渉できるのはおかしいとは思う。

深くは考えていなかったが、そこにもちゃんとした理由があるのだろう。

あるのであれば、聞かなければ。

 

MEIKOに淹れてもらったコーヒーを口に含み、初音ミクは口を開いた。

 

「まずは、君の存在理由についてから、かな」




次でVivid BAD SQUAD編は終わりです。
次の章は25時、ナイトコードで。編を考えています。
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